第680話二人の遺跡でのお仕事ですか?

すみません、タイミング的にこの話ここじゃないのは解ってるんです。

でも書いちゃったんです。ごめんなさい。許して。




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『暗い・・・前の遺跡もそうだったが、光源ぐらい用意出来なかったのか』


遺跡に入ってから暫く、ハクはずっと僕の後ろで文句を言っている。

多分お母さんと一緒に居られない時間が長くて機嫌が悪いんだろう。


「・・・煩い、無くても見えてるなら良いだろう」


だからって八つ当たりを甘んじて受け入れてやる気は無いし、黙っている気もない。

遺跡に入ってからずっと言い合いをしながら歩を進めている。


「・・・良くそこまで文句を言う内容が有るな」

『当たり前だろう。私がどれだけ我慢していると思ってるんだ』

「・・・普段が自由過ぎるんだから少しくらい我慢しろ」

『なんだと? 隙あらばシガルの膝に乗っているお前に言われたくないぞ』


コイツの不満はどこまでもシガルお母さんの事に帰結する。

確かに僕は良くお母さんの膝の上に居るけど、最近はお母さんが乗せて来る事が多い。

多分お父さんに会えないのが寂しくて、僕にお父さんを重ねてるんだと思う。


だからお母さんの為にも傍に居るのだから、ハクに文句を言われる筋合いはない。

たとえ僕もそれが良いのだとしても、お母さんが望んでいるんだから良いんだ。


「・・・ただの『友達』のお前と違って、僕はお母さんの息子だ」

『はっ、息子と言っても養子だろう。しかもお前の正体を考えれば大分年上の息子じゃないか』

「・・・僕は僕だ。だから僕は子供だ」

『私だってただの『友達』じゃなくて『親友』だ。お前とは想いの強さが違う』


想いの強さが違う?

ふざけるな。僕だってお父さん達への想いはお前に負けるつもりは無い。

お父さんとお母さんの為に遺跡の破壊に来ている。

遺跡に近づく事が自分にとって悪影響と解っていても向かうのは、大好きなお父さん達の為だ。


「・・・聞き捨てならない。まるでお前が一番お母さんの事を考えてるみたいじゃないか」

『少なくともいきなり行方をくらまして何度も心配をかけたお前よりは考えているぞ』

「・・・本当に腹が立つな、お前は」

『お互い様だろう』


お互いに睨み合い、ハクは唸り声すら上げている。

そうして最深部までずっと言い合いながら、石櫃の有る部屋に辿り着く。

お互い前を見ずに文句を言い合っていたので気が付くのが少し遅れた。


「・・・ここも同じ形か」

『目新しい物は無いな。つまらないなー』

「・・・面白さを求めて来たのか、お前。さっきお母さんの為とか言ってたくせに」

『なっ、上げ足を取るな! それはそれだろう!』


目的地に到着したのだけど、それでも文句の言い合いをしてしまっている。

こんな事をしている場合じゃ無いし、早く片付けないといけないのに。

という想いは有るのだけど、どうしてもこいつと二人きりになるとこうなってしまう。


「・・・ん、今」

『・・・ああ、動いたな』


けどその最中、石櫃の蓋が少し動いた。

ハクもそう感じたようで、お互い文句を言うのは止めて石櫃に視線を向ける。

するとやっぱり蓋は動いていて、暫く待つとごとりと外側に落ちた。

それと同時に魔力が大量に石櫃に吸われて行く。


『魔人か、それともお前と同類か、どっちだ?』

「・・・多分、魔人。核は動いてない」


ここの遺跡も失敗作の様だ。核は形を持って顕現する程の力はない。

勿論命を吸い上げようとはしてるけど、今のハクには通用しない。


『魔人と戦うのは初めてだが、さて、どの程度の物かな』

「・・・多分期待外れだと思うぞ。お前なら魔人程度大した相手じゃない」

『そうなのか? あのイナイ達が苦戦した事が有ると聞いたぞ?』

「・・・対処出来ない能力持ちだっただけだろう。本来はお母さん達の相手になる様な強さじゃない。あいつ等は元が弱い。本当に強い人なら魔人にならない」


・・・魔人にならない? 今の説明は完全に無意識に口にしていた。

多分僕の中にある昔の記憶の情報なんだろう。


強いと魔人にならないのか。それならお父さんが魔人になる可能性は無いのかな?

解らないな。もうちょっとしっかり全部の記憶が有れば便利なのに。

いや、それはそれで怖い。そうなると僕は僕でなくなりそうだから。


『出て来たぞ』


ハクの言葉で内に向けていた意識を石櫃に戻す。

するとそこには真っ赤な目と赤い髪の、怖いあの人に似た容姿の魔人が立っていた。

違うのは髪の長さかな。お尻の下まで有る長い髪だ。


顔つきは良く覚えていないので、似てるって言って良いのか解らないけど。

後は服を着ていない。真っ裸だ。ただ怖い人と違って、この魔人は全然怖くない。

魔人は石櫃から出て僕の傍まで来て、膝を突こうとして中途半端な所で止まった。


「・・・フ、フドゥナドル様・・・な、なぜ貴方がベドルゥクと・・・?」


隣に居るハクに視線を向けて、戸惑う様子で問いかけて来る魔人。

彼女にしたら僕は使えるべき主で、ハクは抹殺すべき敵だからだろう。

本来僕達は並んで立つ存在じゃない。お互いに殺し合う存在だ。


それでも不思議な縁の重なりで、こうやって何故か一緒に立っている。

これをうっとおしいと思いつつも、何処かで少し嬉しい自分は否定したい。

ハクの事は嫌いだ。嫌いで良い。


「・・・残念だけど、僕はフドゥナドルじゃない」

『私もベドルゥクなんて名じゃないぞ。私の名はハクだ』


僕達の答えに魔人は更に戸惑う顔を見せ、立ち上がって数歩下がる。

そして僕達をまじまじと見ながら、どうしたら良いのか考える様子を見せていた。


「・・・僕はお前の主じゃない。けど、その力を持っている。だから聞きたい事が有る」

「はっ、な、何なりと申し付け下さい!」


けど僕が話しかけると、魔人は慌てて膝を突いて頭を下げた。

どうやら彼女にとっては、僕の容姿や性格よりも力その物が重要な様だ。

ハクを見てベドルゥクと言った辺り、彼女の眼には僕達の容姿がそのまま見えている訳では無いのかもしれない。


「・・・人間に危害を加えず、大人しく生きる気はある?」

「・・・は?」


魔人は今何を言われたのか全く解っていない顔をしていた。

そしてまるで主が乱心したと言わんばかりの目で僕を見つめ始めている。


「フ、フドゥナドル様、一体、何を。どうされてしまったのですか?」

「・・・どうも何も、人間を殺さないかどうかって聞いてるだけ」

「そ、それがどうかされたと言っているのです。人間はすべからく。いえ、生命は貴方にとって全て刈り取る対象ではありませんか!」


生命をすべからく、か。

この魔人は自分の言っている事を解っているんだろうか。

それはお前達も例外ではなく、最後は僕に殺されると言っているのだと。


「・・・そんな事はしない。僕はそんな事は望まない。平和に生きて行ければそれで良い」

「なっ・・・!?」


先程より一層驚きの顔を見せ、立ち上がってヨロリとふらつく魔人。

余程ショックだったのだろう事は解るけど、この様子だと和解は無理だと察せた。


「キ、キサマはフドゥナドル様ではない! 確かにその力はあの方の物だが、あの方がそんな事を言うはずがない! 何故だ! 一体貴様あのお方に何をした!」

「・・・成程、そういう結論になるんだ」

『なあ、多分これ以上話し合っても無駄じゃないか?』


魔人の言葉に頷く僕に、ハクがもう諦めろと言って来た。

これ以上の問答は時間の無駄だと。

多分遺跡の機能に抵抗するのが疲れてきて、早く済ませたいんだろう。

魔人はハクの言葉に怒りを見せ、激昂のままに口を開いた。


「ああ、話し合いは無駄だろうな! 貴様達を殺してフドゥナドル様を元に戻し、そのままここいら周辺の人間を全て抹殺し―――」


そこで、魔人の言葉は途切れた。


「・・・誰を、殺すって?」


黒を打ち放ち、魔人の頭部を削り取った。

魔人は抵抗する暇もなく、そのまま体は崩れ落ちる。

やっぱり弱い。正面からまともな勝負じゃ相手にならない。


『何だよ、つまらないな。私にやらせろよ』

「・・・お前は遺跡を止めろ。ここだ」

『・・・はいはい、解ったよ。私に怒るなよ。殺すって言ったのはこの魔人だろう』

「・・・怒ってない。八つ当たりなんかしてない」

『聞いてもいないのに言ってる時点で話にならないぞ。まあ、お前がやらなきゃ私が即座に殺していたけどな』


ハクはそんな事を言いながら、遺跡の機能を破壊した。

魔人が周辺の者を抹殺すると言った事で、上に居るお母さんが頭に浮かんだ。

そのせいで怒りで意識が埋め尽くされ、気が付いたら黒を放っていた。

本当はもう少し会話するつもりだったんだけどな・・・。


「・・・はぁ・・・魔人の封印も頼む。僕じゃ出来ない」

『ふっ、役立たずめ』

「・・・煩い」

『そういえば、お前なら魔人を消滅出来るんじゃないのか?』

「・・・出来ると思うけど、取り込む事になる。気持ち悪いからしたくない」

『面倒臭い奴だな・・・ほら、終わったぞ。私は先に戻ってるからな』


ハクは魔人を封印し終わると、僕を置いて転移で遺跡の外に出て行った。


「・・・あいつ、僕が居ない間にお母さんに甘える気だな」


そうはさせるかと、全力で走って遺跡を出る。

するとやはりハクはお母さんに甘えていて、疲れたと言いながらべたべたと抱き付いていた。

でも傍に居るこの国の偉い人が報告を欲しそうにしていて、お母さんは困った顔をしている。


そして僕が出て来た事に気が付き、ほっとした顔を見せてくれた。

多分ハクから無事だとは聞いていたけど、出て来るまで心配してくれていたんだろう。


「・・・お母さんから離れろ。迷惑そうにしてるじゃないか」

『何でお前にそんな事言われなきゃならないんだ。そんな訳無いだろう!』

「・・・お母さんは優しいから言い難いだけだ」

『ああ? だったら普段のお前こそ迷惑だろう!』

「もう、二人共こんな所で喧嘩しないの!!」


睨み合っていると、シガルお母さんに頭を叩かれてしまった。

ハクも叩かれて涙目になっている。僕も痛い。最近お母さんの力が強い。

その後は大人しく遺跡の事を報告し、帰り道は御者台に三人で詰めて座って帰る事になった。



何でハクがお母さんの横で、僕が更にその横なんだ。納得いかない。

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