第647話シガルへの別行動の確認です!

俺達の行動が決定された後、俺達一家はイナイ以外は外で待機になった。

なので今は城の中庭の一つにあるベンチでイナイを待っている。

ただブルベさん達の話し合いが終わる前に、シガルに少し確認しておきたい。


「シガル、本当に良かったの?」

「何がー?」


シガルは膝の上のクロトの髪を梳きながら問い返して来た。

鼻歌交じりでクロトの面倒を見る彼女は、母というよりも姉といった感じだ。


「遺跡の話。暫く別行動だよ?」

「そうだねー」


シガルは特に興味も無さそうな様子で応える。

普段のシガルを知っている身としては、何だか違和感が有るんだけどな。

彼女は何かやりたい事が無い限りは極力俺の傍に在ろうとしていた。

今までずっとそうだった彼女が、今回の事に何も思う所はないんだろうか。


「なに、タロウさん、寂しいのー?」

「・・・いや、まあ、そりゃ寂しいけど」

「あはは、かーわいー」


シガルの問いに素直に応えると、彼女は笑いながら茶化して来た。

でも言われてみると、彼女に傍に在って欲しいのは俺か。

彼女が俺の傍に居るのは俺の為な事が多い。今回は自分の為に決めたって事かな。


「冗談冗談、そんな拗ねた顔しないでよタロウさん」

「・・・拗ねちゃいないけどさ」


俺一人だけ寂しいのかなーとか考えてしまっただけっすよ。

別に拗ねてるわけじゃないです。


「正直言うと、あたしも離れて行動はあんまりしたくないよ。新婚なんだし当然じゃない」

「じゃあ、何で引き受けたの? シガルが口を出さなかったら話は終わってたのに」

「・・・あたしさ、ずっと負い目に感じている事があるんだ」

「負い目?」


シガルに負い目なんかあっただろうか。

むしろいつも支えて貰っている俺の方が負い目だらけなんだが。

イナイにも良く怒られているし、シガルの方がよっぽどしっかりしている。


「お姉ちゃんは何だかんだお仕事があって、あたしはタロウさんと一緒に居る事多いでしょ? ずーっと、そこに関しては悪いなぁって思ってたんだ」

「あ・・・」


そっか、俺に対するものじゃなく、イナイに対する負い目なのか。

そういえばシガルは何度か俺とイナイを二人っきりにさせようとしたりもしていたっけ。


「それにさ、現状家族の中で働いてないのあたしだけだし、そこもずっと気にしてたんだ」

「え、いや、それは」


俺とイナイの仕事は特殊な形の仕事だし、それに付き合って仕事となると中々難しいと思う。

一か所に留まっての仕事はけして出来ないし、俺達の移動に合わせて転職なんて大変だ。


それに俺の仕事は最初の時点では遺跡破壊じゃなかった。

シガルは一緒に仕事の予定だったのだし、予定が変わってしまった以上仕方ないと思う。

むしろ俺やイナイのサポートしてるから、仕事はしてないわけじゃない。


「解ってる。お姉ちゃんもタロウさんもそんな事気にしてないのは。けどあたしは気にしてたの。旅行中は組合の仕事とかやって、半分タロウさんと遊んでる部分もあったけど、今はあの時とは関係も状況も違うでしょ?」


俺としてはいつも傍に君が居てくれるから頑張れてたところは大きいし、全く気にして無かったんだけどな。

それに俺達は移動が多いし、付き合ってるシガルも大変だと思うんだが。

貴族の人達と会って畏まった場にも出なきゃいけないんだしさ。


「これはあたしの我が儘、かな。うん、我が儘だ。お姉ちゃんと対等に居たいから。タロウさんと胸を張って一緒に居たいから。だからやってしまった我が儘だと思う」


シガルは眉尻を下げながら、少し困った様な笑顔でそう言った。

けど彼女の行った事は彼女が言う程我が儘な行為じゃない。

誰かが助かる行動だ。少なくともあの時ブルベさんは助かったはずだ。

たとえ我が儘だとしても、見知らぬ誰かを助ける事にも繋がる優しい我が儘だ。


「クロト君とハクには付き合わせて悪いと思ってる。けど、お姉ちゃんの為にもやりたい。この事を放置していたらきっとお姉ちゃんは気にすると思うから。そうするときっとお姉ちゃんはまた一人で仕事に行っちゃうと思うんだ。ごめんね」

『私は別にシガルが一緒なら構わないぞ。気にするな!』

「・・・そっか、イナイお母さんの為・・・お母さん達の為なら、ちゃんと頑張る」

「あはは、ありがとう二人とも」


シガルの謝罪を含んだ言葉に、ハクとクロトが手を貸す気満々の答えを口にした。

特にクロトは目に生気がちゃんとある。表情がしっかり解る程気合いが入っている。

確かにシガルの言う通り、俺を遺跡に向かわせて自分は帝国にと言い出しそうだ。

アルネさんが一緒とはいえ、彼女の性格を考えると少し心配だ。


「・・・そっか、シガルがそう決めたならもう言わない。ただ無理しないようにね」

「うん、ごめんね、タロウさん」

「謝らなくて良いよ。俺はいつもいつも支えて貰ってばかりなんだ。むしろもっと我が儘でも構わないぐらいだよ。いつも感謝してるんだから」

「・・・うん、ありがとう。愛してる、タロウさん」


シガルは俺の言葉に嬉しそうに礼を言い、愛を口にしながら口づけをして来た。

俺も彼女の頭に手を添えて、彼女の想いに素直に応える。

とはいえ流石に人の目に止まりかねない場所なので、シガルも軽く済ませてすっと引いた。


「その代わり出発前にいっぱい愛してね♪」

「シガルさん、台無しです」

「あはは、あたしはお姉ちゃんみたいに恥ずかしがる気はないもーん。いつか子供も欲しいし」

「子供・・・出来ると良いよね」


以前二人に話した事。俺はこの世界の人間と体のつくりが違う。

子供が出来るかどうかは、本当に解らない。諦める気は無いけどやっぱり不安は残っている。


「出来るよ。きっと出来る。お姉ちゃんも、あたしも。クロト君に弟か妹作ってあげないと」

「・・・弟でも妹でも、可愛がるよ」

「そうだね、クロト君は良いお兄ちゃんになるだろうねー」


・・・あー、くそ、本当に良いなぁこの子。これだから好きなんだよなぁ。

俺はずっとこの子に支えられている。イナイにもシガルにも、支えられてばかりだ。

そんな彼女の決めた事だ。なら彼女を信じて見送ろう。

そしてこの素敵な奥さんに恥をかかせないよう、俺は俺でやるべき事をきっちりやってこよう。

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