第812話、保てる自信が付きました!
「んんっ、とりあえず対策の話は措いておくとして」
「別に措いておく必要な無い気がするよお姉ちゃん。結論出てると思うし」
咳払いをして話を戻そうとしたイナイだが、笑顔のシガルに突っ込まれ動きが止まる。
シガルさん楽しそうっすね。でもイナイさんがぐぬぬって顔してるから容赦してあげて。
「措いておくとして!」
あ、強引に話進めた。別にそんなに恥ずかしがること無いと思うんですけどね。
今までだって外で割といちゃついてる事も・・・いや、人前ではあんまりしてないか。
基本人前だと、イナイは一歩引いた感じで傍に居るから。お貴族様やってるし。
まあ単純に、人前でいちゃつくのが恥ずかしい、っていうのが有るんだとは思う。
一応俺も若干その辺りの思考はある。シガルさんが一切無いのでマヒしかけてるけど。
「大体まだ話は聞き終わってないだろ。確かに今の話で抑えられた理由は解ったかもしれない。けどそれだけなら前と状況は変わんねーはずだ。クロトが抑えられない理由にはならない。それともクロト、今のタロウの説明から原因に辿り着けそうか?」
「・・・ううん。聞いた範囲だと、まだ原因は解らない」
「だそうだ。ほら、早く先の話をしろ」
確かに話は終わっていない。とはいえ何となく、本当に何となく、原因に予想が付く。
「そうだね、まあその後魔人を倒した訳なんだけど・・・」
そこから俺は魔人との戦闘の流れと、ハクに叩き潰された事、遺跡に入った事を告げた。
途中で余力を持って倒した事を誉められたり、ハクが言い訳したりなどしながら。
どうやらハクは俺を叩き潰した事は報告していなかった模様。
『だって仕方ないじゃないか、様子がおかしかったんだから。それにタロウには謝ったもん』
「確かに、話を聞く限り仕方ないのかもしれないなぁ・・・」
『だろう?』
一番納得して欲しいシガルが納得した事で、ほっとした顔を見せるハク。
クロト君、今小さく舌打ちしたね。お父さん聞こえてたよ。
そんな横道もありつつ、そしておそらく肝心要であろう部分に触れる。
つまり力の欠片を、魔神の欠片らしきものを、身の内に取り込んでしまった事を。
その話になると、流石にイナイもシガルも深刻な表情を見せていた。
「だからその・・・どう考えてもこれが原因だと思うん、だけど、どうかなクロト」
「・・・確実に、それが原因。僕の力への耐性が上がったんだと思う」
「耐性。成程」
耐性が付いたという事であれば、防御する気が無くても防いでしまうか。
そうなると意図的に力を抜いて食らうとか、そういう事も難しそうだ。
それならむしろ力を無意識に使ってる、とかの方が助かったなぁ。
「・・・ただ、どの道閉じるのは無理だったのかもしれない、とも思う」
「え、そうなのか?」
「・・・うん。だってお父さん、敵の脅威に反応して力を使っちゃってたみたいだし、その上その状態で安定までさせちゃったんなら・・・多分もう、閉じる意味が無い」
クロトはショボーンとした様子でそう告げ、どこか悲しげな様子に見える。
俺の安全の為にちゃんと塞いだはずの道が、実は塞げてなかったかもしれないという事実。
いや、塞げてはいたんだろう。けどその道を、俺は自分で開けられてしまった。
勿論意図した事じゃない。完全に無意識で偶然で・・・だからこそ無理だという話なんだろう。
意図して開いたならまだ自己責任だ。だが意図せずに開くなら、もうどうしようもない、か。
「・・・ただ、でも、良かった」
「良かった?」
けれどクロトはその言葉通り、少しだけ安心した様な笑みを見せる。
解り難い表情の変化じゃなくて、誰にでも解る程に安堵した顔で。
その様子に思わず聞き返してしまい、するとクロトはすぐに普段通りの表情に戻った。
「・・・お父さん、安定する方法が、ちゃんとあるから」
「あー、さっきのイナイと愛し合っていれば良いという、あれかな」
「・・・うん」
俺の言葉にクロトが頷くと『う゛っ』という声が耳に入った。
当然狼狽えるイナイさんである。顔はとても赤い。
「話はそこに戻るのか・・・」
「唯一ハッキリ解ってる解決策なんだし、当然そこに戻るでしょ。逃げられないよお姉ちゃん。良いじゃない、むしろ大手を振って人前でイチャイチャして良い理由になるよ?」
「・・・そういうのが恥ずかしいからこうなってんだろ。いい年してさぁ」
「お姉ちゃんの見た目で年齢気にする人絶対居ないと思う」
「あたしが恥ずかしいの!!」
うん、知ってる。誰もいない家族だけの状態だと別だけど、人前だと嫌がるよねイナイは。
男前な『愛してるよ』って言葉は平気だけど、甘える態度は余り外に見せたくない人だ。
「・・・別に、イナイお母さんは、普段通りで良いと思うよ?」
「そ、そうなのか?」
ただそこでクロトが救いの手を差し伸ばし、イナイは少し安心したような顔を見せる。
「・・・うん、だって、お父さんはイナイお母さんだから、大好きなんだよ」
「う、そ、そう、か・・・」
だがどのみち顔を赤くされた模様。やるなクロト。後良く解ってる。
そうだね、別に特別いちゃつかずとも、俺はイナイだから愛している。
イナイがイナイである事が重要で、そんなイナイの傍に居られる事が幸せだと思う。
「ちぇー。クロト君、もうちょっとお父さんとお母さんをいちゃつかせようよー」
「・・・お父さんとお母さん達、何時も仲良いよ?」
「それはそうなんだけどー。むー」
そして自分の思惑が上手く行かなかったシガルさんは、ハクを抱えながら拗ねておられます。
「イナイお姉ちゃんを甘えさせる良い機会だと思ったのに・・・」
シガルは唇を尖らせながそんな事を言う。本当にうちの奥さん達は仲が良いな。
そんな風に言われてしまっては、イナイも文句など言えずに黙るしかない。
「・・・それに、お父さんは、この感覚との付き合い方を、もう手に入れてるみたいだし」
「付き合い方って・・・あー、意図的に考えない様にしてる感じ?」
「・・・うん、その状態を保てるなら、多分一人の時も大丈夫、だと思う」
はからずも、気持ち悪いから意図的に無視しよう、としていた事が対策になっていた模様。
ただちゃんと大丈夫だと言われると、不安な気分が少しだけ無くなるな。
正直不安が無いわけでは無かったからなぁ。本当に良かった。
「・・・想いで自分を抑えているのは、僕も同じだから・・・だから、お父さんがお父さんで有ろうという想いを胸に持てば、魔神になる事は無いと、思う」
「クロトも、か・・・でも、それは、良く解るかな」
あの胸の内に広がる感覚は、自分が自分でなくなって行くような感覚だ。
自分の身体なのに、まるで知らない他人に埋め尽くされていく様な。
けれどこの体は俺の物だ。俺は俺だ。タナカ・タロウだ。
――――――何よりも、俺はイナイとシガルのものだ。
「・・・ああ、そうか、うん、成程。俺が俺であろうと思えば、か」
イナイを想って帰って来られる訳だ。彼女の前では気分が良い訳だ。
俺という存在は彼女達が在ってこそだと、当たり前のように俺が思っている。
俺が俺である為には、俺が帰る場所に帰る為には、俺が俺でないといけないんだ。
でなければ彼女達が泣いてしまう。泣かせてしまう。そんな事は俺が許せない。
彼女達の為に俺が居て、だからこそ俺は彼女達の傍に居られる。愛してくれる二人の下に。
「・・・成程、これなら何も問題無いな」
俺がどれだけ二人の事を愛して尊敬して縋って依存して引きずられていると思っている。
・・・格好良く語ってみたけど、滅茶苦茶かっこ悪いな。まあ、良いか。事実だし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます