第625話懐かしい話です!
二人が何処かに去った後、何とも言えない空気の中サラミドさんとお茶を啜る。
でも妹さんは何を焦ってたんだろうか。
一応あの出来事って暴漢をのしただけよね。衛兵のとこ行くって言ってた気がするし。
「ハクさんは見た目よりも重いですね。その羽の大きさでは飛ぶのが大変では無いですか?」
『魔術で飛ぶんだよ。羽だけ動かしても全然浮けないよ』
「成程、それで人型の時でも飛べるんですね。魔術は余り得意ではないもので、全く気が付いていませんでした」
いつの間にかサラミドさんに抱えられ、疑問に答えて羽をパタパタさせるハク。
クロト君は何時もの調子で黙々とお茶菓子を食べています。
あれ、緊張してたの俺だけ?
「・・・お父さん、これ美味しいよ」
何だか一人空回りしてるのが少し悲しくなっていると、クロトが慰めなのか手に持った菓子を差し出して来た。
素直にそれを口に入れてクロトの頭を撫で、咀嚼して小さく息を吐く。
妹さんとサラミドさんの意図が解らない以上俺が気を張っても仕方なさそうだ。
とりあえずシガル達が戻って来るまでのんびりしていよう。
因みに二人は今、俺達には入れない所で会話をしている。
正確にはここにいる面子では、ハク以外は入れない場所だ。
お手洗いに居るんすよあの二人。クロトなら子供だしギリギリ行けるか?
移動先が途中で判ったので、俺は意図的に探知を周囲二メートルぐらいにしている。
遠くだと若干解り難いけど、近場で人数も少ないと動きがはっきり解っちゃうしさ・・・。
こう、ね。何か覗いてるみたいな気分にね?
探知は実際に視覚情報としてとらえているわけではないけど、それでも気になる。
「そういえば、タロウさんは錬金術も使えるんですよね」
「え、は、はい」
ハクとワイワイ話してるから話を振られると思ってなくてビクッとしてしまった。
「タロウさんはどういった物を作る事が出来るんですか?」
「そうですね、えーと・・・」
俺が作れるものっていうと、アロネスさんに教えられた薬の調合と、その薬を錬金術仕様にして効果を上げる物。同時に毒物の作成も出来るな。
後は鉱石の合成等の、色んな物質調合もそれなりに教えられている。
まあ、冊子渡された後に自力で勉強した物も結構多いけどね。
一番得意なのは精錬術等の術加工系ではある。精霊石もそのおかげで割と楽に作れるし。
出来ない事と言えば、アロネスさんがふざけて作る類の道具と、魔剣の製作だろうか。
一応作り方自体は知っているし、貰った冊子にも書いてあるので作れるかもしれないけど。
一度ぐらい魔剣の作成をしてみても良いかもしれない。
「・・・凄いですね、タロウさんは鍛冶や技工も学んでいるのでしょう?」
「ええ、まあ」
鍛冶はアルネさんに合格を貰っているので、それなりの物は作る事は出来る。
グリップやガードは鍛冶というよりも技工の技術で作ってる所があるけど。
そういえば鎧や盾なんかの防具は鍛冶と技工士両方の仕事なんだよな。
アルネさんが鎧を作ってる所を見た事あるし、イナイが盾を作っているのを見た事も有る。
そもそもイナイも武具全般作る人だったな。単純に純粋な武具じゃない事が多いけど。
建築物に関しては実際にやったのはリガラットでの家畜小屋ぐらいで、大きな家屋の建築はやって無いが、知識としては今でも勉強をしている。
何だかんだイナイの時間がある時に鍛えられているのでそこそこ出来るはずだ。
人が住めるような大きさじゃない物であれば何度か練習で作っているし。
そういや魔導技工剣は使い物になる物を作れてないし、いつかちゃんとした物を作りたいな。
それらを説明していると、サラミドさんは興味深そうな顔で俺の答えを聞いていた。
「そんな所ですかね」
「話に聞いていた以上に何でも出来るようですね、貴方は」
「どれもこれもまだまだ中途半端ですよ。何でも出来る何て言ったら師匠達に申し訳ない」
確かに「出来る範囲」で考えれば俺は幅広く様々な事が出来ると自覚している。
けどそれは「全てを広く浅く」であり、俺の師匠達は「一つを極限まで」という人達だ。
そんな俺が何でも出来るなんて口にする事は出来ない。
「貴方は自分を低く見積もる所が有る様だ。貴方一人を抱えるだけで、その国は大きな変化をもたらす事が出来る。幸か不幸か、その事実に気が付いている国は多くないようですが」
「買いかぶり過ぎだと思いますけどね。気が付かれてない事実がそう語ってると思いますよ」
「それは貴方の戦闘方面の事が広く知られてしまった事と、技術面では貴方の師の陰に隠れてしまっている為でしょう。もし貴方の技術を知っていれば、それだけで勧誘する国も少なくない」
そうなのかな。どうなんだろうか。
でも俺の持っている物は殆どが教えられた知識であり、元の世界で知っていた知識だ。
俺自身が何かを思いつき、自分自身の発想で作り上げた物は何もない。
そんな人間では、一時は役に立っても後々に続く様な事が出来るとは思えない。
「私としては、ウムルから出る様な事があればぜひ我が国に、と思いますけどね」
「あはは、ありがとうございます」
こうやって言われるのは四度目ぐらいかな?
ポヘタとリガラットでも言われたし。
帝国の軍人さんの時はどうだっけか。手を貸して欲しいと言われたぐらいだったかな。
そこでシガルと妹さんが二人仲良く戻って来た。
二人とも笑顔で談笑しながらなので、良い感じに話は済んだのかな?
でないとあの妹さんが穏やかな雰囲気で戻って来るとは思えないし。
「ただいま戻りました。遅くなって申し訳ありません。シガル様とのお話が少々楽しくて」
「いえ、シガルと仲良くしてくれるのはこちらも嬉しいです」
シガルさんってば俺やイナイに付き合ってるせいで、友達増やす機会減ってると思うのよ。
一応王都に友達らしい子は居るみたいなんだけど、それも会いに行く気配は殆どないし。
こうやって出会う機会あっても良いと思うのよね。
「それでね、タロウさんに一つお願いが出来ちゃったの」
「お願い?」
「その、シガル様から魔導技工剣のお話を聞いて、火の花を見せて頂きたく」
「あー・・・良いですよ。ただ広い所に行かないと危ないので、何処か良い場所が在れば」
シガルさん、完全に世間話してきてるね。問題はちゃんと片付いたのかしら。
まあ、別にそれぐらい構わないので了承を伝える。
ただあれは広い所で、かつ人気のない所でないと危ない。
あの時はギリギリまで範囲狭めたけど本当に危なかったと思う。
「なら、いい場所が在りますよ、タロウさん」
「あ、じゃあ申し訳ないですけどつれて行って貰えますか?」
「むしろ申し訳ないのはこちらですよ。妹の我が儘に付き合わせてしまうのですから」
サラミドさんが心当たりがある様なので、それならばとすぐに移動を決めた。
今回はグレット君も一緒にお出かけできるよ! 車引くからね!
サラミドさんは先に外に出て車に乗りに行き、俺達もすぐに用意を始める。
その時にシガルがこそっと話をしに来た。
「ごめんねタロウさん。色々話していたら、あたし達が出会った時の事の話になっちゃって」
「ん、別に良いよ。それはともかく妹さんの問題は解決したの?」
「そっちは問題無し。というか、そこまで大きな問題じゃないかなー。ばれない方が本人にとっては良い事だけど、ばれてもそこまで大ごとにはならないと思う。でも出来れば内緒でね」
「あ、そうなんだ」
どうやら妹さんの事はとりあえず黙ってればもう気にしなくても良いっぽい。
ハクがぽろっと言いそうだからその旨を伝えて、サラミドさんの車に追従して移動を始める。
グレット君はお留守番が多かったせいか、とっても楽しそうです。
しかし火の花か。懐かしいな。
あれは魔力を纏って撃ち放ったから普段と少し勝手が違ったんだよな。
・・・あ、そうだ、面白い事思いついた。ついでに実験してみよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます