第670話戦場に戻りたいです!
「う・・・いづっ・・・あ、れ・・・?」
痛みを覚えながらゆっくりと覚醒し、見覚えのある天井を確認する。
これは樹海の家の天井だ。俺は何でここで寝てるんだ。
痛みを感じながら体を起こして周囲を見回す。やっぱり樹海の家だ。俺の自室だ、ここ。
「何で、帰って・・・いや、まて、それよりもあの後どうなったんだ。あれからどれだけ経ったんだ。まさかまた数日寝てたのか、俺」
慌てて立ち上がろうとしたが、痛みで上手く歩けず転びそうになった。
何とかベッド側に倒れたので問題無かったが、体に上手く力が入らない。
「ぐっ、つぅ・・・やっぱ反動が来てるか・・・けど、今回はそんな弱音吐いていられない」
痛いけど、痛いだけだ。我慢出来ない訳じゃ無い。
それにどれだけ寝ていたのか解らないが、休んだおかげか倒れた時よりは少しだけ体は軽い。
この状態なら動けない事は無いし、無理矢理にでも動かす事は出来る。
「ふぅ・・・!」
浸透仙術を使い、力の入らない体に無理やり力を入れさせる。
そして痛みを無視して探知を使おうとしたところで、イナイが部屋に入って来た。
「――――! 起きたか、タロウ・・・立って大丈夫なのか?」
一瞬驚いた顔をしたが、すぐに落ち着いた様子で訊ねて来るイナイ。
多分部屋に入って来る前から俺が動いた事は察知していたんだろう。
「一応何とか。本調子じゃないから全力で戦うのは無理だけど」
「そうか、良かった・・・一応ミルカに診て貰って、大事無いとは聞いていたが、やっぱ不安でな。ちゃんと起きたお前の口から聞けて安心した」
そう言って強めに抱きついて来るイナイ。大分不安にさせてしまったらしい。
そりゃそうだよな、あの時の俺の状況酷かったもん。
イナイにしたら何やってるのか良く解らないし、只々負傷していく様子が怖かったに違いない。
あ、段々思い出して来た。俺が気絶した理由、その心配からの治癒魔術だ。
あの時のイナイ完全にパニックになってたもんなぁ。仕方ないよな。
というか、そういう状態にさせたのは俺なので、文句は何も言えない。
「ごめん、心配かけて」
「全くだ馬鹿野郎。ほんっとお前は心配ばっかりさせやがる。今回みたいなのは最初で最後にして欲しいけど、多分お前はまた似た様な事やるんだろうな」
「・・・ごめん、なるべくやらないようにはするけど、二度とやらないとは約束出来ない」
キュッと彼女を抱きしめ返しながら謝り、素直に自分の気持ちを伝える。
すると彼女は困った様な笑顔を見せた後、目を一瞬瞑って少し怒った顔になった。
あら怖い。いや真面目にちょっと怖い。何言われるのかしら。
「良いよ、それで。それがお前だからな。けど元気になったら一発殴るからな」
何を言われるのかと構えていたら、彼女は不機嫌な時の声音でそう言った。
まあ、うん。しょうがないよね。またボディーかなぁ・・・。
「・・・うっす、了解です」
殴られる覚悟は出来ていると伝えると、苦笑しながらイナイは再度抱きついて来た。
この辺りは何時ものイナイさんだわ。何だか安心する。
いや、殴られる事に安心する訳じゃ無いからね。違うからね。
それにしてもミルカさんに診て貰ったのか。それは迷惑をかけてしまったな。
最近会っていないけど、彼女は時期的にもう出産が近いはずだ。
診るだけなら良いけど仙術使ってないよね。あの人の事だしちょっと不安。
とはいえそれも後にしよう。礼は全てが終わってから言いに行こう。
今はヴァイさん達の事が気になる。帝国があれからどうなったのか、そっちが先だ。
いや、まずはなによりも、あれから何日経ったのか。
「イナイ、俺が倒れてから何日経った?」
「まだ一日程度しかたってねえ。安心しろ」
一日しか経ってない? ・・・それにしては体が軽い。
いや、反動が有るので軽いというのはおかしいけど、普段より辛くない。
もっと何日も寝た後だと思っていた。
もしかして回復力が上がっているのか、ミルカさんが何かしてくれたのか・・・。
どちらにせよ好都合だ。立って動かせるのあれば、すぐに現地に戻れる。
ただこの状態だと二乗強化は使えない。4重強化も余り使えないな。
完全に使えない訳じゃ無いが、使ったら多分後が無い。
「イナイ、あれからどうなったのか、教えて貰える?」
「すまん、あたしは現状の詳しい話は聞いてない。ミルカにお前を診て貰って、報告だけ済ませてずっとお前を看病していたからな。ただ現地にアルネが残ってる。だから大丈夫だ」
アルネさんが残っているのか。なら大丈夫、なのかな。
少なくともヴァイさんはきっと無事だろう。
けど、やっぱり心配だし、それにどうせなら最後まできっちりとやりたい。
いや、やらなきゃいけない。今回の事は最後まで関わらなきゃいけない。
「戻りたいんだな、あそこに」
イナイは俺の表情から何をしたいのか読み取り、心配な様子でそう口にする。
多分今の状態の俺が戦場に向かう事が心配なんだろう。
いくら立って動けると言っていても、本調子じゃないのは間違いないのだから。
それでも、俺は、あの場所に戻りたい。
「・・・ごめん、行かせて欲しい。最後までちゃんと、やりたい」
助けられると思っていた。
助けられない人が沢山居るとしても、助けられる人が居ると思っていた。
けどヴァイさんがあの惨状だという事は、イナイ達にも予想外の出来事が沢山起こってる可能性が有るんだと思う。
このまま黙っていたら、もしかしたら助けられない人が増えるのかもしれない。
それに人が死ぬと知っていながら、それでも我慢したんだ。
人が死ぬという事を知っていてずっと黙っていたんだ。
なら最低限、その死者にきちんと向き合いに行くべきだと思う。
少なくとも人が死ぬ事を静観すると決めた俺には、その義務があってしかるべきだ。
「俺は、最後まで今回の事を見届けたい。ちゃんと、現場で」
「・・・そうか、解った。ならまずは王城に行こう。現状把握が先だ。良いな?」
「ん、解った」
ここでごねても仕方ないのでイナイの言葉に素直に頷く。
ヴァイさん、折角助けたんだから今度こそちゃんと無事でいてくれよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます