第793話、問題の対処をしなければいけません!
黒くなった右腕をぶんぶんと振ってみるも特に変化は無い。
むしろ変化が無いのが怖いかも。だって気功が一切乱れてないもん。
不調の類は一切感じられないのに、目に見える異常が腕に起きている。
この事実が怖すぎる。だって異常を異常と認識出来ないんだもん。
「・・・でもさっきみたいな意識の混濁とかは無いな」
浅黒くなった腕を空に掲げて光で透かすと、単純に黒くなっただけの様に見えた。
クロトの全てを吸い込むような黒の雰囲気ではなく、黒めな肌の人種と同じ程度かな。
「右腕を移植したみたいになってる・・・けどちゃんと動くし・・・うーん?」
意思に反して動く事も無ければ、痛みや不調を感じる訳でもない。
ただただ黒い。浅黒い。たったそれだけの変化しか起きていない。
あれ、これってもしかして、そこまで怖がらなくても大丈夫なのかな?
なんて首を傾げながら腕を見つめていると、ガチャガチャと鎧の鳴る音が周囲に響く。
「貴様、そこを動くな!」
さっき退避した兵士達が戻って来て、俺を包囲して武器を構えている。
勿論単純に近づいて来た訳ではなく、後方で構えている兵士達の壁役だろう。
魔術師は既に放つ準備が整っているし、弓兵は魔人との戦いの間から弓を引いていた。
「別にそこまで警戒しなくても突然暴れはしませんよ」
「ふざけるな! 先程まで好きに暴れていただろうが!」
「それはまあ・・・そうですね」
うん、確かに好き勝手に暴れたね。彼の言う事は正しい。間違いない。
とはいえどうしたものか。このまま逃げる、ってのは無しなんだよなぁ。
犠牲が出る前に魔人を倒した事で兵士達は大分残っている。ていうかほぼ無傷に近い。
この状況で俺が逃げ出したとして、誰も遺跡に触れないなんて事があるだろうか。
答えは否だと思う。流石の俺でもそこまで能天気じゃない。流石の俺でも。うん。
となれば誰かがこの遺跡に入ってしまい、問題が起こる可能性も無くはないと思う。
我が儘を通した結果、別の問題が浮き上がっちゃったなぁ。
リィスさんはこの問題も含めて犠牲が出てから、って判断だったんだろうなぁ。
いったいどうしたものか。自業自得なんだけど凄く困る。
「兎も角、先ずはその剣を手放して地面に伏せろ!」
無言で悩んでいると、そんな俺に焦れたのか指揮官が叫んだ。
とりあえず俺を拘束したいらしいけど、正直それに従う義理も理由も無い。
剣はしっかりと握ったまま、指揮官へと体を正面に向ける。
「お断りします」
「貴様、ふざけているのか!」
「至極真面目です。そもそもさっきの戦闘を見て俺を取り押さえられるつもりですか」
「誤魔化すな! 強力な技工剣を持ち遺跡に現れた以上、貴様はウムルの者以外ありえんだろうが! 他国で勝手に暴れておきながら、逃げたとてただで済むと思っているのか!」
さてどうだろう。確かにただでは済まない気がする。確実にお説教が待っているだろう。
だって今の状況予定と違い過ぎるもん。絶対リィスさんに怒られるよこれ。
まあ指揮官が言っている事はそういう意味じゃないのは解ってるけど。
「でもそれは、ここで皆さんに捕らえられても同じ事でしょう?」
「っ!」
流石に馬鹿でもそれぐらいは解る。そのつもりで応えると、指揮官は警戒を見せた。
そして俺の死角から手で指示を出し、それが解らない様にまた別の者が指示を繋げる。
ここの部隊ぐっだぐだだと思ってたけど、案外しっかりしてるな。探知で全部解ってるけど。
そのまま俺が動かずに指揮官を見つめていると、俺の側頭部めがけて矢が飛んで来た。
予測通りだったので強化しつつ矢を握って受け止め、握り込んでベキリとへし折る。
「一応実力は見せたつもりでしたが、戦う方向という事で宜しいですか」
「馬鹿な!?」
指揮官は決まったと確信していたんだろう。目を見開いて叫んだ。
ただ今の俺は内心、もっと別の事に驚いている。いやマジで凄く驚いてる。
今の矢って右腕で受け止めて、強化を切ってから握り込んだんすよ。
そしたら太い矢がべきって折れた。待って待って。素の俺にそんな腕力ないから。
今内心すっげーびっくりしてるけど、それを出さないように我慢してる。
出来てるかな? 出来てるよね? 正直出来てるか不安で堪らない。
まさかこの右腕、クロトが黒を纏った時と同じように強化されてるんだろうか。
となれば俺にとってはかなり助かる力だ。だって俺素の性能貧弱だし。
若干頭打ちになりかけてた強化の中に、この力を混ぜられるのは心強い。
さっき魔術使った感じ、クロトにかけるのと違って普通に使えたし。
特に抵抗らしいものも無かったから・・・あれ、そうすっとこれやっぱ違う物なのか?
訳解んねぇ。一体俺の腕に何が起きてるんだ。誰か説明してくれ。
「貴様、目的は何だ!」
あ、俺へ下手に手を出すよりも、真意を聞く方にシフトしてくれたらしい。
とはいえ兵士達は相変わらず警戒状態だし、魔術も弓も俺を狙ったままではあるけど。
「そうですね・・・とりあえずここの死守って所でしょうか」
スタスタと遺跡へ向かい、そして入り口を塞ぐように立ち止まる。
嘘はついてない。それに真実を話す必要も意味もない。
大体我が儘を通した以上は、最後まで押し通すべきだとさっきも決めた。
ならこれ以上の犠牲者が出ないように、遺跡の中には誰も通さない。
それに小さい可能性だとは思うけど、下手に遺跡が起動すると魔神が生まれかねないし。
ヴァールちゃんが生贄で生まれたという話がある以上、無いとは言えない可能性だと思う。
「ふん、やはりか。貴様はネーレスの私兵といった所か」
「まあ、そこまで間違ってませんよ」
実際あの人のせいで今ここに居る様なもんだからな。あの人のせいでな!
「ほう、認めるのか」
「否定する必要も無いので」
今更否定する必要も無いだろう。そして認めた所で多分問題ない、と思う。
だって状況は王女を祭り上げる方向にシフトしているのだから。
現状の政権の命を受けている彼らの邪魔をしても、多分最終的には問題ないはず。
・・・王女が内乱後にちゃんとウムルと組んでくれたら、だけど。うん、すっごい不安。
今更だけど本当にやっちゃったなぁ。アロネスさんの事言えない程やらかしちゃったなぁ。
「貴様、この人数差を理解しているんだろうな」
「人数が多いのは解ってますよ。こっちは一人ですから」
「どこまでも人をおちょくるガキだな・・・!」
「えぇ・・・?」
本当にただ受け答えしてるだけなんすけど。おちょくるつもりは無いんすよ。本気で。
「貴様は確かに強い。それは認めよう。貴様に殺された女も相応に強かったのだろう。しかし、あれだけの魔力を使って戦ったのだ。流石に魔力切れか、それに近い状態だろう。一撃二撃ではどうにもならんだろうが、数で押せば貴様とて危険だとは思わんのか」
「・・・本気でそう思うならどうぞ」
「きさ――――」
指揮官がまた激高しそうな様子を見せたので、技工剣に魔力を流して起動させる。
同時に威圧的な魔力が周囲を支配し、兵士達の表情が一瞬で変わった。
「これを消耗している、と思えるならかかって来て下さい。そしてこの剣の攻撃に耐えられる自信があるのであれば―――――」
言葉の途中で剣を後ろに振り上げ、その衝撃で兵士が吹き飛ぶ様子を視認する。
隠匿系の魔法を使って近づいて来ていたけど、今の俺にそれは通じない。
全力で警戒している俺に隠れて近づきたかったら、シガルと同じ領域に届かないと不可能だ。
本当ならば手荒な真似はしたくない。けれど状況的に甘い事なんて言っていられない。
それに彼は、多分、どう足掻いても俺を殺しに来た。だって、気功のおかしい一人だったから。
あと数人同じ様子の人間が居て、指揮官の指示がどうあれ何時か襲い掛かって来るだろう。
ただその指揮官は今の俺の動きと剣の威力に、戦闘への意思が削れている様子だけど。
「この通り、容赦はしません」
悪いけど、今回ばかりは本当に容赦しない。容赦が出来ない。
アイツらは確実に俺を殺しに来るつもりで、今は俺一人しかいない。
俺が失敗した時の補助が無い以上、俺は油断も容赦も一切出来ないんだ。
「死ぬ覚悟の有るやつからかかって来い」
出来ればアイツら以外襲ってこないでくれ。そんな想いを持ちながら兵士達に告げる。
その瞬間、遠くからすごい勢いで何かが近づいて来るのを感知した。
ただし場所は遥か上空。て事は、つまり。
『―――――――――!!』
耳を魔術で保護しつつビりビリと響く咆哮を聞き、落ち着いて空を見上げる。
すると見えたのは白い大きな竜が急降下して来る姿だった。
援軍だ、助かった・・・いや待って、ハクさん勢い付きすぎてない?
ちょ、まっ――――。
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