第805話、兵士達に状況を理解してもらいます!
応援が来て翌朝、先ず状況が決したという事を兵士達に告げる事にした。
信じる信じないの話が起きる可能性はあるけど、信じて貰えた場合は動きやすい。
国が落ちたのであれば彼らに戦闘する意味は無いはずなのだから。
という事を隊長さん達と相談し、それで良いと許可を貰った。
万が一暴動とか起きた時は彼らの手を借りる事になっちゃうからね。
因みに何故か説明役は俺だ。隊長さんで良いと思うんだけども。
この中で一番偉いのは誰かという話になった時、俺という事になるからだと。
いや俺別に役職とか無いし、嫁さんが偉い人なだけなんですけど・・・。
「えー、皆さんおはようございます。今日は皆さんに報告する事があります」
ただ隊の全員がそういう意見だったので、渋々ながら早朝に檻の中の兵士達へ声をかける。
と言っても昨日一昨日と朝食の時間なので、寝坊した者以外は起きているけど。
「特に指揮官の方は落ち着いて聞いてください」
「・・・なんだ」
流石に最初よりは態度が軟化したものの、未だに気に食わない様子は消えていない。
そんな指揮官が怪訝な表情で俺を見つめ、先を話せと促す様に訊ねる。
「この数日間でこの国の王都が落ちました」
「なっ!? 貴様ら、宣戦布告も無しに国を落としたのか!? 貴様らが大国とはいえ、それがどういう事になるか解っているのか!!」
王都が落ちた。つまり国が落ちた。その事を聞かされた指揮官はまっとうな反応をした。
彼の言う通り、ウムルは宣戦布告などはしていない。戦争の礼儀を見せていない。
だと言うのにウムルが国を落としたという事は、つまり問答無用に侵略を始めたという事だ。
それは今後、ウムルという国の信用を下げる。そして周辺国家はウムルを警戒し続ける。
たとえの今回この国で起きた事が周辺国も承知の上だとしても、規則破りは印象が悪い。
次はうちの国に同じ事をしてくるのでは。そんな風に思われてもおかしくは無いと思う。
その結果は、最悪の場合は世界対ウムル、何て言う馬鹿げた戦いになりかねない。
「今回の件は、この国とウムルの戦争ではありません。この国の内乱という事になります」
「内乱だと・・・!?」
「はい。王女殿下が大臣の手によって幽閉されていた事はご存じですか?」
「なに!? 何だそれは! 知らんぞそんな話は!!」
どうやらこの指揮官は知らなかったらしい。まあそりゃそうかという話だ。
城でも殆どの人間はその事実を知らず、姫様は城の奥で伏せっている事になっていたそうだ。
なら外で仕事をしている兵士が知っているはずもなく、指揮官の反応は当然と言うべきだろう。
「王都で大臣が国王を暗殺。その事実を隠蔽し、ウムルが誇る錬金術師アロネス・ネーレス様に毒を盛り罪を擦り付けようとして失敗。その際に彼は王女殿下を救出して王都を脱出。そして王女殿下とこの国の幾人かの領主の要請により、ウムル王妃殿下が協力して王都を奪還しました」
「――――――っ!?」
とりあえず一気に始まりから結末までの事実を告げ、怒涛の情報に戸惑う指揮官。
当然他の一般兵士達も戸惑いを見せており、何が起こったのか解らないと言う様子だ。
「なので私達はあくまで王女殿下の応援でここに居ます。この国がウムルの支配下になったのではなく、王女殿下が国を取り戻したにすぎず、我々はこの国と友好的に接するつもりです」
ただここで一番大事な事は、とりあえずウムルが戦争を吹っ掛けた訳ではない、という事だ。
今回の騒動はあくまで内乱であり、責任は自国の者達が取るべきで、ウムルは手伝っただけ。
それも本当に細やかな手伝いで、戦争自体も本人達で殆ど終結させたと。
俺はその場に居なかったから真実は変わらないけど、とりあえずそうなる様に動かしたはず。
じゃなきゃウムルの兵士が王都を囲んでそのまま突っ込むだけで良いはずだし。
領主達が集まるのを待って、王女が来るのを待って、その上で突撃した事に意味がある。
「よって貴方方に出されていた命令は、国王からの命ではありません。国王の命を奪った者達が出した命令です。それでも信じられない、抗うと言うのであればお相手を致しますが、先ずは王都へお戻って事実の確認をする方がよろしいと思われます。どうでしょうか」
「・・・つまり我々を開放する、という事か」
「そうなります。出来れば大人しくついて来て頂けると助かります」
戦況は決した。なら彼らを何時までも拘束している意味は無い。
王都を奪還したのであれば、兵士達の今までの命令は無かった事になる。
命令を出していた物捕えられたのだから。後は彼らの忠誠が誰に有るかという所だ。
「・・・貴様の言う事が本当であれ噓であれ、貴様は我々を雑に扱う事は無かった。その行動を信用して大人しく従おう。だがその言葉が嘘であった時は、命を懸けて貴様を殺す」
「それで納得してくれるのであれば構いませんよ」
そして指揮官が出した結論は、とりあえず今だけは大人しくしておいてやろう、との事だ。
まあ俺が嘘ついていたら許さないって言ってるけど、嘘は何も無いから問題は無い。
いや、詳細を語っていないという点では、嘘と言えるのかもしれないけど。
でも大体は事実だ。そしてそれが真実となる。公にとっての真実と。
「じゃあ檻を開けますね」
「開けると言っても、どうするつもりだ。扉なぞ無いだろう」
言う通り、ハクの作った檻に扉は無い。竜の魔術だから簡単に消えもしない。
ならどうするかと言われれば、やる事はたった一つしかないだろう。
「壊すんで、ちょっと離れててください」
「・・・壊せるのか?」
「ええ、まあ、これぐらいなら多分」
檻から発せられている魔力量を察するに、そこまで頑丈に作ってる様子はない。
四重強化でぶん殴れば十分壊せるレベルだと思う。
「あ、念の為盾を構えておいて下さいね。じゃあ、いきますよ・・・ふっ!」
兵士達が後ろに下がったのを確認してから、フック気味に檻をぶん殴る。
出来るだけ破片が横に飛ぶようにと思って、けどやっぱり完全に横には無理か。
事前に盾て構えておくように言って良かった。がっつり破片を飛ばしてしまった。
「すみません、少し破片飛ばしてしまいましたね。でもこれで出られると思います」
「・・・何が、暴れ出したら逃げる、だ」
「へ?」
「竜の作った檻を壊せる力量を持っているじゃないか。大噓つきめ」
「あー・・・いや、でも暴れるアイツの相手はしたくないのは本音ですから」
多分指揮官の言ってる事は、ハクが来た時の問答の事だろう。
でも俺あの時も嘘はついてないよ。ハクが暴れ出したら逃げるよ。
「・・・出て良いんだな」
「あ、はいどうぞ」
指揮官は確認を取ってから檻を出て、その後に部下達を檻から出し始める。
ただその中に例の壊れた人間達が居るので、俺も隊長さんも警戒はしたままだ。
奴らが大人しくしているのであれば、俺達からは手を出す理由が無い。
けど彼らがどういう風に作られたのかを知った今、大人しくしているとは思えない。
だって彼らにとって最重要な存在は、最早王家では無いのだから。
「じゃ、とりあえず撤収作業をみんなでやって、とっとと王都へ向かいましょうか」
「解った。すぐに始めるとしよう」
そうして指揮官さんは部下に指示を出し、不安そうな兵士達は言われるがままに作業を進める。
その間何度か殺気を向けられた事を感じながら、俺は作業が終わるのを待っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます