第718話イナイを呼び出した理由です!

一日ゆっくり休んだ翌日、予定通り王都に向かって城に足を運ぶ俺達。

本当はイナイ一人だけで良いみたいなんだけど、俺も来るなら来て良いよって言われたから。

そしてそうなると、一緒にシガルとハクとクロトも付いて来る。


ただシガルはシガルで別行動になるんだけどね。

ウムルに帰ってきましたーって報告をしに行くらしい。

なのでブルベさんと会うのは俺とイナイの二人だ。

一応ハクとクロトはシガルの部下だからね。部下っぽくないけど。


「お前も別にゆっくりしてて良かったんだぞ」

「せっかくだし、顔出すぐらいはしておこうかなって。遺跡の件でお世話になってるし」

「遺跡関連で世話になってるのはむしろ国の方なんだが・・・まあ良いか」


まあ、確かにイナイの言う通り、本当はそうなんだろうとは思う。

けど約束してしまったから。遺跡は潰すと。

仕事として受けた事だけど、今の俺にとってはそれ以外の意味も有るんだ。


遺跡を俺一人で捜すには限界が有る以上、手を貸して貰う事が必要になる。

なら俺にとっては、こちらも世話になる事だ。

それに何だかんだと色々優遇はして貰ってると思うし。

多分、イナイの旦那、っていう所が強いんだと思うけどさ。


取り敢えずそんな訳で二人でブルベさんに会いに来てる。

城の一室で待機中だ。暫くしたらブルベさんが来るから待っててくれってさ。

今更だけどこういうのって普通は、準備出来たから呼ぶから来い、じゃないのかな。

やっぱりその辺りは、完全に王様と部下って関係じゃないせいかな。


「すまない、呼び出しておいて待たせたね」


コンコンとノックの音がした後、そんな風に気楽にやって来たブルベさん。

後ろにはウッブルネさんが付いている。二人だけなのかな。


「たいして待ってねえさ」

「なら良かった」

「前置きは要らねえ。何に怒ってんのか知らねえが、本題に入ってくれ」

「・・・やっぱり皆にばれてるんだね」

「何年付き合ってると思ってんだよ」

「皆敵わないなぁ・・・」


ブルベさんは穏やかな雰囲気で話しているから俺には正直解らないけど、イナイ達の言う通り怒っているのは本当らしい。

つーかこの言い方だと、多分他の人にも突っ込まれたんだろうな。


「じゃあ早速だけど、本題に入らせてもらおうかな」


ブルベさんは俺達の対面に座ると、その本題とやらを話し始めた。

ザックリ言うと、ウムルで奴隷が売られたり、その販売ルートの道筋にウムルが使われているという話だった。

話しているうちに機嫌が悪くなったのか、ブルベさんの声には時々静かな怒気があった。


当然それは聞いているイナイも同じであり、静かに威圧感が増して行く。

そういう器用な事するの怖いんだけどなぁ。

シガルもそうだけど、何で皆笑顔で怖い威圧感出せるの?


「成程な、喧嘩売ってやがんな・・・!」

「うん、間違いなく、ね。ウムルのやり方を理解した上でのやり口だ」


あ、イナイさん、取り敢えず話が終わるまで静かにしてただけだわ。

普通に切れてる。いやまあ、俺も正直ちょっと腹が立つけど。


この国は奴隷を良しとしていないのに、奴隷を売る為のルートに使うか。

そもそも俺は奴隷っていう物自体に抵抗あるから、その時点で少し嫌な気分だ。

ギーナさん達との関係を考えると尚の事だろう。


「とはいえ表向きは、迷惑をかけて申し訳ない、って態度だけどね」

「はっ、欠片も思ってねえくせによ」

「それは同意するよ。だけどそうである以上、私達もあまり強硬策は取れない」

「・・・ま、そうなるわな。兵出して喧嘩買うって訳にもいかねえし」

「え、何でですか? 明らかに向こうは解っててやってますし、ウムルのやり方を考えたら、奴隷制度がある国自体、余りいい関係を持てない国だと思うんですけど」


二人の会話に思わず疑問を口にしてしまった。

だって明らかに喧嘩売られてるんだから、それは相応の対応をするべきじゃないのではと。

そもそも奴隷を有している国の時点で、ウムルとは仲良く出来ない国だろうし。


「んー、そうだな、タロウ君、君は帝国をどう思う? 君の友人が治めている今の国ではなく、元帝国の事を」


俺のそんな疑問に、ブルベさんは質問で返して来た。

しかもどう思うという、とてもざっくりした質問だ。


「どう・・・うーん・・・いやな国、でしょうか」


質問内容がざっくりし過ぎてるから、こっちも何となくのイメージしか返せない。

俺の中であの国は単純に「嫌な国」って感じだったし。


「じゃあ何故嫌だと感じたのかな?」

「それは・・・あの国の貴族達の在り方があまり好きになれない感じだったので」


ヴァイさんの兄弟達は、正直好きになれない人種だった。

彼の国で出会った貴族も、自分の義務よりも保身を考える人達が多かった。


ブルベさん達の様な国に対する強い想いも、民に対する想いも無い。

貴族、なんていう立場を持っただけの、好きになれない人種の集団。

そもそも帝国は他国を蹂躙する国らしいし、その時点で余り好ましいとは思えない。


「となると・・・好き勝手にやってる国、って感じがですかね。貴族とか、上の人間達が」

「そうだね、そう思うのは普通の事だ。そしてそれはどの国もそう考えるだろう。あの国は危険な国だと、いつこちらを滅ぼしに来るかわからないと」


実際そういう話が有るらしいから、帝国に攻め込まれない様にとウムルにすり寄って来る国もあると聞いた。

今では帝国は無くなっちゃったので、その辺りどうなのか解んないけど。


「私はね、ウムルを帝国と同じにする気は無いんだよ」

「帝国と同じって・・・でも、今回の事はウムルにとっては悪い事じゃないですか?」

「そう、ウムルにとっては、奴隷は、それも孤児を売り払うなど唾棄すべき行為だ。けどね、その国ではそれが当たり前の事。私達はそれを否定してはいけない」

「・・・なんで、ですか?」


奴隷を否定してはいけないと、彼は冷静な声で返して来た。

だけどその言葉には、静かな感情ではない事が見て取れる。

だから色々思う事は有ったけど、ただ聞き返す事しか出来なかった。


「ウムルには、国全体で見れば元からウムルの人間だった者など殆ど居ない。大半が別の国の人間達だ。それはつまり、ウムルには多数の文化が存在するという事。勿論国内だからウムルとして譲れない事は禁止させて貰っているけど、それ以上の文化の否定は出来ない」


文化の否定。多国籍国家の様なこの国でそんな事をすれば、きっと反感を買うだろうな。


「勿論それは自国内だから最低限のルールには従ってくれという、国としての法だ。この国に住む上で、国民が従う必要が有る事と納得して貰っている法律だ。けどそれを他国に押し付けるならば、それはもう『帝国』と変わらない。過去戦争を起こした『亜人』と変わらない」


それは・・・そうなんだろうか。

でも今回の事は相手が先にやってきている。

二人だって『喧嘩を売られた』と言っている。

それならまた話が違うんじゃないだろうか


「もしウムルが統治の為の法以外で文化を否定するならば、ウムルという国は破綻する。それだけウムルは様々な国の人間の住む国になっている。たとえどれだけ気に食わなくとも、兵を挙げるなんて事は絶対に出来ない」

「でも、今回の事は相手がやってきていますけど、それでもダメなんですか?」

「タロウ君、私はウムルを暴君にはしたくない。もしここで兵を挙げたら、ウムルは帝国と変わらない、気に食わない者達は攻め滅ぼす国、と認識されるだろう。それじゃ意味がない」

「確かに、そうかもしれませんけど・・・」


ブルベさんは小さく溜め息を吐くと、静かに続ける。


「ウムルは自他共に認める大国になった。勿論現状は国として新興国も良い所だから、舐めてかかって来る者達も未だに居る。だけどそんな者達をいちいち武力で制圧していたら、きっとこの国は腐ってしまう。そしてきっと、そう遠くないうちに多くの敵を作って滅びるだろう」

「だろうな。稀に長期間生き残る国も無い訳じゃないが・・・たいていそういう事をやらかした国は次の代で消えている事が多いからな。帝国は例外中の例外だ」

「それにウムル国民には『愛国心』が芽生える程、この国で生きた者達ばかりじゃない。きっと内乱も起こる。内部からの分裂、そして国家の崩壊。新興国のくせに人が多いからね。元々が力で纏め上げた国じゃない以上、きっとそれは想像通りの悲惨な結末になるだろう」


イナイ迄同意して語り出した。けど、そんなに大仰な話になるんだろうか。

だってこの事だけに関しては、一国が一国に喧嘩を売ったって話だけでは無いのだろうか。


「タロウ君、君は自分にとって『良い事』とは、誰から最初に教わった?」

「え、それは・・・家族、です、かね」

「ならば家族が『悪い事を良い事』だと教えていた場合、子供もそうなるとは思わないか?」

「・・・それは・・・まあ、有るでしょう、ね」


言われている事自体は解るんだけど、その真意が解らなくて微妙な答えになってしまう。

何が言いたいんだろう。


「今回もし国王の私が『貴様らの喧嘩を買ってやろう』と武力で攻めれば、それがこの国の統治者にとって正義になる。となれば私に従う者達も同じ事をするだろう。そうなれば各地で紛争が起こり、意見の合わない多数の国と戦争にもなるだろう。簡単に言えばそういう事さ」

「そ、う、なるんですかね・・・」

「極論だけどね。けど的外れじゃない。基本的に人という物は、上の立場の人間の意向に従う。行動したのが国王となれば、自国民も『そういう国』と認識する。だから私は迂闊に動けないし、迂闊に戦争を仕掛ける様な事はしない。攻め込まれれば別だけどね」

「・・・つまり、たった一回のこの判断が、あの国は簡単に戦争を仕掛ける国だ、って思われるって事ですか。周囲にも、自分達の仲間にも」

「そういう事。勿論こちらに大義名分が有れば別だけど、現状だとただの侵略になってしまう」


国を思うからこそ、あからさまな喧嘩を売ってきている相手でも対応出来ない、のか。

それは、何て歯がゆい。


「まあ、それは武力で喧嘩を買うならの話で、喧嘩は買う気満々だけどね」

「おうよ、ぶっ潰してやる。連中と同じ舞台でな・・・!」

「心強いね。その為に姉さんには来て貰った訳だし、頼りにしてるよ」


・・・うん、俺の考えが浅かったようです。

単に武力で対応出来ないだけで、二人共やる気満々っすわ。


喧嘩を売られた、って単語の所で思考が停止してたのかなぁ。

殴り合いに来たんじゃないから、そりゃそうなるか。反省しよう。

つーか、イナイがすげー張り切ってるのがちょっと怖い。何するつもりだろう。

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