第726話お忍びの護衛です!
数日後、ブルベさんから城に来る様に正式に連絡が入った。
シガルは元々城にちょこちょこ行っていたので、シガルから連絡を貰った形ではあるが。
というよりも、俺以外は城に行ってる。
イナイもクロト連れて行ってたし、ハクもシガルと一緒に行ってたし。
俺はお家でシエリナさんの世間話の相手になってました。
「取り敢えず、前に決めた面子で向かう感じかな?」
「うん、クロト君は既にセルエスさんから命令貰ってるから、お姉ちゃんの傍で待機。近況報告には・・・定期的にケェネウが来るから、お姉ちゃんからは離れずに彼女に伝える予定」
「ああ、彼女が来るんだ。そう、なんだ」
クロト大好きな彼女がここに来るのか。親父さんの事を考えると騒動の予感しかしない。
何となくクロトをちらっと見ると、見るからに嫌そうな顔をしていた。
彼女はクロトの事を大好きな様だが、クロトは明らかに苦手そうなんだよな。
「・・・あの人、苦手」
だよねぇ。とはいえこの辺りは既にシガルが口を出しているらしいので、苦笑いしか出来ない。
セルエスさんは何を考えて彼女を補佐にしたんだろう。
本人の希望らしいけど、それでもなぁ・・・。
『ま、隊員としては優秀だからー』
そんな幻聴が聞こえてきそうだ。そもそも彼女もそういうタイプの人だし。
セルエスさんも性格に問題無いかといえば、首を傾げるタイプだもんなー。
本人にこんな事絶対言えないけど。怖いし。
「んじゃ、イナイ、行って来るね」
「いってきまーす、お留守番お願いしまーす」
『行って来る!』
「おう、行ってらっしゃい。気をつけてな」
「・・・イナイお母さん、ちゃんと守るから。お父さん、安心してね」
本日は親父さんはもう既に仕事に向かっていて、シエリナさんも家に居ない。
なのでイナイとクロトに出発を告げて城に向かう。
あとグレットはお留守番にするらしいので、徒歩で城に向かった。
家から一番近い転移装置に向かい、城の傍の転移装置から徒歩で城に入る。
城に直接入れる物は街中には無いらしい。逆は出来るみたいだけど。
一応緊急時の為に条件付きで入る方法が在るらしいけど、一般には知らされていないし、基本的に管理している兵士達も知らないらしい。
俺もやり方は教えて貰ってないし、教えて欲しいとも思わない。うっかり言ったら怖いし。
そうして城に入ると、今日は何故か騎士さんが入口で待ち構えていた。
普段なら兵士さんに伝えて文官さんに案内されるが、今日は何だか様子が違う。
シガルに目を向けると彼女は首を横に振ったので、多分何も聞かされてないんだろう。
暫く騎士の案内について行くと、以前ブルベさんの訓練を見に来た辺りまで案内された。
騎士が扉を守ってる、あの奥の通路に。
シガルは少し戸惑っている様だが、目だけで周囲を確認しながら歩いている。
騎士さんがとある扉の前で止まるとノックをして「お連れしました!」と良く通る声で告げる。
少して扉が開かれると、中に居たのはセルエスさんとリンさんだった。
ブルベさんが居るものだと思っていたので少し驚いた。何でこの二人なんだろう。
セルエスさんは何時ものニコニコした様子ではなく、目がパッチリと開いて厳しめに見える。
リンさんもその姿は知らなければまさに王妃様って感じで、凛とした雰囲気で座っていた。
「ご苦労様、貴方は戻って下さい、タロウ達は中へ」
「はっ」
セルエスさんの言葉に素直に従い、騎士さんは即座にその場を離れる。
何時もと少し雰囲気の違うセルエスさんに不安を感じながら、言われた通り中に入る。
そのまま座る様にも促されたので、リンさんの正面側の椅子に座った。
「今お茶入れるわねー」
「あ、セル、あたしおかわり欲しい」
「はいはーい」
『私もお茶のむー』
「はいはい、今入れるからまってねー、ハクちゃん」
一瞬で普段のセルエスさんに戻り、ゆるーい様子でテーブルに有ったポットをカップに傾けた。
リンさんものんびりした様子でお代わりを要求し、さっきまでの雰囲気は消え失せている。
ハクは普段通りなので特に何も言う気が起きない。
「あ、あのー、セルエスさん・・・ブルベさんは、何時頃くるんでしょうか」
「兄さんは今日は来ないわよー。話は私達が全部聞くから大丈夫よー」
「はー、お茶おいしい。あ、タロウもシガルちゃんも飲んで飲んで。これ美味しいよ」
リンさん、王妃様の格好で普段通りの態度するの止めて。物凄く違和感あるから。
ていうかその前に話を聞いているのかも不安なんだが。ホント変わらないなこの人。
「その、今日は珍しい所で話をするんですね。普段はこんな所に連れて来られないのに」
「えっとねー、今日の話は色々と堅苦しい話の予定だから、普段の部屋では出来ない、っていう設定なのー」
「せ、設定?」
「そうそうー。実際は普段通り遺跡を破壊しにく訳だけど、その建前の話が堅苦しいお話をして、それで国外に向かいますーって言う事になってるのー。まあ事情を詳しく話せない時点で、あながち間違いでは無いんだけどねー」
「あー・・・」
今回の遺跡破壊は国外なのか。
というか国外優先って元々言ってたし、今回『も』が正しいかな。
今の所、ウムル国内にある遺跡の破壊って一度もしてないはずだし。
その国外に向かう為に、向かう為の理由を話している、っていう体での集まりって事だろう。
遺跡自体も基本的には秘密のはずだし、聞かれない所で話したいって事なのかな。
あれ、じゃあ今までは何でここまで連れて来られなかったんだろう。
帝国の話だって大概機密だらけだった気がするんだけど。
「今回はねー、王妃様のお忍び外交、っていう設定ー。だからとっても内緒なのよー」
「・・・は?」
え、待って、つまりリンさんも一緒に行くって事?
「タロウ君達はその護衛ー。勿論向こうでは事情を知ってる人は居るけど、それ以外の人には王妃様だってばれちゃいけないからねー?」
「え、えっと、事情に追いつけないんですけど」
「んー? 簡単な話よー? タロウ君たちが不自然なく国外に向かって、リンちゃんが気分転換に国外旅行に行く建前の話をしてるだけだものー」
「はい?」
なんて? 今気分転換の国外旅行って聞こえたんだけど気のせいかしら。
「王妃様疲れたので、気楽にお外に出かけたいの、あたし」
「という訳なのよー」
「え、つまりリンさんの気分転換に一緒に連れて行けって事ですか?」
「そうなるわねー」
「・・・それで良いんですか?」
王妃様がそんなに気軽に行ってしまって良いのだろうか。
いや、良くないだろ。リンさんなら万が一なんて無いけどさ。
「タロウ君達も動きやすいはずよー。なんたって大国の王妃様とその護衛だもの。向こうの貴族は承知の上だから自由にさせるし、平民達はリンちゃんの顏なんて知らないしねー」
「あー・・・成程」
遺跡破壊に向かうのも気軽に行けるし、建前をしっかりする為の拘束とかも少ないのか。
それを考えれば確かに楽かもしれない。
とはいえだからと言ってそれで良いのかという答えにはなってない気がするが。
「では私共魔術師隊はその間、王妃様とは旅の仲間、として振舞えば宜しいのでしょうか」
「そうなるわねー。シガルちゃんは・・・うーん、妹でも良いかもねー。リンちゃんは年の離れた、それこそ娘ぐらいの兄弟姉妹多いしねー」
「うぐっ、そ、そんな事言い出したら、セルだってそうじゃない」
「私別に気にしないもーん。それに見た目の綺麗さには努力してるから自信が有りますしー」
確かにセルエスさん綺麗だよなぁ。普通に二十代で通用する見た目だし。
とはいえリンさんもそれは同じ様な物だと思うんだけど。
化粧も含めると三十代って一番年齢が解り難い頃合いな気がする。
「えーと、兄弟の方が都合が良いんですか?」
「いや、別にそこは特に何も。単に旅仲間で良いよ。あ、でもそうだ、タロウは少しだけ大人しくしてるようにお願いしておくね」
「へ、俺ですか?」
「うん、今回向かう国は、多分タロウにとっては気分の悪い国だと思うから」
「俺にとって、ですか?」
「そ。あたしが向かうのは建前だけど建前だけじゃないの。本当にお忍びでお話に行く理由もあるって事。今話題になってる、奴隷の話とか、ね」
―――――一瞬、俺が殺されるかと思う程の威圧を、ほんの一瞬だけ放っていた。
最後の方の声音なんて本当にリンさんかと思う程低かったし、目は俺を見ていなかった。
多分今の感覚に襲われたのは俺だけじゃない。
シガルは一瞬息が止まっていたし、ハクは笑顔が獰猛な笑みになっている。
「ああ、勘違いしないでね。例の国に乗り込みに行く訳じゃないから。ま、そんな訳だからよろしくねー。出発は明日という事で!」
一瞬で普段のリンさんに戻ったが、これはかなり腸煮えくり返ってるのかもしれない。
怖いなー。ある意味爆弾抱えていく事になる訳じゃん。
この人が怒って暴れたら俺は止められる気がしないぞ・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます