第742話尋問を横で眺めます!
襲ってきた連中を全員縄で縛り上げ、一か所に纏めて転がす。
彼等の前にはリィスさんが仁王立ちで立っており、とても邪悪な笑みを見せている。
セルエスさんもびっくりな黒い笑顔だ。いや比べたら怒られると思うけど。
「ではタロウさん、彼等を起こして頂けますか。ああ、一応暴れる可能性を考慮しておいて頂けると助かります。このとおり、私は非戦闘員ですので」
貴女が非戦闘員ならどこからが戦闘員なんですか、と問わなかった事を褒めて欲しい。
取り敢えず指示通り野盗達を起こす為、久々に精神系の魔術を叩きつける。
そのせいで起きてすぐは話せるような状態じゃなかったので、取り敢えずもがき苦しむのが収まるまで待った。
「さて、皆さん、落ち着かれましたか?」
にっこりと、さっきの黒い笑みを消して可愛い笑顔で問いかけるリィスさん。
対する野盗達は何も喋る様子は無く、ただ頭目らしき人間だけは睨み返している。
「そんなに睨まれたら怖いじゃないですか、もっとにっこりしましょう。ほらにっこり」
そんな男にニコーっと笑顔を見せつける様子は異様の一言である。
何というか、ここまでの彼女へのイメージが悉く崩れていく。悲しい。
「まあ私としては別にだんまりでも構いませんが、それだと困るのは貴方達ですよ。その結末は処刑で終わるのですが・・・宜しいのですか?」
ニコニコした笑みのまま、リィスさんは割と怖い事を平気で告げる。
だがそれでも野盗達は口を開かず、ただひたすらに黙って応えない。
それは出方を窺っている様にも見えるし、そうする事が最善だと思っている様にも見える。
「まさか貴方達、ここに来て助かる、なんて面白い想像はしてませんよね。私達の様な人間を襲っておいて、無事に済ませる気がこちらに有るなど、思わない方が宜しいですよ?」
「・・・何を聞きたい」
「おや、やっと理解出来ましたか。頭を張る人間なら、生かして貰えた時点で気が付いて欲しかったですね。まあ人攫いなんぞで生計を立てている人間に望むのも酷な話ですか」
リィスさんの言い分に何か思う所が有ったのか、頭目らしき男が口を開いた。
ただリィスさんはそこで本題に入らずに、更に挑発を重ねていく。
本当に今までの彼女は何だったんだ。いやリンさんに良く嫌味は言ってたけどさ。
「本題に早く入れ。こちらも暇じゃない」
「あらあらあら、面白い事を仰りますね」
男の言葉に殊更楽しそうに笑うリィスさん。俺には何が楽しいのかは解らない。
因みに現在ハクは既に飽きて眠っており、リンさんもウトウトしている。
真剣に状況を眺めているのはシガルと俺だけで、更に言えば俺は状況が良く掴めていない。
とはいえこいつらを使って何かをしようとしている、というのは流石に解るけど。
「暇じゃない。暇じゃないですか。おかしな話です。ええ本当に。暇だから私達の様な、明らかに怪しい集団を襲うしかなかったのではありませんか?」
「・・・あんた、なにもんだ」
「お解りなのでは? それともここに至って解らないと言うのであれば、その残念な頭は必要ないと判断致しますが」
「・・・考えたくはなかったが、ウムルの人間か」
「ええ、大当たりを引いたというやつですね。成功していれば一攫千金だったかもしれません。その代わりウムルから全力で命を狙われたでしょうが。殺されるだけで済めば素敵ですね」
言ってる事は確かに間違ってない。
リンさんは王妃様で、王妃を捕えたとなればそれなりの金を手に入れる方法はあるんだろう。
ただしここで問題なのは王妃が「リンさん」である事と、相手が「ウムル」である事だろう。
彼女一人を捕らえるだけでも無理が有るのに、その仲間に一生追われるとか終わっている。
「さて、ではそろそろお望みの本題に入りましょうか。貴方達が捕らえた相手を売り払う相手が何処の国なのかは、お教え頂けますか?」
「知っているだろう。聞くまでもない事だ」
男の答えにリィスさんはにっこりと笑顔を返す。納得のいく答えだったんだろうか。
「どうやらまだ理解が足りていませんね。タロウさん、その剣をお借りしても宜しいですか?」
「え、あ、はい、どうぞ」
「ありがとうございます。では貴方が良いですかね」
「え――――」
剣を受け取った彼女は流れ作業の様に、止める暇なく男の一人の頭を切り飛ばした。
それも首を飛ばすのではなく、顔の中央で真っ二つになる様に。
斬り飛ばされた頭の半分が落ち、男達から小さな悲鳴が上がる。
だけどそれを情けないとは言えない。正直俺も上げそうになった。この人怖い。
「先程言いましたよね。助かる、なんて想像をしているのでは有りませんか、と。別に私はこの方一人が必要な訳じゃないんですよ。必要な情報なら誰でも良いんです。自分は助かる、なんてお花畑な考えは止めて頂けますか?」
頭から噴き出す血をよけもせず、服に血が付いても一切気にせず、彼女はにっこりと笑う。
それは味方であるはずの俺が「怖い」と思うのに、捕まっている男達が恐れない訳が無い。
「私は貴方達に生き残るチャンスを与えてあげている、という事を早くご理解下さい。でなければ貴方達全員、今頃こうなっているのですから」
彼女は怯える男達に追撃の様に、切り落とした男の頭に剣を突き立てる。
その間も彼女は笑顔を一切崩さず、もはやそれは誰にも笑顔には見えていないだろう。
「こ、こんな事をして、周りの国が、黙っていると思うのか」
「ええ勿論。貴方達が襲ったのはウムルの王妃殿下。本来ならその場で全員処刑するだけでも生ぬるい。その事を理解しない国がこの周囲に居ない事など、良く良く理解しております。理解していないのはそちらでしょう?」
そこまでにっこりとしていた彼女は、笑みを消して真顔で男達に顔を向ける。
「リファイン・ボウドル・ウィネス・ドリエネズ様に手を出して、本当に生きて帰れると思っていたのか阿呆共。役に立つなら命だけは助けてやる。そうでないならば悉く死ね。最初の一人があっさり死ねたのが幸運だったと思える死に方をさせてやる」
彼女のその言葉は、ただの事実以上の恐怖を男達に与えていたのだろう。
その後の彼女の質問には、彼等はとても従順だった。
何この人怖い。冗談抜きで勘弁してほしい。
今まで会った中で一、二を争う怖さなんですけど・・・。
「私、もう、ドリエネズじゃないよー・・・」
ウトウトしながらのリンさんの文句で少しだけ気が抜けた。何か悔しい。
絶対口を出すところそこじゃないとか、そんな事で気が抜けたのが本当に悔しい。
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