第665話今度こそ!
今日も今日とて何故か鍛冶場でカンカンと何かを打つ日々である。
鎧とか盾とかも作るからちょっと楽しいけど、問題は俺に美的センスがねぇ!
何かねー、見たままなら作れるんだけどさー、空で作れって言われると微妙な物になるの。
参考物が手放せない今日この頃。私に造形美術は無理な様です。
「ネーミングセンスだけじゃなく、美的センスも無いとは。綺麗な物とか見てて解らない訳じゃ無いんだけどなぁ。何故作る側に回るとこう――――」
ぶちぶちと愚痴りながら作業をしていると、覚えの有る魔力が広がっていくのを感じた。
慌てて集中して周囲を見ると、薄く広く、周囲に混ざりつつも違う魔力が広がっていっている。
これは、俺の作った精霊石の魔力だ。あの時少し内に込めた俺の魔力も混ざってる。
「―――来た、アルネさん!」
「お? どうした、何か問題が有ったか?」
慌ててアルネさんを呼ぶが、彼はいつもの調子だ。
今の魔力の波には気が付いていないらしい。
彼は魔術を余り使わない人だし、気が付かない方が普通かもしれない。
ていうか、アルネさんって魔術使えんのかな。使ってる所見た事ねえや。
「合図が来ました!」
「・・・今か?」
「はい!」
「・・・おかしいな」
何故呼んだのかを口にすると、アルネさんは怪訝な顔を見せた。
その事自体は気になるけど、俺は一刻も早く動きたいので今はどうでも良い。
気にせずイナイを呼びに行かせて貰う。
「イナイ呼んで来ます!」
「いや、俺も行く。一緒に頼む」
アルネさんがこちらに来る前に彼の傍まで行き、彼を連れてイナイの下へ転移する。
転移した先は工事現場で、イナイ以外にも沢山人が居たので少し驚かせてしまった様だった。
ごめんなさい、ちょっと急ぎなんですよ。
「どうしました、緊急事態ですか?」
イナイは少し驚きつつも、心配そうな様子で訊ねて来た。
あれ、あの魔力の波イナイも解らなかったのか。
ていうか今も定期的に流れて来てるんだけどな。
「合図が来てる。行こう」
「・・・今、ですか?」
彼女も先程のアルネさんと同じ様に怪訝な顔を俺に向ける。
何でそんな顔するんすか。本当に来てますって。早く行きましょうよ。
「早い、と、思うよな」
「ええ、正直」
そして二人は似た様な表情で通じ合っている。
いや、ごめん、良いから早く行こうよ。
呼ばれたって事は、今まさに緊急事態何かも知れないんだし。
「何悩んでるのか知らないけど早く行きません?」
「ま、確かにそれもそうだ。呼ばれた以上行くしかないだろう」
「そうですね。私は責任者の方に離れる事を伝えてきますので、少々お待ち頂けますか?」
イナイは現場の責任者の人話を通しに行き、その時間すらもどかしく感じながら待つ。
そして待つ時間が出来てしまったせいか、二人の会話を考える余裕が少し出来た。
二人は「早い」と言っていた。今合図が来た事に怪訝な顔をしていた。
という事は、二人は合図が来るであろうタイミングを知っていたという事だろう。
その事を教えて貰ってないの自体は全然構わない。
きっと言えない何かが有ったんだと思うし、聞いたところで行けない事には変わりがない。
けど予想外のタイミングで来たって事は、今まさに危険な状態の可能性が有る。
なら早く行かないと、手遅れになる可能性だってあるはずだ。
そう結論に至り、余計に気が焦り始めて来た所でイナイが戻っていた。
「お待たせしました。タロウ、位置は把握出来ていますか?」
「うん、今もずっと位置発信してる」
「ではこのまま向かいましょうか。アルネも準備は出来ていますね?」
「今は腕輪が有るからな。武装は全部ここに入れている。問題無い。いつもでいいぞ」
「じゃあ行きます!」
二人からGOサインが出たので即座に転移魔術を使い、魔力の発信源まで転移する。
場所は森の中。山の中なのかもしれない。そこにヴァイさんは、確かに居た。
「え・・・なっ・・・!」
「これは・・・」
「・・・成程、早かったのはそういう事か」
腹から下が千切れかけ、内臓も外に出て、血の気の無いヴァイさんと、彼を抱えて泣きじゃくるズヴェズさんの姿だった。
精霊石はズヴェズさんの手に在り、何故呼ばれたのかなんて考える余地もない。
俺はまた、助けられるはずだった人すら助けられなかったのか。
「あ・・・ふぐっ、よ、かった・・・来てくれ、た・・・ヴァイ、たす、けて・・・ひぐっ」
ズヴェズさんは俺達に気が付くと、途切れ途切れになりながらもそう伝えて来た。
それで自分が棒立ちになっていた事に気が付き、イナイとアルネさんはヴァイさんの様子を確かめる。
だが二人共、ズヴェズさんに顔を向けて静かに首を横に振った。
「そ、んな・・・イナイ・ステル・・・貴女なら、貴女なら何とか出来ないのですか・・・!」
「・・・彼が生きているなら全力を尽くしましょう。ですが、彼はもう死んでいる。息も止まって心臓も動いていない。その上この傷に出血量。もう手遅れです」
「そんな・・・! ヴァイは、ついさっきまで、ひぐっ、まだ、息をして、たんです・・・!」
「君の気持ちは解る。だが彼はもう死んでいる。俺達に死者を生き返らせる事は出来ない。酷だとは思うが・・・諦めろ。これは奇跡でも起きない限り助からん」
「――――あ、ああ、あ、うあああああああああああああああ!」
助けを求めた二人に助けられないと言われ、ヴァイさんの体を抱きしめて泣き叫ぶズヴェズさん。
二人はそれを何とも言えない表情で見つめた後、死者を弔う様に祈りを捧げていた。
そして俺は、納得出来なかった。
何で死んでいる。何で殺されている。何で助けられなかった。
最低でも、この人やこの人の守りたい物は守れるはずだったんじゃないのか。
俺はポヘタでの事で自分の立場を多少は理解した。自分は人の命を背負う様な人間じゃないと。
だけどそれでも、知り合いの命ぐらいは救えたはずだった。恩を返せたはずだった。
なのに、なんで、今回こそは助けられたはずの人すら助けられていない!
「っざ、っけんな・・・!」
力が籠る。殺意が溢れる。こんな事態を引き越した存在に怒りが沸く。
知り合いでも無い人達が死ぬのは構わないなんて考えのつもりじゃない。
今まで散々人が死ぬのを黙っていたくせにと言われれば、ぐうの音も出ない。
解ってる。この怒りが自分勝手な怒りだと。
知り合いを殺されたから怒っているだけだと。
それでも、この怒りは絶対にぶつけてやる。
「絶対に、許さ―――」
――――あれ、何で。
「いき、てる?」
「―――! ヴァイ、ひぐっ、助かる、の!?」
俺の呟きにズヴェズさんが反応し、顔をこちらに向けた。
「タロウ、無責任な事を口にするべきではありません」
「お前の気持ちは解らなくはないが、これはどう見ても死体だぞ」
二人の言う事は解る。俺だってついさっきまでそう思っていた。
実際彼は殆ど死んでいる。けど、ほんの少しだけ生きている。
これだけの負傷で、心臓も止まっているけど、まだ気功が体に残っている!
「ごめん、説明してる余裕が無い!」
すぐに彼の傍に近寄り、彼の気功を良く確認する。
残っているとはいえ、このままだと多分すぐに消えてしまう量だ。
死にかけているという事実は変わらない。
このまま魔術で治したところで多分死ぬのは間違いない。どうする。どうすれば助けられる。
『これは奇跡でも起きない限り助からん』
――――は、奇跡、か。そういえばそこに届くための技術が在ったじゃないか。
俺にはこの状況を覆せる可能性の有る技術があるじゃないか。
奇跡を起こす為に練られた技術を、未熟ながらも普段から使っていた!
「絶対助ける・・・!」
魔法を、奇跡を、意地でも起こしてやる・・・!
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