第778話、応援を待つ間の日々です!

先日の領主さんとの話し合いから数日、俺達は足止めを食らっていた。

と言うと悪い風な言い方になるな。のんびり休んでいるが正解かな?

ポルブルさんの領地にウムルの兵士がやってくるのを待っている訳だし。


あの話し合いが終わった後、リィスさんが諜報員の人と連絡を取ったらしい。

んでここまで来るようにという王妃様の命で、もうそろそろやって来るはずだ。

そもそも事前にこの国を囲む様に潜んでいるという話なので、用意周到にも程がある。


因みに最初にやって来るのは騎士じゃないと聞いた。

いきなり騎士を動かすと、準備が整う前に警戒されるかもしれないからと。

なのでまずは別種の兵士を送り出して、警戒態勢を整えてから騎士を動かすらしい。


でも兵士を動かしたら、その時点で警戒される気もするんだけどなぁ。

と最初は思ったのだけれど、詳しい話を聞いて今は納得している。

こういう時ウムルは強いなぁ・・・等と思う内容だったよ。


そんな訳で足を止めている間、俺ものんびりと休んで過ごす・・・事は出来ていない。


「タロウ殿、お願いします!」

「はい、宜しくお願いします」


この国の兵士達に鍛えて欲しいと願われ、教官の真似事みたいな事をやっている。

未熟者が本職に教えるなんて烏滸がましい気もするけど、それはそれという事で。

一応実力自体はこっちのが上なのだから、その辺りは考えない事にする。


今は希望者と一人ずつ手合わせをしている訳だけど・・・数が多い。

100人も200人も毎日やってんですけど。手合わせだけですげー時間経つんだよ。

しかも他の訓練もやってる訳で、訓練だけで一日がなくなっていく。


「よっと」

「ぐっ・・・! あ、ありがとうございました!」

「はい、ありがとうございました」


そして段々と淡々と作業の様に兵士を下してく内に、俺も俺で訓練になっていた。

イヤホント良い訓練になってるわ。無駄を出来るだけなくさないと体がもたないっす。

こちとら基本的に普通の人間なんすよ。んでここの兵士達結構強いんすよ。


「お願いします!」

「はい、宜しくお願いします」


真面目な話、そんな連戦何度もしてたら潰れるから。体力もたないから。

という訳で俺は極力動かずに後の先をとる事に専念しております。

ただしそれを警戒して打ってこない場合は速攻をかけます。


「がっ!? あ、ありがとうございました・・・!」

「はい、ありがとうございました」


こんな風に。因みにどちらかと言うとこちらから仕掛ける方が楽ではある。

ただ一撃で終わらせられる前提なので、無理な場合は結局待つけど。

いやもうほんとこの数日で、体力を無駄に使わない術が上手くなった気がするよ・・・。


無駄なく体を動かす=体力を温存して戦う、には中々ならないんだよなぁ。

いやまあ、ミルカさんクラスで無駄なく動ければ、それがイコールになるんだけども。

勿論無駄が無ければ体力を無駄に消費はしないけど、無駄なく動かすのも中々疲れる。


むしろ力を抜いて偶に無駄な動きをするぐらいの方が、意外と疲れなかったりするんだよな。


剣も何時もの様に青眼の構えではなく、下段で構えてぶら下げている。

魔術と仙術の強化も極力抑え、動く瞬間のみ使うようにしたり。

失礼な話をすると、まだ格下相手にしか通用しない精度なんすけどね。


これを同等の相手、もしくは格上でもできる様にしておきたいな。

そう考えるとこの手合わせは、俺にとっても良い訓練な気がする。


「お願いします!」

「はい、宜しくお願いします」


受け答えが若干雑になってるのは許して。もう何百回もやってるから疲れるんすよ。

まあお隣で双剣を振るってる奥様と、拳で武器弾いてる子竜さんは楽しそうだけど。


「次ぃ!」

『物足りないぞ、複数人でかかってこい!』


あっち激しいなぁ。特にハクに挑んでる兵士は良い度胸してる。

ハクは一応手加減はしてるけど、たいてい鎧がへこむ威力で殴り飛ばされてるし。

ポンポン人が舞ってんだよなぁ。ウムルの鍛錬場でもあんな感じだったけど。


あっちは俺と違って、無限に体力が有るのではないかと言う勢いだ。

ハクは兎も角シガルさんは何であの動きで戦い続けられるんですかね。

滅茶苦茶動きが速いんですけど、何なんですかねあれ。


そんなこんなで今日も訓練に費やし、ここ数日くったくたになっている。

尚一番疲れるのは、兵士達の見本と言う名のシガル達との手合わせだ。死にそう。


「「「「「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」」」」」

「はい、おつかれさまでした・・・」

「お疲れさまでした!」

『お疲れ! また明日な!』


なのになんでその日の鍛錬が終わっても、俺以外はみんな元気そうなんですかね。

一番前に居るあなた、さっきハクに思いっきり殴り飛ばされてなかった?

何だか一人疎外感を感じながら、兵士達に見送られて屋敷へと向かう。


王妃様の護衛は良いのかって? 元々要らないし別に良いんじゃないですかね。

前の領地と違ってここの領主さんにはぶっちゃけちゃってるし。

一応この領地の兵士が護衛についているから、建前上は問題ないだろう。


まあその護衛達は、鍛錬に出れない事を悔しがってる訳ですが。


「ここの兵士達のやる気おかしくない・・・?」

「彼らもタロウさんにだけは言われたくないと思う」

「えぇ・・・俺はもう疲れたよ・・・流石に休みたいよ・・・」

「ふーん、ほーん、へー?」


何ですかシガルさん。その『何言ってんだコイツ』って目は。

本当ですよ。出来ればそろそろ休みたいですよ。嘘じゃないよ。


「最近夜中に技工剣で何かやってるのは誰だっけ?」

「・・・誰でしょうね?」

『タロウだぞ』


ハクさん、すっとぼけてるんですよ私。指摘しなくて良いんですよ。

いやほらさ、遺跡の破壊をしなきゃいけない訳で、その前の魔人戦の為にね。

チョーっと試しておきたいけど、まだしっかりためせてない事があったんですよ。


ちょうど自由時間も貰えたし、監視の類も無いし、タイミング良いなって、ね?


「・・・まーた危ない事してるでしょ」

「してないしてない」

「嘘つき。タロウさんが一人でこっそりやる訓練は、大体危ない訓練だもん」

「いやほんと、俺は危なくないから大丈夫。問題ないない」

「今の危ない訓練してる、って白状したようなものだけど?」


えぇ、そんな馬鹿な。本当に危なくないのに。

失敗して危ないのは俺の周りな訳で、だから一人でやってるだけだ。


「本当に問題ないよ。技工剣の使い方をちょっと模索してるだけだから。ただこの剣の威力で失敗したら、周りへの被害がとんでもない事になる。だから人気のない所でやってるだけだよ」

「ほんとかなぁ・・・」


本当ですよ? 何でそんなに頑なに信じてくれないんですかね。

俺そんなに信用無い・・・無いな。うん。考えるまでも無かったわ。

今までの事を思い返すと、何度ボロボロになって心配をかけたか。


「信用してもらえないのは解ってるけど、いい加減何度もボロボロになるのも辛いし、魔人相手は今後も何度もやる訳だし、もうちょっと負担の無い方法をとる訓練だから」

「・・・具体的には?」

「技工剣に流す魔力を思いっきり増やすっていう力技」


現状俺は技工剣の力を十全に使えているとは言い難い。

何せこの剣が使用できる魔力量は、明らかに俺のキャパを超えている。

それでも周囲の魔力を引き寄せて食いまくって、俺がそれを制御することで形になっている。


勿論それはそれで正しい使い方で、間違っている訳じゃないんだろう。

けどもし俺がこの剣に流し込める魔力量が増えればどうなるか。

単純に技工剣の持つ機能が更に強化される。問題はその魔力をどう補うか。


「今の俺なら、魔力に余裕が有るからね。精霊石で補充できるし」

「精霊石の魔力補充が危なくないって考えが先ず間違ってる、ってイナイお姉ちゃんなら言うと思うけどなぁー?」

「ダイジョウブダイジョウブ」


いや本当に大丈夫ですって。体調崩さない程度には気を付けてるから。

割と真面目に技工剣の強化の方が、二乗強化使うより体が楽なんだって。

だからそんなジトッとした目で見ないで下さい。思わず目を逸らしてしまいます。


そんなこんなで何とか納得してもらい、屋敷に戻ると覚えのある魔力を感知した。


「・・・成程、最初の応援はワグナさんか。彼なら頼りになる」


応援で最初に送られてきた兵士、それは拳闘士隊。

一見非武装で資材の持ち込みも無いから、ウムル特有の最新装備も無しと判断される。

だから他国の国境を越える際もそこまで問題なく、ただし実際はかなりの脅威なんだけど。


だってあの人達武器無し無手戦闘のプロだもん。こういう時の為の部隊なんだろうなぁ。

着々と詰んでるなこの国。ワグナさんに勝てる兵士なんてそう居ないと思うし。

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