第785話、対処の為に先行します!
「うおお、風が、風がきつい・・・!」
『あははは! タロウ変な顔になってるぞ!』
おじいさまお元気ですか。私は今空を飛んでいます。つーか風圧がきっつい!
人型のハクに後ろから抱えられて空を飛び、けど今日は何時もの保護をされていない。
風をもろに顔に受けて風圧で顔が変形している。喋るのもきつい。
『まだまだ早く飛べるぞー!』
「落として! 速度落として!」
『えー』
「えーじゃなくて! これじゃ呼吸すら辛いって! ただでさえ高いのに!」
仙術や魔術を使えば耐えられるけど、移動の為だけに消耗したくない。
『タロウは我が儘だなぁ』
「・・・すみませんね」
むーっと唇を突き出しながら速度を落としたハクに、機嫌を損ねないように謝っておく。
実際早めに到着したい、みたいな事を出発前に言った覚えが有るので。
とはいえあの速度でずっと飛ばれたら、到着時に疲労困憊になりそうだ。
俺達がなぜこんな事をしているかと言えば、遺跡の対処に俺が先行する為だ。
ただ地上を向かうと俺が到着する前にやらかす可能性がある。
見つからないように進む自信はあるけど、何事も絶対とは言い難い。
なのでハクに遥か上空を飛んでもらい、空からの移動で一気に目的地に向かう事にした。
これなら見つかる事は無いし、移動はあっという間だし、何よりも迷子にならない。
最後が一番大事。地図を頭に叩き込んでても偶に迷子になるから俺。
それは叩き込んでるとは言わない、って突っ込みを入れられそうだけど。
でも仕方ないじゃん! 何故か偶に迷うんだよ! 自分でも不思議だよ!
後は空を行く事で、邪魔をされないというのも大きな理由だろうか。
目的地に一直線に陸路を進むと、こちらに付かない可能性のある貴族の領地がある。
というよりも、ポルブルさん曰く『居ても邪魔になる』貴族だそうだけど。
こそっと通るのもアリではあるし、ウムル王妃の威光があれば通れなくはない。
けど後々面倒な事に絶対ならないかと言えば、無いとは言い切れないのが世の中だ。
なので建前上は『許可を得た道を通った』という事で、一直線に飛んでいる。
はい、陸路なら遠回りの道です。そこを通った事にするっていう話です。
空高く飛べば誰も解らないからね! 卑怯かもしれないけど知ったこっちゃないです!
そもそも先に面倒な事して来たのはこの国だし・・・って言うのも余り良くはないか。
向こうが破ったのだからこっちも破る、ってやってたらチンピラの喧嘩と一緒だし。
あくまでルールは守りながら、その上で反撃をするのが本来は正しい行動だ。
その為にリンさんだって頑張ってたんだし。無駄にされてしまったけど。
でも遺跡の事を考えるなら、やっぱり移動は早い方が良い。
おためごかしに聞こえるかもしれないけど、俺が早く着く事で対処が容易になるんだから。
魔人の事もそうだけど、ついでに遺跡の破壊も出来る。この規則やぶりは仕方ないと思いたい。
アロネスさん辺りは「え、バレなきゃ良いじゃん別に」とか言いそう。
ていうかあの人なら絶対言う。間違いなく言う。
『それで、こっちであってるのか?』
「あー・・・えっと・・・合ってる合ってる」
『そうか。じゃあ暫くまっすぐ飛ぶなー』
「頼んだ」
ハクに問われて周囲を見回し、預かった地図を見ながら確認を取る。
一応頭に叩き込んだけど、念の為と少し古い写しを手渡された。
古いからちょっと違うけど、目印になる場所は変わってないから問題無いだろう。
稀に迷子になる俺でも、流石に上空から確認できるなら迷う事は無い。
まあ目印が解り易いってのも理由だけど。本当だよ。本当に迷わないよ。
「しっかし・・・怖いなこの移動方法」
『何でだ? 何時もだってこれぐらいの高さを飛んでるだろう』
「いや高さはそうだけど、いつもはほら、お前の手の中に居るし。風をもろに受けるから早さも感じるしで、結構怖いんだよ」
『そんなものか?』
そんなものです。忘れられてそうだけど、俺この高さから普通に落ちたら死ぬからな。
魔術仙術技術全て使わないと死ぬ。いやまあ、落ちる前に転移するのも手だけども。
意識が有れば死なない自信はあるけど、それでもこの下半身宙ぶらりは怖い。
自分を固定する物が胸に回ってるハクの腕だけだもん。
『ならやっぱり竜の姿で飛べばよかったのに』
「成竜の姿は目立つからナシ、って事になったろ」
『むー。もっともっと高く飛べば見つからないじゃないかー』
「それはそうかもだけど、念の為って話だろ」
実際成竜の姿でも、空高く雲の上まで飛んでしまえば目立たない。
ただハクが竜のまま着地、なんて事をしでかしたら凄く目立つ。
何より飛ぶときに成竜の姿になる訳で、その時点でかなり目立つだろう。
ポルブルさんも「領地内に諜報員が絶対居ないとは言い切れない」と言っていた。
ならなおの事目立たないように、こっそりと飛び立つ方が良い。
この世界、何だかんだ連絡手段はある。到着前に邪魔されると面倒だ。
転移魔術で飛べれば良いんだけど、いった事ないから飛べないんだよなぁ。
強く目印になる魔力でもあれば別だけど、そういう物も特にないし。
結局の所人型のハクに抱えて飛んでもらうのがド安定という事になる。
『私は早く帰ってシガルの傍に居たいのに』
「俺だってそうなんですけどね」
むーっと頬を膨らませるハクだけど、どちらかというとハクの方が一緒に居る割合は高い。
この旅では名目上王妃殿下の護衛だから、男の俺は別な事が多いし。
リンさんが本性を見せた事で、ここ数日はシガルの傍に居られたけど。
「お、街が見えた・・・ええと、アレがここだから・・・ハク、ちょっと右に修正」
『あいよー』
とはいえお互い文句を言っても仕方ないと解っているので、そこまでごねちゃいない。
いやまあ、ハクは出発前にすげえ嫌そうにしてて、シガルに説得されて渋々の了承だけど。
ともあれ地図を参照にしながら、ハクに軌道修正を頼みつつ順調に進む。
「これならこの速度でも明るい内に着くな」
『全力で良いならもっと早いぞ!』
「すみません、勘弁して下さい」
『ぶー』
どうにも全力で飛びたがるハクをなだめるのが一番大変だったかもしれない。
多分早くシガルの所に戻りたいのと、速く飛びたい欲求の両方だろう。
でもあんまり早く飛ばれると地図が破れるし、俺も周囲を確認する余裕がない。
このままの速度でお願いします。後絶対に落とさないで下さいね。
『もぐもぐ・・・たろう、次ー』
「はいはいどうぞ」
移動中に食事を済ませる為に、簡易なサンドイッチなんかも用意しておいた。
そして俺が食べていると勿論背後の食いしん坊も食べたがる。
むしろ食べさせないと怒りそうなので、食べながら食べさせている。
そうして飛ぶこと暫く、目的の遺跡が見える所まで辿り着いた。
『アレだな』
「ああ」
人が蟻より小さく見える上空から、目を強化して観察する。
結構な数の兵士が遺跡の周囲を囲んでおり、けれどただ見張っている様に見る。
少なくとも腹いせに壊してやれ、みたいな動きをしている様子はない。
「まだ動きはない、って所かな」
『やる気なさそうな奴もいるし、そうじゃないか?』
ハクの言う通り、あくびをして気が抜けている。それもそうかとは思うけど。
この遺跡を兵士が囲んでいるのは、あくまでウムルへの交換条件の為だったはずだ。
ならそこまで真剣に守る物ではないだろうし、これが普通の反応だろう。
「んー・・・あの辺りが良いかな。ハク、頼んだ」
『はーい』
「っ・・・!」
ハクさん、指定の位置に降りてくれるのは良いけど、急降下は怖いです。
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