第784話、完全に忘れてました!

「ならば我々は王女殿下の回復と合わせて蜂起、という事で宜しいか」


王女様の状況を聞かされたポルブルさんは、鋭い目でリィスさんに問う。

視線がリンさんに向けてじゃ無い辺り、段々この人も解って来ている気がした。

とはいえそれを口に出すと怒られそうなので、リンさんから視線を逸らして黙っておく。


「それが一番望ましいとは思われます。王女殿下という神輿を掲げ、正義は我らに在りと城の制圧を図り、王女殿下に玉座についてもらう・・・とはいえ、それでも問題はありますが」

「ああ、それは勿論承知している」


・・・どうしよう、なんか皆納得したように頷いてるけど、俺にはさっぱり解らん。

ただリンさんが頷いてないのは当然なので皆に含んでないです。

王妃様モードじゃないせいか、何でって顔を隠しもしてない。


「解っていないお方が居られる様なので、少々詳しくご説明しましょうか」

「あ、はい、すみません」


リィスさんが視線をチラッと俺に向けて言い、思わず謝ってしまった。

因みにリンさんは視線を逸らして関係ないふりをしている。

いいけどさ。別に良いけどさ。それ結局ばれてますからね。


「王女殿下がウムルの協力を得て国を取り戻す。そこまでは殿下も了承して下さる事でしょう。ただしその後が問題です。王女殿下がその後もウムルの補助、もしくはポルブル様と同調する派閥を認めて下さらなければ・・・結局は内乱の続きになるだけでしょう」

「認めてくれなさそうなんですか?」

「今は解らない、としか言い様がありませんね。人間の心の底までは見抜けませんから」


ええと、つまり、今は協力してくれそうだけど、ひと段落したらそうはいかないって事か。

確かにこの国の常識で育った王女と考えると、あんまり気楽には構えられないか。

あれ、でもそれは結局ウムルが口を出す今の状況と余り変わらない様な?


「特に王女殿下を救い国を取り戻すという形をとってしまうと、ウムルはこの国に対して咎める事が出来なくなりますから、余計にその後の王女殿下の判断が重要になります」

「え、何で咎められないんですか?」

「咎めるべき相手が消えるからですよ」

「・・・あっ、そうか」


国王は既に死んでいて、城に居る貴族達を責めるにしても、城を取り戻した時点で罪人だろう。

となれば罪人が裁かれてしまった以上、この国に対し何をする事も出来なくなるのか。


「王女殿下に力添えをしないのであれば話は別ですが・・・そうもいかないでしょうしね」

「・・・王女様を助けちゃったから、ですか?」

「そうなりますね。ここで半端な事をしてしまえば国王殺しを擦り付けられかねませんし、王女殿下に協力しないという選択肢は存在しないでしょう」


王女を助けてしまった以上、行動を起こしたのは王女と組んでいたからとするしかない。

しかもその助け方が思いっきり目立ってるから、今更知らないふりも出来ない。

あれ、そう考えるともしかして、アロネスさん・・・。


「気が付きましたか。アロネス様は奴らを確実に叩き潰す為に、ウムルが動かなければいけない状況を作り出す為に、城の爆破と目立つ救出劇をしたのです。わざわざ人の目に、ご自身の戦力である人形も使って衆目に晒されながら暴れたのはその為です」


あ、はい、成程。完全にブチ切れてますねあの人。んでリンさんが怒った理由も解るね。

もうこれ正面から叩き潰す以外の選択肢無いじゃん。裏から手を回す余地が無さ過ぎる。

回りくどく首を締めに来てたはずなのに、ぶん殴るしか手段がなくなってんじゃん。


「勿論こちらの事情はあちらも知る事でしょうし、何かしらの対策を始めてはいるでしょうが」


そりゃそうか。俺は説明されて初めて理解したけど、頭の良い人ならすぐ解るはずだ。

状況的にウムルはもう王女に手を貸して城を攻める選択肢しかない。

となれば相手のとる手段は、戦う準備か逃げる準備かのどちらかだろう。


「・・・王女様の回復待ってる間に逃げそうですね」

「逃げ出せるならそうでしょうね。ただ主君殺しをする様な連中が、お互いを信用している訳がありません。相互監視の中で簡単に逃げ出せるとは到底思えませんし、逃げ出す為に一致団結するとも思えません。勿論腹の底では逃げ出したがっている人間が大半でしょうけど」


成程、向こうも向こうで制限があるのか。アロネスさんはそれも込みで考えてたのかな。


「まあ逃げ出せた所で、国外に出た時点で確保される事でしょう。それが解っていない者達は逃げ出す事を頭の片隅に置いたまま、理解している者は逃げ出す事が出来ないと死に物狂いで抗う準備を進めている、という所でしょう。彼らは少々、敵を作り過ぎましたからね」

「敵、か・・・そうですね」


国王殺しがばれた時点で、それに関与していない貴族は王女につく。

となれば国内に逃げ場は無いし、残る逃亡先は国外しかないだろう。

けど逃げる先であるはずの国外は彼らの国の法が届かない世界だ。


彼らにも協力者はいるだろう。でなければ今までこの国が生き残っている訳が無い。

違法な奴隷を望む他国の貴族の手助けで、どこかに逃げ出す事は不可能じゃない。

ただし、それをウムルの兵が見逃せば、という点で限りなく不可能に近いんだよな。


国外に出た事を確認した時点で、おそらく待ち構えているウムルの兵士が捕えにかかる。

ウムルが他国でそんな勝手をして良いのかと言えば、今回に限っては特に問題無いだろう。

元々周辺国に協力を得ながら行動している訳で、元凶を捕らえる為なら許されるはずだ。


「すでに主要人物の容姿はアロネス様によって、諜報員達に情報共有されております。一人残らず監視が付いており、国外に逃げ出してくれた方がむしろ他のゴミも纏めて片づけられて有難いまでありますね。頑張って逃げて欲しいものです」


リィスさんすげー怖い笑顔してる。口しか笑ってねえ。

逃げ出した先の取引先もついでに潰せる、って事かな。

まあ違法奴隷の売買先だもんね。そりゃそんな顔にもなるか。


「また少々話がそれてしまいましたね・・・まあそんな訳で、王女殿下に手を貸すのは確定事項であり、手を貸す以上は彼女が即位後の方針への口出しは出来ない。協力したはずの王女殿下を咎めるとなれば、それこそ支配の為にウムルが乗り出したという話になりかねませんから」


面倒くさい話だ。その見方は解らなくはないけど、ウムルがそんな事するはずないのに。

っていうのは、俺がウムルに関わっているからでしかないんだろうな。

普通に考えれば国力持ってる国の、裏工作の成果だと思われてもおかしくは無いか。


「勿論そうなったとして、ポルブル様とは仲の良い取引先である事に変わりはありませんが」


うーん黒い。国の方針に口は出さないけど、商売の話をここでするのは良いよねってか。

国王と同じ判断をする王女なら、立ち行かなくなる様に手を回すと。

ただまあ、そうなると・・・また暫くは関係のない人たちが苦しみそうだけどな。


「という訳でまずは一番身近な問題解決の為に、タロウ様に頑張って頂く必要がございます」

「へ、俺?」


なんで俺? どう考えても、今の流れから俺に出来る事なんて何も無さそうだけど。

あ、アロネスさんの手伝いに向かえって事かな。子供達助けたなら手が要るだろうし。


「アロネス様が遺跡の捜索をしている事は知られている訳ですし、腹いせに遺跡の破壊を試みる可能性があります。その危険性も理解せずに。なのでこうなってしまった以上、タロウ様には先行して遺跡に向かって頂きたいんです。最悪自己判断で動いて頂いて構いません」


・・・遺跡。情報が色々多すぎて頭からすっぽ抜けてた。そうだよ、それが一番危ないよ。

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