第822話、久々の団欒です!
色々と衝撃的な事実を聞かされた夜、同じ話をシガルにも話す事になった。
というか、シガルの方が先に知っていた。知らなかったの俺だけだったっポイ。
「だって、アレは喋れないでしょ。あのねタロウさん、私これでも一応部隊長なんだよ。でも総隊長じゃないし、現場の判断で話せるような内容じゃない。なら機密は黙ってて当然でしょ。お姉ちゃんの立場だから、タロウさんに話して良いんだからね? 解った?」
「はい、すみませんでした、シガルさん」
「よろしい」
ちょこっと拗ねてみたら、当たり前でしょと言われぐうの音も出ない。
本来漏らしてはいけない内容で、俺は当事者だから教えて貰った様なものだ。
とはいえ、全て話す必要があったかと言えば、無かったと言うしかないが。
だって、拷問の事を伏せて話す事だってできたはずなのだから。
その辺りがイナイの言う『甘え』なんだろうな。
俺に与えなくても良い、言わなくても構わない事を言ってしまったんだと思うし。
というか俺って一応今はウムル所属だけど、立場は相変わらず微妙だよな。
本来やる予定だったはずの役目は、最早別の都合の為みたいな感じだし。
まあ、別に立場なんてどうでも良いけど。イナイが俺に甘えられるならそれで。
「とはいえ、私は別に気にしてないけどね。アレがどんな目に遭おうが。むしろ足りないぐらいなんじゃないかな」
ただイナイと違ってシガルは凄くドライな感じだった。
それこそ俺より冷たい。多分当事者だからだと思うけど。
彼女は王女様を護衛していて、連中を捕える場に居たらしいからなぁ。
「今回の件って、王女様が助けられたから良かったけど、そうじゃなかったら多分もっと胸糞悪い結末になってただろうね。アイツらの話を聞いてたらそう思ったよ」
その時の事を思い出しているのか、シガルの眉間所か鼻に皺が寄っている。
何を言われたのか事細かには聞いてないけど、ざっくりとは聞いている。
人を人とも思わない連中だと思っていたが、そんな考えすら生温い連中だったと。
「あいつらには覚悟が無い。自分が安全な位置で死なないと思ってた。理不尽な目に遭わない特別だって思ってた。だから簡単に道を踏み外せる。踏み外したと思ってないから。そんな奴が人を壊す技術なんか持ってたんだから、国を手に入れるだけで済ませるとは、私には思えない」
国を手に入れる。国王を操り人形として、好き勝手に国を操る。
現状はそれで満足していたのかもしれない。けど安定し始めたら。
その技術を使ってもっと実験を、人の命なんて一切気にしない実験を繰り返す。
「殺しても、足らない。死なんて贖罪にならない。アイツらはそういう奴らだ」
シガルはそんな未来を予想して、今にも本人を殺しに行きそうな程の殺気を放つ。
「はいはい、落ち着いて落ち着いて」
そんなシガルを抱きしめ、背中をポンポンと叩きながら落ち着かせようとする。
「俺も正直腹が立つけど、もう気にしても仕方ないって。どうせ連中は裁かれる。そんな奴らの為に気分悪くする方が損だよ。最悪にはならなかった。せめてそれを良しと思っておこう」
「・・・そうだね。はぁ」
腹は立つ。許せはしない。けど何時までも気にしていたって損なだけだ。
自体が解決していないなら兎も角、もう奴らは捕らわれている。
ならもう犠牲者はこれ以上出ないし、怒りで疲れるのは何だか悔しい。
そんな俺の気持ちが伝わったのか、シガルは殺気を消して俺の胸に顔をぐりぐり擦りつける。
けれど唐突に顔を上げると、俺から離れてイナイに顔を向けた。
「よし! イナイお姉ちゃん!」
「へっ、な、なんだ、どうした?」
突然の呼びかけに、そこまで静かにしていたイナイは戸惑う。
そんな戸惑いなど知った事では無いと、シガルは腕を大きく広げた。
「んっ!」
「え、あ、えっと、おう?」
力強いシガルの声に促される様に、イナイは戸惑ったまま抱き着く。
既にイナイより大きいシガルは、包み込む様に彼女の体を抱きしめ返した。
「あ~イナイお姉ちゃんだぁ・・・」
「・・・なんかまたタロウみたいな事言い出したぞコイツ」
言ったっけ。言ったな。うん、言ってるわ俺。
「だってイナイお姉ちゃんに久々に会えたんだもん。仕事中だったから、あんまり落ち着いて話す事も出来なかったし。やっと今落ち着けた感じなんだもん。一応タロウさんの黒くなった話があったから話せる時間はあったけど、それでも短い時間だったしさぁ」
「なんか子供に戻ってないかお前」
えへへーと笑いながらイナイに抱き着く姿は、確かにちょっと子供っぽい。
「だーってさー、イナイお姉ちゃんが居ないから気合いを入れてたけど、やっぱり不安だったんだもん。あー、私お姉ちゃんに頼ってるんだなー、って本当に思ったよぉ」
「何言ってんだか。お前は部隊長として既に他国で仕事してただろうに」
「それと今回の件は全然違うもん。アレは遺跡破壊の為の仕事だし。今回みたいに色々起きてる状況でお姉ちゃんが傍に居ないって、結構不安だったんだよぉー。タロウさんは肝心な時以外頼りない所もあるし」
シガルさん色々ぶっちゃけてますね。まあ俺も自分で同意するしかないけど。
上から被さってるはずなのに、下から甘えている様な錯覚をしそうだ。
『私が傍に居たのに・・・ぷー』
「あはは、ハクが傍に居る安心と、お姉ちゃんが傍に居る安心はまた種類が違うから」
ハクさんずっと守ってたつもりだからご不満の模様。
でも君人間の常識かなぐり捨てる時あるから、イナイの変わりは無理だと思うよ。
「そういえばお姉ちゃん、体調は大丈夫?」
「ああ、最近は不調って感じは無いな。ただ食える物が変わった感じがするが。一部の食い物は食うと吐く。あたし好き嫌い無かったんだけどなぁ」
「妊娠するとそうなるっていうよね・・・お腹はまだ目立たないね」
お腹をさすって来るシガルに対し、イナイはクスクスと笑って答える。
「そうだな、あたしは体が小さいからすぐ目立つかと思ったんだが、まだまだっポイ。とはいえ軽く違和感があるから、もう少ししたら膨らんできそうだけどな」
「生まれるのが楽しみだなぁ。お姉ちゃんに似て可愛いだろうなぁ」
「まだまだそんな話をするには早いと思うけどな。それにタロウ似の可能性だってあるぜ?」
「うーん・・・どっちに似ても可愛い子になりそうなのは気のせいかな」
「・・・そうかもな」
何ですか二人して。どうせ童顔ですよ。ええ童顔ですよ。
絶対髭とか似合わない顔してる自覚が有りますよ。
クロトが過去の俺って点で、女顔だった事も判明してるしな。
「俺は別にどっちに似ても良いけどね。元気に生まれて来てくれたらそれで」
「ふふ、そうだね」
「ああ、そうだな」
三人でイナイのお腹を撫で、自然と皆の顔に笑みが浮かぶ。
「・・・シガル、手つきがやらしい。それやめろ」
「あ、ごめん、あたしも欲しいなって思ってたら無意識に」
シガルさん。もうちょっとホンワカ空気堪能させて下さい。
「頑張ってるはずなんだけどなー。回数で考えると、お姉ちゃんの倍以上のはずなのに。途中でお姉ちゃんとするのが駄目なのかな。今度はタロウさん独り占めしてみても良い?」
「・・・シガルが変わりない様で安心したよ、あたしは」
あ、もうだめだこれ。シガルさんに空気を戻す気がねえ。
「えへへ、照れる」
「リンみたいな事を言い出すな。いやアイツはこの手の話題無理だけども」
「あたしとしてはむしろ、夫婦なんだからもっと話すべき事だと思うけどなぁ」
「おまえはあけっぴろげすぎると思う」
「だってそうしないと二人共動かないんだもん。私だけのせいじゃないでーす」
いやまあ、今までの事を考えると確かに反論はし難いけど、君楽しんでますよね。
今も少し顔の赤いイナイさん見て楽しんでるし。
「・・・お母さん、僕達、出てく?」
『出てくかー?』
クロト、ハク、それは逆に追い詰めてるから。止めてあげて。
ああもう顔真っ赤じゃん。
「あははっ、ああ、良いなぁ。家族で集まれたって感じ。うん、久々に凄く楽しい」
「お前は・・・ったく」
けれど楽しげに笑って抱き着くシガルに、結局イナイは何も言えなくなっていた。
・・・シガルの言う通り久々にとても楽しい時間だ。良いな、家族が揃ってるのは。
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