第673話シガルは大人になるのですか?
あたしは今、国外で遺跡破壊の為に移動をしている。
国家間の移動自体はハクにお願いしたのだけど、国内移動はグレット頼り。
ハクに乗せて貰って国内移動するのも目立つし致し方ない。
これは国内で他国の兵士が転移で移動するのを嫌がられ、だからと言って転移装置が有る訳でもないので地道な移動手段を使うしかないせいだったりもする。
後はあたし達だけでの移動も出来ず、国内の責員者の人が一緒なのも車移動の理由の一つ。
・・・ただクロト君が居るので転移出来ない、っていうのは伏せているけど。
「タロウさん、大丈夫かな・・・」
ほんの数日のすれ違い。そのせいで倒れたタロウさんの看病に向かえずにいた。
タロウさんがまた倒れたとの連絡がお姉ちゃんから有ったのだけど、その時あたしは既にウムルを出ていたので会えていない。後数日違えば顔だけは見れたんだけどなぁ。
一応今は意識も戻って動けているみたいだけど、本当に大丈夫なんだろうか。
グレットの引く車に揺られながら、彼の顔を見れない事に溜め息を吐く。
何時になったら任された仕事を出来るのだろうかと思っていた事が有ったくせに、今度はウムルを離れたせいで旦那に会えないと溜め息を吐いている。
流石に我ながらどうかと思うけど、今回のこれはイナイお姉ちゃんのせいでもあるので許して欲しいと思う。誰に許しを請うのてるのか自分でも解らないけど。
「・・・お父さんなら大丈夫だよ、お母さん」
「うん・・・ありがとう」
クロト君が隣でそう言ってくれるが、心配は心配だ。
特に今回お姉ちゃんの連絡が無茶苦茶だったから。ほんと、無茶苦茶だった。
話している相手が本当にお姉ちゃんなのか疑う程に酷かったもん。
『シガル、まだウムルに居るか? またタロウが倒れた。今回は理由が特殊だから心配でミルカに診て貰ったから一応大丈夫だと思うが、とりあえず安静の為に一回樹海に帰ろうと思ってる』
これが最初に来たお姉ちゃんの連絡。あたしの返事を聞く前に怒涛の様に語っていた。
普段の冷静な様子は一切無く、言っている内容も若干おかしい。焦りと同じぐらいタロウさんの状態が普通じゃないという事なのだと思うけど、それを確認する事が出来ない。
その連絡を受けた時のあたしの焦りも解って欲しい。
当然あたしの返事も焦り交じりの問いだったので、二人して会話がすれ違っていた。
幸いハクとクロト君が不思議なぐらい冷静だったので落ち着けたけど、その時のあたし達の会話は最早会話じゃなかったと思う。
ただお姉ちゃんも後でそれを理解したのか、ちゃんと連絡し直してはくれた。
『シガル、その、すまん。さっきはちょっと焦り過ぎた。とりあえずタロウの命に別状は無さそうだ。安心してくれ。今はまだ寝ているが、起きたらまた現地に向かうと思う。そうなると連絡は取れないから、またタロウが起きた時にこいつの具合は報告するつもりだ』
とまあ、二度目は大分冷静だったのだけど、それでもやっぱりどこかおかしかった。
お姉ちゃんは一体何を見たんだろう。そしてタロウさんは今度は何をやったんだろう。
一応タロウさんが意識を取り戻した後の連絡も有り、彼の声も聞けたので多少は安心では有るのだけど、倒れた内容は詳しく聞かせて貰ってない。
まだ向こうの状況が終わっていないだけに、その辺りは語れないとの事だ。
自分も軍属になったから納得するしかないけど、やっぱりもやもやとはする。
タロウさんすーぐ無茶するからなぁ・・・そこも好きなんだけどさ・・・。
「はぁ・・・ままならないなぁ・・・」
離れ離れになる事は覚悟していたし、大丈夫だと思っていた。
けど実際こうなると、会えない時間が増すごとに彼に会いたくて堪らなくなっていく。
仕事は勿論楽しい。きちんと力を認められ、鍛えられ、新しい事も学んでいる。
今も使えると認められたからこそ、こうやって仕事で他国に赴いているんだから。
「・・・お父さんも、お母さんも、早く仕事が終わると良いね」
「だね・・・この仕事が終わってもすぐ帰れるわけじゃないし、帰る頃にはタロウさんもお姉ちゃんもウムルに居ないだろうし。お互い早くのんびり会いたいね」
あー、タロウさん分が足りない。早く抱きつきたい。
最近その想いをクロト君で誤魔化している辺り、ちょっとあたし危ないと思う。
勿論変な目では見ていないけど、気が付くとクロト君を抱きしめている。
ただ余りそうしてるとハクが不機嫌になるんだよね・・・。
因みにハクは車の中に乗っている。これはあたし達の特殊な立場が理由だ。
公にはあたしが上官で、ハクが部下だ。だけど遺跡破壊という一点においては状況が変わる。
遺跡を破壊出来るのはハクの力だし、それを知る人達からすればハクこそを丁寧に扱う必要が有る。
勿論人の多い場所ではそんな気配は見せないが、あたし達の事情など知らない人の目しかない場所では立場が逆転する訳だ。
ただこれ、ハクの機嫌が悪くなるのが伝わって来るんだよね。
あたしを蔑ろにするなという空気を出しているし、クロト君を一緒に居させると尚更機嫌が悪くなるし、だからと言ってあたしはあくまで軍のいち部隊長で貴族でも無いし。
いや、一応肩書上貴族は貴族なんだけど、貴族の立場としては高くないし。
「はぁ・・・今まであたしがどれだけ気楽だったのか良ーく解ったよ。今までのタロウさんの事言えないや・・・」
「・・・頑張って、お母さん」
「がんばるー」
項垂れるあたしの頭を撫でて来るクロト君に癒されながら抱きつく。
こうやってる時だけは少し気がまぎれる。
でも背後から不機嫌オーラが流れて来ているので、適度に切り上げて前を向く。
こういう時、タロウさんって居るだけでバランス保つ材料になってたんだなって思う。
「はぁ・・・いや、溜め息ばっかりついていても仕方ない。お仕事!」
気持ちを切り替えて背筋を伸ばし、仕事に気持ちを切り替える。
事前に渡された地図からはもうすぐ遺跡につくのだし、何時までも項垂れていられない。
あたしに出来る事なんて遺跡では何も無いけど、それでも保護者としてしゃんとしなきゃ。
「よっし、がんばろうね、クロト君」
「・・・うん、お母さんの為に、僕頑張る」
二人で同じ様に手をぎゅっと握って気合いを入れる。
とにかく今は自分のやる事をやってからだ!
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