第712話ハクの報告に少し頭を抱えます!
『という訳で、ちゃんと話をつけて来たぞ!』
ヴァイさん達を連れて帰宅したハクは、楽し気に今回の事を報告して来た。
いや、報告っていうか、子供が「褒めて褒めて」って言ってる感じだけど。
ただその内容は、褒めて良いのかどうか悩む物っていうのがなぁ。
「全員のしちゃったのかぁ・・・そっかぁ・・・」
『うん! どいつもこいつも怖がりながら攻撃して来るから、全然大した事無かったぞ!』
「そう・・・そっかぁ、大した事無かったかぁ・・・」
おかしいなぁ。俺が聞いてたのでは、平和的にお願いに行くって聞いたんだけどなぁ。
何で別の土地の竜を全員ぶちのめしてるのかなぁ、この子。
これで良いのかと隣のイナイに目を向けると、フイッと目を逸らされた。
あ、はい、聞くのは止めておきますね。シガルも若干困った様子で笑ってるし。
「・・・お前、馬鹿だろ」
クロト君ドストレートですね。いや正直に言うと俺もちょっと思ったけど。
『なんだと!? どこがだ!』
「・・・話し合いに行ってその相手を殴り飛ばして来るとか、馬鹿以外の何なんだ」
『だ、だって、あいつ等ヴァイの話を聞く気が無かったんだもん! それにあいつ等人間を下等って言ったんだぞ! シガルを貶されたみたいで腹が立つじゃないか!』
成程、それで少し怒って、喧嘩腰に行ってしまったと。
だとしてももう少し穏便にして欲しかったなぁ。
ん、あれ、何かクロトの雰囲気が少しおかしい様な。
「・・・そいつらの居る場所を教えろ。僕も殴りに行って来る」
「はいはい、クロト君、ちょっと落ち着こうね?」
「・・・はい」
静かに戦闘態勢に入り始めていたクロトをシガルがスッと抱きかかえる。
それだけでクロトは落ちつきを見せ、むしろ膝の上でご機嫌な様子だ。
ぽやーっとした顔なのに何故か凄くご機嫌なのが解る。
『あ、狡い! 今回は私が頑張ったのに! のけよー! そこは私の場所だぞー!』
「・・・やだ」
「はいはい、ほら、ハクはこっちにおいで」
ハクはシガルとクロトの間に顔を突っ込んで、クロトを無理矢理落とそうとし始める。
だがどうやっているのか解らないが、クロトは膝から微動だにしない。
シガルが痛そうにしている様子は無いので、多分単純に踏ん張っている訳じゃないんだろう。
そのシガルは二人の諍いに慌てる様子も無く、ハクに手を差し出して抱き上げた。
『えへへー。頑張ったよー』
「ん、ありがとうね、ハク。実際ハクが居なかったらもっと面倒だったかもしれないし」
頭を撫でられてご機嫌なハクさんとは裏腹に、イナイが少し思案した顔を見せている。
多分竜に対する警戒を考えてるんだろうな。
幾らハクがこう言っているとしても、万が一は有るだろうし。
とはいえハクのおかげで、下手な動きはしない可能性の方が大きいと思うけど。
だって、ねえ。
皆怖くて震えているのに、無茶苦茶に殴ってくる奴とか相手したくないと思うよ、普通。
少なくとも暫くは、ハクを相手にしたくないという意味で来ないだろう。
この辺りは同族だからの怖さ、っていうのが有ると思うんだよなぁ。
あくまで思うというだけなので、俺の言葉に説得力も何も無いんだけどさ。
しかし、それにしても・・・。
「シガル、二人の扱いが前以上に上手くなってるね」
「そりゃあ、暫くこの三人で過ごしてたんだもの。上手くもなるよ。目を離すとすーぐ言い合いするんだもん。ねー、二人共」
「・・・ごめんなさい」
『・・・ごめん』
シガルが少し揶揄う様な様子で二人に言うと、気まずそうに謝る二人。
どうやらかなり身に覚えが有るらしい。
しかし、そっか。言われてみればそうだよな。
ハクがシガル以外の人間の言う事を全て素直に聞く可能性は低い。
勿論聞かない訳じゃないとは思うけど、少なくとも多少の我が儘を言うのは間違いない。
けどシガルの言う事なら多分聞くし、不満でも我慢する様子を見せるだろう。
それはクロトも似た様なもので、ハクの相手をする時だけクロトは少し制御が利かなくなる。
以前よりは大分良い関係になってはいるけど、それでも全く衝突しなくなったわけじゃない。
となればそんなクロトを止めるのは、必然的に保護者の役目だろう。
普通の人には止める事すら危険な二人の喧嘩。
それを毎回止める事になる以上、シガルは慣れざるを得なかった。
こうやって見てると、完全に「お母さん」が馴染んでいる。
甘える息子をあやし、少々手のかかるペットの世話もお手の物、って感じだ。
『何か今、タロウが失礼な目で私を見ていた気がする』
「気のせい気のせい。そうやってると可愛いなと思ってただけだから」
『ほんとか?』
「ほんとほんと」
ペット枠として可愛いと思ってます。はい。
ハクは疑いながら確認をして来るが、嘘とほんとを混ぜた答えなせいかばれた様子は無かった。
お、もしかして俺、こういう風に答えれば顔に出にくくなるんじゃないか?
「タロウさん、タロウさん、顔にでてるから。今折角誤魔化したのに意味が無くなってるから」
「珍しく表情上手く消したなと思ったのに、思った端からそれかよ」
『なんだとー、やっぱり失礼な事考えてたな!』
「いたっ、ちょ、ごめん、痛い、ごめんて!」
二人の言葉を聞いてハクがベチベチ叩いて来る。加減してるのは解るんだけど結構痛い。
ハクは暫くベチベチ叩くと満足したのか、フンっと鼻を鳴らしてシガルの腕に収まり直した。
青あざになってる所が有るんだが・・・治癒魔術無かったら結構な怪我だぞ・・・。
「いってぇ・・・もうちょっと加減してくれよ。俺あんまり頑丈じゃないんだから」
『したもん!』
確かにしてたのは解ってんだけど、もう少し優しくお願いします。
取り敢えず治そう。めっちゃ痛い。
「いやー、今のはタイミング的にもバレバレだったね、タロウさん」
「せめて顔だけでも逸らせば良いのに、しっかり全員が見える位置でやったからな」
「次気を付けまっす・・・」
奥さん二人のダメ出しを聞きながら、治癒魔術で叩かれた所を治して行く。
おかしいな、何で俺への説教が始まっているのか。そういう話じゃ無かったはずなんだが。
「まあこの後の事はまだ暫くグルドが居るし、あいつが何とかするか」
「殿下の事信頼してるんだね、お姉ちゃん」
「あいつはやれば出来る子だからな。普段やらねえだけで」
近所の小さい子に向けるみたいな言葉だが、本人が聞いたら何て思うんだろう。
・・・いや、あの人イナイの事好きすぎるから普通に喜びそうだな。
「ハクも帰って来た事だし、これでやっと帰れるな」
「だねー。帰りもお願いね、ハク」
『任せろ!』
「・・・任せた」
『・・・何か腹立つな、お前に言われると』
今の会話から解る通り、実はハクが帰って来たら帰る予定になっていた。
とはいえそれもすぐ明日って訳じゃなく、イナイが少し挨拶を済ませてかららしいけど。
俺も俺でヴァイさん達に別れの挨拶はしておきたい。
それと、もう生きて会えない人達への挨拶も。
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