第745話、今からがリンさんの本当の仕事です!
リンさんの脅しにより騎士達は完全に大人しくなり、兵士達も完全に腰が引けていた。
更に言えば野盗共も喧嘩を売った相手がどれだけやばい存在か気が付いたらしい。
取引の話をしていた時より大人しくなり、ほぼ全員に目が死んでいる。
流石にあんな化け物を相手にしていたとは思ってなかったんだろう。
あれじゃ逃げられるとは思えないもんな。あれに背中向ける勇気は俺も無いわ。
「勝てないのは解ってるんだけど逃げる事も出来ないとか、どこのRPGの負けイベントだか」
思わずそう呟きながら、兵士と騎士と野盗の行進を眺めながら後ろを付いて行く。
因みにリンさんは貴族様用の車を用意されており、虎に引かれて移動している。
当然侍女と護衛としてリィスさんとシガルが付いており、俺とハクは野盗の護衛だ。
一応リンさんの脅しで大人しくなったとはいえ、彼らを殺されるのは色々と都合が悪い。
なので監視も兼ねて殺されない様に護衛しつつ、虎達が暴れない様に最後尾をついて行く。
因みにハクは今回も逃げられていた。やっぱり恐怖を克服したグレットって凄いんだな。
『むー』
おかげでハクさんは頬を膨らませて若干ご立腹です。どうせすぐに機嫌直ると思うけど。
しかしこの現象も不思議と言えば不思議だよな。人間は全然怖がらない訳だし。
人間以外の動物だけが解る何かが多分有るんだろうけど、俺にはちっとも解らない。
もしかしたら竜っていう絶対強者だと、本能的に解る物が遺伝子に有るんだろうか。
なんてどうでも良い事を考えながらでないと、暇で暇で仕方ない。
何せ人数が多いうえに、野盗達を徒歩で移動させているからだ。
この時点で確実に『野盗を殺す気だった』っていう意図が見えて来る。
もし証言を聞く気だったり、それなりの手順で裁く気なら、運ぶ車を持って来ていただろう。
「・・・暇だ」
これが隣に居るのがシガルなら全然違うんだけど、ハクだと話題がそんなに無いんだよなぁ。
何故かシガルとハクだと、話題が尽きて暇そうって様子は殆ど無いんだけど。
もう結構歩いているはずなんだけど、まだつかないんだろうか。
なんて思っていると街らしき建物が見えて来た。壁に覆われたそれなりに大きそうな街が。
『お、あれが街か?』
「多分、そうじゃないかな」
今の所壁と門しか見えないから、現時点が国境地というう事を考えると砦の可能性も在るけど。
そう言えば街に壁を作ってる所は多くても、真面に砦って殆ど見てないな。
街の壁を更に覆う様に砦っぽくなってる建物は見た事有るけど、あれはどこで見たんだっけか。
何てまた思考を無駄に動かしつつ、見えては来たけどまだ遠い街に向かって歩き続ける。
そしてやっとという気分で街に到着し、そこでまた何やら手間取る事になった。
「申し訳ありません、ただいま領主様が向かっておりますので」
先に人を走らせて領主に連絡が入っているはずだが、その領主が迎えに来ていないらしい。
当然リンさんは「構いません。こちらが出向きます」と言ったが、慌てて止められてしまった。
車を降りて歩き出すリンさんに、行かせる訳にはいかないと騎士達は必死になってる。
これが俺達だけなら押し通りかねなかったのだけど、野盗達を連れて行かなきゃならない。
門を開いてここを通らなければ、入国が違法になってしまう為に避ける事も出来ない。
という訳で大人しく領主が来るのを待っているのが現状である。
「まったく、露骨な時間稼ぎですね」
「ですよね。流石に私でも気が付きますよ、これ」
リィスさんがイラッとした様子で口にし、シガルが呆れた様に同意を口にした。
彼女の予想では領主はとっくにここまで来れるはずだが、わざと到着を遅らせているらしい。
それは当然今回の件を国王に知らせる為であり、街に入ってからも足止めが有るとの事だ。
足止めをしたところでどうなるとも思えないのだけど、何を考えているのだろうか。
多分あまり気分のいい考えではないだろう事だけは予想出来る。
リィスさんはもっと明確に、何をしてくるかの予想を立てていそうだな。
「そんなのもう無視して行っちゃえばいーじゃん。入ったらこっちのもんでしょ」
「そういう訳にもいきません。もうここからは王妃様として行動して下さい。旅の五人組で好きに動くのは無理ですからね」
「えぇー・・・良いじゃん別にぃー。もう後は問い詰めちゃえば終わりでしょー?」
「馬鹿言わないで下さい。ここからが本番でしょう」
「んえ?」
リンさんはもう終わった気分の様だが、そういう訳にはいかないと釘を刺された。
どうやらここからもまだまだリンさんの出番がいっぱい有るらしい。
流石にそれは俺でも解っていたが、リンさんは本気で何を言っているのという表情を見せた。
「・・・お姉ちゃん、まさか本気で・・・はぁぁあああああぁぁぁ」
「な、何でそんな呆れた様な溜め息つくのさ!」
「・・・何で今、領主が時間稼ぎしているか、解っておりますか、王妃様?」
「え、い、言い逃れの為、でしょ、今回の」
「そうです。何せ現状『一領主の勝手な振る舞い』として切り捨てられかねない所ですからね。つまり領主は切り捨てられない為に奔走しており、国王はおそらく平気で彼を切り捨てます」
・・・冗談抜きで碌でもないな。いや、大国と諍いを生む事を考えれば正しいのか?
でも別にリンさんは戦争を仕掛けたい訳じゃないし、奴隷の件で話が纏まればいい訳だし。
「奴隷商売は何だかんだ、他国の貴族も買っているから成立している商売です。周辺国のトップの大半は味方ですが、その配下が全員味方ではありません。今回は確実に、国が絡んでいたと、そう認めさせなければ止められない。そんな甘い考えで来たんですか?」
「あ、あう、えっと、その」
「確かに今やウムルの力は強大で、リファイン様の力は誰もが恐れる物です。ですがそれだけで押し通してしまえば、ただの独裁国家。そう国王陛下が仰られいている事に同意しているのは、貴女様でしょう。ならばここからするべき事を、成すべき事をお考え下さい」
「え、わ、私、が、考えるの!?」
「出来ないのならば、貴女自身が向かうべきではなかった。そうではありませんか。事前の会議ではセルエス様かアロネス様が向かわれるお話も有りました。ただそうなると少し時期が遅れると、ならば自分が行くと申し出たのは貴女のはずです。違いますか」
「うっ・・・!」
あ、そんな話あったんだ。確かにセルエスさんとアロネスさんの方が話は早そう。
つーかあの二人ならえげつないやり方で、ぐうの音も出ない様に追い詰めそうな気がする。
実際アロネスさんは毒薬流した件が有るからなぁ。色々無茶苦茶しそう。
「リ、リィス、助けてくれないの?」
「・・・今回は、貴女が王妃として試される場だとお思い下さい」
「そ、そんなぁ。ね、ねえリィス、失敗したら色々後が大変なんだよ?」
「・・・そんな事、当然でございましょう」
「わ、解ってるなら手を貸してよぉ。あたしが何で怒ってたのか、貴女なら解ってるでしょ?」
あ、揺れた。多分今の『貴女ならリファインの気持ちが解るでしょう』にぐっと来た気がする。
もうあの人リンさんの狂信者だって知ってるし、絶対その辺りが原因だろう。
「リィス、お願い。手を貸して。あたし、ちゃんとやるから」
「・・・ですが」
「あたしは・・・私はウムルの騎士として、子供達の未来を守りたい。お願い、リィス」
あ、今上手く隠そうとしたけど、騎士状態のリンさんに完全にグラっと来てた。
泳いだ目線を悟られない様に目を瞑ったけど、悪いけど俺はちゃんと見ていたぞ。
「・・・はぁ、仕方ありませんね」
「やった! リィス大好き!」
結局落ち着くところに落ち着いてしまったようで、何だかんだ普段の城でも様子が目に浮かぶ。
『リィスはめんどくさいなー』
「しっ、ハク。それは言っちゃ駄目だよ」
『・・・めんどくさいなー』
シガルに窘められているハクだが、口にしないだけで俺もとても同意したい。
本当は手を貸したくて仕方なかっただろ、この人。面倒臭い人だな。
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