第804話、事の顛末を聞かせて貰います!

「と、いった感じでしょうか」

「成程・・・」


拳闘士隊の人達を案内した後、お茶を振舞いながらどうなったのか事情を聞いた。

どうやら俺がここで料理の修行・・・違う、分体の鍛錬をしている間に事は終わったそうだ。

ハクの動きに合わせてリンさんが動き、動揺から回復させずに正門を制圧。


更に別の門からはアロネスさんが事前に仕込んでいた人形による開門。

ほぼ全ての門から同時に軍隊が突撃し、どこも制圧は容易だったそうだ。

何となくだけど、リンさんが担当以外の所は他にも何かしてそうな気がする。


ともあれそうして全軍の被害が軽微なまま王都を突き進み、城もそのまま制圧。

今回の諸悪の根源である大臣を捕縛し、王女が王都を取り返した。


・・・というのが建前。全ては大臣の画策という事にする様だ。


いや、実際その男も国家転覆というか、国を手にしようと思っていたらしい。

だから同罪ではあるし、全てが嘘では無いと思うし、間違いでは無いのだろう。


「研究者の反旗、か」


ただ真実は別だ。今回の件で本当に問われるべき者が誰かと言えば、それは薬を使った者。

もっと言えば薬の研究をして、上手く人間を壊す様にした者達だろう。

ただ薬の研究自体が悪いとは思わない。知らなければ対処は出来ないのだから。


けれど連中はその薬を、自分達の主と仰ぐべき存在に使った。


ゆっくりと、ゆっくりと、国王が死なない様に気を付けて、ゆっくりと壊していたらしい。

自分達が王になる気は無かったのは、大臣を盾にした事からも良く解る。

彼らは国を手中に収める気はあっても、そのツケを被りたくなかったんだ。


だから操る事の出来る『王』を作り出し、自分達の良い様に国を動かした。

いざとなったらスケープゴートにして、自分達は生き永らえる為に。

大臣に矢面に立って居た事に関しても、結局はそれと同じ事だろう。


その行動の原点は、自分達の扱いに満足が行っていなかったから、との事だ


元々人を壊す薬の研究は、王族も共に行っていた物だったらしい。

だがある時から王族は研究に混ざらなくなり、次第に研究者達に無理を言う様にもなった。

その不満が溜まった結果が、次代の王を壊して国を我が物にという事だそうだ。


その為に暗部の人間達も、入れ替わる度に一番の主を王族では無くしていたらしい。

従来の薬では不都合があるからと研究を重ね、どんどん自分達の都合の良い様に改良も重ね。

そうして操った国王と子供の関係が悪くとも別に構いはしなかった。


いざとなれば子供も薬で壊せば良い。そうして続けて行けば良いと。


国内での反乱も、消耗前提の暗部を作る事で何とかしてしまう始末だ。

薬によってブレーキが利かなくなってるのか、壊れた人間達は性能が数段上がるらしい。

その代わり当然と言うべきか、そこまで長期間生きて行く事も出来ないそうだ。


そりゃそうだろうと思うよ。だってあの気功の乱れ方は異常だ。

常に乱れた状態で生き続けていれば・・・死が早くなって当然すぎる。

けれど研究者にとっては彼らの命など、補充出来る程度の存在でしかないんだ。


結果として手練れの暗部が何度撃退しても襲ってくると、半ば恐怖政治に近くなった。

この壊れた国の方が都合が良い者達にとっては、美味しく甘い蜜の世界だったのだろうな。

割を食うのは真面目な人達だけだ。そういう人達が耐え忍ぶ国になってしまった。


「・・・国王は、正気に戻ってたんですかね」


そうして順調に国を狂わせていた連中は、王国が崩壊する出来事に直面した。

原因は『ウムル』に喧嘩を売った事だ。一連の出来事は彼らにとって予想外だったらしい。

この国からウムルは遠く離れているし、ウムルで商売をするにはリスクも高い。


彼らはその認識がきっちりとあり、だからこそウムルに手を出す気は一切なかった。

そういう意味ではリガラットに対しても同じ事なのだろう。

彼らが手を出すのは近くの弱い国だけ。それも実働部隊は金を握らせた野盗。


何かあっても知らぬ存ぜぬ。野党が何を言おうが明確な証拠にはなりはしない。

勿論誰も本気で犯人ではないと思っていなくとも、所詮は野盗が引き起こした事件だ。

奴らの言葉に証拠能力など殆ど無く、国に喧嘩を売るには少々弱い。

何よりも奴隷を売っている貴族との繋がりか、大きな問題にはなり難かった。


この国の国王が、ウムルに喧嘩を売る行動をしなければ。


「流石にそこまでは、既に亡くなった方の心を察するのは難しいでしょうね」


隊長さんの言う事は尤もだ。もう亡くなった人が何を考えているかなんて解らない。

むしろ彼の場合はそう考える事で、余計な思考をしない様にしているんだろう。

俺の様に変に悩んで、いざという時に動きが鈍らない様に。


それはとても正しいと思う。戦場で悩む何で危険極まりないだろうし。

けれど俺にはどうしても、国王のとった手は最後のあがきの様に感じられた。


多分完全に正気に戻ってたとか、策を巡らしたとかじゃない様な気はする。

微かな正気から大博打を打つ事で状況をひっくり返したかったのではと。

その結果国が亡ぶが、娘が助かるか、そこまで見通せる事も無く。


・・・駄目だな。俺が勝手に考えるべき事じゃないか。


今でも薬の研究はしていたらしいし、完璧には程遠かったんだろう。

となればその調整をミスっただけ、って可能性も大いにあると思う。

さっきのは俺が『そうだったら良いな』って思ってしまっただけの事だ。


もう死んだ人間は喋らない。真実は闇の中だ。誰が何を言おうと所詮想像でしかない。


「ところでこれ、お代わり良いですか」

「あ、隊長狡い! 俺もお代わりお願いします!」

「・・・すみません、俺も良いですか」

「あ、私も私も!」

「まさかウムルの外でこんなに美味い食事を口にできるとは・・・!」


そんな風に結論を出しながら、隊の皆にお代わりをよそっていく。

なぜこんな事になっているのかと言えば、仕込みの匂いで彼らの腹が鳴ったせいだ。

明日の早朝に出す予定の煮物だったんだけど、急遽仕上げて振舞っている。


どうもここまでの移動で殆ど食事をしていなかったらしい。しても干し肉とかそんなの。

そんな最中ウムルでも良く使われる香辛料の匂いにやられたと。

さっき隊長さんに険しい視線を送っていた人なんて、満面の笑みでがっついている状況だ。


「いっぱいあるんで、いっぱい食べて下さい」

「「「「「ありがとうございます!!」」」」」


なんだろう、今俺食堂のおばちゃんと化している。ちょっと楽しい。

しかしよく食べるなー。明日の朝食の分追加で仕込まないと足りないなぁ。


「・・・本当は、どこまで公開する気があったのかね、あの人は」


よく食べる彼らを見ながら、思わずそんな呟きが漏れた。この件を動かした錬金術師に対して。

あの人は全てを知っていたはずだ。それこそ城で好き勝手に探りまくっていたんだから。

けど彼は一部情報を伏せていた。勿論ブルベさんやリィスさんは知ってたかもしれないけど。


それでも、彼は伏せていたんだ。国王の真実を。壊れた王の結末を。

一体誰の為だったんだろうか。何の為だったのか。


「ま、あの人の事だから、どうせ根っこは誰かの為だろうけど」


若干ひねくれもので悪戯好きで困った人だけど、その点だけは信用できる人だ。

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