第788話、とうとう出番が来てしまいます!

ハクが連絡に来てから数日、あれからこっちに変化はない。

とはいえ何時事態が動くのかと思っていたころに比べれば気楽だ。

既に事態は動き出し、既に日が立っている以上待てば方が付く。


「そう思えばの何事も無い時間は平和で良いよな」


何せこちらで何か動きが有るという事は、あの遺跡の魔人と相対するという事だ。

折角ハクが居るって言うのに、単独で戦うなんて危険を冒したくない。

アイツとクロトと俺だけは特に問題無い訳だし。


「・・・いや、待てよ。良く考えたら問題ねー奴がもう一人居るじゃん。いや、浸透仙術覚えさせないとちょっと危ないか?」


ガラバウだ。あいつなら遺跡の破壊出来るんじゃねーかな。

そういえばアイツの仙術って今はどうなってんだろ。

機会があれば会いに行ってみようかな。つーかまだ護衛してんのかな?


・・・クエルは元気かな。最後に会ったのは結婚式だったはずだ。


会いに行って良いものだろうか。友人として会いに行っても。

向こうから会いに来るのは構わないと思う。それはきっと問題ない。

けれど俺から会いに行くって言うのは・・・いや、避けるのもそれはそれでおかしいか。


「俺はちゃんと彼女を振って、彼女もそれを納得して・・・けど、俺の事好きなんだよな」


最後に会った時も彼女の目は俺への好意を宿していた、と思う。

俺のどこにそこまで惚れる要素があるのかと、正直な所そう思う事も少なくない。

彼女からしたら確かに英雄かもしれないが、俺の心根はヘタレの大馬鹿のままだ。


「待て待て、考えがそれてる。先ずはガラバウだ。ダンさんの宿に行けば会えっかな」


上手くアイツが浸透仙術を覚えれば、遺跡破壊チームに組み込めるのでは。

でもアイツが俺の言う事を素直に聞くとは思えない。どうしてやろうか。


「今のミルカさんに頼むのは絶対無理だしなぁ・・・うーん・・・ん?」


腕を組んで悩んでいると、ポケットの中がもぞもぞと動き出した。

多分ハクが動き出したんだろうと、特に気にせずポケットを見下ろす。


「キュルン!? キュルー!!」

「あ、悪い、出て来れないのか。これでどうだ」


どうやら暗くて出口が解らなかったっポイ。下に向かって進もうとしていた。


『びっくりしたー。この体だと力が無いから破れないんだよなー』

「・・・力が無くて良かったよ」


穴あきズボンは止めて頂きたい。いやまあ、一応腕輪にソーイングセットあるけど。


「こっちに来たって事は、終わったのか?」

『ううん、違う』

「そっか・・・」


期待を込めて聞いたのだが否定されてしまった。まだこのままかー。

いやでも連絡が来たって事は、何か進展があったって事だよな。


「んじゃ何の連絡?」

『えっと・・・城から合図みたいなのがあって、その合図が複数個所で続いてたから、もしかしたらここにも影響あるかもしれないって。だからリィスに頼まれて連絡した』

「ああ、例の嫌がらせ決行って事か」


勘弁してくれ。このまま手出しせずに終わって欲しかった。

あー、予想はしてたよ。嫌がらせは絶対するんだろうなぁって。

だって城の爆破したのアロネスさんだもん。あの人が嫌がる事は絶対するよな。


実際は俺が一番嫌がる事で、あの人にはノーダメージなのが腹立つな!!


「ぜってぇあの人ここまで予想してるんだよなぁ・・・やっぱ俺も殴ろう」


お疲れ! という満面の笑みのアロネスさんを想像してイラっとした。


「とりあえず了解。こっちで動きが有ったら対処するよ」

『あ、でもすぐに手を出しちゃダメだって、注意しといてくれって言われたぞ』

「・・・誰に?」

『リィスに』

「・・・だろうな」


あの人は俺の事を良く解っている。俺がすぐに手を出しかねないという事を。

けど今回は友好国を救うために来た訳じゃない。損傷は出来る限り与えた方が良い。

もし王女がこちらを裏切った時にも備えて、兵力は少しでも削っておくに限る。


遺跡を守る程度にしては厳重でも、兵力として数はそこまででもない。

それでもその数が減るだけで、どこかへ割く為の兵力が足りなくなるんだから。


「・・・解ってるよ。魔人が出てきて動くまでは、何もしない」

『ふーん。まあタロウがそれで良いなら良いけど』

「気楽に言うなぁ・・・お前は自由に生きてるもんな」

『当たり前じゃないか。シガルの為に私はここに居るんだ。だからシガルの為になる事なら我慢するし、そうじゃないなら我慢する気は無い。タロウは違うのか?』

「・・・言われてみると、同じかもな」


ただ俺の場合は、そこに『イナイの為に』ってのも入っちゃうんだよ。

あとは親父さんや師匠達の邪魔にならないようにもかな。

なら我慢はして当然か。


「助言ありがとさん。出来る限り頑張ってみるよ」

『そっか。んじゃ私は戻るなー』


もう話す事は無いとばかりに動かなくなったハクを、またポケットに仕舞い込む。


「さて、何時動きが有るか・・・気持ちを切り替えとく方が良いな」


何時でも戦闘に臨める訓練は受けているけど、最初から心構えをしている方が楽だ。

先に技工剣を取り出しておいて、陣地全体が見渡せる位置でひそんでおく。


そうして暫くすると、遠くでキラっと光る物が見えた。

何度かキラキラとやりとりする様子が見え、突然陣地が騒がしくなる。


「まあ仕事の早い事で」


ハクの言った通り、というかリィスさんの言う通り、光による合図だったらしい。

もしかしたら違うと良いなーと思っていたけど、こういう願いは往々にして叶わない。


「さて・・・不意打ちで仕留められますように、っと」


先に精霊石を握り込んで置き、いつでも攻撃が出来る様に備えておく。

ただ今使うと魔人に見つかる可能性があるから、ぎりぎりまで使わない。

おそらく魔人は遺跡に入っていく兵士を殺し、そして出て来た後も殺す。


そこで隙を見て技工剣を開放し、一撃で吹き飛ばす。

今の位置なら絶対に外さない。面でぶち込んで吹き飛ばせる。

威力は分散するから倒しきれないかもしれないが、動きは確実に止められる。


「・・・多分、兵士達も犠牲になるだろうけど」


これが一番安全策だと解っているのに気分が重い。

兵士達の会話を盗み聞きしていた事も原因だろうか。

勿論気分の良くない話もあったが、結局彼らも普通の人だ。


それを俺の都合で犠牲にする。けどそれは魔人にやらせるが自分お手でやるかの違い。

綺麗事だ。こんな罪悪感はただのおためごかしだ。そんな事は解ってる。


「人を切るのはもう慣れた。けどこういうのは・・・何時までも慣れそうにないな」


殺すこと自体に剣が鈍らない事に、昔の自分は何と思うだろうか。

そんな事を考えていると、兵士達が数人遺跡に入っていった。

中に向かったのは例の気功が乱れた者達だ。


多分命令を忠実に、確実に執行する為に自分達で向かっただろう。


「・・・悲しいな、本当に」


それを自意識といって良いのだろうか。忠誠心といって良いんだろうか。

彼らはそんな自分の思考なのか解らない物の為に、死地に向かって突き進んでいる。

俺には正直何とも言えない。ただあるのは、気に食わないと言う感情だけだ。


「すぅー---はぁー----」


流石に本気で戦闘に頭を切り替える。あの連中相手に甘い思考はいけない。

幸いここに味方は居ないんだ。なら全力で、確実に、仕留め―――――。


「なっ!? 」


魔力が、遺跡の外まで魔力が吸われている。それは何時も通りだ。

アイツらは目を覚ます時膨大な魔力を引き寄せる。

けど、これは魔人の時よりも多い。クロトの時に似ている。


限りなく魔力を吸い込み、クロトが起きた時は魔力が周囲に無かった。

そもそも普通の魔人が起きた時は、ここまでの影響は外に無いはずだ。

これは、まさか。遺跡の中に生まれたのは、魔人じゃ、ない?


「嘘だろ、勘弁しろよ・・・!」


クロトレベルが来たら、俺一人じゃどうしようもないぞ!

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