第740話、焦らした結果ですか?
視線の先に居るのほほんと歩く5人の男女。
ただし男女と言っても男は一人で、まだガキだと言っても良い様なのだ。
剣を腰につけちゃいるが大き過ぎて体に合ってねえ。どう見ても飾りだろう。
動きから使える様にしちゃいるんだろうが・・・あの体格であの剣の大きさは無いわ。
次に女どもだが、半分は武装していているが半分は非武装。そしてその内一人は珍しい亜人。
どいつもこいつも無警戒に国境地を徒歩で移動していて、このままだと街に着く前に夜になる
「どう思う?」
「多分お前と同じだと思うぜ。他の連中もな」
「だよなぁ・・・」
仲間達と顔を見合わせ、皆同じ様に頷きあう。
余りに無警戒が過ぎるし、どう見ても美味しすぎる獲物だ。
だからこそ凄まじく怪しすぎる。罠なんじゃないかと疑ってしまう。
何せこの国境地の危険を知ってる人間はあんなにのほほんと歩いて通らない。
徒歩で通るならもっと急いで日が沈む前に街に向かうはずだ。
なら連中はその事を知らない世間知らずか、腕に自信がありだと思っている馬鹿か、もしくは兵を潜ませて俺達を捉えようとしているかだ。
「普段なら世間知らずのお忍びお貴族様、って可能性もあるが・・・」
「連中が情報通りウムルの連中なら、手を出したら不味いだろうな」」
事前に国から情報を貰い、近いうちにウムルの貴族達が通る事は聞いている。
ただ聞いていた情報と余りに食い違っていて、だけどタイミング的に迂闊に手が出せない。
「戻った。近くに伏兵の類は居ない・・・とは思う」
「こっちもだ。あの5人以外は近くに見当たらねぇ」
「・・・つーことは、マジであの連中だけ、って事か」
周囲を探って来た仲間が戻って来た報告を聞き、どうしたものかと頭を悩ませる。
余りに上手すぎる餌には裏が有る気しかしてこないからだ。
「冷静に見て、あの五人で戦力になるのは誰だと思う?」
「でかい女と亜人だろう。他二人は魔術師の可能性が有るが、寝込みを襲えばどうにかなるだろう。連中は接近さえしてしまえばどうとでもなる」
「余程の使い手の可能性は?」
「そんな奴があんなに無警戒に歩いてるとは思えないが」
「無警戒のふりをしている場合も有るんじゃねえの。ウムルって奴隷嫌いだろ?」
そう、奴隷嫌いの大国ウムルが、奴隷の市場の在る国に訊ねに来る。
国としては奴隷市場は国益を齎す存在だから、何を言われようと止めるつもりは無い。
ただ、もしウムルの王族に手を出した、なんてことになったら話が変わる。
だから態々奴隷を安く卸している俺達に情報を寄こし、手を出さないようにと釘を刺して来た。
俺達としてもあの国は良いお得意様だし、奴隷市場は無くなられちゃ困る。
「もう暫くはああいうの見逃した方が良いんじゃねえか?」
「そういう話になってからもう何日だよ。いつ来るんだよ、そのウムルの王族様は。まだやって来たて情報はないんだろ?」
「少なくともお得意様からの情報提供はまだ来てねえな」
だから本当はああいう怪しいのは見逃したい。見逃したいが―――――。
「もう良いじゃん。面倒くせえ。大体来るの大国の王妃なんだろ? あんな普通のかっこしてる気の抜けた連中な訳ねえじゃん。あの中のどれだよ王妃って」
「そうだよ、碌に護衛を連れずに徒歩なんて、貴族様が出来る訳ねえって」
「いい加減美味しそうなのは狩らねえか。そろそろ懐が厳しいんだしさ」
仲間達は最近獲物が狩れなくて段々と焦れていた。
何せウムルの王族が来るという話をされてから、もう一月どころの話じゃない。
今アジトに居る連中も飲んで自分を誤魔化しちゃ居るが、このままだと不味いと皆思っている。
このいつまでもお預け状態は、いい加減不満が爆発する頃だろう。
「・・・頭に連絡入れろ。そんでどうするか指示を仰ごう」
「解った。じゃあ行って来る」
仲間に頭への連絡を任せるが、おそらくは人数を連れて戻って来るだろう。
正直俺だってもうそろそろ我慢の限界だから、仲間の行動は手に取るように解る。
頭も完全に苛ついているし、何度か奴隷の卸先に文句を言いに行ったぐらいだ。
「腹ぁ・・・括るか」
もうあれが王妃だろうがそうでなかろうがどうでも良い。
男の方はあの手の顔が好きなのが男女問わず居るし、女どもは美人ぞろいだ。
亜人に限っては珍しい容姿だし、余り傷をつけずに捉えれば高く売れるだろう。
「―――――普通に野営始めやがった」
当たり前の様に国境地で野営を始め、どいつもこいつも警戒をしている様な空気はない。
薪を採る為や肉を狩る為に単独行動をする馬鹿まで居る始末だ。
食事が終わったら普通に寝だし、本来見張りらしい女も寝てやがる。
・・・警戒すんの馬鹿らしくなって来た。こいつら本当にただの馬鹿どもなんじゃないのか?
「おう、様子はどうだ」
「あ、頭・・・あの通りです」
呆れていると頭がやって来て、仲間達も殆どやって来た様だ。
頭が隣に来たので連中を指をさすと、頭の眉間に皺が寄る。
「・・・罠くせえな。周囲に伏兵は本当に居ねえのか?」
「居ません」
「良く探したか? 少なくとも俺達がこうやって監視できる距離には絶対居ねえか?」
「居ないん・・・ですよね」
「ふん・・・なら、やるか」
「良いんですか?」
「どっちにしろそろそろ仕事をしなきゃ、俺達の食い扶持を稼げねえだろうが。それとも街でも襲うか? 俺は兵士どもとやりあうなら女襲って売るね」
「はっ、違いないっすね」
頭の言葉を聞いて他の連中の腹も決まった様だ。
もうあれが何だろうと関係ねえ。美味しい餌を食わせて貰おう。
「ただし武器持ってっからな、起こさねように近づけ。応戦がねえに越したこたぁねえ」
「うっす」
頭の指示通り、なるべく音を立てず、静かに静かに連中に近づいて行く。
そうして近くで包囲しても起きないのを確認してから、頭の合図で一斉に飛び――――。
「遅い」
どう見ても完全に寝ている様にしか見えなかった赤髪の女の姿が消え、背後から声が聞こえたと同時に意識を失った。
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