第743話どうやら他にも同行者がいた様です!
「・・・そんな気はしてたけど、ムカつく話だ」
野盗達の話を聞いて解った事は、単純明快な予想出来た事実だった。
つまりはこういう連中が他にも多く居て、捕らえた人間を国に奴隷として売りつけている。
当然野盗達か売られた先の国かのどちらかが、捕まえた者達の心をしっかりと折って。
奴隷を扱う国は大なり小なりどこも似た様な事はしていると、男達は言う。
そんな話を聞いて出て来た俺の素直な言葉は、自分でも機嫌が悪いと自覚する声音だった。
「・・・俺達だって好きでやってる訳じゃねえ。こういう生き方しか出来なかっただけだ、お前みたいな小僧に俺達の苦労が解るものか」
「っ、それ・・・は・・・!」
野盗のその言葉に反感を覚えたが、だけど次の言葉が出て来なかった。
実際そういう環境に「ならなくて済んだ」から、俺はのほほんとしていられる。
とはいえ別の意味でのほほんと出来なかったけど、それでも俺はあの樹海に落ちて幸運だった。
だから好きでやっている訳じゃないと言われると、どう返せば良いのか、上手く言葉が出ない。
「戯言を。この生き方しか出来なかった? ふざけるなゴミ共が。戦う事を諦めたからだろう。真っ当に生きる事を諦めたからだろう。人に害をなす生き方を選んだからだろう。ただ生きていく為なら幾らでも別の手段は有ったはずだ。この周囲の国なら真っ当に生きて行けたはずだ」
だけどそんな俺の感情は、リィスさんのドスの効いた発言で消えて行く。
内心思っていた事を明確に言葉にされ、自分の考えを肯定して貰えた気分だ。
「貴様らは自ら手を汚す道を選んだ。ならばこの結末は受け入れて当然だ。貴様らへの悪態も吐かれて当然だ。言い訳をするな。貴様らが犠牲にした人間に『仕方がなかった』と言って納得すると思うのか。貴様らが飲む酒の為に『仕方ない』と言うと思うのか」
絶対零度の冷たい瞳が野盗達に向けられ、今度こそ野盗達は何も言わなくなった。
彼女にはきっと、何を言い訳しても通用しない。そう感じたんだろう。
まあ剣を向けられている事も理由の一つなんだろうけど。
「タロウさん、優しいのは結構ですが、今回犠牲者が出ていないのは結果論です。そして彼らは既に何人もの犠牲者を出している。こんな事したくなかったなど、通る道理がありません」
「あ、はい、すみません」
そうっすよね。その通りですよね。こいつら同情する価値無いですよね。
もしシガルが普通の子で攫われていたらと考えれば・・・あ、一人残らず斬り殺したくなる。
「謝らなくても結構ですよ。ただ貴方が罪悪感を覚える様な相手は、この場には一人として居ない、というだけの話です。彼らは殺されて当然の者達です」
殺されて当然。その言葉は誇張でも脅しでもなく、純然たる事実として口にしたんだろう。
彼女が当たり前に切り殺した男がそこに倒れている時点で、それは疑い様もない。
ただ彼女はそこでにっこりと笑顔に戻り、野盗達に向けて口を開く。
「さて、ではそろそろ私達の手の物が貴方達の住む国に報告している頃ですので、迎えが来るまで待っていましょうか。あ、逃げたかったら逃げても良いですよ。その場で斬り殺しますから」
「な、や、約束が違うだろう!?」
彼女の放った言葉に、静かになっていた野盗達は顔色を変えて叫ぶ。
だが彼女は相変わらず笑顔を張り付け、不思議そうに首を傾げた。
「何が違うんですか?」
「い、命は助けてくれるって、そう言っただろう!」
「ええ、命は助けて差し上げますが、無罪放免で逃がしてやるとは一言も言っておりません」
「だ、騙したな!」
「人聞きの悪い。この状況で助かると思っているのかと、何度も言ったじゃありませんか。この後もちゃんと有用に動いてくれるなら、死なない様にはしてあげますよ。それとも今すぐ死んで楽になる道を選びますか? 勿論楽には死なせてあげませんが」
「ぐ・・・!」
リィスさんを言い負かせず唸る野盗達。実際彼女は命は助けてやるとしか言っていないしなぁ。
そもそも主導権をリィスさんが握っているのだから、どうあがいても無駄な気はする。
「では静かになった様なので、同意したという事で宜しいですね?」
にっこり笑う彼女に誰も答えない。というか、下手な事を言うと殺されると感じているのかも。
その後は大人しくなった野盗達はおいておき、彼女が言う迎えを待つ事になった。
見張りは俺とリィスさんがする事に決まり、っていうかシガル抜いたらあとは俺達しかいない。
だってリンさんとハクはもう寝てるもん。仮眠とかじゃなくてガッツリ寝てますもん。
シガルは自分も起きていようかと言ったが、胸に抱えて強制的に目を瞑らせた。
リィスさんの目が少し痛いが私は何も気が付いていません。イチャイチャとかしてないです。
「あ、そうだリィスさん、さっき言ってた報告とかって、いつの間にしたんですか?」
この空気を変えようと訊ねると、大きなため息を吐かれてしまった。
ただまあ無視はしないでくれたので良かったと思おう。自業自得だし。
「今回の旅はずっと、ウムルの諜報員が付いて来ておりました。なので彼等が既に行ってくれているはずです。今回の件は事前に相談しての事ですから」
「え、ずっと一緒に居たんですか? 今も?」
「さあ、残念ながら私には何処にいるのか全く解りません。ですがついて来ていたと思いますよ。基本的に複数人で動いていますから、多分今も最低一人は居るんじゃないでしょうか。ただ国境を超える度に交代しているはずですので、ずっと同じ方ではないと思います」
まじかよ。ウムルの諜報員本当に凄まじいな。付いて来ているの全然気が付かなかった。
前に会った人もそうだったけど、普通の探知だと全然見つからない。
・・・普通の方じゃない探知なら、見つけられるか?
「・・・試してみるか」
視界をゆっくりと切り替えていき、魔力の流れを別の視点から探る。
もうこの状態にするのも段々慣れて来たからか、最近は割と簡単に出来るようになった。
その状態で探知を使うと、あっさりと近くに居る人間を見つけた。
「・・・居た。こんな近くに・・・視認出来る距離って、まじか」
ここまで至近距離なのは流石に驚いたけど、この探知ならあの隠匿も見破れるみたいだ。
けどこの状態を常に維持ってのは割ときついんだよなぁ。
神経が高ぶってるような感じを維持しないといけないし、何だか落ち着かない。
普段からこの状態で生活、っていうのは出来ればやりたくないな。
「ん、セル・・・?」
「へ? セルエスさん? どこですか?」
リンさんが寝ぼけた顔を上げセルエスさんの名を口にし、まさかと思いつつ周囲を見回す。
けれどセルエスさんの姿はどこにもなく、隠れているのかと探知で探したが見つからない。
ただあの人が本気で隠れているなら見つけられる気はしないので、見つけられないからといっていないとは限らないけど。
「・・・あー、なるー、これタロウかー」
「へ? 何がですか?」
「いやね、なんか今傍にセルが居る様な感覚がったんだけど、多分タロウから感じたんだと思う。ほら、タロウってセルと同じ様な目が使えるんでしょ?」
この目を使ったからセルエスさんが来たと勘違いした、って事なのかな?
ただ俺としては、あの人と俺の魔力は結構質が違う感じがしているんだけど。
とはいえ師匠に鍛えられて師匠の真似してるから、使い方が似てるのは確かだ。
まだあの人の技量に達してはいないけど、似てると言われたのは少し嬉し。い
「ていうか、結構隠してやってたつもりだったんですけど、これ解るんですか、リンさん」
「へ? こんなの殆ど解んないよ。何となく感覚でそんな気がしただけ」
出たよ天性の感性。この人なんでも有りすぎるだろ。本当に狡いわ。
隠匿魔術全力で使っても「何となく」で見破られそうな気がする。
あ、いい確認が出来る物が有るじゃん。
「リンさんって、ウムルの諜報員が付いて来てるの、気が付いてました?」
「んー、あそこに居る人でしょ。それがどうしたの?」
・・・特に悩む事も無く指さしたよこの人。向こうも驚いてびくっとしてるんですが。
なんで俺がこの状態にならないと見つけられないレベルを、ただの感覚で見つけるんだこの人。
「あ、はい、もう良いです。ありがとうございました」
「? そう、じゃああたし、もうひと眠りするから・・・」
リンさんは不思議そうに首を傾げたが、眠気が強いのかすぐに興味をなくして目を瞑った。
すぐに寝息を立てるリンさんを見ていると、リィスさんが半眼で見つめている事に気が付く。
「タロウさん、リンお姉ちゃんの事を真面目に考えるだけ負けです。この人を常識に照らし合わせた時点で、照らし合わせた側の負けなんです。腹立たしいですが」
「そっすね・・・そうでした・・・」
この人を常識で測る事が間違っていると、胸の中のシガルを抱きしめながら改めて噛み締めた。
迎えの人達が来るまでリィスさんの目が痛かったのはきっと気のせいだと思う。多分。
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