第761話、次の貴族に接触します!

車が完全に止まった辺りで説教が終わり、くすんと泣きながら大人しく待つ。

ただ暫くするとまた走り出したので、チラッと外の様子を見る。

どうやら街に入る為の検問を抜けたらしい。それで良いのかという疑問が物凄くある。


「・・・車内調べてないけど良いのかね」

「下手に調べて問題を起こしたくない、って考えなんだと思うよ」

「あー・・・他国の王族が乗ってんだもんなぁ」

「その部下の貴族様もね。実際はどうあれ、この国にしたら私達はそういう扱いだし」


成程成程。だから俺の乗ってる車も調べられていないと。

もし偽物だった場合どうすんだろ。かなり問題になると思うんだけど。


「流石にウムルの王族の証拠ぐらいは見せてると思うよ」

「あ、成程。それなら、まあ」


直接出て顔を見せる事はせず、ウムルの王増だと解る何かを見せて通して貰ったと。

ん、でもそれ見せて他国の門番とかに解るのかね。正直俺みたいな奴も居るのでは。


「だから問題を起こしたくない、って事でしょ。真実は解らないから下手に触りたくないと」

「シガルさん、さっきから俺の脳内と会話するのやめて頂けませんか」

「ならもうちょっと解り難くして下さいね」


ぐうの音も出ない。というかまだシガルさんの機嫌がちょっと悪い。

ここは下手な事は言わず、下手な事も考えずに居よう。無心。そう、無心だ。

悟りを開けばおのずとその境地に至れると言う。誰が言ったのか知らないけど。

まあこんなこと考えてる時点で欠片も無心で居られてないんですけどね!


「まーた変な事考えてるでしょ」


シガルさんが半眼で突っ込んできたので、すいっと目をそらした。

そんな感じでふざけていると、また車の速度がゆっくりと落ちていく。

恐らく目的地に着いたのだろう。結構な数の人が出迎えに居るっポイ。


そうして暫く待つと車が完全に止まり、少し外が騒がしくなったのを感じる。

一緒に来た貴族の声が聞こえる。その後に俺の乗る車の扉が開かれた。


「到着いたしました。この地の領主一族皆、ウムルのお客人方を歓迎する為に並んでおります」


そう告げた使用人の言葉を聞きながらシガルに目を向け、頷く彼女と一緒に降りる。

勿論ニノリさんも俺達の後について来て、シガルの後ろに着く形になった。

これは事前に決めていた立ち位置だ。俺が前で、彼女が後ろ。


ニノリさんの常識からすると、移動時は使用人が前らしいけどね。

理由は簡単だ。盾に出来る。勿論前だけじゃなく、左右も背後にも置くけれど。

ただ使用人の数が少ない場合は、一番危険であろう進行方向に置くそうだ。


彼女が未だ少し戸惑いながらついて来るのを確認しながら、リンさん達の車へと近づく。

彼女の乗る車はまだ扉が開かれておらず、その車の傍に腰を追って沢山の人が並んでいた。

この土地の領主と一族と言っていたけど、見た限り使用人も皆並んでいる気がする。


その一番先頭に居るの男性からは、明らかに強者の風格が漂っていた。

この国に来て初めて感じる、本物の強者の気配。

車を降りる前から薄々感じていたけど、正直ちょっと困惑している。


何と言えば良いのだろう。雰囲気が違うんだ。一緒について来た貴族と比べると余計に。

彼はただの兵士なのだろうか。いや、あの立ち位置からすると、確実に貴族だとは思う。

領主なのだろうか。でも領主と言うよりも、戦士という言葉の方が似合う人だ。


「タロウさん」

「っ」


思わず固まって彼を見つめてしまったけれど、シガルに小声で注意されて再起動。

心でゴメンと謝りながら、リンさんの車の扉に手をかける。


「王妃殿下。到着いたしました。皆さま歓迎して下さっております」


うへぇ。自分で口にしておきながら、全くもって似合わない。

そんな気持ちを押し殺しつつ告げると、先ずは護衛のハクが先に降りた。

えー、ハク君。君護衛なんですよ。降りてすぐシガルに抱き付いてちゃ駄目でしょ。


咎めても仕方ない気がしたので、取り敢えず次にリィスさんが下りるのに手を貸す。

にこりと綺麗な笑顔を見せた彼女の後に、優雅に降りる我らが王女殿下にも手を伸ばした。

相変わらず詐欺だ。挙動の一つ一つが綺麗で目を奪われる。絶対に詐欺だ。


「ありがとうございます、タロウ」

「もったいなきお言葉です」


背中がかゆくなる。でも背後からシガルとリィスさんの殺気を感じるので我慢だ。

特にここでボロを出した場合、絶対リィスさんがニコニコしながら怒ってくると思う。

あの人怖いんだよ。基本は良い人なんだけどさ。リンさんの事になると本当に怖い。


「総出での歓迎、感謝いたしますわ」

「喜んで頂ければ何よりです。大国の王妃殿下へ礼を尽くす方法を、これ以外に知りませんでしたので。田舎者の田舎貴族ではありますが、礼を失う事は致したくありません」


俺に手を引かれたリンさんは、まるで今初めて気が付いたかのように挨拶をした。

それに対して戦闘の男性が、腰を曲げて頭を下げたままそう答える。

田舎、なのだろうか。割としっかりとした街な気がするけれど。


「立派な街ではありませんか。田舎などと、そんな事を仰るものではありませんわ」

「大国ウムルと比べれば、この様な街は田舎と変わりませぬでしょう」

「あら、それは褒めて頂けている、と取って宜しいのかしら」


確かにウムルと比べると・・・というか、あの国と比べると、大体どこも田舎では。

いや勿論あの国にだって田舎は有る。北の森の傍の村とか完全に田舎だったし。


「我等は貴方様に礼を尽くしました。これで足りぬというのであれば、我が家の宝飾品もお捧げ致しましょう」

「まあまあ。お気持ちはありがたいのですけど、その様な物は必要ありませんわ。私は貴方方と有意義なお話をしたく思います」

「申し訳ありませんが、我等に殿下とお話する理由がございません」

「――――な、何を言っている、貴様!」


二人の会話、というよりも男性の言葉を聞いて、それまで黙っていた貴族が叫んだ。

けれど男性は身動きを取らないまま、それは完全に拒絶の様に感じた。

その様子にリンさんは困惑の顔を見せ、小首を傾げながらも笑顔で問う。


「お話を聞いて頂けない理由は、お聞かせ願えますか?」

「・・・不敬となりますので。我等は貴方様に礼を尽くします。それ以上の事は出来ません」

「私との会話を放棄するのは不敬ではない、と?」

「・・・申し訳ありません。どうか平にご容赦を」


容赦を、と言いつつも、何だか謝っている様には感じない。むしろあしらっている様な。

俺が理解出来ずにそう感じるだけだろうか。気になるけど確認は取れない。

何せシガルとリィスさんは俺の背後だ。何にも解んないでっす。

ただそれはリンさんも同じだったのか、そこで終わる気は無かった様だ。


「発言を許します。不敬と問う事は致しません。ウムルの名に懸けて」

「・・・では、失礼ながら。我等は王妃殿下の娯楽にお付きあいする程酔狂ではございません。国と領地を乱す様な真似はお控え下さい。滞在の間出来る限りの歓待は致しますが、それ以上の事を求めるのはお止め下さい。我等は他国の王妃の自己満足に付き合う余裕はないのです」


それは明確な拒絶。それどころか、リンさんの行動を『お遊び』という意味の内容。

彼の表情に挑発の様子はない。ただただ事実を並べて告げている様に見える。

けれどそれに黙っていなかった人間が居た。ついて来た貴族だ。


「な、なんという、貴様、今自分が何を言ったのか解っているのか!!」

「殿下自身が不敬を問わぬと言われたのだ。覆すのであればウムルの誇りを汚す」

「そういう問題ではない! で、殿下を怒らせれば、一体どうなると・・・!」

「貴公の不始末を隠せると本気で思ったのか。事が全て終われば貴公は処分されるだけだ」

「なっ・・・!?」


彼の言葉に驚いたのは貴族だけじゃなく、俺も同じ様に驚いてしまった。

もしかして彼は全てを知っているのでは。ここに来る前に起こった騒動を。

いや、だとしてもおかしくないか。知っているのであれば、あんなに拒絶するだろうか。


「王都に、城に、あの高名な錬金術師、アロネス・イルミルド・ネーレス殿が向かっている。本命はそちらなのでしょう。その間に王妃殿下は国を乱すだけ乱す。報復としては上手い手です。何せ殿下は表向き、平和的に話し合いをしに来られている訳ですから」


彼は愕然とする貴族から視線を切ると、相変わらず淡々とした様子でそう言い放った。

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