第679話余裕が出来た弊害です!

「何あれ怖い」


死体兵の下半身を的確に潰し、大量の死体兵をほぼ一瞬で行動不能にしている化け物が居る。

更にそれを積み重ねる事によって障害物を作り、死体兵の行動を阻害。

それを避けて通る者達は同じく潰され新しい障害物の一部にされてしまい、障害を乗り越えていく者も悉く潰されそれも壁の一部にされる。


何が怖いって、クッソデカい斧をブンブン振り回しながら高速移動してて、それでいて攻撃が雑じゃ無いのが物凄く怖い。

ていうかあの人あんな速度で動けたんだなー。初めて見るよあんな動き。

さっき皇帝との決着を偶然見たけど、あの一撃はやばかった。


ブルベさんやリンさんの一閃よりは遅かったけど、それでも今の俺じゃ絶対に躱せない。

つーかあんな広範囲にあの速度での攻撃とか反則にも程が有るだろ!

バックステップなんか絶対間に合わねーし!


多分あの人の事だから、避けたり逸らしたりにも容易く対応して来るだろう。

アルネさんには色々な型を教えて貰ったので、あの人の動きの綺麗さは良く知っている。

あの身体能力に技術も有るとか、今更だけど本当に隙が無さ過ぎるだろ。


強化とか一切かけてない状態であれだもんなぁ。

リンさんとアルネさんにセルエスさんが強化かけたら無敵なんじゃね?

・・・うん、誰にも止められる気がしねえわ。


「それが味方なおかげで今凄く助かってるけどさ・・・」


遥か前方でそうやって死体兵を潰してくれているので、俺はさっきより大分楽になった。

俺は俺で別方向の連中に対応しており、イナイの負担も大分軽減している。

とはいえイナイはイナイで縦横無尽に外装で駆け巡ってて怖いけど・・・。


「二人とも、解ってたけど強すぎるな・・・」


死体兵達にもし意識が有れば、恐れて逃げ出している光景だろう。

たった二人の人間に、大量の兵士が容易く潰されて行っているのだから。

少なくとも俺なら途中で逃げる。こんなの相手にしたくない。


それにイナイは接近戦だけじゃなく、魔術での広範囲攻撃もしている。

なんか普通の魔術とは魔力の流れが少し違うので、多分外装による魔術だと思う。

魔導技工剣の魔力の流れに似ている。多分仕組み自体は同じなんだろう。

ただ一撃一撃の威力と魔力量がおかしい。あんなのに向かっていく奴は感情が死んでる。


「とはいえ・・・今は俺も人の事は言えないか」


道具頼りとはいえ、俺も二人と同じ様な事はしている。

未知の道具をもって殲滅していく様は、それだけ見れば二人と大差ない。

とはいえ二人と俺の差は激しく開きが有りはするけど。


「余裕が出て来たのは、良いのか悪いのか」


相変わらず銃で敵を殲滅しながら、周囲の光景を改めて見る余裕が出来てしまった。

軽口を叩きつつだが、それは自分をここに立たせる為に口にしている様なもの。


正直腕はすぐにでも降ろしたいぐらい重いし、むしろ寝転がりたいぐらい体が痛い。

戦闘開始からずっと全身が痛いし、頭痛も中々に強敵だ。

それを何でもないと自分に言い聞かせる為に、普段の軽い調子で独り言を口にしている。

・・・ついさっき迄は。


今は少し違う。前に死体が在る。後ろにも死体が在る。当然左右にも大量の死体が在る。

元々死んでいた人達とはいえ、その死体を再度潰す作業。

今やっている事は死体を本来あるべき死体に帰す、そんな訳の解らない作業だ。


骨が、肉が、内臓が、周囲にこれでもかと言うほど散らばっている。

そんな中央で俺は立ち、今もその死体のミンチを作り上げている。

この光景を普通の状態で見ていられる程、俺は戦場に慣れていない。


「軽口でも叩いて無いと精神がもたねえっつの・・・!」


さっきは戦闘自体に必死で気が紛れていたが、周囲を見る余裕が有ると雑念が強くなる。

リロードをする余裕も出てきたせいで、余計に周囲が良く見える。


「子供も交じってやがった・・・クソが・・・」


見た時は一瞬引き金を引くのが遅れた。そのせいでイナイの負担を増やしてしまった。

ここに攻めて来た死体兵は兵隊達だけじゃない。

恐らくどこかの村や町で殺された、ただの一般市民も混ざっている。


それでも彼らを救う事は出来ない。治す事は出来ない。

出来るのはここで肉塊に変えてやる事。

死体だった彼らを、彼女らを、元の死体に変えてやる事だ。


「相容れないな・・・連中とは・・・!」


リロードの終わった銃の引き金を引きながら叫ぶ。そうでもしないとやってられない。

説明されて解ってはいた。唯一話した魔人も話が碌に通じなかった。

だけどどこかで、何処かに一人ぐらい話の通じる奴が居るのではという想いが在った。


その想いが間違っているとは今も思わない。

種族で危険と判断するのは、亜人を差別する者達と何ら変わらない。

だけどこの光景に、老若男女関係無く虐殺されている事実に、魔人を危険視する考えは理解できてしまう。


「ああ、くそ、腹立つ・・・!」


胸糞が悪い。目の前の光景が気持ち悪い。その光景を作り出す要因の存在に腹が立つ。

こんな想いを積み上げる事になるなら、そりゃブルベさんも即殺の思考になるよ。

余りに性質が悪い。殺意が沸いて来る。


「・・・ごめんな。君らの事は助けてやれなくて」


口にして、今は駄目だと自分を叱る。それ以上口にしては視界が滲む。

腕が止まる。心が止まる。戦えなくなる。

今やるべきは謝罪じゃない。謝罪をするなら一刻も早く彼らを止めてやれ。

彼等を助ける唯一の方法は、ここで完全に肉塊に変えてやる事だ。


「ありったけ持って行け・・・!」


作った弾丸をここで全て使うつもりで引き金を引く。

二人に任せたりなどしない。この死体の山は俺の判断の先に出来た物でも有るんだ。

出来る限り、やれる限り、自分の手の届く範囲の死体は潰す・・・!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る