第806話、指揮官に心構えを説かれます!
「ずず・・・こう、何もしないで待ってると、どうにも手持無沙汰だな・・・」
お茶を飲みながら作業を待っている訳だけども、何もしない時間はどうにも退屈だ。
傍にシガルかイナイかクロトが居れば別なんだけど、一人だと暇に感じる。
とはいえ待ってろって言われてるから、大人しく待ってるしか無いんだけど。
なんかよく解んないけど、俺がこの場の最高責任者的扱いを受けてるせいだ。
とはいえ拳闘士隊の人達も一緒に待ってるから、一人という訳では無いのだけども。
けど彼らはそれぞれ周囲の確認と警戒をしてるから、俺と違って仕事中だ。
まあ俺も探知で警戒はしてるけど・・・これは日常だしなぁ。
「おい、少し良いか」
ただそんな退屈で困っている所に、指揮官の人がこちらに近づいて来た。
何か問題でもあったんだろうか。とくに騒ぎは見て取れないけど。
「構いませんけど、何かありました?」
「いや、今の所は問題無いが、先で問題が起きる可能性が在るだろう」
「先で?」
「貴様も気が付いていると思うが、今も貴様に殺意を向けている連中がいる」
あ、やっぱり流石に彼も気が付いているか。まあ流石にあそこまで露骨だとなぁ。
多分一番の原因は、城が落ちたって話をしたからだとは思う。
「我々としては・・・いや、指揮官として貴様の判断に従うと決め、奴らにはそう指示を出している。だというのに貴様の命を狙う事が有れば・・・その時は容赦するな。殺せ」
「っ・・・それで、いいんですか? 貴方の部下でしょう?」
ただまさかの言葉を告げられて、思わず驚いて聞き返してしまう。
だって部下を殺して構わないとか、そんな提案されると思ってなかったし。
けれど彼はフンと鼻を鳴らし、何を当然の事をと言わんばかりの態度だ。
「軍隊が重きを置かねばならんのは規律だ。指揮官がやれと言えば従い、止めろと言っても従うのが軍隊だ。不服な命令であっても上の命令に従うのが我々の仕事だ。それに従わないというのであれば、処罰されてしかるべき事でしかない。勿論内容次第で処罰の大小はあるがな」
「それは・・・そうなのかもしれませんが」
だからと言って、その処罰が死、というのはいささか行き過ぎじゃないだろうか。
「貴様の優しさは美徳だろう。だからこそ貴様の言葉を一時的にでも信じる事に決めた。だがその優しさに付け込む者を見逃す事は甘さだ。甘さは貴様だけでなく周囲に危険を齎すぞ。立場有る自覚が有るのであれば尚更、見逃す意味のない者を見逃すのは愚行だと思え」
「・・・そう、ですね。すみません」
甘さか。そう言われると反論が出来ない。実際その通りだとは思うし。
彼らには一度猶予を与えて、それでも行動に起こすならもうどうにもならない。
そんな相手の事を気遣って身内を危険にさらすなら、それは優しさの範疇を越えている。
確かに彼の言う事は正しい。きっと甘いのは俺の方だ。
彼らが害をなすというのであれば、それは魔人を相手にするのと何が違う。
魔人は確実に殺すと決めた。なら彼らに関してもきっと同じ事になるんだろう。
「謝られたい訳ではない。面倒を避ける為にも、こちらは話を通しておきたいだけだ」
「はい、ありがとうございます」
「・・・」
「あ、あの、どうしました?」
指揮官の忠告に頭を下げて礼を伝えると、何故か彼は眉を顰めてしまった。
ただその表情も俺が訊ねるとすぐに消え、代わりに大きな溜息を吐かれてしまう。
「いや、何故私が貴様に心構えの講釈を垂れているのかと、そう思っただけだ」
「あ、あはは、すみません、どうにも人の上に立つのとか苦手で・・・」
「ふん、だろうな。貴様に指揮官は向いていない」
「我ながらそう思います」
乾いた笑いを漏らしながら指揮官に応え、実際本心から彼の言葉には同意してしまう。
立場の有る場所に立つ、という事がどうしてもしっくりこない。
俺はむしろ指示を受けて仕事をする下っ端気質な気がする。
とはいえ現状そんな弱音を吐いても居られない訳なんだけども。
これも仕事か。そう思って割り切るしかない。
「兎も角必要事項は伝えておいた。奴らの脱走には当然こちらも目を光らせておくが、貴様も十分に気を付けておけ。城に着く前に無駄な騒動は起こしたくはない」
「はい、解りました。忠告ありがとうございます」
先に伝えておいてくれたのは実際助かる。意思疎通が取れている方が問題は少ない。
そう思い素直に礼で返すと、彼はまた怪訝な顔をしてしまった。今度はどうしたんだろう。
「貴様は変な奴だな」
「あー、えっと、どの辺りがでしょうか・・・」
この世界からすると変な人間だという自覚は有るけど、今回は一体どこを言われたのだろうか。
「私は貴様に対しそれなりの事を吐いたはずだ。だというのに嫌悪も無ければ殺意も無い。それどころか素直に頭まで下げるなど、高位の貴族であればまず考えられん」
「ああ、成程。でも俺貴族じゃないですよ」
貴族なのは俺の奥さんで、俺はただの一般人でしかない。
とはいえ現状はそれが一番大きな立場になっちゃってる訳だけど。
更に今回は王妃殿下の護衛って事も有って、変に立場がある人扱いになってるだけで。
けど俺がそう答えると、彼はむしろ呆れた様な視線を俺に向けて来た。
「ふん、貴様の周りの者は、貴様の扱いに手を焼いているだろうな」
「え?」
「まあ良い。貴様がお人よしの大馬鹿だという事は理解した。せいぜい足元を掬われん様にな」
「え、ちょ・・・」
えぇ、あの人言いたい事言うだけ言って行っちゃったよ・・・。
いやまあ、大馬鹿なのは認めざるを得ないけども。足元かぁ。
まあとりあえず今の情報は拳闘士隊とも共有しておいた方が良いかな。
そう思い隊長さんへ声をかけ、指揮官と話していた事を伝えておく。
他の隊員には俺が言うより、彼が指示を出す方が角が無いだろう。
という訳である程度対策も話したらまたやる事が無くなった。
「暇だー・・・とはいえ話してるうちに大分進んだみたいだし、もうちょっとで出れるかな。移動は途中までだいぶ遅くなりそうではあるけど・・・馬の類がなぁ」
本来荷物を引く予定の獣達は、当然ながら逃げ出しちゃっております。
何時逃げ出したか? 当然ハクさん来襲の時だよ。
つまり荷物は人力で引く事になる訳で、どうしても速度は落ちるのが目に見えている。
「俺が引くよって言っても多分やらせて貰えないんだろうな」
それが一番早いと思うんだけどなー。俺としては早く戻りたいんすよ。
でも我慢するしかないか。とりあえず近くの街までは我慢だ。
「あー・・・シガルかイナイに無性に会いたい気分だ。元から一人で寂しかったけど、腕が黒くなった後辺りからすげー会いたくて仕方ない。何だろうこれ」
やっぱなんか変調きたしてるのかな。でも気功の乱れは無いんだよなぁ。不思議だ。
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