第677話戦闘が長すぎて苦痛です!
樹海から持って来た銃をとにかく乱射し、弾が切れたら即座に別の銃に持ち替える。
そして人数の多い所をなるべく狙ってまたぶっ放し、死体兵を吹き飛ばしていく。
弾を装填せずに銃その物を変えているのは、装填の時間が惜しいからだ。
今の俺は動きが鈍い。たったそれだけの時間でも死体兵はどんどん攻め上げて来る。
「あ、また少し取りこぼした・・・イナイ、ごめんよう」
討ち損じた分はイナイがカバーしてくれるとはいえ、自分に向かって来る訳じゃ無いのにこの量をどうにかするのは、流石の彼女でも厳しいだろう。
出来る限り俺の所で数を減らし、彼女の負担を減らさなければ。
「まあ抜かれても、一応多少なら何とかなるけど・・・」
たとえ俺達が突破されて街に近づかれたとしても、そこには俺の作った銃を持つ兵達が居る。
無駄に大量に作った試作品がこんな風に役に立つ日が来るとは皮肉なもんだなー。
本当の銃としての機能はどれもクソみたいな物なのが悲しい。
心許ない事があえて有るとすれば、弾数が余り多くないという事だろうか。
死体兵が攻めて来るまで弾を作り続けたが、そこまで大量に作る事は出来ていない。
作る際に魔術を使う必要が有るから体が痛むのも、数が作れていない原因ではある。
足を止めて乱射しているのも同じ理由だ。この銃は使うのに魔力操作が要る。
勝手に魔力を吸い上げて来るので操作せずとも使えはするが、そうすると俺じゃあっという間に魔力が無くなってしまう。これはシガルに渡した比較的新しい物と違い、作りが雑なせいだ。
長期戦闘をするならば、どうしても魔力操作だけは我慢して実行する必要が有った。
おかげで体の至る所が軋む感覚がする。凄く痛い。
「いっつ・・・くっそ、キリが無い。どんだけ兵隊つぎ込んでんだよ」
とはいえその長期戦がいつまで続くかと思うと、どうしても悪態が出てしまう。
探知も使わないと危ないと思い使っているが、そのせいで精神的に苦痛になってくる。
数えるのも馬鹿馬鹿しい量の死体兵達が襲って来るのを、俺達三人だけでどうにかしなければならないのだから。
ウムルからの応援はあの街にも来てはいる。
けど彼等は全員街に居る死体兵達の対処に割かれていた。
もし奴らが暴れた時に、即座に対処出来るように常に一体を複数人で見張っている。
死体兵達は全員俺が見つけた。
街に来た時に探知に引っかかる人間におかしな存在が居たからだ。
探知には引っかかるし、確かにそこに居る。だけどその人物からは気功の力が一切見えない。
浸透仙術を会得したおかげで、距離が離れていても気功の力が良く解る事が役にたった。
彼等は生きる力を身に宿していないのに、何故か動いて生活をしている。
自意識は有るしコミュニケーションも取れているが、意識の有る死体は既に皇帝で確認済みだ。
ならばあれらは魔人が潜ませた死体兵だろうと判断し、街の情報を魔人に誤認識させる為にあえて泳がせていた。
勿論俺が判断した訳では無く、アルネさん達の判断だ。
そして何時暴れ出しても良い様に、ウムルからの応援は全員そちらに割かれているという訳だ。
因みにその応援は隠密に長けた人達ばかりだ。やる事がやる事なので当然と言えば当然か。
本来はスパイ的な仕事の人達らしいが、その中でも戦闘能力の高い人間だけが配置されている。
「もし暴れて倒してるとかなら、半分ぐらい応援に来てくれないかなー。正直三人じゃ本当に辛いよ。何時まで戦わなきゃいけないんだ、これ。ビビって逃げるとかもしてくれないし」
いやまあ、逃げられると追いかけて全滅させる必要が有るので、それはそれで面倒なのでご勘弁願いたいけど。
こんな形になっているのは、全てはここに奴等を攻め入らせる為だ。
これは魔人の戦力の最終確認をする為の行動でもある。
ウムルは既に帝国を包囲しており、死体兵を切り捨てながらその範囲を狭めていっている。
兵隊という材料で囲いを作り、ゆっくりと魔人の逃げ道を誘導する様に。
そしてそれは上手く行っていて、死体兵はどんどん数を減らしている。
ウムルの死者は殆ど出ていないし、魔人に兵力を与える余地は無い。
ならば魔人は逃げるか対策を取るかのどちらかの手段に出るのが普通。
勿論想定外の事も有りえはすると思うが、それはそれで対策は考えているらしい。
むしろ予想外な事が起こってくれた方が楽で良いかもしれないとブルベさんは言っていた。
「想定通りなのは良いのか悪いのか・・・!」
魔人はアルネさんの力を見ている。なら彼の力を欲してもおかしくはない。
その為に攻めて来るのであれば、彼を殺せるだけの戦力か策を弄するだろうと予想していた。
想定通り、魔人は使える戦力を大量に注ぎ込んでアルネさんを殺しに来た様だ。
ヴァイさん殺しに来る可能性も有るって言ってたけど、彼には護衛が付いているので問題無い。
そしてもし何かしらの策で隙をつくというそぶりを見せるならば、アルネさんを殺せるだけの戦力が無いという事になり、このままウムルの兵隊達で押し込める事が確定する。
逆に更なる戦力を持ちだしたならばそれをイナイとアルネさん二人がかりで叩き潰し、俺と兵隊達でその間を凌ぐつもりだった。
「後者の方が多分楽だったよな、俺は」
多人数で遠距離からガンガン撃つだけの作業になっただろう。
ただ街に辿り着かれると危険極まりないし、死者が出る可能性も有る。
そう考えると後者でなくてやっぱり良かったんだろうな。
死体兵達は確かに強いし数も半端じゃない。
だけどこの程度なら、時間さえかければどうにか出来る。
皇帝との戦いも特に問題なさそうだし、これはこのまま予定通りに事が進むんだろうな。
皇帝の動きはかなり良く、多分今の俺ではかなり危ないぐらいに強い。
四重強化でギリギリ対応出来るかどうか、といった感じだ。
その相手にアルネさんは涼しい顔で対応している。
ただなんか、わざと決着つけずに戦闘を長引かせてる気がするのは気のせいかな。
何か考えがあるのかもしれないけど、出来ればとっとと決着つけてこっち手伝って欲しい。
「うおっと、危ね!」
殆どの連中は俺達を無視して突っ切って行こうとするが、偶に思い出した様に攻撃される。
それを修復したローブで防ぎ、銃で反撃してそのまま他の連中も巻き添えにしていく。
これも魔力操作が必要では有るけど、強化や保護を使い続けるよりはとても楽だ。
作り上げた過去の自分を褒めてあげたい。マジ役に立ってる。
「ヴァイさんの方は大丈夫かな・・・」
彼の素性はこちらに来る前に、状況確認でウムルの城に訪れた時にブルベさんに教えられた。
帝国第二皇子。そして兄弟達を殺して国を滅ぼそうと画策している人物だと。
多くの人間を救う為に、多くの人間を殺すつもりの人だと。
彼はそれを今からなさなければいけない。
魔人にやらせるのではなく、自らの手で人を殺しに行く。
兄弟を、殺しに行く。全てのけりをつける為に。
「っ、また抜かれた。くっそ、今は人の事心配してる場合じゃねーや」
後ろで抜かれた死体兵を処理するイナイを確認しながら、今やるべき事に集中する。
つってもやっぱ体も心も辛い。本当に数が多すぎるよ・・・。
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