第721話クロト談義です!

「クロト君は―――――」


シガル早く戻って来ないかなぁ・・・。


「クロト君も―――――」


ここに来てから、というか、彼女につかまってから結構時間たってんだけどなぁ。


「クロト君ってば―――――」


というかこの人、クロトの話だけで何でこんなに話し続けられるんだ。

いや、何回か話ループしてるけど。

それでもさっきからクロトの事以外の話題が全然出て来ないぞ。

一方的に話される事を会話と言って良いのかどうか悩ましい所だけど。


途中までは周囲に魔術師隊の人達も居たのに、皆避難してるしさ。俺も避難したかった。

多分これは彼女の日常なんだろう。自分に疑問を持つ事は無いのだろうか。

・・・無いだろうなぁ。さっきから幸せそうに語ってるし。


「クロト君が許してくれるならお父様とクロト君二人と一緒になれたら素敵ですね!」


唐突に何言ってんだこの人。ないよ。そんな未来は永遠に無いよ。

ていうかクロトが許可したら俺が許可する前提で話を進めないでくれるかな。


そして頼むから俺の鎖骨を見て涎を垂らすのはやめて下さい。

鈍い俺でも解るほど視線が露骨だぞこの人。

この人あれだ。かなりそういう事に奔放な人だわ。多分許されるなら本当にやる人だ。


「右手にクロト君、左手にお父様・・・ああ、良いですね・・・!」


良くないよ。頼むから勝手に俺で妄想しないでくれ。

百歩譲ってその妄想は良いとして、俺本人に話さないでくれ。

涎を拭いて下さい。絶対口に出している以上の事考えてるだろ。


「これでもスタイルには自信が有るんですけどねー、多分触り心地も良いですよ?」


胸をムニムニと揉みしだかないで下さい。俺に何と答えろと言うんだ。

ていうかクロト、もしかしていつもこの調子で会話されているんだろうか。

この人子供の悪影響に感じるぞ。大丈夫か魔術師隊。


「クロト君も最初の頃は抱きかかえても逃げなかったんですけどねー」


多分身の危険を感じているんだと思いますよ。

だって貴女、さっき普通に駄目な事言ってましたし。

俺を見てクロトを想像するだけで涎が出るとか完全にヤバい人です。


「ちょーと胸元から手を入れて胸板を堪能する様になったら逃げられるようになってしまいまして・・・普通胸元が空いてたら手を入れたくなりますよね?」


ならないよ。何だよ、胸元が空いてたら手を入れたくなりますよねって。

貴女は何処のエロ親父だ。むしろその辺のエロ親父の方が自制有ると思うよ。


でもこの人本当にやってるんだろうなぁ。

ていうか俺もさっきされて鳥肌立ったし。

しかも更にさわさわと触られ、手つきがすげー厭らしかったし。


この人何時かそれが原因で捕まるんじゃないかな。

セルエスさん、この人公僕で本当に大丈夫?


「でもクロト君って普段表情の変化が少ないから、驚いた時の顏とか、少し怖がってる顔も良いんですよね・・・!」


確かに表情変化が乏しいので、その原因が貴方でなければ良いんじゃないかなと思います。

絶対それ自分のせいだろ。何でそれで逃げられるという事が解らないんだ。

いや、解ってるのにやってるのか、この人の場合は。


「耳を食んだ時の反応はもう可愛くて可愛くて・・・!」


多分可愛く咥える様な物じゃなかったんだろうな。

絶対通報物レベルの事をやったんだと思う。クロトに後でちゃんと聞いておこう。

もし本気で彼女を嫌がってるなら、親として話は付けないと。


いやもう正直アウトだと思うけど。

3アウト交代どころか9回裏3アウトゲームセットだと思うけど。


「・・・お父様はクロト君の事、可愛いと思われていますか?」

「え、まあ、そりゃ。いい子ですし、可愛い息子だと思ってますけど」


唐突に声のトーンが真面目なものに変わり、少し戸惑いつつも応える。

最初こそ流れで面倒を見る事になったけど、今は本当に息子として扱っているつもりだ。

とはいえ赤ん坊から育てた訳では無いので、親の苦労と言えるような物が何もないのだけど。

良い子過ぎるんだよなぁ、あの子。


「そう、良い子なんです。聞き分けのとっても良い子。シガル隊長の言う事も素直に聞くし、隊員の話もよく聞いていて、周囲を良く見ている。自分の立場を良く理解している」

「クロトは、頭の良い子ですからね」


俺と違って。


「ええ、頭の良い子です。良い子だから・・・彼は余り我が儘を言わないだろうし、その感情をぶつける事もしない。怒る事なんて滅多にないんじゃないですか?」

「あー、まあ、ハクに対してぐらいしか怒った所は殆ど見た事無いですね」

「だと思います。だから私は少しぐらい、不満のぶつけ所になってあげられたら良いなと思ってるんです。シガル隊長の傍に居たいのに、その不満を見せない様にしているのが解るので」

「・・・なる、ほど」


ただの危ない人かなと思ったけど、クロトの事は本当に好きなんだな。

いやまあ話してる内容総合するに見た目で惚れたみたいだけど。

最初のクロトへの誉め言葉は完全にあの幼い見た目の事だったし。


「そんな訳でクロト君は私に感情をぶつけられ、私はクロト君を堪能し、どちらにも利の有る関係かなって思うんですよ!」

「・・・」


違うかもしれない。ただ正当になるんだってこじつけたいだけかもしれない。

クロトの事がしっかり見えているのは確かなのが判断に困る。


「最近はクロト君に殴られるのも少し気持ち良くなってきてるので、もっとクロト君の激しい思いを受け止められると思うんです。あ、私これでも治癒魔術だけは他の隊長クラスより頭抜けてるんで、多少のケガぐらいなら一瞬で治しちゃいますから!」


うん、やっぱだめだわこの人。まごう事なき危ない人だわ。

殴られるのが気持ち良いってなんだよ。


「・・・クロト君の傷も治してあげられないかなーって、頑張ってるんですけど、なかなか上手くいかないんですよね。まあ彼は殆ど擦り傷さえしないし、自力で治せちゃうみたいですけど」


急に真面目な顔になってそういう事語らないで下さい。

お願いなのでどっちかにテンション統一してくれないかな。本当に判断に困る。

しかしこの人、本当にどこまでもクロトの事だけだな。


・・・ふと、今までどうしてたんだろうという疑問が浮かんだ。

現状はクロトが好きだというよりも、クロトの様な子供が好きな風に感じる。

今までも誰かに同じ様な事してきたんだろうか。


「クロト以外にも、好きになった人とか居るですか?」

「え、どうしました急に。まさか私に惚れました? お父様もタイプですけど、クロト君と添い遂げるまではちょっと・・・ああでも少しぐらいつまみ食いし――――」

「ないです」

「――――ああん、冷たい目。クロト君とそっくりぃ」


この人の扱い方全然解んない。誰か助けて。

ねえ皆さん。目を逸らさないでさ。あからさまに目を合わさない様にしてないでさ。

こっち来てちょっと俺を助けて下さいよ。


「おふざけはこの辺りにして真面目に話しますと、好きになった相手はクロト君が初めてです。ただ私はこの通りの人間ですから、信じて貰えないかもしれませんけど」

「あー・・・その・・・」


どう返事しろと言うのか。この人本当に返事に困る事ばっかり過ぎる。


「お気になさらず。問題有る性癖な事は解ってるんですよ。私の歳でクロト君みたいな子が好きって、一般的に考えて酷い性癖ですし。お父様ぐらいならギリギリ許されると思いますけど」


マジかよ、俺ってギリギリのラインだったのか。今初めて知ったわそんな話。

実年齢で言ってないよねこれ。完全に見た目の話だよね。だから俺そんなに小さくないし。


「ただ、クロト君は特別可愛いんですよ。守ってあげたくなるんです。すっごく。勿論彼の方が私なんかよりよっぽど強いのは解ってるんですけどね。でも、多分・・・」


彼女はそこで言葉を切ると少し目を伏せ、言葉を探している様に見える。

けどすぐに顔を上げると、うへへと若干だらしない笑顔に戻っていた。


「え、えへへ、何言ってるんでしょうねー。お父様が余りにも話を聞いてくれるもので、良く解らない事まで話しちゃってますね。もう、お父様ってば聞き上手ぅ」


違います。貴女がマシンガントークなだけです。

俺は単に周囲の人達と違って逃げそびれたんです。

あと話題がクロトの事だったから話を切り難かっただけです。


「あ、もしかしてお父様、本当に私に惚れちゃいました? あ、すべすべ。何て良い触り心地」

「うひあ!?」


脈絡なく顎とか耳とか触るのやめてくれませんかね! 変な声でたじゃないか!

ていうかほんと触り方がぞわっとする!


「あら、クロト君より可愛い反応♪」

「そ、そういう事するからクロトに逃げられるじゃないですかね!」

「ぐっ・・・」


あ、崩れ落ちた。


「さ、最近はしなくても逃げられます」

「落ち込むなら最初からやらないようにしません?」

「我慢が・・・我慢が出来ないんです・・・!」

「そこは我慢しましょうよ・・・」


ダンダンと床を叩く彼女に呆れてそれ以上何も言えなかった。


「あれ、タロウさん、何してるの?」

「あ、お帰りシガル」

『私には何も無しかー?』

「はいはい、ごめんよハク。お帰り。クロトもね」

「・・・ん、ただいま、お父さん」


近づいて来てるのは解ってたけど、なんかこう、うん。

何時もの調子でおかえりーって感じに反応出来なかった。


「どうしたの、変な顔し―――ああ」


シガルは傍で突っ伏している人物を見てすぐに理由を察したらしい。

だがその本人は顔を上げてクロトを見ると、ぱぁっと表情を輝かせて走り出した。


「クロト君!」

「・・・あぷっ」


クロトは彼女の胸の中に納まり、顔が完全に埋まっている。

一見無抵抗に捕まったクロトだが、一瞬逃げようとしていた。

動きを完全に読んで捕まえたんだ。

黒を纏った状態のクロトじゃなかったとはいえ、この人無駄にスペック高いな。


「ああ、久々のクロト君。ああいい匂い・・・! いい手触―――」


服の中に手を入れようとした瞬間、黒に吹き飛ばされた。

かなり良い音をあげて殴り飛ばされ、更にバウンドして通路奥まで吹っ飛んでいく。


「ふ、ふふっ、ああ、これ、これだわ・・・クロト君が帰って来たって実感出来る・・・!」


だが彼女はすぐに起き上がると、よろめきながらも戻って来た。

気のせいかな。吹っ飛んで行った時、足折れてた気がするんだけど。

治癒魔術だけは得意と言ったのは本当だったみたいだ。


だとしてもあれ食らって笑顔はおかしいと思う。

貴女ちょっと色んな意味でタフ過ぎませんか。

クロトを見ると、今まで見た事が無いぐらい嫌そうな顔をしていた。


「・・・なんで、あれで平気なの。笑ってるのおかしい」


本当に何でだろうね。俺も横で見てて疑問しか出ないよ。


「取り敢えずタロウさん、今日はもう終わったから帰ろっか」


シガルさん、反応がドライですね。もう慣れっこなんですね、これ。


「んー、でも俺はイナイを待とうかなと思ってるんだけど」

「お姉ちゃんなら遅くなるから先に帰っててって言ってたよ。さっき偶々会った時に。後タロウさんが落ち込んでたらごめんって言われたんだけど、何か有ったの?」

「あー、大丈夫、何時もの事だから。単に俺が役に立たないってだけの話」

「ああ、なるほど」


この説明で素直に納得されるのも何だか悲しい。しょうがないけど。


「あ、シガル隊長、部隊就任の挨拶を――――」

「書類を事務室に送ってるからお願い。じゃあ私は今日は帰るから」

「―――お母様が冷たい・・・!」

「お母様は止めて」


もう何なんだこの状況。取り敢えずシガルの言う通り帰るか。


その後彼女は帰ろうとするクロトに再度近づいていたが、また殴られて引きはがされていた。

終始笑顔で正直怖い。クロトの珍しい顔を見れたけど、何か素直に喜べない。


「・・・あの人、怖くないけど、なんか怖い。苦手」


うん、解る。解るよクロト。凄く解る。身の危険を感じるよな。

取り敢えず彼女に関してはクロトが殴る事を許されているらしく、それで放置の方向性な様だ。

その説明をシガルも溜め息を吐いてしていたので、あんまり納得してないっぽいけど。

しかし、うん、あの人悪意が無いだけに扱いに困るな・・・。


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