第799話、兵士達の世話をしなければいけません!

遺跡の警戒に勤めている兵士達は、ウムル対策の為かそこそこの数が居る。

そして人数が多いという事はその為の飲食も多い訳だ。

何の話をしているかと言えば、その人数分の水と食料を運ぶのが大変という事です。


「おかしいな、なんか俺が使用人みたいだな。しかも奴隷の」


水と食料を積んだ荷車を自ら牽きながら、何かがおかしいと思い呟く。

とはいえ自分が「水持って来る」と言った以上自業自得なんすけど。

更に言えば一度の運搬に限界が有り、事態の収拾が遅いと何度も往復しないといけない。


「せめて明日には誰か来ますよーに・・・!」


強化を使えばそこまで大変じゃないけど、それでも出来れば早めに解放されたい。


「まあ、それ自体も自業自得なんすけどねー・・・」


兵士達は本来殺される予定だった。けど俺の我が儘で彼らは生きている。

ならこの苦労は自分で生み出した物だろう。仕方ないと思うしかない。


「・・・あの中の何人が生き残れるのかな」


ただ助けたとしても彼らはこの国の兵士だ。この国の体制が崩れた時どうなるか。

少なくともあの壊れた人達は、そのまま放置される事は無いと思う。

それに大半は奴隷を雑に使う事に慣れた人達だ。それは彼らの日常会話から解っている。


まだ王女がどうするか解らない以上、国が変わると決まった訳じゃない。

けど彼らは国を変えようとしている人達と真逆の考えの人達だ。

国が方針転換をした時彼らはそれに従えるのか。


下手をすると兵士なんて辞めて野盗をやり始めてももおかしくない。


「そこまで俺が気にするのは間違いだし・・・面倒見切れない、よな」


兵士達には家族を持つ者達が居た。家族を愛する気持ちを持つ人がいた。

ならその感情を少しでも奴隷達に向けてくれたら国は変わると思う。

勿論それで何とかなるとは限らない。だってこの国には違法奴隷が居るから。


これはリィスさんが言っていた事で、俺が気が付いた事じゃない。

けど言われてみると当然か、という様な事を言われた。


『この国に居る奴隷を開放するという事は、違法奴隷も開放するという事です。つまりこの国の罪を外に知らせると言う事。今までは知らぬ存ぜぬで通していましたが、開放してしまえばそうはいきません。この国は今までの愚行により多数の国家から滅ぼされる事になるでしょう』


今までは国を責める証拠が無かったし、多少あったとしても揉み消す事が出来た。

それは違法奴隷を確保した国にも取引相手が居たからに他ならない。

けど国が奴隷を開放し、違法奴隷を開放すれば、流石に取引相手も国を庇わない。


むしろ自分が違法に手を染めたという話をされない様に潰しにかかるだろう。


『奴隷を開放しなければウムルにゆっくりと潰される。開放すれば自国内で内乱も起きる。それどころか周辺国もこの国を潰しにかかる。むしろ内乱に乗じて参戦するでしょうね。国が落ち着いて帳簿でも出てくる前に。人の尊厳を貶めても自分が破滅するのは嫌らしいですから』


この国は詰んでいると事前の説明で思っていたけど、その話を聞いて更に詰んでると思った。

結局の所この国はウムルに喧嘩を売った時点で終わっていたんだ。

多数の国家と取引をしている大国家。それはただ国土が広いと言う事だけが理由じゃない。


イナイ、そしてアロネスさん、更に言えばアルネさんもそうか。

あの三人の様な腕利きの職人達が居る国。そして彼らに迫ろうとする職人達。

そんな人間が多数いる国であれば、当然作られる物も一級品だ。


取引をしたい国は多くあり、その取引を止められるのはどこも嫌だろう。

それは国としての判断であり、その判断を違法に手を締めた者達だけで反対できるか。

出来る訳が無い。彼らが出来るのはせめて証拠もなく戦争は不味いと言う事だけだ。


『だからこの国が本当に生き残る手段は二つ。奴隷を解放せずウムルを納得させるか、奴隷を開放する代わりにウムルに従属するかです。それ以外に生き残る方法はありません。だからアロネス様を薬で操ろうとした訳ですが・・・完全に相手が悪いとしか言い様がありませんね』


奴隷を開放すれば国が亡ぶとなれば、解放せずに済ませるしか手段が無い。

けれどそうするとウムルは納得しないからいずれ亡びる。

となれば使者を納得させなければいけず、だけどそれは失敗に終わった。


あとこの国に残っているのは、ウムルに従属する事で保護してもらう事だ。

そうすればこの国の存在が不都合な者にも下手に手が出せない。

何せ従属国だ。手を出せばウムルに喧嘩を売るのと同意義になってしまう。


身の破滅を回避する為に滅ぼしたいだろうけど、手を出せば自分が滅ぶ事になる。

まあ、手を出さなくても帳簿は探して提出する予定らしいから、結果は変わらないと思うけど。

後は反乱軍と共に在る王女様がどう判断するか次第、って所だろうな。


「・・・ウムルに喧嘩さえ売らなければ、未だに問題無く運営出来ていただろうな、ってのが何とも言えないけど・・・良く考えるとなーんでウムルに運んじゃったのかねー」


どう考えてもリスクだらけのはずで、むしろ失敗した時を考えたら絶対にやらない事だろう。

けどこの国はウムルに奴隷を売りに来た。売れると思った。つまり――――。


「・・・あれ、なんか今、色々おかしい気がしたんだけど・・・あれ?」


ウムルに喧嘩を売れば詰む。そんな事が本当に国の王侯貴族は解らなかったんだろうか。

確かにウムルは金を持ってるかもしれないけど、さっきの通りリスクが大きすぎる。

通り道にだけ使っていたなら兎も角、ウムル国内で売りさばくのは完全にアウトだ。


なら何で連中はウムルに奴隷を運んだ。何でウムルを誤魔化す為に身分証まで用意した。

売りさばいてもバレない自信が本当に有った? 本当にただそれだけか?


「・・・まさか」


俺の頭に一瞬よぎったのは、最初からこの国を潰す為に誰かがウムルに運ばせたという事だ。

この国が商売をする為にウムルまで遠征を決めたのではなく、誰かが誘導したのではと。


勿論ただ馬鹿な商人がウムルを市場に出来ると思った可能性はある。

けど本当にそれだけだろうか。国が身の破滅と天秤にかけられるだろうか。

何せ違法奴隷を扱っている時点で、奴隷商人は国と繋がっている必要がある。


国が保証してくれないなら自分も身の破滅が待っているんだから。

そして奴隷に身分証を発行したという事は、ウムルでの商売には確実に国や貴族が絡んでいる。

なら全てを知っている人間が何処かに居るはずだ。馬鹿げたリスクを無視して行動した人間が。


それは誰だ。誰がそんな真似をした。国が亡ぶ様な許可を誰が――――。


「・・・国王?」


殺された国王。国王になり替わろうとしている人間達。そして監禁された王女。

まさかとは思う。だって話に聞いた限りでは、国王は奴隷を使う事を認めていた王だ。

そしてウムルの要求を平気で突っぱね、奴隷売買の件も商人の独断と返した。


けれど何故か、この件を引き起こしたのは、その国王なのではと思ってしまった。

何も考えずに馬鹿な真似をしたのではなく、明確な意図をもってやらかしたのではと。


「いや、流石に、考えが突飛すぎる、よな?」


俺の突然の思い付きだ。だから外れている可能性の方が高いと思う。

けど何故か、不思議と何故か、そんな事を考えてしまった。


「・・・頭こんがらがって来た・・・良いや、俺は結果を待ってよう」


こんな物はきっと下らない妄想だ。それに真実がどうあろうと事実と結果は変わらない。

何より俺が疑問に思った様な事なんて、既に他の皆が思いついてておかしくない。

とりあえず今は運んだ水を兵士達に配ろう。水分は補給させておかないと。


「水持ってきましたよー」


・・・単純に心底馬鹿がウムルで商売しようとした、って可能性も普通に有ると思うしな。

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