第735話ミミズとお別れです!
相変わらずミミズバスの旅は続き、のんびりとした旅模様が続く。
そうして目的の待合所に到着したので車から降りて、乗客達に手を振った。
「気をつけてねー」
「毎日美味かったぜー!」
「お嬢ちゃん、旅なんかやめて俺の嫁になれよー」
「ぼうず、姉ちゃん達に迷惑かけんなよー?」
因みに道中何故か俺が一番年下扱いされた。解せん。
一応シガルとは夫婦だって言ったし身分証も見せたのに、全然信用してくれねぇ。
弟ちゃん、お姉ちゃんの事が好きなのは解ったから、とか優しい目で見られた。
ていうかシガルさんがずっとクスクス笑って助けてくれなかったから、余計に誤解が解けなかったんですよ。
「あはは、じゃーねー、おっちゃん、おばちゃん。おこちゃま達も元気でねー」
「じゃーねーリンおねーちゃん!」
リンさんは道中お子様ととても仲良くなっていた。多分子供同士波長が合うんだろう。
先日そう口に出ていたらしく、訓練時にちょっと強めにボコられた。
訓練と称したいじめである。いや、ちゃんと手加減してくれてるんだけどさ。
仕返しに食事の量を減らしてまた色々有ったけど、もうそれは良いや。
二人揃って小さくなりながら、リィスさんに懇々と説教されたので忘れたい。
多分俺が弟扱いなのは、あれも要因の一つだろう。決して俺が小さいからではない。
『なーなー、最後にあいつ撫でて良いかー?』
「ええ、どうぞ」
御者さんにミミズを撫でて良いとの許可を貰い、喜んでミミズを撫でに行くハク。
怖がられなかった事が嬉しかった様だ。
今更だけど、ハクが居る時点で乗り物に乗るの厳しくないだろうか。
取り敢えず次の国までは徒歩で移動、という事になってるから今は問題ないけど。
どうやら次の国への国境も余り遠くなく、日が暮れる前には町に着くそうだ。
『シガルー! シガルも来ないのかー!?』
「あはは、今行くよー」
ハクはご機嫌にミミズを撫でてシガルを呼び、シガルと一緒に俺達もぞろぞろとついて行く。
ここまでお世話になったので、ありがとうという意味を込めて俺も撫でておいた。
するとミミズの頭がこちらに向き、口がバカァッと開いた。ちょっと怖い。
「へ? わっ!?」
驚いているとゆっくりと俺の手を咥えようとしたので、驚いて反射的に手を引いた。
待って。俺今食われそうになったの? 撫でちゃダメだった?
何で俺だけ駄目なの。
「おや珍しい。こいつが初めての客に懐くとは。お兄さん動物に好かれる口ですか?」
「え、今の懐いてる行為なんですか?」
「ええ、咥えるのは親愛の行動ですね。滅多にそんな事しないんですけどね、こいつは」
御者さんが言うには懐いているらしいけど、だからってこの巨体に咥えられるのは度胸が要る。
ミミズは躱されても諦めずにもう一度咥えようとして来た。
何でそんなに懐かれているのか。俺懐かれるような事した覚えがないんだけどな。
取り敢えず今度は手を差し出してみると、あむあむと甘噛みされた。やわい。
「こ、これ危険はないんですよね?」
「大丈夫ですよ。肉なんて食いませんし」
「な、なら良いんで――――」
御者さんの言葉にほっと息を吐いた瞬間、ばくんと上半身が呑まれた。
あ、これ不味い、息が出来ない。あ、待って待って、力強い! 脱出が出来ない!
強化魔術使って抵抗して良いよね!? 怪我させない程度に抵抗なら良いよね!?
「~~~~~~ぷはぁ! はぁ、はぁ、はぁ・・・あ、焦ったぁ・・・!」
怪我をさせない様に様子を見つつ、強化を使って脱出した。あぶねぇ・・・!
呑まれている間外の音が聞こえてなかったのだけど、緊急事態なのは間違ってなかった様だ。
御者さんが慌てた顔でミミズの口に手をかけている。
「だ、大丈夫ですか!? す、すみません、普段はこんな事する奴じゃないんです! あいえ、それよりも本当に申し訳ありません! こ、こら、だから頭は咥えちゃダメだって」
「あ、あはは、だ、大丈夫です。慣れてますんで・・・」
ミミズさんは御者さんに叱られても頭をゆらゆら動かし、俺を狙っているように見える
これ懐かれてるんじゃねーわ。多分舐められてるんだ。馬の時と同じなんじゃないかな。
何で俺、この世界の動物には大体こんな扱いされるんだろう。
ちゃんと懐いてくれたグレット君が恋しいです。
御者さんは最後まで謝っていたけど、俺がイレギュラーなんだろうと思うと逆に申し訳ない。
ただそれに乗じてリィスさんは乗車賃を値切っていた。良いのだろうか。
「タロウさん、ありがとうございます。浮いた分は美味しい食事にでも回しましょうね」
「やったねタロウ!」
『やったー!』
リィスさんとリンさんが何か喜んでるけど、俺は素直に喜べない。
ハクは特に何も考えてないと思うけど、シガルは流石に苦笑いしていた。
「取り敢えず国境を出て次の国へ、ですよね、リィスさん?」
「そうですね。まずはこちらの国境を越えましょう」
ミミズバスの待合所から少し離れた程度の所に、国境とつなぐ街道を塞ぐ門が構えてある。
どうやらこちらにも連絡が入っているらしく、出る時も騒ぎにならずに静かに出れた。
「・・・そういえば今更な話なんですけど、ちょっと聞きたい事が有るんですが」
「何、どったのタロウ」
「この面子でのほほんと人気の少ない街道歩いてて大丈夫なんですかね」
「何が?」
リンさんが何言ってんだこいつって顔で見て来る。
せめて説明聞いてからそういう顔して欲しかった。
「いえ、今迄野盗強盗の類と対峙した事が有る身としては、襲われたりしないのかなーと」
「別に襲われてもぶっ飛ばせば良いだけでしょ?」
「いや、えっと・・・」
駄目だ、リンさんに問いかけたのが間違いだったかもしれない。
諦めてリィスさんに目を向けると、彼女はリンさんにため息を吐いてから口を開いた。
「問題有りません。先程の国もそうですが、次の国も安定した国力の在る国です。治安の良い国という事は、野盗に身を崩す必要が無いという事ですから」
「そんなものですかね」
「勿論自ら好んで野盗になる物も居ます。ですが殆どの者達は、国の搾取が厳しかったり、国自体の国力が無くて野盗にならざるを得ない、となって野盗になる事が殆どです。この道ならばたとえ女4人と可愛い男性一人でも、そうそう襲われませんよ」
成程。ポヘタで襲って来た連中もそれであんな事してたのかな。
今になっては確認する事も出来ない事だけど。
強盗連中は別だ。あれは人としてやっちゃいけない事をしていた。
大事な者が増えた身としては、あの手の人間を許す気はこれっぽっちも無い
後『可愛い』男って態々言ったのはなぜですか。可愛い要りませんよね。
ていうかそんな風に思ってたんですか。
いや、とりあえずそれは措いておくとしてだ。
「つまり今俺達を付けてる連中は、好んで野盗に身をやつした、って事で良いですか?」
「そういう事になるだろうねー。どうするタロウ、手分けする?」
やっぱりリンさん気が付いてたのか。
ちょっと前から少し怪しい距離感で、ずっと俺達を付けてる連中が居た。
ただ途中で人を呼びに行ったらしく、そこそこの人数で周りを囲み始めている。
「まさかこの道で出会うとは・・・運が有りませんね。多少野盗に同情します」
「運が無いのは向こう、って事ですか?」
「ええ、そうです。たかが野盗ごとき、我らが英雄に敵う訳が無いですから。とはいえ余りにも不敬。狙う獲物を違えた事を、死して悔いると良いでしょう」
生かして返す気はない、って聞こえる。中々過激な発言をされる。
まあ彼女にとったら憧れの英雄様に喧嘩売ったような物か。
「リンさん、タロウさん、あたしは向こうに行くね」
『じゃあ私はあっちー』
「んじゃあたしはこっちかなん」
シガルとハクとリンさんは、それぞれ自分の動く方向を決めた。
おかしい。俺の出番がない。リンさん、普通はどんと構えているもんじゃないんですかね。
「じゃ、散開!」
リンさんの合図で三人が散開した。
俺はリィスさんを一人には出来ないと思い、彼女の傍で待つ事にする。
おかしい。やっぱり何か役割が間違ってると思う。
あ、野盗共は数十秒で全員捕縛しました。
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