第714話帝国から去る日が来ました!
挨拶を済ませたい人達に全て挨拶を済ませ、イナイも帰る準備が整った。
それと今回の騒動の要因の遺跡も、後腐れが無い様に完全破壊している。
ヴァールちゃんが既に大体の位置を把握していたらしく、見つける事は難しくなかった
これで一応、帝国の土地は一旦は安全だ。
それで今まさに帰る直前なのだけど、どうやらアルネさんは一足先に帰った様で、俺達は家族だけで帰る事になるらしい。
クロトが居るので移動は当然ハク頼みだ。既に成竜状態でスタンバイしている。
なので街からなるべく離れた所なのだけど、ヴァイさん達は見送りをしに来てくれた。
ただ今日は沢山の護衛が付いてるので、ひっそりと見送りって感じではない。
兵士さん達がハクに結構ビビってるんだけど、大丈夫なのかね。
「お世話になりました」
「ははっ、逆だろう。世話になったのはこちらの方だ。世話になった。感謝する」
ヴァイさんは何時ものヴァイさんだ。墓の前に居た時の弱弱しさは欠片も感じない。
きっとこの人は、この先もずっとこうやって生きて行くんだろう。
強いな。俺には真似出来ない生き方だと思う。
俺はどうしても、何処かでヘタレてしまう。
イナイが、シガルが、二人が居なければ、俺はきっと立っていられない。
定期的に甘えさせてくれて、尻を叩いてくれる二人が居るから俺は俺で在れる。
「イナイ殿は、今後も宜しく頼む」
「私が直接閣下に会いに来る事は、今後はそうないとは思いますけどね」
「ははっ、それでも無関係とはいかんだろう。それに夫の個人的な友人なのだからな」
「本当にこの人は、人脈だけはおかしな事になっていますね・・・」
何かイナイが呆れた様な感心する様な微妙な感じで見つめて来る。
そんな事言われても、俺が自ら作ろうとした人脈じゃないんだよなぁ。
そもそもそんな事言い出すなら、イナイが奥さんって時点で最強じゃないですか。
国王様ですら気を遣う人だよ、うちの奥さん。そして俺も頭が上がらないというオマケつき。
「シガル殿も、その内また会う事が有るかもしれん。その時は宜しく頼む」
「はっ」
「ははっ、そう畏まらないでくれ。さっきイナイ殿に言っただろう。俺は君達の夫の友人だ。俺にとってはこの国の最高権力者よりも、そっちが優先だからな」
「ふふっ、じゃあこの場はそうさせて貰います」
シガルは一応彼とは面識が有るからか、余り硬い様子は無い。
一応最初はウムルの軍の隊長として振る舞ったけど、すぐに態度を崩した。
・・・気のせいか前のより柔軟性も上がってる様な。セルエスさんに苦労させられたせいかな。
「ハクも助かった。良ければ気軽に遊びに来てくれ」
『解った! また来るな!』
ハクはどうやらヴァイさん達の事が気に入った様で、元気よく答えている。
ただ応えられてる本人は良いんだけど、周囲がビビってるので少し声を抑えて頂きたい。
成竜状態なせいで殆ど咆哮に近かった。
「君とはあまり話す時間が無かったが、また今度機会が有れば話をしよう」
「・・・うん」
クロトは殆どヴァールちゃんに時間割いてたからなぁ。
そのヴァールちゃんは、今まで時間が有れば話しかけようとしていた割に大人しい。
一応グルドさんとヴァールちゃんも傍に居るのよね。
「殿下、後はお願いしますね」
「まあ、適度に頑張るよ。兄貴の事は姉さん達に任せるね」
「さて、もしかすると既に解決している可能性も有りますよ」
「どうかなぁ・・・姉さんを呼ぶって事は、姉さんの力が居るんじゃないかなって思うけど」
「ま、そこは帰ってみれば解るでしょう」
そう言えば結局詳細とか何も聞いて無いんだよな。
イナイは後で聞いてるのかと思ったけど、それも一切無いみたいだし。
面倒事じゃないと良いなぁ。イナイ呼び出しの時点で面倒事の予感しかしないけど。
「クロト。タロウ。兄弟達よ、また会おう」
「・・・うん、ヴァールも元気でね」
「またね、ヴァールちゃん」
彼女はグルドさんと一緒に残ると聞いている。
従僕を傍においてやらねば可哀そうだから、とか言ってたけど自分が傍に居たいだけだと思う。
多分言うと否定するしグルドさんとの喧嘩が始まりそうなので黙ってるけど。
「タロウさん。去る前に貴方に改めて感謝を」
「え、ズ、ズヴェズさん!?」
ヴァイさんの横でずっと静かに立っていた彼女が、唐突に一歩前に出て膝をついた。
「貴方のおかげで閣下は生きいます。貴方のおかげで私の願いも叶いました。本当に・・・本当にありがとうございます。感謝を。ただひたすらに感謝を」
「い、いえ、俺は自分のやれる事を。やりたい事をしただけですから」
仰々しい礼をされ思わず狼狽えて応えると、彼女はふふっと笑いながら立ち上がる。
「ええ、解っています。すみません、貴方がこういう礼が苦手と言う事は解っていたんですけど、でも伝えておきたかった。私は貴方に感謝しています。ヴァイを救ってくれてありがとう」
「あ、その、はい」
一応素直に頷いておく、か。
彼を救ったのはただの意地と我が儘だったけど、それで救われた人が居る。
それだけでも、良しとしておこう。
そんな風に持っていると、ヴァイさんに肩をポンと叩かれた。
「なあタロウ、一つ約束をしないか」
「約束、ですか?」
「ああ、タロウは俺との約束を十二分以上に守ってくれた。だから、新しい約束をしたい」
「・・・何でしょうか?」
「この先君が困る事が有れば、今度は俺が力になろう。友として出来る限りの全てを尽くそう。それが新しい俺達の約束だ。今度は俺が、君に恩を返したい。ま、そんな約束だ」
それは新しくする約束というには、少し違う気がするような・・・。
けど成程、そういう事か。それなら俺の答えは決まっている。
「その約束は・・・少し足りないかなーと」
「ほう、珍しい。君の性格上追加を求めるとは思わなかった」
「そうですか? 割と俺は欲張りですよ」
そうだ、欲張りだから、そんな約束じゃ足りない。
だからその約束にもう少しつけ足して貰う。
「そうか・・・ならば聞こう。君は何を求める。俺に何を望む。君の願いなら聞くぞ?」
「じゃあ遠慮なく。もし俺を友だと言うなら、困った時は連絡を下さい。俺だけが助けて貰おうとは思いません。お互い、手を貸しましょう。今度は手遅れになる前に」
今度は、ちゃんと、助けられる様に。
「―――――くっ、あははははは! 成程成程、実に君らしい! 確かに欲張りな約束だ! ああ約束しよう。次に君に助けを求める時は、初手で助けを求めよう」
「ええ、約束です。とは言っても俺に出来る事なんてたかが知れてますけど」
政治関連の事は助けを求められても、俺自身じゃどうしようもないしなー。
「全く、借りばかりが増える予感のする約束だ。君は借りなど気にしていないのだろうがな」
「そんな事は無いですけどね。俺も色んな人に借りてばっかりです。返せなくて困ってます」
この世界に来てから、俺はずっと助けられている。
俺は借りだらけだ。殆ど返せてなんかいない。それでも彼女達は、俺の力になってくれる。
それがどれだけ俺にとって救いになったか。
「・・・また、いつかな、タロウ」
「ええ、またいつか」
こうして、帝国での出来事は、全て終わって帰る事になる。
今回は本当に気の重い事の連続だったけど、それでも救えた人が居て、良かった。
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