第681話後片付けです!

「はぁ・・・つっかれた・・・」


呟きながら腰を下ろし、その状態も辛くて地面に大の字で寝そべる。

何時間腕を上げ続けていたのか解らない程の長時間の戦闘が終わり、やっと気を抜いて腕を降ろす事が出来た。

一応まだ探知は使ってはいるが、とりあえずこれで体自体は軽く休められる。


「お疲れ、タロウ。頑張ったな」


そこに外装の中からイナイがにょきっと顔を出し、優しい顔で労ってくれた。

何言ってんだか。君こそ何度も俺のフォローしてくれて大変だったろうに。


「今回俺は二人に比べれば些細な仕事しかしてないよ。立ち止まって銃を撃ってただけだもん」


もし全快状態ならもっとやり様は有ったし、イナイの負担は少なかった筈だ。

けれども俺はこんな状態で戦場に立ち、中途半端な迎撃を続けた。

勿論一切が無駄で役に立ってないなんて見当違いな事を言う気は無いが、それでも二人に比べれば大した仕事は出来ていない。


「何を言っているのか。お前が居るから俺達は今回かなり有利に事を運べている。謙虚なのは構わないが、あまり過小評価し過ぎるのは良くないぞ」


そこにアルネさんがやって来て、俺に叱る様にそう言った。

過小評価と言われてもな。二人の動きを見ていた以上、それが事実としか思えない。

だって俺は、何度か手が止まっている。自分を叱咤して何とか最後まで立っていた様な物だ。


「そう、ですかね・・・」


顔を横に向け、無残な戦場を眺める。

そこいらに飛び散った肉片は、一体何人分だろうか。

あの肉片を俺は作り出した。作り出さなきゃいけない立場だった。

なのに俺は、何度か手が止まったんだ。それは俺自身が認められない。


「はぁ・・・全く、変な所で頑固だな、お前は。素直な様で、アロネスと同じだな」

「変に拘るのは否定しませんが、あの人程捻くれてはないですよ、俺」

「ははっ、確かにな」


納得されてしまった。いやまあ、あの人のひねくれ具合と一緒にされても実際困るけど。

しかし陽気だなぁ、アルネさん。普段通り過ぎてそれが少し安心する。

この状況でそんな態度を取れるこの人も、やっぱり戦場に慣れているんだろうな。


「お前が気に病む気持ちも解る。だがなタロウ、今回の事は紛れもなくお前が一番の功労者だ。けして周囲に公表する事は無いが、俺達の中でその事実は変わらない。そうだろう、イナイ」

「ああ、今回の事は、全てお前が鍵だ。お前が居なきゃもっと被害は大きかっただろう」


二人の言っている事は、一応解っている。

この街に戻って来た時に、ヴァイさんの素性や今回の作戦の事を説明されている。

俺がいなければそれら繋がる事は無かったし、ウムルの兵士達の犠牲も増えているだろう。


ヴァイさんと俺に繋がりが有ったから、ブルベさんは帝国に手を出す事を決めた。

彼が死にかけていた時、俺が助ける事が出来たから予定通り介入出来た。

俺が作ったローブの存在が有ったから、騎士達にその技術を使った鎧を提供出来た。

この街に来た時にあっさりと死体兵を見つけ出せたから、その分余計な警戒を省けた。

銃を大量に持って来た事で、今の兵の量でも街を守る算段もついた。


これらは全て俺がいたから出来た事だと、そしてそのおかげで救われる命が有るのだと、ヴァイさんからは頭を下げて感謝をされ、イナイ達にも褒められながら言われた。

勿論その事自体は理解している。きっと本当なんだろうと解っている。

それでもやっぱり、俺にはこの量の死体を正当化する事は出来なかった。


彼等が生きている間に手を差し伸べたのならばともかく、死んでからの処理をしただけなんだ。

勿論その覚悟は決めていた。だからこそ最後までやる為にここに来ていた。

だけど、やっぱり、相変わらず俺は弱いという事を知るだけになっている。


「ありがとう、ございます・・・とりあえずあの死体、焼いて来ます」


アルネさんが壁にしている死体達は、完全に機能不全にはなっていない。

半端に潰れた状態のまま積み上げられ、今も微妙にうぞうぞと動いている。

あれもちゃんと、片づけてあげないと。


「良いよ、タロウ。お前は休んでろ」


けどそれをイナイが制し、彼女は死体の山の前に飛んで行った。

そして即座に魔術で死体を焼いて行き、業火が周囲に有る死体達もろとも焼き尽くしていく。

その匂いに自分の一度経験した地獄を少し思い出し、少しだけ吐き気が上がって来た。


もう大分振り切ったと思っていたつもりだったが、やっぱりまだしこりになって残っている。

街が一つ滅んだあの出来事は、今でもやはり忘れられない。

血と臓物が焼ける匂いで、今の弱った心があの出来事をフィードバックさせようとする。

それを我慢して吐き気を堪え、目の前の出来事を目に焼き付ける。


これが戦場なんだと。俺の愛した人はこんな世界を生きていたのだと。

こんな世界で戦って、生き残って、俺にその辛さを甘えている人なんだと。

その彼女が後始末をしてくれている。なのに目を逸らして辛いなんて言っていられない。


「アルネさん、今生きてる人は、救えますよね」

「・・・救える、と言ってやりたいが、お前も知っての通りまだ人は死ぬ」


ここだけの優しい言葉などアルネさんは言わず、これから起こる事実を口にする。

死体兵と戦っている騎士達はきっと無傷とはいかないし、死傷が出る可能性は有るだろう。

それに何よりも、ヴァイさんがやるべき事をやりに行っている。

兄弟を殺しに、そしてそれに従う者を殺しに行っているんだ。死者は確実に出る。


「解ってます・・・すみません、また甘えました」

「気にするな。むしろお前の歳で完璧にしっかりされている方が扱いに困る」

「そういうものですか?」

「そういうもんさ、俺にとっては。だからあいつらは扱い難い。どこまでも無理して頑張るから本当に何時までも目が離せん。どいつもこいつも若造が無理をするから困る」


アルネさんはイナイを見て、少し悲し気な表情を見せた。

珍しい表情に少し驚いて呆けていると、彼は照れくさそうに笑う。


「あいつ等には内緒で頼む。俺は有事以外は昼行燈で良いんでな。ロウの様に肩ひじ張り続けて生きるのは疲れる。俺はもう少し気楽に生きたい」

「ははっ、何ですかそれ。解りました。黙っておきますよ」


ふと、少しだけ気分が軽くなっている事に気が付く。

些細な会話だったが、今の会話で少し気持ちが持ち直していた。

わざとなのか天然なのか解らないが、彼のおかげでそうなった気がする。


その事に心の中で礼を言いながら、彼女の作業を眺める。

あれが終われば俺達は一旦皆休憩だ。

ヴァイさんの連絡がくればまたひと仕事だから、それまでしっかり休めておかないとな。

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