第773話、久しぶりの愛剣の出番です!
「何故こんな事に・・・」
「だって、実際に実力見せた方が解り易いじゃん?」
項垂れる俺にリンさんが楽し気に正論の様な事を言うが、俺は絶対に騙されないぞ。
色々口で説明して説得納得させるのが面倒になっただけだ、って解ってるんだからな。
まあだからこそ『解り易い手段』として、俺を前に出させたんだろうけど。
そんな俺を心配したのか、領主が声をかけて来る。
「・・・タロウ殿、本当に宜しいのか?」
「え、あ、はい、大丈夫です。すみません」
「いや、謝る必要は無いが・・・」
チラッと心配そうな眼のままリンさんに目を向けるも、彼女は意見を曲げる気はない。
むしろ彼女どころか、シガルも胸を張って黙っている。やらせる気満々だ。
こういう所は小さい頃から変わらないなぁ。心無し何時もより幼く見える気がする。
ハクはシガルとの手合わせを約束してるおかげか、暴れる気は無い様だ。
リィスさんは、まあ、何時も通りだろう。静かにリンさんの背後に控えている。
そして俺達の前には、本来の鍛練場に戻って来た兵士達が揃っていた。
勿論領地の警備に出ている兵士や、街中の警邏をしている兵士もいる。
なのでこれで全員ではないけれど、集まれる兵士は全員集めたそうだ。
それこそ非番の者も全員と聞き、少し申し訳なく思ったけれど。
「ほら、タロウ、挨拶」
「うぐっ!?」
本人は軽く叩いたつもりなんだろうけど、結構な力で背中を叩かれた。
やべえ、息できねえ。つーかいってぇ! 骨は折れてないけど目茶苦茶痛い!
「あ、ごめん、加減間違えた」
「けほっ・・・いっつぅ・・・やる前に再起不能にする気ですか!?」
「あっはっは」
あははじゃないよ! リンさん偶にマジで加減間違えるから怖いんだよ!
今のまだ良かったけど、何度か骨折した身としては何にも笑えないんだって!
慌てて治癒魔術を使って体を癒し、痛みが引いたのを確認して溜息を吐く。
「ほ、本当に、大丈夫か、タロウ殿・・・」
「あ、す、すみません、心配をおかけして、大丈夫です」
「そ、そう、なのか? なら良いんだが・・・」
ほらぁ。領主さんが目茶苦茶心配してんじゃん。
思わずジト目を向けると、リンさんは口笛を吹いて目を逸らす。
王妃様モードを完全に止めてるから、何時も通り過ぎて力が抜ける。
まあリンさんだから仕方ないか、と思ってしまうのは良いのか悪いのか。
取り敢えず呼吸を整えて兵士達の前に向かい、彼等の顔を見渡す。
彼等には事前に何の用か伝えられている。確認は取っていないけど、表情からそれが解る。
何人かは表情を崩さずに見ているが、明らかに俺を見つめる目が怪訝な感じだ。
本当にこの少年とやるのか。戦って大丈夫なのか。そんな雰囲気を感じる。
「みなさん、宜しくお願いします!」
「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」
取り敢えず挨拶をと思い声を張って頭を下げると、むしろ彼らは跪いてしまった。
その規律正しい動きは確かな訓練を感じ取れて、気合の入った声は士気の高さを感じる。
圧倒されそうになるけれど、同時にとても心地いい感じもした。
「皆さん話は聞いていると思います。全力で来てくれて構いません。準備が良ければ。今からでも始めましょう」
そう告げて剣を抜くと、数人俺を見る目が少し変わり、それでも困惑は隠せない。
解ってはいたけれど、そうなるだろうとは思ってたけど、やっぱり弱そうに見えるんだなぁ。
バルフさんとか全然俺を侮らなかったから、中々気が付けなかったよこの反応の理由。
少し困っていると、おそらく兵士の中で指揮官と思われる人が立ち上がった。
「失礼ながら、質問をお許し頂きたく」
「どうぞ。答えられる事ならお答えしますよ」
「・・・本気で、我ら全員を相手にされるおつもりですか?」
「王妃様の命令ですから・・・って言うと、誤解を受けそうですね。これはまあ、一応納得済みでやる事なので、強制ではないです。俺の怪我とかは気にせず、本気で来てください」
「・・・宜しいのですね?」
「はい、ありがとうございます、気遣ってくれて」
「いえ、差し出がましい事を申し上げました」
律儀で優しい人なのだろう。本当に良いのかと、俺の意思があるのかと、確認してくれた。
一応リンさんの無茶ぶりではないという事は、ちゃんと伝わったはずだと思いたい。
いや、無茶ぶりは無茶ぶりなんですけどね。俺も突然振られて慌てたし。
彼は俺の返事に納得がいったのか、目に力を籠めて俺を見つめる。
そして一度後ろに振り返り『構え!』と号令をかけ、兵士達は綺麗に立ち上がり構えを取る。
しかもただ構えただけではなく、心まで切り替えた様だ。困惑の目は、一人も居ない。
油断も、侮りも無く、純粋に俺を倒す。その意志を感じる目だ。
少なくとも俺が見て確認できる範囲には、一人として俺を軽んじる様子はない。
本当に良い兵士なんだなと、リンさんの言っていた事の正しさが良く解る。
「あ、そうだタロウ、剣を使う様にねー」
「剣?」
「そう。タロウの力を見せるなら、その剣じゃ駄目でしょ?」
「・・・なるほど」
俺の腰にあるのはアルネさんに貰った剣だ。
けれど確かに俺の実力を見せるという事なら、この剣じゃ駄目なのかもしれない。
個人的にはこれも手に馴染んでるから、自分の愛剣って感じではあるんだけど。
「そう、ですね・・・じゃあ――――――」
剣を腕輪に仕舞い、一瞬目を剥く兵士達を視界に入れたまま、一振りの剣を取り出す。
最近握っていなかった本当の愛剣。俺の為だけに作られた魔導技工剣を。
「――――起きろ、逆螺旋剣」
剣に声をかけると、久々の出番を喜ぶ様に魔力が迸り、ギャリギャリと剣が回り出す。
どう見ても杭にしか見えなかった剣身から、幾つもの刃が花開く。
剣から放たれる暴力的な魔力が、兵士達の警戒を跳ね上げた。
「っ、これが・・・まるで別人ではないか・・・!」
領主の呻くような呟きが耳に入り、やっぱりこれを持てば印象が変わるのかと思った。
本当にイナイ様々だよなぁ。何時までもどこまでも彼女に助けられている気がする。
彼女への感謝を胸に魔力を剣へ注ぎ込み、一層音を上げながら剣が回り出す。
「始めましょうか」
その喜びを押さえつける様に回転を止め、兵士達へと開始の声を軽くかけた。
一応手合わせだから気軽に、というつもりだったのだけど、そうはいかなそうだ。
俺に向けて武器を構える彼らの表情は、明らかに化け物相手へ決死の戦闘を挑む顔だもん。
「では、行きます」
かかって来るのを待っても良いのだけど、これは俺の力を見せる場だ。
ならこっちから行った方が良いだろうと思い、真っ直ぐに突っ込んで行く。
勿論既に魔術で強化済みで、真正面の兵士達に剣を振るった。
彼等は防御反応は出来たものの、俺と技工剣の力に耐えられず前衛の一部が吹き飛ぶ。
勿論ちゃんと加減はしているから、細切れの肉塊が出来る様な事は無い。
そのまま崩れた部分を更に崩す様に突っ込み、兵士達の中央へと進んでいく。
「距離を開けて囲めぇ! 密集し過ぎるなぁ!」
指揮官の指示が飛び、俺から距離を取ろうとするもさせる訳がない。
密集地帯に無理矢理突っ込んで、悪いと思いつつ好きな様に暴れさせて貰う。
向こうは数が多いから、下手に武器を振るうと同士討ちになる。
俺を力で押さえつけられるなら別だけど、それが叶わないなら距離を取るしかない。
勿論全員が距離を取る訳では無く、突っ込んで来るのも居るけど無視して他に突っ込む。
何時もの俺ならこんな事はしない。彼らが闘い易い様に距離を取る。
けど事前に指示をされていたので、申し訳ないと思いつつも兵士達を打ち倒して行く。
何故なら魔人達は闘いやすいように等戦ってくれない。ただただ蹂躙して来るのだから。
俺はまだ最大強化していない。リンさんの見積もりで、魔人と同じ程度にしている。
その俺を止められないのであれば、魔人を倒すどころか、足止めさえ不可能だと教える為に。
『風よ、吹き荒れろ』
「なっ、魔術、まで!?」
接近戦では分が悪いと、味方の被害を抑えるのも無理だと指揮官は判断したらしい。
なので魔術師隊に指示を出していたらしいが、全力で魔術を吹き飛ばさせて貰った。
ついでに周囲に居た兵士も吹き飛んだが、これぐらいなら骨折程度で済むだろう。
「止めろ! せめて足を止めろぉ!!」
為すすべなく陣形を崩されて行く様に、指揮官の声が大きく響く。
せめて俺を同じ場所に押さえつけられればとの事だろうが、それも叶えてあげられない。
彼等には全力で、死の可能性を理解して貰って、生き延びて貰わなければいけないのだから。
「なっ、消えっ、転移か!?」
転移魔術で魔術師隊の所まで飛んで、なるべく加減して彼らを薙ぎ払う。
体術の訓練もしてはいる様子だけど、魔術メインなのか前衛より容易かった。
これで遠距離攻撃は潰れた。接近戦で俺を倒すしかなくなる。
「・・・ちゃんと訓練してる兵士さんだな、やっぱ」
倒した兵士達は、意識が在る者は立ち上がり、負傷した者は素早く下がっている。
負傷者も下手な怪我はしておらず、少し治癒すれば戦線に復帰できるだろう。
それでも、そこまでだ。魔人相手には足りない。あの外道達には足りていない。
「すみません。でも、理解して下さい・・・!」
申し訳なくは思う。自らを鍛え続けて来た彼等に絶望を与えるのは。
けれどあの連中は貴方達の命を何とも思わない。都合のいい道具程度にしか。
ならどれだけ心苦しくても、彼等では相手にならないと叩き込む!
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