第736話お爺ちゃん騎士に誘導されます!
「リィス、こいつらどうしようか」
捕まえた賊をロープで縛っていると、リンさんがリィスさんに相談していた。
因みに縛る作業は俺の仕事である。タロウは何もしてないんだから宜しくとか言われた。
何もしてない訳じゃなくてリィスさん守ってたんですけど、という発言は却下された。
何故だ。
「この数を連れてぞろぞろと歩くのは面倒ですし。応援を呼びましょう」
「応援って言っても、どっから?」
「当然、今から向かう国に。戻るのは面倒ですし」
「そっか。んじゃそれで」
という訳で賊の連行の為に、元々向かう予定の国から兵士さんを借りるという話になった。
リンさん考える気全くねーな。いや俺も完全に人任せだったけどさ。
取り敢えず賊達はシガルが魔術で眠らせ、リンさんとハクが監視。
俺がリィスさんを連れて応援を頼みに向かう事になった。
いや、逆かな。リィスさんの護衛を俺が引き受ける形だろう。
「あたしが行かなくて良いの?」
「お忍びで放置ならともかく、賊に襲われたという話であれば、あちらもそれなりの対応をせざるを得ないでしょう。心構えの為にもここに居た方が良いかと思います、リファイン王妃」
「あー・・・成程。めんどくさーいなー。王妃様やりたくなーい」
「はいはい、煩い。リンお姉ちゃんは良いから待ってなさい」
「扱いの落差が酷い!」
リィスさんの切り替えの激しさは俺もちょっと付いて行けない。
まあ、リンさん相手の時だけみたいだけど。
「さ、残念な子は措いておいて、行きましょうか、タロウさん」
「そうですね。早めに行きましょうか」
「あ、今タロウまで同意した! 酷くない!? ねえ、シガルちゃん、あの二人酷くない!?」
「あ、あはは、今のは、単純に早く行こうと思っただけで、リンさんの事を言ったわけじゃないと思います、よ?」
シガルさん、申し訳ないけどフォローお願いします。
『リンは大人しくしてろって事か』
「あうっ! ハ、ハクちゃん、正直なのは良いけど、ちょっと加減して・・・」
『何で? 私もよく大人しくしてろって言われるぞ? 一緒だろ?』
「ハ、ハクちゃん・・・」
ハクをひしっと抱きしめるリンさんだが、ハクは特に何も考えてないと思いますよ。
そいつシガルと一緒なら何でも良いだけですからね。
「・・・取り敢えず残念な子の機嫌も直った様子なので、早く行きましょう。タロウさん」
「あ、はい」
残念な子という呼び方を改める気は無いらしい。
「では、問題無いと思いますが、付いて来て下さいね」
「・・・へ?」
発言の意図を理解出来ずにいると、彼女は小声で詠唱を始めた。
強化魔術であろう魔力の流れを見ていると、構築が終わった所で走る態勢に入るリィスさん。
「では、行きましょう」
「え、あ、はい」
声をかけられて慌てて強化魔術を使い、走って行くリィスさんの後ろを付いて行く。
速度はそこまで早くない。多分疲れない程度の速さに抑えているんだろう。
つーか、この人、普通に強くないか。当たり前の様に強化魔術使ってるんだが。
あれ、もしかしてさっきの護衛、要らなかった?
「見えてきました。あれが国境警備でしょう。少し速度を落としましょうか」
「あ、はい」
大した距離を走る事も無く、あっという間に国境らしい所に着いた。
ただそこは前みたいに街ではなく、山の間に壁と門を作った関所って感じだ。
「私が事情を話しますので、タロウさんは私の後ろに常に立っていて貰えますか?」
「解りました」
多分何か意味が在るのだろうと、言われた通りに素直にずっと立っていた。
国境を警備していた兵士さん達は、ここもリンさんが来ることは伝えられていたらしい。
なのでリィスさんの話は素直に信じたのだけど、そこからが大慌てだった。
先ず賊に襲われたという事で領主に連絡を入れる事になり、暫く待たされる。
その後何やらがっちりとした甲冑に身を纏った騎士が現れ、兵隊を率いて来た。
何か若干覚えのある展開だけど、騎士さんは物腰柔らかだったので一緒にするのは失礼か。
因みにお爺ちゃん騎士だった。かなり貫禄ある感じのお爺ちゃん。笑顔が眩しい。
そこからは態々俺達用の馬車も用意され、それに乗ってリンさんの下へ戻る。
ぞろぞろと行軍状態ではあったけど、すれ違う人の邪魔にならない様にも配慮している。
リンさんの下へ辿り着くと、騎士さんは先ず俺達を車から降ろしてから、リンさんの下へ連れて行って膝を突いた。
「リファイン王妃様、お目にかかれた事、光栄に存じます」
「ありがとうございます。ですが今の私は王妃ではなく、少なくとも騎士として外出しております。立場としては貴方と同格。膝を突く必要はございません」
「国を救った英雄騎士リファイン様と同格など、恐れ多い事です。この身はただ長く生き永らえただけの老骨にすぎません。さ、車を用意しております。どうぞお乗り下さい」
「お気遣いに感謝致します。では、お願い致しますね」
すげえ、リンさん完全に王妃様モードしてる。ちゃんと王妃様に見える。
さっきまでの残念な人が何処に行ったのかって感じだ。
リンさんが頷いて手を差し出すと、お爺ちゃん騎士は立ち上がってその手を引く。
黙っていると美人なリンさんと、貫禄ある騎士の絵面はどこかの絵画の様だ。
「では、私共も車に戻りましょう」
リィスさんの言葉で見惚れていた事に気が付き、慌てて彼女の後について行く。
シガルは少しクスッと笑いながら車に近づくと、馬が怯えて暴れ出した。
その恐怖が伝播した様に他の馬も暴れ始める。
「あー・・・やっぱ無理だったか。ハク、ちょっと離れようか」
『解ったー。臆病なのしかいないみたいだね』
シガルはハクの手を引いて馬から離れる。元々無理だろうなと予想はしていた様だ。
やっぱりハクを連れて馬車の類に乗るのは無理か。
グレットが居ればこの辺り解決するんだけど、お留守番させてるからなぁ。
それを見てリィスさんは少し考えてから口を開いた。
「申し訳ありません、私と王妃様は馬車に乗せて頂きますが、ハクさんは少し離れて付いて来て頂けますか? シガルさんは王妃様の護衛を」
『解った。気にするな。慣れてる』
「はい、解りました。じゃあ、後でね、ハク」
リンさんとリィスさんとシガルは車に乗り、俺とハクは後から徒歩で付いて行く形になった。
馬が怯えた事を何故かお爺ちゃん騎士が謝りに来たので、逆に申し訳ない気持ちになる。
馬が悪いんじゃないんですよ。ハクさんが悪いんですよ。
「では、出発致します」
俺達がまごまごしている間に賊の連行準備は終わっていた。
手際の良さに感心しつつ、お爺ちゃんの誘導に従って国境に向かう。
国境に着くと、賊は国境で待ち構えていた兵士達と共に別の所へ連れていかれた。
俺達はどうやらこのまま領主館へ連れていかれるらしい。
賊の移動の際に一旦休憩が有り、その時にリンさん達とちょっと話してそうなった。
「うえー、ただでさえさっき王妃様やって疲れたのに、領主に会うのー? やだぁー」
「仕方ないでしょう。あちらにしたら、自国の国境傍で大国の王妃が襲われたのに、何もせずに放置したなんて外聞が悪いじゃない」
「別に悪口なんて言わないよぉー」
「リンお姉ちゃんが言う言わないじゃないの。良いから行くの」
「うぇーい・・・」
そんな会話が先程ありましたとさ。リンさんメッキ剥がれるの早くない?
という事でお爺ちゃんと兵士に護衛されながら、そのままのんびりと街道を進む。
少し日が傾いてきたかなーという頃に街の門壁らしきものが目に入って来た。
ただ騎士に連れられているからなのか、待たされる事は無くそのまま門はスルー。
街に入ると速度を落とし、ゆっくりとしたペースで街道を進んでいく。
途中で子供達や住民がお爺ちゃん騎士に手を振っていて、本人も手を振り返していた。
どうやら結構人気のお爺ちゃんらしい。
そうして辿り着いた領主館は、今迄の事を思い出すと慎ましやかな屋敷だった。
決して小さい訳では無い。だけど領主の館というには、ちょっと小さいと感じる大きさ。
庭付きの二階建てで、大きさ的にはウムルの富裕層の普通サイズの家と同じぐらいだ。
・・・単純に今まで見て来たのが大きすぎただけなのかも。
さて、領主様ってどんな人が出て来るのかな。
騎士や兵士、街の人の反応を見る限り、多分良い領主だとは思うんだけど。
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