第635話お見舞いです!
本編の前にご報告を。
既にトップにも書いてはいますが、二巻販売予定が正式に出ました。
https://kadokawabooks.jp/product/jigennosakeme/321802000908.html
これも応援して下さった皆様のおかげです。ありがとうございます。
二巻はとうとうあいつが登場する上に沢山絵になっているので、好きな方は楽しみにしていて下さい。ミルカとリンも良い感じに出てきます。
イナイさんは相変わらずWEB版より可愛いシーンが増えてますので、ご興味があれば買って頂けると大変ありがたく思います。
では、本編をどうぞ。
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いつも通り数日碌に動けない事は予想していたのだが、今回はもっと酷かった。
普段ならある程度は動けるようになる頃に、杖を使うか肩を借りないと歩行も怪しい状態だ。
とはいえ常に激痛では無いだけマシなので、日常生活程度なら支障は無い程度にはなった。
つっても多少痛いのは変わらないし、特に片腕と両足は未だに結構痛い。
どうやら三乗強化の際の負傷が大きい所ほど後遺症も大きい様だ。
おかげで浸透仙術を使わないと杖無しの歩行はままならない。
けど浸透仙術を使うとクロトがじっと目で訴えて来るので使えないんだよなぁ。
「クロト君、お父さんの監視お願いね。目を離すとすぐ無茶するから」
「・・・任せて」
という会話がシガルとクロトの間であったせいでもある。
まあクロト君はこっそり浸透仙術の訓練をしていた事を知っているので、余計に監視の目が緩まないんだと思います。全部自業自得ですね、はい。
そんなこんなでここ暫くお屋敷で養生している。
とりあえず自力歩行が不自由なく出来るまではこの調子だそうだ。
この状態だと探知魔術すら使うのが辛いから、出来るだけ早めに治って欲しいんだがね。
索敵が使えない状態って結構不安なのよ。普段から使ってると余計に。
因みに負傷の原因である彼女との手合わせは、お互いが同意の上でという事になっている。
半ば強制的ではあったものの、確かに同意したからね。それに俺の負傷はほぼ自爆だ。
余り話をややこしくはしたくないし、そこに特に異論は無い。
ただ相手が友好国じゃなかったらもう少し対応は違ったらしい。
この国だからそれで済ませただけで、そうでなければそれなりの賠償を求める案件だそうだ。
でも正直な話、今までも似た様な事が有ったのでピンと来ないんだよな。
むしろ俺の方が不味いんじゃないのかと思った。大公様の娘ぶっ飛ばしたわけだし。
一応その辺りも聞きはしたけど、状況と立場を考えれば今回は俺に非は一切無いそうだ。
というか、彼女の身内であるサラミドさんが自ら謝って来たので、今回は公国に貸し一個という事で穏便に済ませた形らしい。
ただし貸しの部分は内々の話であって、あくまで俺の負傷は手合わせによる事故扱いだ。
同意の上での話にしたのに、公に貸しどうこうという話には出来ないだろうからね。
「ま、今回はお前が意地張り過ぎたのも原因だしな」
と、イナイさんは若干呆れ気味に言っておられました。
実際自爆だもんなぁ。踏み込みで骨が折れるって馬鹿げてると思う。
魔力制御が出来てない上に無理矢理動かしたのが原因だろうな。
本来強化魔術なら強化した分ある程度体が補強されるんだけど、今回はそれが無かったせいだ。
正確には二乗強化分しか補強されておらず、それを超えた反動でボロボロになった。
だからってあの状態で別の魔術使う余裕もないし、どうしようもないんだよなぁ。
まあ今は何も出来ないし、体治す事に集中しておくか。
と言っても、やる事は安静にしているだけなんだけど。
そのせいかイナイとシガルが基本べったりなので、これはこれで悪くないと思う俺が居ます。
因みに今はベッドに転がっていて、傍にイナイが座って技工剣の整備をしている。
シガルはハクとグレットを適度に遊ばせる為に外に出ていてこの場には居ない。
クロト君はすぐ傍に居ます。さっきから無言でお菓子食べてる。
「ん、どうやら来たみたいだな」
俺は今探知を使って無いので解らないが、イナイが屋敷に訪問者が来た事を口にする。
今日は大公様達が俺の様子を見に来ると聞いているので、おそらく彼らなのだろう。
「どうする、ここで待つか?」
「いや、居間まで行くよ。あんまりじっとし過ぎてても良くないし」
「解った」
イナイが用意してくれた杖をもってベッドから降り、居間に向かう。
出迎えはイナイがしてくれて、そのまま彼女が居間まで連れて来てくれた。
どうやら今日は一家勢揃いの様だ。
「よう。何だ、案外平気そうじゃねえか」
俺を見た大公様の第一声は気の抜けた様子だった。
どれだけ重症な状態を考えていたのだろうか。
そもそも治癒魔術が在るのだから、重症の状態で放置は無いだろうと思うんだけどな。
「頼りになる伴侶が居ますから」
怪我はシガルとイナイの二人がかりで治癒魔術をかけられているので、おそらくほぼ問題ない。
仙術の影響が無くなった後に自分でも体を確かめてみるつもりだが、二人の魔術の技量なら多分大丈夫だろう。
内臓に負傷は無い様に動いたし、問題有るとすれば骨のくっつき方ぐらいかな。
「ステルの嬢ちゃんだけじゃなく、もう一人の嬢ちゃんも中々らしいな」
「ええ、シガルは凄いですよ」
大人化されると通常の魔術じゃ押し負けるんだよなぁ。
竜の咆哮もシャレにならないし、純粋な魔術師としては俺よりシガルの方が上だと思う。
シガルが言うには『俺の方が綺麗』らしいけど、そこはよく解らん。
魔力の流れだけなら、ハクの魔術の方がよっぽど色鮮やかで綺麗だと思うけどな。
「で、お前は何黙ってんだよ。お前が一番前に出て言うべき事があんだろうが」
「は、はい」
大公様は妹さん・・・ストラシアさんの背中を軽く押し、彼女もそれに返事をして前に出る。
彼女の様子は戦った時と違い、最初に世間話をしていた時の雰囲気だ。
少なくとも、今の彼女を怖いとは感じない。
「この度は大変なご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ありませんでした」
彼女は俺の前に立つと膝を突いて頭を下げ、謝罪を口にした。
その様子に一瞬面食らったが、すぐに気を取り直す。
別に彼女がそこまで気にする必要は無いだろう。国同士の話もついてるわけだし。
「あの、頭を上げてください。今回の事はお互い同意の上での話になったと聞いていますから」
「いえ、それはあくまで外に向けての事。私個人の謝罪が済んでおりません。私程度の頭では貴方に謝意を示せる様な事が思いつけず、ただ頭を下げるしか出来無い事も申し訳なく思います」
頭を上げて欲しかったのだが、彼女はそのまま続ける。
「この身は何が出来るわけではありませんが、タロウ様に要望があれば出来る限り応えようと思っております。それが私の精一杯の謝意となります」
出来る限りって言われても特に何にもないんだよなぁ。
困ったのでイナイに目を向けて助けを乞う。
イナイは一瞬「自分でやれよ」という目をしたが、すぐに貴族モードで口を開いた。
「ストラシア様、頭を上げて下さい」
「で、ですが、ステル様、私は」
「私共は既に話はついたと思っております。不服ですか?」
「・・・いえ、ありがとうございます」
イナイの言葉を聞いて頭を上げるストラシアさん。
その表情は少し困った様子だが、粘られても俺も困っちゃうので納得して頂くしかない。
だって本当に要望とか無いもの。何頼めってのよ。
あ、でも街に詳しいみたいだし、美味しい店でも教えて貰えば良かったかも。
「あ、あと、これは個人的な事なのですが、聞いて頂きたい事があります」
これで話は終わったかなと思っていたら、彼女はまだ言いたい事があるらしい。
とりあえず後々に回して面倒になるのも嫌なので、言いたい事あるならもう全部言って貰おう。
「はい、何ですか?」
「あ、そ、その」
俺が聞く体勢に入ったのを見て彼女は何かを言おうと口を開くが、もじもじとしながら視線を外して口を噤んだ。俺は何だか嫌な予感がしつつも彼女の言葉を待つ。
そういえば手合わせ中にそういう類の事言ってたよなぁ。あれ本気だったのかなぁ。
悪いけどもし告白の類ならきっぱりと断らせて貰う。俺にその気は一切無いです。
ストラシアさんの言葉を思い出してそう決めると、彼女は外していた視線を俺の方に向けた。
「あ、あの、あの時はどうかしてたんです! 恋焦がれるとか、愛しいとか、そういうのじゃないんで! 私好きな人居ますんで! ごめんなさい!」
「・・・は?」
そして彼女は真っ赤になりながら、良く通る声で俺にそう言ってきた。
俺は内容が一瞬理解できず、思わずぽかんと口を開けて呆けてしまう。
・・・何で俺が振られる形になってんの?
「だっはっはっはっはっは!!」
「くっ、くくっ」
顔真っ赤にして言い切ったストラシアさんと、それをポカーンと眺める俺。
その様子を見て大公様が大爆笑し、イナイも堪え切れない様子で笑っていた。
「ス、ストラシア、お前・・・」
「クスクス、しょうがないわ、この子だもの」
「え、え、私何が駄目だった!? は、はっきりしておいた方が良いと思ったんだけど!?」
サラミドさんは頭を抱えて項垂れ、大公妃様は楽しそうな様子でフォローでも何でも無い事を口する。
そして何故笑われているのか、何故兄が項垂れているのか解っていないストラシアさん。
この人俺よりポンコツじゃないですかね。
告白もしてないのに振られるとか何これ辛い。つーか愛おしいとかは言われた覚えないし。
いや、うん、別に俺はイナイとシガルが居ればそれで良いし。
悲しくなんて無いし。うん。告白されるのかなとか考えてたの凄く恥ずかしい。
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