第791話、倒し方を考えます!

「な、なんだ貴様! 何処から現れた!」

「おい、あれまさか魔道技工剣か・・・?」

「じゃあまさかウムルの・・・本当に来たのか・・・!」


背後が騒がしい。女の暴挙よりも俺の出現の方が反応大きいっておかしくないか。

俺の背中に武器を構える気配を感じるけど、構わず女を見据えて剣を握る。


「ステル・ベドルゥク」


剣が四分割に分かれてスライドし、五つの魔力水晶が強く光り輝く。

魔力が純粋な力となって顕現し、巨大な魔力剣が作られる。


「貴様、一体何のつもりだ! 他国の軍が駐屯している場でその行動がどういう意味を持つのか解らないとは言わせんぞ! 今すぐ武装を解除しろ!!」


本当におかしい。何で俺の方があの女より警戒される様な状況になってんだろう。

納得がいかない。俺は助けに入ったんですけど・・・いや、違った。

ついさっきの自分の発言を覆しちゃダメだよな。俺は我が儘をやっているだけだ。


なら最後まで我が儘を通さないと格好が悪い。彼らに理解を求めるのは間違ってる。


「死にたくなかったら離れていた方が良いですよ」

「なにを言っている! 貴様は―――――」


口で言った所で納得しないのは解ってた。だから技工剣を振るって地面を抉る。

それを見た指揮官らしき男は驚いたのか、叫んでいた言葉が止まった様だ。

傲慢な振る舞いだとは思う。けどこれで良い。だってこれは俺の我が儘なんだから。


きっと後で誰かに叱られるだろうな。アロネスさんの事を祈ってられなくなってしまった。


「聞こえなかったか。死にたくなかったら離れてろって言ったんだ」


思い浮かべるのはアロネスさんとアルネさんの姿。

あの人達が戦う事を決めた時の迫力を、少しでも借りるつもりで強めに告げる。

ただ俺は自分に迫力が無い事を知っているし、出し方も正直良く解らない。


だから解り易く技工剣を開放し、その脅威を見せつける事で代わりにした。

視線は女に向けたままだから、兵士達がどんな顔をしているのかは解らないけど。


「―――――くっ、退避、退避だ!」


狙い通り技工剣の脅しが効いたのか、兵士達は俺と女から離れ始める。

すると女は「ひゃはっ」と声を上げると厭らしい笑みを向けて来た。


「茶番は終わったかい?」

「わざわざ待ってるなんて親切だな」

「いやぁ、私は茶番劇が好きでね。特に茶番劇の主役が酷い目に遭う話がさぁ」

「じゃあお前が主役になるって事だな」

「ひゃははっ・・・その剣とさっきの動きが自信の元かい。確かに人間にしては良い動きだったけどそれぐらいじゃね・・・調子にのるなよ出来損ないのくせにさ」

「は?」


出来損ない? 何ってんだこいつ。出来損ないはお前達の方だろうが。

魔神に至る事も出来ず、だからと言って人を捨てきる事も出来ない。

それでありながら人よりも上位存在だと思い込んでいる愚者共が。


「我が神だと思ったのに・・・折角上がっていた気分が台無しだよ。まさかこんな半端な者が生まれるなんてね。身を捧げた奴が浮かばれないっての」

「誰も捧げて欲しいとは頼んでいない。貴様らが勝手にやった事だ」

「そりゃそうだ。私達が勝手に――――――ヴァル様?」

「っ」


女が驚いた顔で俺を見る様子に、頭を振りたくなる気持ちを抑えて奥歯を噛みしめる。

まただ。また俺じゃない思考と言葉が勝手に出た。やめろ。俺は俺だ。


「俺は、タロウだ。タナカ・タロウだ」

「ふーん。成程、成程・・・染めてみれば変わる可能性もあるか?」

「染める?」

「ああ、こっちの話さ。どうせ消えるお前には関係のないね」

「そう言わず教えてくれても良いと思うけどな」

「ひゃははっ、話を聞く気なんて無いくせに。隙を見せた瞬間に斬りかかる気満々じゃないか。まあ良いよ。切りかかって来てみなよ。バッサリといけるかもよ?」


くそっ、調子に乗ってる風なのに隙が無い。だからこそさっきの一撃を受け止めたんだろうが。

二乗強化を使えば何とかなると思うんだけど・・・そうすると後が怖いんだよな。

倒れた俺をあの兵士達がどう扱うか。ハクが駆けつけてくれるまでは無理が出来ない。


だからと言って切りかかってどうにかなるかと言えば、ちょっと怪しいものがある。

この女は魔術の魔力を吸った。なら技工剣の魔力も吸えておかしくない。

なのに吸ってこないって言う事は、この魔力量なら即座に対処できるって事だろう。


「余裕だな」

「余裕だからねぇ」


多分言葉通りどうとでもなると思ってるなこれは。

本当ならさっきの一撃で決めるつもりだったんだけどな。


斬り込んだ時俺は四重強化を使っていたし、それで押し込むつもりだった。

けど実際は受け止められた上に、抑えきれずに逃げられてしまった。

本当なら無理やり抑えたままの技工剣の開放で終わらせるつもりだったのに。


身の保身を考えて強化を抑えた結果、一撃で決める事が出来なかった訳だ。

だからこそこいつは隙は無くとも余裕の態度で、俺の事を脅威と見ていない。

多分俺がこの剣で攻撃した瞬間、剣の魔力を吸い取るつもりだろうな。


「じゃあお前がどこまで行けるのか見せてくれよ」

「は?」


精霊石を追加して魔力を補充し、技工剣に魔力を更に注ぎ込む。

ただでさえ膨大な魔力が圧縮され、更なる威圧感を敵に与える。

むしろ持ってる俺が怖くなる程の威圧感だ。


「っ!」


女はそれを脅威と感じ取ったのか、不意打ちをした時以上に表情が崩れた。

どうやらこの威力は不味いらしい。それは良い事が解った。

ただ女は手を伸ばすと魔力を吸い取り始めたのか、剣から魔力が抜け出ていく。


「ははっ、少しは驚いたけど、魔力さえ奪えば―――――」

「じゃあ追加だ」


精霊石をまた追加して魔力に変換し、技工剣へと全てを注ぐ。

吸われた分を補充する様に、女が脅威を感じた所まで戻す様に。

全身が軋んでいる気がするけど、今の所痛いだけだから問題ない。


「ざけんなっ!」


女は激高したように叫ぶと、両手をかざして魔力を吸い取り始めた。

俺じゃどう足掻いても許容できない魔力だって言うのに、当然の様に吸いつくそうとする。

本当に化け物だな。ああ、本当に化け物だ。魔力を吸う度に強くなっているのを感じる。


「中々面白い事をしてくれたけど、その魔力が自分に向くとは思わなかったのかい!」


途中で魔力を吸い上げながら、女の腕が少しずつ光り始めた。

まるで技工剣の光の様に。ステル・ベドルゥクの刃の様に。

予想していなかったと言えばウソになる。けど予想通りにならなくて良いのに。


「私を焦らせるなんて、簡単には殺さないよ小僧!!」


女は俺に焦らされた事で激高し、その剣を俺に向ける為に更に強化していく。

ただ俺を殺す事に意識を向けすぎで―――――――隙だらけだ。


「っ、げふっ・・・は、え、なにごれ・・・げぼっ・・・」


俺が左拳を突き出すとほぼ同時に、女は血を吐いて倒れた。

更に吐血は収まらず、内臓がやられ続けているのか咳が止まらない。

それどころか体の全てが言う事を聞かず、手をついて体を起こす事すら叶わない。


「お前らは人間を舐め過ぎだ」


魔力を吸い上げるたびに強くなっているのは解った。生命力が強くなっていくのが。

おそらく貯めた魔力をそのまま体の強化に回す事が出来たんだろう。

ただ高い生命力があるという事は、それだけ暴走した時の反動は大きい。


だから仙術をぶち込んでやった。剣しか警戒してなかったから簡単に当てられた。

魔術とは違うのかもしれないが、あの光を使おうとしてたから余計に損傷は大きい。

仙術ダメージのある時の魔術使用は、たとえ制御が完璧でも負担がかかるからな。


なら確実に当てさえすればいいと、威力は度外視して確実に当てに行った。

そして予想通り女は暴走する力を抑えられず、殆ど自滅に近い形で倒れた訳だ。


「ゲホッゲホッ・・・な、なんだ、これ・・・いぐっ・・・貴様、何をやったぁ!!」

「誰が種明かしなんかするかよ」


叫ぶ女の相手など一切せずに、普段の剣で首を落とす。

落ちた首の目が俺を睨んでいたけど、すぐにその目から光が消えた。

仙術でしっかりと死亡を確認してから、何時も通り魔人を封印して腕輪に収める。


「ふぅ・・・あー、何とかなって良かった・・・あ」


ねえ、なんか俺の右腕浅黒いんですけど。大丈夫かな、これ大丈夫かな!?

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