第645話国王陛下に大公の娘と謁見です!
翌日、予定通り俺達は王都に向かった。
今回はイナイだけが城に行くのではなく、全員城に向かう事になる。
ハクも呼ばれたのはおそらく遺跡の事関連だからだろう。
一応シガルだけは来ても来なくても構わないという事だったらしいのだが、本人が置いて行かれるのは嫌だと付いて来る事になった。
「せめて誰か一人居てくれれば良いけど、一人で置いて行かれるのは寂しい」
との事です。気持ちは若干解る。けど普段はイナイがそういう立場なのですがね。
置いて行かれているわけじゃなく一人で行かなければいけないという違いはあるが、彼女は家族の中では単独行動が多いと思う。
そういう事込みで考えて、もう少しイナイには何かしらしてあげたいな等と改めて思った。
イナイもシガルぐらいぐいぐい色々言ってくれても良いんだけどな。
彼女はどうにも一歩引いた位置に立つ癖があると思う。
その分俺が一歩前に行けば良いだけでは有るので、その辺りは努力しますか。
因みに城に向かう前に親父さんに挨拶に行ったのだが、どうやら仕事に向かう前だったらしく血涙を流しながら去って行った。
挨拶に来たけど会えないという事も無かったわけじゃないので、会えただけ良かったと思おう。
去り際に「小僧、覚えていろ!」といつもの調子で言われてしまったが、お仕事は俺のせいでは無いので勘弁して頂きたい。
ただ親父さんの態度に一つ気になる事がある。
基本は普段通りの親父さんだったのだが、ぽそっと「気を付けろ」と小さく言われた。
何の事か全く解らないが、真面目な様子の親父さんの言葉なのでとても気になっている。
俺がブルベさんと直接関わりがある事を知っている親父さんの言葉だ。
何かしらの意味は絶対にあると思う。少し気を張っておいた方が良いかもしれない。
「あの、本当に私も一緒に行って良いの? 王様に会うんでしょ?」
「お嬢ちゃんは大公の娘だろうが。留まる理由は何であれ、挨拶には行かないといかんに決まっているだろう。まさかイナイちゃんが知っているから行かなくて良いと思っていたのか?」
「・・・すみません。思慮が足りませんでした」
ストラシアさんは付いて来る事に疑問だったようだが、お婆さんが呆れた様に言った事で目を背けながら謝った。お婆さんが一緒なのはストラシアさんの面倒を引き受ける報告の為だ。
項垂れる彼女をシガルが横で慰めていたが、シガルの方がしっかりしているって大丈夫なんだろうか。彼女の立場的に不安しかない。
ただ彼女が今後成長すれば、きっとそれは些細な事になる気もする。
彼女の力は我が儘を押し通せるだけの力だ。全てをねじ伏せられる暴力だ。
成長した彼女が公国に帰れば、その力はあの国にとって大きなものになるだろう。
どうなるかは本人次第だとは思うけどね。
そうして皆で城に向かうのだが、今日はグレットがご機嫌で車を引いている。
人数がそれなりなのと、先日の結婚式がまだ記憶に新しい状態なので足止めを食らう可能性を考えての事だ。一応大公様の娘もいるからそれも理由ではあるけど。
実際シガルの実家から出発時点で、家の周囲に人が沢山集まっていたのでちょっと大変だった。
これはのんびり暮らしたかったら樹海からは出れないなと思う。
因みに俺は御者の真似事なんぞをしております。誰か一人は前にいないとね。
と言ってもグレット君ってば、ほぼほぼ指示無しで勝手に向かってくれるのでとても楽です。
君ほんと賢いよね。ハクに見つからなかったら山でボスとかになってたんじゃないですかね。
ただスキップしながら走るのは如何なものですか。君目立つんで更に目立つんですよ。
「まあ良いか、どうせ元々目立ってんだし」
今更グレットが目立つ事を咎めても仕方ないと思い、ボソッと呟く。
その言葉は誰の耳に入る事もなく城に到着した。だって外にいるの俺一人だもの。寂しい
正門から堂々と入って行き、グレットは車から外して念の為に鎖につないで待っていて貰う。
まあこの鎖、こいつが本気になれば千切れちゃうんですけどね。
『グレット、ちゃんと待ってるんだぞ』
「・・・あとでね、グレット」
ハクとクロトの言葉にガフっと鳴いてお座りをするグレット。
あ、ハクさんはちゃんと人型っすよ。竜形態でも大丈夫だとは思うけど一応ね。
そして近くに居る兵士さんにもグレットの事をお願いして城内に向かう。
去り際にちょっと振り向くと、伏せをして兵士さんに撫でられていたので大丈夫だろう。
「はえぁ~・・・城って、こんなに大きい物なの?」
いますっげー間抜けな声だったな、ストラシアさん。
「ウムルの城は特別かも。他の国の城に行った事あるけどもっと小さかったし」
「シガルさんは別の国の城にも行った事あるんだ」
「うん、ストラシアさんは無いの?」
「私国から出た事殆ど無いから城の規模とか全然知らないの。屋敷はもっと小さいし」
彼女は国から出た事が余り無いのか。それなのに良く今回出て来たな。
それだけ彼女にとって重要な事って事なんだろうか。
・・・今考えても仕方ない事だけど、次に彼女と手を合わせた時は勝てないかもしれないな。
暫く歩くと文官さんらしき人が出迎えてくれて、そのまま案内を受けた。
そこからは皆静かに歩き、ブルベさんの待っている部屋に向かう。
扉の前で文官さんがノックして俺達が来た事を伝えると、中から固い声で「入れ」と言われたので皆で中に通される。
「良く来た。待っていたぞ」
ブルベさんが王様モードで出迎えてくれたのだが、何か様子がおかしい。
ウッブルネさんが後ろにいるのは特に不思議でも何でもないのだが、リンさんとアロネスさんも居るのだ。いや、まだそれだけなら本当に気にする程では無いだろう。
前に紹介して貰ったキャラグラさんにヘルゾさん、その上セルエスさんとアルネさんも居る。
一番気になるのが、いつも門番をやっているカグルエさんもこの場に居る事だ。
門前で珍しく会わないと思ったら城に居たのか。
それともう一人、部屋の端に使用人姿のお姉さんが居る。何度か見かけた事はあるけど話した事は無い人だ。もしかして使用人姿なだけで彼女も重役さんなのだろうか。
何か、空気がおかしい。イナイもそれを感じ取ったのか目が険しくなっている。
シガルはこの面子が居る事自体に緊張しているので、気が付いているのかどうか解らないな。
ストラシアさんはよく解らない様子でキョロキョロして、お婆さんが小声で「堂々としないかみっともない」と叱っていた。あそこは何だか面白い関係になってる気がする。
「ようこそウムルへ。ストラシア・ソロナ・アナグズ。君の事は大公殿から良く聞いている。何か困った事があれば気軽に言ってくれ。出来る限りは優遇しよう」
「は、はい、ありがとうございます、陛下!」
ブルベさんはまずストラシアさんに声をかけ、ストラシアさんは膝を付いて礼をする。
俺達は良いのかなと思ってちらっとイナイを見るが、イナイは動く気配無い。
いや、何処かブルベさんを観察している様にも見える。
「ニナ、宜しく頼む」
「それなりに好きにやって良いなら」
「任せる」
「大雑把だな。まあ良いだろう。お嬢ちゃんの事は正式に引き受けた」
お婆さんはブルベさん相手でも態度を変えずに接し、その様子にストラシアさんが呆けている。
俺はこの人達の関係って特殊な事が多いと知ってるので余り気にしていない。
その辺りに驚くには色々と関係を持ち過ぎている。
「すまないがニナ、彼女を連れて少し席を外して欲しい」
「呼び出しておいて酷い話だな、坊や」
「すまん」
「はっ、国王陛下が一般人のババアに頭を下げるな。馬鹿者が。冗談に決まっているだろう。行くぞ嬢ちゃん」
「え、あ、へ? う、うん」
お婆さんは笑いながらストラシアさんを連れ、部屋の外に出て行った。
それを見届けてからブルベさんは視線をイナイに方に向け、そこで初めてイナイは口を開いた。
「陛下、何がありました?」
「勘が良いね、姉さん」
「この状況で何も無いと思うわけがないでしょう。世間話をしていたにしては面子と場所がおかしい」
やはりイナイは何か様子がおかしいと思っていたらしく、素直にその事を告げる。
俺も気になるのでブルベさんの言葉を静かに待った。
「・・・皇帝が、死んだかもしれない」
そして注目する俺達に告げられた言葉は、余りに予想外な言葉だった。
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