第787話、動きが有ると教えられたのに辛いです!
おじい様お元気でしょうか。わたくしはとても暇で暇で仕方ありません。
敵陣からかっぱらって来た食事を口にしながら、今日も今日とて監視を続けている。
正直美味しくない。料理人が居るはずなのに微妙な味だ。イナイの料理が恋しい。
「いつまで続くのかなぁ、この状況・・・」
遺跡近くに潜む様になってから数日経ち、特に何かが起こる気配はない。
だからと言って訓練なんてしていれば、動きが有った時に気が付かないかもしれない。
潜み続ける為に魔術を使い続けているから、ある意味で訓練にはなってはいるけれど。
とはいえ結局潜んでいるだけなので、毎日やる事も無く敵陣を眺める事に。
アロネスさんの真似をして重要文書でも漁ろうかと思ったけど、そんな物は無かった。
考えれば当たり前だよ。こんな所に重要文書がある訳ないよ。アホかな俺。
「張り切って漁った自分が恥ずかしい・・・」
おかげで管理が笑えないぐらい杜撰だって事が再確認出来たんだけど。
それに関して誰も異を唱えないのかと思ったが、どうもわざとやっているらしい。
こんな訳の解らない仕事をさせられた上に、食料まで厳しく管理されちゃ敵わないと。
その結果絶対どこかにしわ寄せが行くと思うんだけど、本人達にはどうでも良い。
どうせ苦しむのは奴隷だ。何時も通り奴隷が働いて穴を埋める。その程度の認識だ。
「・・・まあ、そういう国だもんな」
この国に来て見て来た領地はたった二つ。その二つは完全に正反対な経営だった。
奴隷を道具としか見ていないどころか、使用人すら人間として見ているか怪しい領主。
使用人どころか奴隷達にも教育を施して、使い潰す真似はしない領主。
両極端な状況しか見れていないが、この国では前者が一般的なのだろう。
「ウムルが関わってポルブルさん達みたいな人が力を持っても・・・この手の人種の反発もありそうだよな。上層部が変わっただけじゃ意味が無さそう。商人も影響を受けるのは間違いないだろうし、奴隷商なんて直撃だろうしな。まあ同情なんてしないけど。もぐもぐ」
今回の件で国が変わったとして、ほぼ間違いなくポルブルさんの領地に変化はない。
むしろ国が落ち着いた後は、のびのびと暮らせる様になるだけの話だろう。
逆に損害を受ける領地や人間が居るとすれば、しっぺ返しを食らうだけの話だ。
それが正しい事、なんて言うつもりは無い。これはこれでエゴの押し付けだろうし。
何が正しいのかは俺には判断できない。正しさなんてのは時と場合で変わる。
だから俺は素直に我が儘に、どちらの方が好ましいかという判断をするだけだ。
イナイやシガルならどちらに手を貸すか、俺の判断はそれで良い。
少なくとも俺は、誰も彼もが当たり前に生活を出来る国を目指すウムルに愛着がある。
そのウムルに喧嘩を売って来たこの国に対し、良い感情なんてあるはずがない。
師匠達の国に唾を吐き、俺の大事な奥さんの生き方に唾を吐いたも同然だ。
その事に怒りを覚えていないかと言えば、技工剣持って暴れたい程度には腹立つ。
「・・・一人で暇だと無駄に考える時間が増えて、余計な事考えちゃうな。はぁ・・・」
だって何より腹が立つのは、親父さんに対しても唾を吐いたって事だ。
あ、ダメだ抑えろ、それ考えると本気で腹が立ってくる。
ひっひっふー。いや違う何を産むつもりだ俺は。
「・・・変に短気なの良くないよなぁ・・・普段は自他共に認める程ボケッとしてんのに」
それに俺が怒るのも正直どうかなー、って考えも有るからなぁ。
だってウムルに来て数年の若造だもん。十年以上頑張ってた人達とは違うもん。
あの人達が怒っていながらも冷静に動いているのに、俺が邪魔するのは馬鹿げてる。
きっとそれをやって良いのは師匠達や、長年国を支えてきた人達だけだ。
「・・・まあアロネスさんがやっちまった訳だけど・・・やっちまったんだから早く片付けてくれませんかねぇ。姫様の回復そんなに時間かかってんのかなぁ・・・かかってるかもな」
自分の周りにとんでもない女性が多いから忘れそうになるけど、相手は王女様だ。
普通なら「姫様」なんて呼ばれて可愛がられていてもおかしくない。
そんな女性が監禁されて日々を送っていたとなれば、衰弱してて不思議はないよな。
「・・・それを理由に保護した子供の治療優先しているに一票」
俺以外誰も居ないので決定されました。よし、むなしい。でもあり得そう。
「ん?」
食事を終えて片づけをしようと立ち上がった所で、探知の範囲内にハクの魔力を感じた。
ただその魔力がとても小さく、というか物理的に小さい物に感じる。
森の中をうろうろしている様子を見るに、ハクの方は俺を見つけられていないのか?
幾ら俺が隠匿をしていると言っても、今はハクなら見つけられる程度にのはずだ。
陣地から若干離れている以上、そこまで全力で魔術を使わなくて良い訳だし。
とりあえず近づいてみるか、と思って足を進めるとハクも俺に気が付いた。
いや、それはハクらしきもの、と言った方が正しいだろうか。
『あ、居たー。タロウー』
「・・・ハク、だよな?」
『そうだよ。私以外の何に見えるんだ?』
「何にって言うか・・・」
小さい。手のひらサイズだ。姿は竜だけどハムスターみたいになってる。
竜姿だと可愛いハクだが、小さくなると更に可愛く見えた。
人間姿が可愛くないとは言わないけど、客観的にしか可愛いとは言えない。
いや美人だとは思うんですけどね。でも竜姿の方がこっちとしては落ち着くんですよ。
「竜魔術で分体を作ったんだろうけど、この小ささで突然現れたら驚くって」
『そう? イナイも出来てたのに?』
「いや、あれも俺かなり驚いたから」
懐かしい話だ。小型の分体幾つも作って動かしてた。
あれマジでどうやってるのか解らない。俺は脳みそが弾ける。
「んで、何かあったのか?」
『んーん、まだ何も。けどそろそろ動くから、何かあった時に連絡役が欲しいって言われた』
「成程。本体はシガルの傍か・・・逆じゃだめなの?」
『分体を置いてタロウの所に行く案もあったけど、私が嫌だから断った』
「でしょうね」
どちらを選ぶかと言われたら、俺も本体をシガルの傍に置く可能性が高い。
あれ、こう考えると俺とハクって思考回路同じなのでは?
いやいや待て待て、流石にハク程能天気じゃない。そこまでじゃないと信じたい。
「動くって事は、アロネスさんから連絡が?」
『うん。行けそうって連絡が来たから、数日中に終わるだろうって』
「数日も?」
『?』
俺が首を傾げると、手のひらのハクもコテンと首を傾げる。可愛い。
いやそうじゃなくて。
「リンさん達が動いても数日かかりそうなのかと思って」
『んー、私には詳しくは解らないけど、領主達も一緒に動くし、主導は王女と領主達になるから、兵士を動かす時間が要るって言ってたぞ』
「ああ、なるほど・・・」
セルエスさんが居れば全員一気に転移させそうだな、とかちょっと思った。
いや、アロネスさんも多分出来るな。でもやらないって事はそういう事かな?
「リンさん達はどうするんだ?」
『基本的にはポルブルと一緒に動いて、戦闘になったら適度に暴れるって言ってた』
「雑だなぁ・・・」
それ良いのか。まあリィスさんが居るから多分大丈夫だろう。
『じゃあ伝えたから私は戻るなー』
「え?」
ハクの小型分体は突然くたっと倒れ、俺に手の上で動かなくなった。
「ちょ、ちょっとまて、連絡終わり!? つーかこれ大丈夫なのか!?」
思わずハクに向けて叫ぶと、もぞっとした動きを手に感じる。
少ししてハクの首がちょっと持ち上がり、俺の方へを顔を向けた。
『どしたの?』
「どしたのじゃなくて、いきなり倒れるからびっくりしたんだよ!」
『だって動かしながらだと面倒なんだもん。声かけてくれたら解るから大丈夫』
「あー・・・」
分体動かしながら本体動かすの大変だもんなぁ。解る解る。
『言っとくけど私はタロウ程酷くないぞ。出来るけどやらないだけだぞ』
「うぐぅ・・・!」
何て的確で突き刺さる言葉を吐くんだこの白竜は!
「・・・いや、えっと、連絡あれで終わりなのかってのも思ったし・・・俺からの報告とか」
『報告何かあるの?』
何かあるかと言われると・・・何かあったっけ? いや、無いな。動き無しだし。
「・・・特に、動きは、無いです・・・」
『じゃあ呼ぶ必要ないじゃないか。私もう戻るぞ!』
「・・・はい、すみません」
そしてまた小型ハクがくてっと倒れたので、優しくポケットに仕舞い込んでおく。
「・・・くすん」
良いもん、皆が忙しい中で俺だけのんびり過ごすもん・・・。
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