第720話クロトの良い人だそうです!
結局何の話をされたのか良く解らないまま解放されたけど、おかげでそこそこ時間が潰せた。
グレットには悪いけど良い時間だと思うし、そろそろシガルを捜しに行こうかな。
魔術師隊が良く待機している所を事前に聞いておいたので、多分迷う事は無いと思うし。
「だから、迎えに行っても良い、よね?」
言い訳する相手は誰も居ないのに、誰かに言い訳する様にそう口にする。
我ながら少し情けないと思ったけど、そんなの今更だ。
因みにイナイさんの所には行ったら多分怒られるので無しです。
少なくとも日が落ちかけるまでは会いに行く事は出来ない。
という訳でシガルさん達を迎えに行こう。
別に邪魔をするつもりは無いし、もしまだ帰れないなら待ってれば良いし。
帰った報告をするだけなのに帰って来ない時点で、多分何かをしているとは思うけど。
セルエスさんの邪魔をすると怖いので大人しくはしているつもりです。流石にそこは怖い。
そう思い歩を進めると、暫くして人の気配が増してきた。
見る感じ主に戦闘系の気配のする人達が多い気がする。
文官さんもそこそこ居るが、多分メインは戦闘の仕事の人の集まる場という事なんだろう。
魔術師系の人は私服が多い様なので、騎士さん達みたいに兵士とは解り難いな。
騎士の人達とは待機場所が違うみたいだけど、これは職種によるものか身分によるものか。
ただまあこっちにも騎士さんの姿をちらほら見かけるので、仲が悪いから別の場所、という訳ではないのだろう。
「しかし、本当に武装がバラバラだな。元々知らなかったら魔術師かどうかも区別がつかない」
一応正式な場では皆同じ外套を纏うみたいだから区別はつくけど、平時は全く解らない。
少なくともセルエスさんやゼノセスさんみたいに『ザ・魔術師』って人は少ないなぁ。
そもそも俺の魔術師のイメージは創作の『魔法使い』なので、こちらの人達からすれば彼らの格好も普通に魔術師に見えるのかもしれないが。
などと少し楽しみながらシガルを探すも、彼女が一向に見つからない。
余り範囲を広げていないとはいえ、そこそこ広めに探知は使っているんだけどな。
もしかして場内に居ないんだろうか。流石に城で阻害を使っている事は無いと思うんだけど。
「結構広めに探知してるんだけどな」
もう少し探知範囲広げようかな。どうしようかな。
という感じでキョロキョロしていると、暫くして魔術師隊の人達が声をかけてくれた。
「あ、旦那さんじゃないですか、いらしゃーい」
「こんにちは。どうかされましたか?」
「イナイ様の旦那様がこちらに何の・・・ああ、そうか、シガル隊長もだった」
「シガルちゃんならセルエス隊長と少し離れているので、もう少しかかると思いますよ」
「シガル隊長の旦那さんですよね、ここで待つならお茶でも出しますよ?」
という風に、皆さん何だか気を使ってくれている。
ただ人によって『イナイの夫』扱いの人と『シガルの夫』扱いの人に分かれてる感じ。
どっちもの夫って扱いの人も勿論居るけど、何となくそういう風に反応が違う。
多夫多妻の制度が有っても、実際に複数の伴侶が居る人が少ないせいなんだろう。
そう考えると、世間からは俺って女たらし的な感じなのかなぁ。だとしてもしょうがないけど。
今でこそ俺は二人にがっつり惚れてるけど、最初のノリは軽かったしなぁ。
いや、今は二人ともしっかり愛してるから。口に出してそう断言できるから。
「しかしそうか、やっぱりシガルは城内に居ないのか。探知にかからないはずだ」
クロトはともかくハクも探知にかからないって事は、一緒に行っているんだろう。
何しに行ったのか聞くと「聞いてないですね」って言われ、帰りの時間も解らないそうだ。
部隊組織としてそれで良いのかなと思ったけど、シガルは役職が特殊なのでそういう事も有るだろうと言われた。
遺跡の事も一応は機密なので、一般の兵士達には語られてない事も多いとは聞いている。
部隊長クラスの人が小声で伝えて来たのでそういう事なのだろう。
なので「シガルの部隊の仕事=多少機密がらみ」という感じの認識らしい。
隊員さん達はシガルの実力を認めており、あの実力なら機密の仕事も当然って感じで言われた。
「頑張ってるとは思ってたけど・・・本当に頑張ってるな・・・」
一応シガルに事情は聞いていたけど、思ってた以上に皆はシガルを認めていた。
それが何だかとても嬉しい。
彼女は何時も全力で頑張っている。その頑張りが評価されているのだから。
「シガルが褒められているのを聞くのは、自分の事を褒められるよりも嬉しいな」
俺が褒められている時の彼女はニコニコしていたが、今の俺と似た様な物なのかもしれない。
以前も似たような事が無かった訳じゃないけど、今回の事はシガルが望んだ立場での評価だ。
これは何だか気分が良くなる。何故か自分が胸を張りたくなる。
うちの奥さん凄いって言いたくなるな。実際二人とも凄いんだけどさ。
「くっろっとっくーん!」
シガルの事でぽやーっと喜んでいると、そんな声が耳に入って来た。
クロトが呼ばれたって事は傍に居たのか。
相変わらず探知に反応は無いので、もしかしたら別行動してたのかな。
なんて思って声の方に目を向けると、女性が何故か俺の方に向かって走って来ていた。
「へ?」
思わず間抜けな声を出してしまっている間に、ドンドン彼女は近づいて来る。
「おっかっえりぃー!」
「わぷっ!」
そして何故か抱き締められ、思い切り胸の中に顔を埋める事になってしまった。
でかい。いや、そうじゃない。何で俺抱きかかえられてるんだ。
つーか息が、息が出来ない。苦しい! ちょ、力強い! 早く抜け出さないと呼吸が!
「ぷはっ! はぁ、はぁ・・・く、苦しかった」
相手に敵意が無かった感じだったので、怪我させない様にもがいて何とか顔を出す。
すると俺を抱き締めている女性と目が合い、彼女はきょとんとした顔をしていた。
「・・・あれ、何かクロト君大きく、なって、る? 目の色も、普通な・・・」
「ケェネウ、大好きな彼と彼の父親間違えてるよ。確かに似てるけど体格が違うでしょうが」
「あ、ほ、ホントだ! も、申し訳ありません! クロト君と最近会えてなかったから、やっと会えると思って! その、雰囲気が似てたので! 本当に申し訳ありませんお父様!」
彼女は同僚らしき人に間違えていると言われ、慌てて俺を放すと跪いて謝罪をしてきた。
どうやらクロトを可愛がっている人らしい。
とは言っても俺とクロトでは余りに大きさが違うと思うんだけど、間違える物なんだろうか。
「いや、まあ、別に構わないですけど、そこまで似てますかね」
「そっくりです! お父様を小さくしたらクロト君と殆ど変わらないかと!」
逆じゃないですかねそれ。普通はクロトが大きくなったら俺じゃないですかね。
「それに小さくて可愛らしい所も似てますし」
「ちいさっ・・・そ、そうですか」
確かに俺は身長低いけどさ。彼女の方が明らかに大きいけどさ。
普通に立ってて俺の頭が彼女の胸の位置だし。
それでもクロトと間違えるほど小さくは無いと思うんだ。思うんだ!
「しかしお父様もこうやって近くで見ると中々・・・じゅるっ、あ、失礼」
うわ、どうしよう、今物凄く身の危険を感じた気がしたんだが。背筋がぞわっとした。
というかインパクト凄くて聞き流してたけど、さっきから俺の呼び方おかしくないですか。
「あの、さっきから言ってるお父様って、その・・・」
「クロト君のお父様ですから」
「あ、はあ、そうですか。えっと・・・」
「申し遅れました、私、ケェネウ・グル・ルダと申します。クロト君とは将来を誓い合った仲で、遠くないうちにお父様やイナイお母様にもご挨拶をと」
は、え、何て。クロトと何だって?
「あ、タロウさん、そいつのそれはただの寝言なんで聞き流して大丈夫ですよ」
「誰が寝言なのよ! 私はちゃんと起きてるわよ!」
「じゃあ寝言をぬかすな。お前クロト君に避けられまくってるだろうが」
「そ、それは、ちょっと照れてるだけだし」
「何だか怖いから苦手、って言われて泣き崩れてたの誰だっけ」
「うっぐぅ・・・!」
「あ、崩れた」
彼女の訳の解らない言葉に呆けていると、周囲からドンドン彼女に言葉が飛んで来た。
なので暫く成り行きを見守っていると、彼女は地面に崩れ落ちた。
要は彼女の一方的なクロトへの恋慕って事かね。
「これから・・・これからだもん・・・!」
ダンダンと地面を叩きながら嘆く彼女を見て、失礼ながら少しほっとしている。
彼女が本当にクロトの恋人だったら、本気でどう対応しようか悩むところだったよ。
だが彼女は急に立ち上がり、ふふふと笑うと力強い目をしながら口を開いた。
「それに私は大きなチャンスを手にしたんだから! ふふふ、今日付けで特別遊撃部隊配属、シガルお母様、いえ、シガル隊長の補佐を務める事になったのだから!」
「うーわ・・・セルエス隊長何考えてるんだろ」
「あの人の采配って時々解らないよな」
「本人に問うと「多分大丈夫じゃなーいー?」って返って来るだけだしなぁ」
「でも案外問題無い事が多いから何も言えねぇ」
「つーか部隊長にならないかって言われてたのに、態々補佐望んだのかよ。どれだけクロト君の事好きなんだよ、あいつ」
本人は力強くガッツポーズをしてるけど、周囲の反応は冷たい。
ていうか隊長になれるぐらいの実力者なのか、この人。
この国って実力有る人に癖が有るのか、癖が有るから実力が有るのか、どっちなのかなぁ。
「という訳でお父様! 今後は関わる事も増えますので、宜しくお願い致しますね!」
「は、はあ・・・」
どっちにしろ面倒臭い事には変わりないな、これは。
シガルもクロトも大丈夫かなぁ・・・。
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