第779話、ワグナさんの現状確認です!

「ワグナさん、お久しぶりです」

「ああ、タロウ君、久しぶり。元気・・・じゃなさそうだね。何だか疲れてないかい?」

「あはは・・・ここ数日ずっと訓練続きだったので」


皆でのんびり屋敷に戻ると、感知の通りワグナさんが到着していた。

勿論彼だけではなく、数人の部下も共にやってきている。

何人かは見覚えがある気もするけど・・・申し訳ないけどあんまり記憶にない。


「や、シガルちゃん、久しぶりー」

「王妃様の護衛お疲れ様です、シガル隊長殿」

「ハクちゃんもおひさー」

「はい、お久しぶりです皆さん」

『おひさー』


ただ隊員とシガルは完全に顔見知りっぽい。ハクも慣れた様子だ。

多分俺が帝国に行ってる間に築かれた友好関係なんだと思う。

忘れがちだけど、うちの奥さん魔術師隊の部隊長ですから。


ウムルは部隊が違っても合同訓練とかやるから、割と顔見知りな事が多いみたい。

どの部隊長さんだったか、他部隊の人間の顔も覚えなきゃいけないのが辛いって言ってた。

そう考えると俺にはウムルの兵隊とかほぼほぼ不可能だな。覚えてられないもん。


「・・・本当に緩いなぁ、この人達は」


ただそんな部下達の様子に、ワグナさんはちょっと頭を抱えている。

前に再会した時もこんな感じでしたね。ホント苦労人ですね貴方。

でもこの人たち実働の時は人が変わるから問題ないと思いますよ。


実際ワグナさん達に囲まれた時は、皆かなり良い動きしていたし。


「リンさんにはもう挨拶は済ませてるんですか?」

「勿論。先ずは領主殿に挨拶をしてから、王妃殿下には到着のご報告をしたよ」


そりゃそうか。俺が会える状態なんだから、この人が挨拶済ませてない訳ないよな。

因みにわたくしはまだ帰還の報告を王妃殿下に入れておりません。

だってここ最近ずっとこの調子だし、リンさんもいちいち要らないって言うんだもん。


「多少予想はしていたけど、実際に出動命令が下った時は少し驚いたよ。こんな形で他国に明確な戦力を送るのは戦後初めてだからね。陛下は本気でこの国を潰すおつもりの様だ」

「・・・みたいですね」


あの優しい人が本気で怒っているというのが良く解る。

そこまで深いかかわりはないけど、あの人はとてもいい人だ。

だからこそ潰す国の一般人を少しでも守る為に動いているんだと思う。


勿論そこには、ウムルのやり方に従うのであれば、という前提が存在しているけど。

ポルブルさんはそれに恭順の意を示し、だからこそワグナさんが送られてきたのだろう。

拳闘士隊総隊長、 ワグナ・ドグ・ヘッグニスが。ウムルでも有数の実力者が。


これは無茶を通すことに同意してくれた相手への、最大限の礼と配慮なんじゃないかな。


「ワグナさんが来てくれたなら安心ですね」

「おや、随分自分の事を買ってくれてるんだね」

「そりゃそうでしょう。拳闘士隊の総隊長様ですし。頼りにしてます」

「・・・君までそんな風に呼ぶのか」


あ、まだ納得してないんだこの人。まあ前任がミルカさんだしなぁ。

頑なに代理である事を主張する気持ちも仕方ない気はする。

でもあの人多分数年は戻ってこれないし、胸張っていいと思うんだけどな。


ただそれでも、以前会った時より少し硬い様子が消えている気がした。

何か心境の変化でもあったんだろうか。もしそうならいい変化だと思う。

前回会った時はちょっと固すぎて心配になったもん。


「ワグナさんの今後の予定とかは、もう決まってるんですか?」

「明日はこちらの兵士方と顔合わせをして、お互いの配置の相談をしようとは思っている。とはいえこちらはほぼ潜入任務の様な物だから、数の少なさもあって出来る事は限られているけど。後はお互いの実力の確認もしないとかな」


確かにやってきた人数は、目立たない為という理由もあってあまり多くは無いみたいだ。

ワグナさんを含めて十数人。この人数で領地内を守り切るのは厳しいかもしれない。

とはいえまた後から続々と人が来るらしいし、それまでの辛抱ってところだろうか。


「ここの兵士さん達、結構強いですよ。かなり士気も高いです。それに強い相手の事を素直に認める度量も持ち合わせているので、ワグナさんはすぐ受け入れられると思いますよ」

「それは有難いな。やり易そうだ」


実際とてもやり易かった。むしろやり易すぎて逆に毎日疲れております。

あの人達鍛錬に貪欲が過ぎるよ。こっちの体がもたないよ。

なんて口に出すとまた奥さんがジト目で見て来るので心の中だけで済ます。


何で口に出してないのにこっち見てるんですか。心を読まないでくださいシガルさん。


「ところでタロウ君、少し時間を貰えるかな」

「え、あ、はい、構いませんけど」

「ありがとう、では少し庭に出ようか」

「はぁ・・・」


一体何だろうかと思いながら、庭へと向かう彼の後ろをついて歩く。

彼の部下たちはそのまま部屋に残ったけど、シガルとハクも一緒に来るらしい。

後一応使用人の人も近くに控えているっぽいけど、人目の在る所で大丈夫な事なのかな。


「ここで良いかな。うん」


ただ彼は言った通り庭に出ると、周りに物がない所で立ち止まった。


「えっと、ワグナさん、ここで何を・・・」

「ああすまない、気がはやり過ぎていた。一手お手合わせをお願いしたくてね」

「手合わせですか? それなら鍛錬場の方が良いと思いますけど」


大人数で訓練するためには離れないといけないけど、一対一の手合わせなら近場で良いだろう。

そう思い提案したのだけど、彼はフルフルと首を横に振った。


「ここで構わない。手合わせと言ったけど、正確には一撃だけ付き合って欲しいんだ」

「一撃だけですか?」

「ああ。図々しいお願いだとは解っているけど、一撃受けて欲しい」

「・・・わかりました」


何だか良く解らないけど、受けて欲しいというなら受けてみよう。

彼から少し離れて構えをとると、彼も同じように構えを取った。


「あ、勿論躱してくれていいからね」


そうなのか。てっきり受け止めて欲しいというお願いかと思っていた。

なら躱す前提で構えていよう。って言うかそうじゃないと怖いとは思っていた。

だって彼の攻撃には、未だに良く解っていない一撃がある。


受け止めようとして、不味いと思って逃げた一撃。

ミルカさんは浸透仙術で同じような事をして来た。

けど彼は仙術を使えないはずだ。だから全くからくりが解らない。


「では、いくよ」


彼はその宣言の後、相変わらず空間が飛んだような踏み込みで近づいて来る。

予備動作がほぼほぼ無いせいで打ち込むタイミングが全く分からない。

それに彼は何というか、リンさんの踏み込みに少し似ている気がする。


意識の外というか、認識の外を絶妙についてくる感じだ。

当然そうなる予想はしていたので、4重強化で既に構えている。

見てから躱す。そのつもりだったけれど、彼は打撃を打ち込んでは来なかった。


ゆるりとした動きで手を突き出し、躱そうとする俺に追従するように手を伸ばす。

そして俺の胸に少し触れた瞬間、寸勁の様に掌打を打ち込んできた。


「っ!」


それを間一髪で躱して飛びのき――――――着地でカクンと膝が崩れかけた。

何故か脳にダメージが行っている。そのせいで体が上手く動かせない。

仙術でそう即座に判断して、依然と同じように無理やり体の調子を戻す。


「ぎっ・・いっつう」


本来倒れておかしくないダメージだったせいか、頭がガンガンする。

けれど倒れずに彼に構えなおすと、彼はスッと構えを解いた。

本当に宣言通り一撃で終わりらしい。


「ありがとう。助かったよ。おかげでどの程度使えるか解った」

「どういたしまして・・・その技ってタネ教えて貰えます?」


前回受けた時結局聞いてないし、もしかしたら教えて貰えるかなと思って訊ねる。

すると彼は何でもない風に「振動を脳に伝えてるだけだよ」なんて言い出した。

振動を脳に? 胸から脳にどうやって? いや本当にどうやって?


「訳が解らないんですが・・・」

「周りの人達にもそう言われたよ。本当は仙術使えるんじゃないのかとも」

「でも使ってないですよね・・・」

「そうだね、使えないからね」


あははと笑うワグナさんだが、これ滅茶苦茶恐ろしい技では。

いやだって、前回もそうだけど、俺頭殴られてないんだよ。

なのに脳に衝撃が行ってて、仙術が無かったら絶対倒れている。


一番ダメージ行ったら不味い所にどこからでも直撃させられるって何それ怖い。


「・・・総隊長になるわけですよね」

「代理だから。代理」

「・・・頑固ですね」


絶対本気で実力認められてるからだと思いますよ。

つーか今回、良く考えたらワグナさん強化無しで4重強化について来たな。

何か前より余裕がある感じなのって、もしかして前より強くなったからですかね。


バルフさんといい、ワグナさんといい、本当に素の身体能力が高すぎる・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る