第710話再会したシガルの変化です!

ウムルへ帰って来て欲しい。

ブルベさんのそれは命令ではあったけど、即座に帰って来いという物では無かった。

なので帰るべくイナイは仕事を終わらせるために急ぎ、結果として夜以外は余り会えない日々が続く事になる。


「どうせなら即座に帰って来いという命令の方が助かったな。グルドに全部押し付けられたし」


イナイは結構面倒臭いのか、そんな風に本気か冗談か解らない事を言っていた。

因みにそのグルドさんは最近慣れていたのか色々諦めたのか、最初の頃程疲れた様子は無い。

ただアルネさんはふらっと戻って来たり、いきなりいなくなったり、仕事をしているのかしていないのか今一良く解らない。多分してるんだとは思うけど。


「お姉ちゃん、暇な時と忙しい時の差が激しいよね」

「あー・・・そうかも。あー、そこ、気持ち良い・・・」


因みに今はシガルがイナイの背中を揉み解しており、イナイは気持ち良さで溶けだしていた。

足元では俺が足の裏を揉んでいるので、彼女の液化は加速している。


「あっ、そこ、タロウ、そこもうちょと強く」

「これくらい?」

「うっぅ・・・ん・・・それで・・・はふゅ・・・」

「じゃあこの辺もこれぐらいかなー」


指示に素直に従いながら、黙々と足を揉む。気持ち良さそうにしているのが解ると嬉しい。

シガルが此方にやって来てからは、ほぼ毎日こんな調子だ。

まあイナイが忙しくなったのがその日からなので、当然と言えば当然なのだけど。


クロトは今日はグルドさんの所に居る。正確にはヴァールちゃんの所にだけど。

二人は別れるまで時間が惜しいと言わんばかりに良く話している様だ。

今日も眠たくなるまでは話そうと誘われ、クロトは素直について行った。

俺は彼女には悪いけど、それはなるべく遠慮してる。

だってグルドさんの「早く寝てくんねぁかなぁ」って視線が痛いんだもん。


ハクはヴァイさんにとある相談をされ、その流れで少し遠出して来ると言って、ヴァイさんを連れて出かけてしまった。

一応目的地は知っている。ここから一番近い真竜の居る場所に向ったそうだ。

どうやら元帝国領内にも真竜の住む土地が有るらしい。


ただし帝国領と言っていただけで、実際は人なんて誰も住んでいない。

触らぬ神に祟りなしと、真竜の活動範囲らしき場所には誰も近づかないそうだ。

だから別に帝国が領地だと主張しようがすまいが、帝国以外は誰も欲しがらなかった。

ただ今回ハクが来た事で、攻撃しないので攻撃しないでくれ、という事の約束だけでも出来ないかという相談をしたらしい。


『じゃ、行くか!』


ハクの答えはとてもシンプルで、ヴァイさんは何だか楽しそうに頷いていた。

ズヴェズさんは頭を抱えていたけど、そんな感じで三人は真竜の地へ向かう。

一応その際、責任者が居なくて大丈夫なのかという事をイナイが言ったのだが・・・。


「今はお前達が居るから大丈夫だろう? 今の内にしか出来ん事を済ませて来るだけさ」


と言って、ワクワクした様子でハクの手に乗って飛んで行ったのだ。

あの人なんて言うか、最初に会った時も思ったけど、すっごい適当な所有るよな。

でも何でかそれが不快じゃないのが狡いと思う。

とはいえ事実として、イナイ達が居れば大丈夫ってのも有るんだろうけどさ。


「そう、いえば・・・シガルは、何時まで休み、なんだ?」

「セルエスさんが言うには、お姉ちゃんと一緒帰ってきたら良いよとは言ってたけど」

「んっ・・・て事は、あいつ・・・事情知ってんな」

「多分そうだろうね」


この二人の会話でいつも思うけど、何でそんなに自然にそういう会話出来るんだろう。

俺だったら確実に思考時間の要る会話が、全く淀みなくされると凄く困る。

事情知ってんなって言葉に一瞬首傾げて「ああ、ブルベさんの話か」ってなるまで少し時間が必要だったんですけど。


「あいつに、付き合うの・・・んっ、大変だろ・・・」

「んー、確かに。タロウさんが良く言ってた、あの人無茶苦茶言う、っていう意味が凄く解る。びっくりするぐらい普通に「さ、やってねー」ってさらっと無茶言って来るから」

「はっ・・・てこたぁ、大分期待されてんな」

「そうみたい。そのせいか他の隊長さん達も完全に同格で扱って来るから少し困るけど。他の部隊員の人達も格上扱いだし。人を使うのはまだまだ苦手だから、ちょっと気後れする」


シガルは遺跡関連の仕事の為に、隊長職を与えられた。

だから取り敢えず肩書だけ手に入れた感じかと思っていたら、セルエスさんが結構ガチで訓練を積ませているらしい。

集団戦の訓練もやったり、人に指示を出す立場としての訓練もやっているそうだ。

無茶を言われているみたいだが、俺が言われていた物とは系統が違う気がする。


「でもあたしより、クロト君の方が大変かも。王妃様に良く相手に誘われて、しょっちゅう逃げてたから。訓練場に王妃様が見えると、ささーッと消えてくの」

「あいつ・・・ったく、王妃になっても、んっ、なーんも変わんねえんだからよ」

「そうなの、かなぁ。あたしには少し焦ってる様にも見えたけど」

「・・・どうなん、だろうな。相手をクロトに求めてるって事は、可能性はあるかもな」


・・・どうしよっか。さっきのは解ったけど今度の話良く解んない。

リンさんが焦ってるって、何焦ってんだろう。クロトが相手じゃないと駄目な事なのかな。

でも可能性って言ってるし、気のせいな可能性も有るんだろう。

有能な奥さん二人だと、自分の駄目さがすげー目立つ。ちょっと悲しい。


ていうか、シガルさんが本当に激変し過ぎなんですよ。

以前から頭は良い子だったけど、なんかこう、びしっとしたキャリアウーマン雰囲気なんだよ。

再会時は以前のまま甘えられたから気が付かなかったけど、かなり雰囲気が変わってる。


視線がいちいち鋭いし、視界も広い。

会話の反応も元気にハキハキというよりも、きりっとした様子で応えてる。

たった数ヶ月の間に、シガルだけびっくりする程成長してる感じだ。


「あたしらだって、そこの立場は、同じだけどな」

「あたしは別に、子供が生まれた後も頑張る気だよ?」

「生まれた後はな。でも、その間が大きい。ま、リンだから大丈夫だとは思うんだがな」

「王妃様が弱くなる所って、正直想像つかないよねー・・・」

「ははっ、確かに。あいつは腹がデカくても、普通に大軍ぶっ倒しそうだ」


え、なに、リンさんも身籠ったの? ああいや、そうかもしれない、って話か。

でもクロトを相手にしたい理由は何なんだろ。単純にクロトが強いからなのかな。

いや、焦ってるって言ってるし、それだけじゃないんだろうか。

・・・ミルカさんとかと、似た様な理由なのかな?


「戦士としての自分の居場所。最近はそういう物の居所の無さに、変に焦りを感じてるんだろうよ。このまま子供を身籠って、普通に王妃様をやるのか、それで良いのかってな。多分クロトはリンにとって、自分の戦士としての性能を感じるに良い相手なんだろう」

「へっ?」


揉んでない方の足で額をグイッと押され、強制的に顔を上げさせられてしまう。

顔を上げると二人はにまっとした顔で俺を見ており、それですぐに解った。

最後の言葉は、俺に対する追加説明か。理解してないのバレバレじゃないですか。

でも今回は、考えていた事はそこまでズレてなかったけど。


「あー、この感じ、ほんと良いなぁ。あータロウさんだぁ」

「・・・これで喜ばれると、ものすっごい複雑」

「あはは、ごめんね、お詫びにぎゅーってしてあげる。頭も撫でてあげるねー」


若干拗ねる様な返事をした俺の頭を抱え、楽しそうに頭を撫でながら謝るシガル。

そんな事で誤魔化されは・・・されは・・・うん、俺ちょろいわ。何かどうでもよくなるわ。

でもおかしいな、クロト相手にしてる時と同じように扱われてる気がするぞ。


「ん~、やっぱり三人で居ると良いなぁ。えへへ」


シガルはこうやってテンションが上がった時だけ、前のシガルに戻ってる感じはする。

ただ何かおかしなテンションな気もするけど。

クロトが「シガルお母さん、いっぱい頑張ったから、甘えさせてあげてね」とか言ってたぐらいだし、多分色々我慢してたんだろうな。


「今日は久しぶりに三人だし、ぎゅっと引っ付いて寝ようね!」

「それは別に普段と変わらねぇと思うが・・・昨日も一昨日もそうやって寝ただろ」

「違うんですー。昨日はクロト君が居たし、一昨日は二人共いたから違うんですー」

「・・・なんだよ、したいって事か?」


シガルの言葉にイナイが少し目を逸らしながら問う。意味は察して下さい。


「したくないかって言われたらしたいけど・・・今は良いかなぁ。なんかね、離れてる時間が長かったせいか、今兎に角くっついてたいんだよねぇ。今はそれだけで幸せ」

「・・・そっか。じゃあ今日はお前が真ん中な」

「うん!」


以内の言葉に元気良く返事を返すシガル。その様子は若干見た目の年齢が下がった様に見えた。

個人的にはこっちのシガルの方が何だか安心するので、このままの調子が良いのだけど。

まあ、それは我が儘か。彼女の成長に俺が合わせないとな・・・。

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