第749話、襲撃者を待ち構えます!
リィスさんが去って行った後は、暫く何もする事が無い時間が過ぎた。
本でもあれば暇潰しが出来るとは思うけど、流石に警備中に本は不味いとは思う。
一応接近に気が付ける自信は無い訳じゃないけど、反応が遅れそうな気がして怖いしなぁ。
因みに野盗共はあれから話しかけても来ない。随分大人しくなり、何人かは寝ている様だ。
リィスさんの脅しが余程効いたのか、流石に疲れが出たのかは解らないけど。
とはいえ大人しくしてくれるならそれに越した事はないし、そのまま放っておいた。
つまりとても暇だ。という訳でさっきから無言でずっと魔術の基礎鍛錬を続けている。
この鍛錬は空き時間に狭いスペースでも出来るから良い。地味な基礎鍛錬だけど割と好きだし。
まあぎりぎりの制御をしてる時に心を乱すと、反動が楽しい事になるのが問題だけどね。
そうやって鍛錬を続けていると、ハクが接近して来るのを感じた。
てっきり戻って来ないのかと思ってたのに。
人間形態の時は女性だし、護衛の意味も含めて向こうで泊まるのかと。
まあ護衛対象が一番強いから、実際は護衛なんていらないんだけどさ。
襲う側にしたら勘弁して欲しいよなぁ。普通ターゲットが一番強いとか無いだろうし。
・・・ん、ハクの奴何か不機嫌そうだな。何かあったのか?
『戻ったぞー』
「お帰り。どうした、不機嫌そうだな」
『あのままシガルの傍に居たかったけど、仕事だからダメって言われた』
不機嫌そうにそんな事を報告されても困る。じゃあ向こう行って良いよとも言えないしさ。
しかし何だかんだハクも人間社会に馴染み切ってるよなぁ。
暫くシガルとは別行動をとっていたけど、その間ずっと一緒に仕事をしてたらしいし。
そのせいか以前ほどの自由な振る舞いは減った気がする。
『ふあぁああぁああ・・・暇だし私は寝るなー』
そう言うとハクは人間形態のままではあるけど、部屋の隅で丸まってしまった。
前言撤回。やっぱりこいつ自由だわ。君一応警備する立場なんだけど。
「すぴー・・・すぴー・・・」
もう寝たよこの竜。あれか、割と真面目な気がしてたのはシガルが居たからか。
クロトが居ると張り合ったりするんだけど、今回はクロトも居ないしなぁ。
・・・まあ何かが起きた時は大体気が付いてるし、襲撃が来たら起きるだろう。
どうやって反応してるんだろうなぁ、あれ。野生の勘とかなのかね。
人間形態ずっと見てると偶に忘れそうになるけど、こう見えても真竜な訳だし。
まあもっと忘れそうになるのは、この竜が百歳越えって事だけど。思慮深さが無さ過ぎる。
「あ、そうだ、念の為に言っておくけど、ソイツにはちょっかい出さないほうが良いぞ」
「言われなくても出さねえよ。だからもう黙ってんじゃねえか」
ハクが暴れ出したら面倒だからと注意をしたら、嫌そうな顔で返されてしまった。
なんか俺が空気読めてないみたいな顔されてるんだけど。凄く納得いかないんですが。
少しだけイラっとした。いや落ち着け、これが作戦かもしれないだろ。
向こうからは話しかけていない。あくまで俺に返事をしているだけだ。
となれば変に俺が何かを言うと、皆に迷惑がかかるかもしれない。
ここに来て俺が迷惑をかけるとか話にならないし、何事も無いという気持ちで流そう。
さて俺はどうするか。襲撃がくるって解ってるし起きておくか?
いや、多少は寝た方が良いよな。徹夜は翌日の行動に響きそうだし。
そう思いハクとは部屋の反対側に座り、背を壁に預けて目を瞑る。
寝る気ではあるけど熟睡する気は無い。というか熟睡できる度胸が無い。
むしろ何時来るのかなーとか警戒してるせいで、眠気が殆ど無いのが現状だ。
「・・・ほんとに来るのかね」
リィスさんの予想を疑うわけじゃないけど、思わずそんな言葉が口から洩れた。
最近探知の精度が前より上がっていて、前より細かい動きが解る様になって来ている。
魔術の目を比較的自由に操れる様になった影響なのか、探ろうと思えば指の動きも解る程に。
その現状で、怪しげな動きをしている存在は探知に引っかかっていない。
勿論屋敷周辺だけの話ではある。流石に街まで探知を広げると良く解らないし。
でもここは貴族の屋敷だ。夜中でも庭に警備の兵が居る。
そんな中で様子も窺わず、いきなり攻めてくる様な事が有るだろうか。
むしろ屋敷の住民の誰かが襲って来る、って言われた方が納得出来ると思うんだよね
「・・・ん?」
そう思っていると、数名の人物が探知範囲に入った。
この人物達が襲撃者だろうか。兵士を倒して押し通るつもりって事かね。
それだけ実力が有るっていう自信の表れなら、結構な手練れなのかもしれない。
警戒度を少し上げて動向を見守っていると、その集団は屋敷を囲む様に分かれた。
位置的に二人はここに来そうな感じがする。残りは何処に行く気かな。
いやそっちは気にする必要は無いか。リィスさんが解ってる以上は問題無い。
俺は俺の仕事をちゃんとして、それで余裕が有ったら他に対処―――。
「・・・っ!?」
庭の警備をしている人間達が、次々に倒れている。
襲撃者達が攻撃した様子は無い。魔力の流れもなかったから魔法でもない。
ただ何かを取り出して庭に投げた様だったけど・・・それが原因なのかな?
「・・・動かない、な」
多分リンさん達も襲撃者には気が付いていると思うけど、皆動く気配がない。
という事はこの段階では動くな、って事なんだと思う。
倒れた兵達には申し訳ないけど、静かに襲撃者達の動向を窺った。
すると庭の兵達が動かなくなった所で、襲撃者達が動きを見せる。
庭に入り込むとまた何かを取り出す様な動きをして、屋敷の中に投げ入れた。
この部屋にも投げ入れた辺り、ここに俺達が居るって事を知ってそうだな。
って事は内通者が居るって事かな。でないとここまで正確に狙い撃ち出来ないと思う。
「・・・ふーん」
ふわっと香って来る良い匂いが鼻をくすぐる。息を吸うと脳まで到達しそうに感じる。
成程、散布毒か。結構強い睡眠薬系だ。これで庭の兵士を昏倒させた訳だ。
腕輪の解毒も有るし、そもそも仙術でねじ伏せられるから関係ないけど。
・・・ハクは大丈夫なのかな?
何て思っていると、襲撃者達は少し様子を見ながら部屋に入って来た。
俺達が眠っていると確信しているのか、余り警戒する様子は見られない。
ただし足音を殺して、無駄に起こす様な真似は避けてるみたいだけど。
侵入者は二人とも武器を取り出し、ただしその意識は野盗達に向けられている様だ。
成程。俺達に手を出す気は無いのか。その方が良いって事なのかね。
リンさん達の所に向かった連中も、その後別の所に向かってるみたいだし。
お、リンさん達動いた。ならこっちも動きますか。このままだと野盗達殺されそうだし。
ただこいつら、思ったより腕が経ちそうな気配がする。あんまり加減しない方が良いかな?
そう思い三重強化を発動しつつ、座ったまま侵入者に仙術を不意打ちでぶち込む。
「がっ・・・ぐっ・・・!?」
「な、にが・・・!?」
意識を落とせなかったか。でも真面に入ったから動けないだろう。
取りあえず即座に近づいて掌打を放ち――――――。
「うを!?」
―――――二人が崩れ落ちるのと同時に、屋敷が揺れた。
「うわぁ・・・」
リンさん、部屋ぶち抜いて最短距離で襲撃者に接敵してる。
やる事が無茶苦茶すぎる。屋敷崩れないと良いけど。
「・・・とりあえずこいつらは縛っておくか」
『縛るのか?』
「ああ。仙術を結構な威力でぶち込んだから動けないとは思うけど、念の為にな」
って、ナチュラルに返しちゃったけど、お前起きてたのか。
まあ起きてるよな。ハクだし。つーか真竜に薬ってどこまで効くんだろうか。
全く効かない、って事はないと思うんだよな。生き物である以上。
「こいつら縛ったら一旦皆と合流しよう」
『シガルの所に行くのか!? 解った! 手伝うぞ! 早く行こう!』
・・・うん、まあ、間違ってないから良いや。手伝ってくれたし。
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