第739話わざと釣りをする様です!

「あのー、リィスさん、質問で良いですか?」

「ハイ、タロウさん、どうぞ」

「今回の旅、平和に行くって聞いてたんですけど。例の奴隷を売り買いしてる国にも殴り込みに行くわけじゃないって」

「ええ、平和な旅をするつもりですし、件の国にも『まだ』向かいませんよ?」


ええー、じゃあ何で襲われる前提とか言い出したんですか。訳解んないんですけど。


「今から向かう道行が申告通りであるならば、私達は何事も無く辿り着くでしょう」

「・・・申告、ですか?」

「ええ、我が国には危険は無く、何も問題は無い。違法な手段による奴隷などわが国には存在していない、との事でしたので。護衛が少なくとも襲われる事は無いでしょう」


あ、はい、解りました。襲われるんですね。そこまで言われたら流石に俺でも解るわ。


「因みにあちらには、王妃殿下一行は我が国が誇る騎士やその弟子、魔術師隊で構成された護衛を付けている、と報告しております」


リィスさんの言葉を聞き、自分達一行とその言葉に差異が有り過ぎると感じる。

いやだって、確かに騎士居るけど本人ですし。その弟子と魔術師も居るけど数人なんですけど。

その言い方だともっと大人数で来るように聞こえるんですが。


言ってる事自体は間違ってないんだろうけど、間違ってないだけで正しくもなさ過ぎる。

そういう事やって大丈夫なのかなと思って悩んでいると、シガルが確認を求めて口を開く。


「勘違いさせてわざと襲わせよう、って考えって事で間違ってませんか?」

「まさかまさかそんな。そんなつもりは有りませんよ。ええまさか。友好国でありながら我が国の王妃様を襲う、なんて事は有りえないでしょうし、奴隷の事が不快だと意思表示している国の王妃にそんな馬鹿げた事をする国も無いでしょうから」

「・・・成程、解りました」


成程解らん。シガルさんは解ったみたいだけど私には全然解らなかったんですが。

いや、だって、襲われるって事は、そういう事じゃないの?


『で、私達は結局どうすれば良いんだ?』

「先日と同じ様に、賊が現れたら対処。それで問題有りませんよ」

『そうか、解った!』


嘘つけ。お前考えるの放棄しただろ。

いや、ハクにとっては別段考える必要のある事柄じゃないか。


「・・・取り敢えず普通に護衛してればいい、って事ですよね」


とかなんとか考えつつ、ハクの事が言えない結論で確認を取った。

いやだって、これ以外に何の確認方法が有るのか俺には解らん。


「はい、そういう事です。よろしくお願い致しますね。先程のはあくまで『心構え』をお伝えしただけですので。王妃様を守るのですから当然の事です」


リィスさんはにっこりと返してくれたけど、結局真意は解らないのでもやっとするな。

まあ、今のは建前であって、襲われるつもりっていうのは解った。


「と、いう訳で今後の行動確認も出来ましたし、ここからは何時も通りでお願いします」

「りょうかーい」

『解ったー』

「はーい」

「・・・はーい」


リィスさんが手をパンパンと叩いて話を終わらせ、リンさん、ハク、シガルが返事を返す。

俺は最後に遅れて返事をしつつ、足取り軽く進んでいくリンさん達の後ろを付いて行った。


国境を越えて国境地を進んでいくが、今回の国境地は結構広くとられているらしい。

のんびり進むと日が暮れてしまうので、朝方に出て日が沈む前に移動しきってしまうそうだ。

ただ今回は「本来なら」と付くのだけど。


もう既に日はかなり登ってからの出発で、こちら側に来る人は見かけても出て行く人は少ない。

居たとしてもそれは徒歩ではなく、何かしらの乗り物に乗っている人が殆どだ。


多分この面子なら走れば余裕で日暮れ前に付くと思うけど、それもするつもりは無いらしい。

ここまでと同じ様にのんびりと、普通に歩くペースで進んでいる。

そして暫く歩いていると日暮れ前頃に尾行され始めたのを確認した。


「・・・いくら何でも都合良すぎないですかね」


出発前にああ言われていたとはいえ、本当に引っかかるとは思わなかった。

いやだって、この辺りそういう事が有る所なんでしょ?

戦闘に自信が無いのであれば、日が暮れる前に通り過ぎるのが普通じゃない。

むしろこの女性率高いメンバーでのんびり歩いてる方が逆に怪しくないか。


「リィス、どうする?」

「ほっておいて。ここは先日の国とは違うもの。襲って来るまでは、そのまま放置で」

「りょーかい」


そして案の定リンさんは気が付いている。どういう感覚してるんだろう、この人。

後もうどっちが上司なのか解んないな、この二人。


「タロウさん、どれぐらい居るの?」

「今の所数はそんなに居ないかな。4,5人つけて来てる感じ」

『どれも暇潰しにしかならなさそうだ・・・もうちょっと歯ごたえが有りそうなの来ないかな』


ハクさん、それ俺達が困るからそういう事言うのやめてね。本当に来たらどうするの。

・・・リンさんが居るから平気か。あの人に勝てる化け物とか想像出来ないし。


そんな感じで一応全員警戒しつつ、表面上はのんびりと歩き続ける。

だけどどうにも襲ってくる気配は無く、結局日が落ちてもずっとつけられているだけだった。


「来ないねぇ・・・ま、いっか、野郎ども、野営の準備だー!」

「リンお姉ちゃん、男性一人しかいないから」

「もー、リィスはすーぐそうやって上げ足を取る。こういうのは気分なの気分」

「成程、てっきり自分が女性だという事に自信が無くなったのかと」

「ひっど。この体を見てそういう事言う!? これでもスタイルには自信あるもんね! ね、タロウ。あたしスタイル良いよね!」


止めて、そういうの俺に振らないで。シガルさん何で半眼でじーっと見てるんですか。


「そう、ですね、スタイル良いと思います、はい」


これ以外にどう返せと言うのか。シガルさん何でそんなに顔を覗き込んで来るんですか。

ふーんってなんですかふーんって。貴方もスタイルは良いじゃないですか。


「ほらー。リィスの判断基準がおかしいんだって」

「中身の話をしてたんだけど・・・良いんですよタロウさん、お姉ちゃんを女性として見るなんて、中々のモノ好きでなければ早々有りえないって、はっきり言ってしまって」

「ちょ、そういう事言う!? そんな事言ったら、ブルベが物好きって事になるんだけど!?」

「その通りじゃない。ご本人も認めていたけど・・・知らなかったの?」

「――――――帰ったら、ブルベ、殴る」


ご本人の知らない所で悲しい事が決定してしまった。力になれない俺を許してください。

フォロー? 下手なフォローして俺が被害被りそうなのでパスで。


・・・しかし傍から見たら隙だらけのお気楽集団なのに、全然仕掛けて来ないな。

尾行して来る人数も変わって無いし、もしかしたら野盗の類じゃないのか?


「ほらほら、タロウ、顔に出てるよ。あたしよりポンコツじゃ困るよー?」

「リンさん、自覚してたんですね」

「・・・ブルベより先に殴られたい?」

「薪探しに行ってきまーす!」


拳を構えられた圧力にビビりながら、ダッシュで薪集めに走る。

ついでに今夜の食事に丁度良さそうなのが居れば狩って持って帰ろう。


単独でリンさん達から離れると一人ついて来た。

一人になった所を襲うつもりなのかな。

そう思い警戒しつつ薪を集めるが、結局戻るまで何も起きなかった。


・・・仕掛けてくる気は無いのかな?

途中で夕食用に一体ウサギっぽいのを狩ったけど、その時も何も仕掛けて来なかったし。

目的が良く解らないなぁ。


「リンさん、戻りましたー」

「ご苦労、後は休んでても良いよー。あたしがやるから」

「お姉ちゃんも座ってて。美味しいのが食べたいから、ここからは私とシガルさんがするから」

「まるであたしの料理が美味しくないって聞こえるんだけど」

「不味くはないけど適当だもん、お姉ちゃんの料理」

「むう・・・いいですよーだ。どうせ私は剣以外は無能ですよーだ」


あ、リンさん拗ねた。拗ねたけどリィスさんは一切のフォローなしで料理を進めて行く。

まあどうせ食べる頃には機嫌治ってるし問題無いけど。

そんな感じで食事中も特に何もなく、静かで穏やかな時間だった。


そうして食事も終わり、交代で見張りを立てて就寝。

・・・という所で人が増えだしたのを察知。成程、寝込みを襲うつもりだったか。

因みに今の見張りはリンさんだが、うとうとと舟をこいでいた。多分寝たふりだろう。


この人もこういう腹芸って一応出来たんだなー、などと感心しつつ接近を待つ。

さて、今回は俺の出番は有るのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る