第794話、自分の状態がさっぱり解りません!
「マジかよ!」
減速する気配の無いハクに危機感を覚え、身体強化と身体保護を即座にかける。
そのおかげで竜の着地の振動と風圧に吹き飛ばされずに済み――――。
「ぶべっ!?」
バァンと盛大な音をたてたハクの前足に叩き伏せられた。何で!?
つーか痛え! めっちゃくちゃ痛え! 骨が砕けるかと思った!
強化と保護かけてなかったら瀕死だぞこれ!
「ぐっ・・ぶげっ・・・!」
軋む体に治癒をかけつつ、力を籠めて何とか立ち上がろうと試みる。
すると更に体重を乗せられてしまい、またべしゃっと潰れるはめになった。
潰れた蛙みたいな声が口から漏れたけど、そんな事気にしてる場合じゃない。
体中ミシミシ言ってるから! 一瞬でも気を抜いたら死ぬぞこれ!
「ハク・・・何のつもりだ・・・!」
いや、マジで訳が解らない。何でハクは突然俺を攻撃して来たんだ。
しかも下手したら死にかねない威力だったし。そう思い力を込めて問いかける。
もしこれで返事が無いのであれば、悪いが前足の大怪我は覚悟してもらうぞ。
流石にこのままじゃ洒落にならないと、しっかりと握ったままの技工剣に魔力を籠める。
すると唐突に体にかかる負荷が消え、ハクは前足を俺から退けてのぞき込んできた。
そして何故か凄く不思議そうに首を傾げている。首を傾げたいのは俺の方だ。
『あれ、おかしいな?』
「・・・何でお前の方が不思議そうな顔してんだよ。おかしいは俺のセリフだよ」
キョトンとした顔しやがって。お前ふざけんなよ。
こっちは本気で死ぬかと思って焦ったってのに。
あ~、ほんときつかった。全身の骨が一瞬でヒビだらけになったもん。
大怪我をした時は仙術と治癒魔術を覚えていて良かったと本当に思う。
いや、一番は怪我しない事なんですけどね。今回は特に意味が解らんし。
ただまあ気になる事と言えば、その際も右腕だけは一切怪我が無い事なんですけど。
『うーん、タロウがおかしくなってると思ったんだけど・・・タロウだね?』
「・・・もしかしてこれのせいか」
文句を凄く言いたい所ではあるけど、先ずは黒くなった腕を見せてみる。
『うん。何か近づいたらクロトと同じ感じがしたから、とりあえず叩いておこうと思った』
「とりあえずで死にかけた俺に謝れ」
『紛らわしいタロウが悪いし、タロウはあの程度で死なない』
「おいこら」
この野郎。ぷくーっと膨れた面しやがって。今は巨体だから全然可愛くないぞ。
半眼でじーっと睨んでいると、今度はプイッと顔を逸らしやがった。
『むぅ・・・ごめん』
ただ悪いとは思ったのか、渋々の様子で謝っては来たけど。
「・・・最初から素直に謝れば良いだろうに」
『なんか腹立つ時のクロトと話してるみたいで腹立ったんだもん』
もんじゃねえんだよ。お前会話は出来るんだからちゃんと会話を試みろ。
でもハクとクロトは初体面の時すっげー仲悪かったし、その辺りの影響もあるのかも。
いや待て、確かクロトの時は問答無用で殴りかかったりはしなかったはずだ。
・・・考え方を変えれば、もしかしてこの右腕がそれだけやばいと感じたのか?
「ハクから見て今の俺ってどんな風に見えてるんだ?」
『んー・・・なんかヤな感じ。クロトが黒を強く纏ってる時に似てる』
「あー、やっぱそうなのかこれ」
最初にそうかとは思ったけど、その考えは間違ってなかったらしい。
まあ、それ以外理由が思いつかないってのもあったけど。
ただその割には魔術が普通に利くんだけど、一体どうなってんだこの腕は。
クロトは黒を纏ってなくても魔術の通りが悪いっていうのに。
治癒だけでも通ってくれといつも思う。何時か大怪我した時が本気で心配だし。
後転移が利かない事を本人が地味に気にしてるっぽいからどうにかしたい。
『後は目も同じ感じになってる。片目だけど』
「目もか・・・顔は?」
『顔はそのままだよ』
顔はそのままで片目と右腕だけクロトの様になってると。
となればこれが何の力なのかはほぼ確定してる様なもんだな。
そうなるとやっぱり疑問なのが、俺って大丈夫なのかって事なんだけど。
「・・・やっぱ今は平気だな。何でだ?」
魔人が出て来た時と戦ってる時は、若干自分じゃない言動をしていた気がする。
でもハクに抵抗した時は全部自分の意思で行動していたし、今も特におかしな所は無い。
なら戦闘や身の危険がきっかっけでなった、って訳でもなさそうだな。
まあ今一番気になる事は、この腕を自分の意思で戻せないって事なんだが。
すげー頑丈になってるから使えるかなーって思ったけど、自由に使えないんじゃ不味いしなぁ。
それに何とか元の状態に戻さないとクロトが泣き出しかねない。それが一番困る。
あとお前は危機感が足りないってイナイに怒られそう・・・あ。
「あれ、腕が戻った?」
『戻ったね』
「目も戻ってる感じ?」
『目も戻ってる』
全くもって理由が解らないけど、突然腕が元の色に戻った。
ぐっぱと調子を確かめてから、近くに有った太い木の枝を拾って握る。
「ふんっ・・・うん、無理」
鍛えてるおかげで若干ミシッって鳴るけど、ただそれだけだ。
手ごたえがかなり固い。さっきみたいな簡単に折れる感触とは全然違う。
力点とか考えれば折れなくはないけど、さっきは無造作に握って折れたからなぁ。
むしろ砕けたという表現が正しいかもしれない。バッキバキだったし。
「完全に元に戻った、って事だよな」
とりあえず戻れて良かったけど、黒くなった理由も戻れた理由も解らねぇ。
使えるかなーって思ったけど、やっぱこれ使えねーな。何も制御出来ないし。
制御出来るなら何とか使いたいと思っちゃう気持ちも在るけど。
「アレが使えるなら・・・リンさんとも・・・」
勝てるとは言わない。きっと黒い力を身に纏っただけじゃあの人には勝てない。
それはクロトの怯えが証明しているし、あの人は多分黒が通用しない。
だから俺が使うなら単純な身体保護にのみ。そしてその状態で三乗強化を使えば。
「数秒以上戦える、と思うんだけど・・・やっぱ不味いかな」
ハクが嫌悪感を見せ、クロトが封印処理をするような力だ。
そもそも意識がおかしくなりかけていたし、危険な力に変わりはない。
それでも、そう思ってしまう。この世界では体が余りに弱い自分には使える力だと。
「・・・でも、自分で身に着けた力じゃないもんな。そんな物に頼るのは、違うか」
戻ってしまったのではない。戻れたんだ。その事実に喜ぼう。
そして降って湧いた様な力を当てにするのはきっと違うと考えるべきだ。
使えると思ってしまったけど、後ろ髪は惹かれるけど、この力の事は忘れよう。
『ところでタロウ、あいつらは何?』
「ん、ああ」
ハクが横を向いて訊ねたので、俺も同じ方向を向いて応える。
そこにはさっきまで俺を囲んでいた兵士達が死屍累々となっていた。
いや、ハクが踏み潰さなかったから死人は一人も出てないけどね。
彼らは巨大な竜の急降下の衝撃と暴風に吹き飛ばされたらしい。
俺は何とか堪え切れたけど、彼らでは無理だった様だ。
とはいえ気絶したふりをして隙を伺ってる連中も居るけど。
「ここに居た兵士達だよ」
『それは解ってるけど、生きてる人数が多いよね』
「・・・あ、うん、その、はい」
はい、そうでした。普通に答えたけど、本当は数を減らす予定でした。
ハクの攻撃で完全に頭から飛んで行ってたよ。今思い出しました。はい。
『まあ、タロウらしくて良いんじゃないか。私はそう思うぞ』
・・・俺らしいか。確かに今回はそうだった気がする。
やることなす事中途半端で、最低限の仕事だけはした感じだ。
自分ではそう思って若干自己嫌悪もあったけど・・・。
「そっか・・・さんきゅ」
報告を受けたリィスさんから苦言はあると思うけど、ハクの言葉に少し救われた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます