第795話、単独で遺跡を壊しに潜ります!

『それにしても人騒がせだぞ。おかげでシガルと離れ離れになっちゃったじゃないか』

「それに関しては俺のせいじゃないと思う」


多分ハクの分体が消えたから助けに来てくれたんだろう。

けど消したのは俺じゃなくて魔人だし、俺を責められても困る。

ハクに応援の連絡を入れる暇もなかったしな。握ったら消えたもん。


そのおかげで応援に来てくれたみたいだし、俺としては助かったのが本音だけど。


「シガルは心配してた?」

『凄くしてたぞ。だからシガルにお願いされてここに来る事になった』

「・・・お願いされなかったら来なかったのね」

『タロウだし大丈夫かなって』


お前のソレは信頼なのか俺に興味が無いのか怪しいと思う。

いや、単にシガルの傍に居たいだけかもしれない。それが一番あり得るな。

そもそもさっきもタロウなら大丈夫だろうで前足を叩きつけられた訳だし。


「でも来てくれたならちょうど良いや。俺ちょっと遺跡の中を見て来ようと思うから、倒れてる兵士達を見ててくれないか?」

『えー。私早くシガルの所に帰りたい』

「頼むよ。すぐ戻って来るから」

『むー・・・すぐだぞ!』

「ああ、ありがとう」


むくれながらも了承してくれたハクに礼を言い、俺は一人遺跡の中へと入っていく。

最初の内は特に異変は無くて、何時も通りの遺跡の構造だなと思いつつ歩を進める。

ただ途中で明らかに遺跡が動き出し、けれど遺跡は俺の命を吸い上げなかった。


むしろ周囲から吸い上げた命を俺に流し込もうとして来る感じすらする。

しかも力を流し込むだけじゃなく、同時に得体のしれない何かまで。


「予想が当たったか・・・」


何となく、本当に何となくだけど、今ならこれを感じられる気がしたんだよな。

だからハクに見張りを頼んででも遺跡に入りたかった。

今まで俺が解らなかった、けどクロトだけが解っていた感覚を知る為に。


「これは気持ち悪いな・・・」


これが今までクロトが感じていた物か。こんな物をずっとあの子は感じていたのか。

クロトは寡黙だから我慢してるんじゃないか、と思ってたら予想通りだよ。

これはもうちょっと何かご褒美と言うか、労いを考えておきたいと思うレベルだな。


なにせ自分じゃない何かが内側に入り込もうとする感覚は悍ましいの一言だ。

それらを仙術を使って弾きながら、何時も通り遺跡の最奥まで辿り着く。


「これは・・・あの女に殺されたんだろうな」


最奥の棺の有る部屋では数人の死体が転がっていて、どれも既に息を引き取っている。

そもそも頭と胴体が繋がっている死体が一つもない時点で当たり前だろう。

兵士達の顔はどれも苦悶に歪んでいて、生きたまま千切ったのではないかと思わせた。


やったのは間違いなく、そこの開いた棺から出て来たあの魔人だろう。


「ホント悪趣味だな、あの女」


言動で相容れないと思っていたけど、やっぱりどう考えても相容れない。

人を殺す事を楽しんでいたし、むしろ丁度いい玩具程度の感覚なんだろう。

上位存在気取りで命を摘み取るか・・・なら摘み取られても文句は言わせない。


何も思わなかった訳じゃないけど、あの女なら殺した事に心は左程痛まないと思える。

それでも多少思う所がある辺り、やっぱり甘いと言わざるを得ないんだろうなぁ。


「話の通じる魔人ってのは居ないのかな・・・」


一応俺以外の人達も、最初は魔人との対話を試みているらしい。

ただし結果はお察しという感じなので、本当は不毛な事なのかもしれない。

危険性を考えればきっと問答無用で切り捨てるのが一番安全で確実だろう。


それでも対話を試みるのは、諦めはありつつも可能性を考えているからだろう。

クロトの様な、ヴァールちゃんの様な、話の通じる相手が現れる事を。

ただしこの二人は魔人と言うよりも魔神だから、また話が違うかもしれないけど。


「あ、そういう意味では俺もその一人か」


さっき腕が黒くなるまでマジで実感なかったけど、遺跡のせいでようやく実感したよ。

本当に俺は魔神になったんだな。そして今もなりかけているんだなって。

半端な俺を本物にしようと、さっきから遺跡の核がすげーうざいし。


「要るかよ、そんなもん」


拳に力を込めて浸透仙術を使い、周囲の命を集めて遺跡にぶち込む。

衝撃と共に命を吸い上げる機能が止まり、核も破壊されて完全に機能を停止する。

何時もなら遺跡ごと壊すけど、今回は念の為遺跡の外観は壊れないように加減した。


とはいえ核が壊れたせいか、遺跡は一気に劣化した様子を見せているけど。

あと俺が浸透仙術使ったのも原因かな。とはいえこれで一旦――――。


「ぐっ・・・!?」


そこで気を抜いた俺に突然何かが入り込む感覚を覚えた。

本当に一瞬の出来事で、侵入を拒絶する暇すらなかったと思う。

気を抜いたとはいえ仙術はそのままだったのに、それでも気が付けなかった。


「なん、だ、これ・・・きもちわる・・・!」


自分の物じゃない力が膨れ上がる感覚。内側から弾ける様に力が溢れる。

けれどそれ俺は今まで俺が知っている力じゃなく、明らかに異質で逸脱した力。

つまりこれは、魔神の力だ。さっきは防げたのに何でここで・・・!


「ふうっ・・・!」


仙術を自分の状態を確認するも、特に異常らしきものは感じない。

浸透仙術で使っても同じ事で、ついでに確認した核も完全にその存在が消えている。

なら一体これは何なんだ。内側に入り込んできたこれは!


「はあっ・・・! はあっ・・・!」


心臓がもう一つ増えたみたいな感覚だ。体の中に何か重要な臓器が増えた感じがする。

ただ実際にはそんなものは何処にも無くて、けど俺の内側に確かに存在している。

それが自然な感覚とはどうしても思えず、強烈な違和感を抱えてしまう。


けれどそれも少しずつ落ち着いて来て、違和感は残りつつも一息吐ける程度にはなった。


「・・・マジかよ。もしかしてクロトのやつ、遺跡を破壊する度にこんな感じになってたんじゃないだろうな。いや、なってたんだろうな・・・今なら解っちまう」


さっきは焦ったせいで解らなかったけど、核の欠片みたいな物を取り込んだんだ。

最早魔人の意思の乗っていない、純粋な魔神の力の微かな欠片を。

それでも強大な力を持っているからなのか、人の身には余る鼓動を感じる。


「あ、やっべぇ、ここに来て初めて背筋が寒くなって来た。この力を感じるのが怖い。さっきまで全くそんな事なかったのに。欠片を取り込んだせいか?」


解放しちゃいけない力を手に入れた感覚がある。めっちゃ怖い。

何これ捨てたい。いや冗談じゃなく捨てたいんですけど。

常に背筋がゾワゾワする様な感覚と隣り合わせになってるんですけど!


「うわぁー、マジかぁー・・・マジかぁ」


拝啓おじい様、私は本格的に人間からはみ出てしまったようです。勘弁して。

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