第624話妹さんの様子が変です!
とりあえず立ち話も何だという事で、二人を連れて屋敷に戻った。
その際に妹さんがグレットに一瞬驚いたが、怖がる様子もなく撫でに行ったのは意外だった。
でかいから初めて見ると結構怖いと思うんだが。
グレットは嬉しそうに尻尾を振りながら喉を鳴らしていた。
相変わらず犬なのか猫なのか生態が解らん。見た目は虎なのに。
「誠に申し訳ない」
「いえ、その、本当に気にしないで下さい。慣れてますんで」
サラミドさんはあの後も何度も謝り続けているが、むしろあんまり謝られる方が辛い。
慣れてるから良いんですよ。うん、慣れてるから。ていうかきっと、慣れないといけないから。
イナイもずっとこんな気持ちだったのかなぁ。そりゃ私服も派手になるわ。
そういえばもう昔の格好しないのかな。あれはあれで可愛かったんだけど。
ただ人前ではあんまりして欲しくない。だってあの格好って体の殆どが露出してるんだもの。
今の関係で初めて会った頃の格好を思い返すと別の感情が湧き出るな。
「すみません、お兄様から聞いた印象とまるで違ったもので・・・てっきり従者の方かと思っておりました」
申し訳なさそうな様子でそう口にする妹さん。
サラミドさん、一体俺をどんな風に説明したのかしら。
見たまま説明してたらこの展開は無かったと思うんだけどな。
「お兄さんからは、どんな風に聞かされていたんですか?」
「今までに見た事がない、格の違う人間を見たと言っておりました」
俺の疑問にサラミドさんをちらっと見ながら応える妹さん。
なんか凄い評価されてる。多分大公妃様に勝ったからだろうなぁ。
でも実際はそんなに評価される人間じゃないっすよ。
遺跡では魔人倒した後はぶっ倒れたし。
まあ今のはざっくり要約しただけで、きっと他にも色々言われてるんだろう。
でなければ俺が何処に居るのかなんて問わないだろうし。
というか、何故見た目は伝えられていないのか。
「俺はそんな大層な人間じゃないですよ」
「・・・そうですか」
気のせいですかね、なんか凄いがっかりされている気がするんですよ。
私楽しみにしてたのに、何このつまんない人っていう感じの。ちょっと泣きそう。
「あ、あのー、ところで、今日はどのようなご用件でしょうか」
さっきの事で要件を聞き忘れていたので、気を取り直してサラミドさんに訊ねる。
何となくもう解ってはいるんだけど、もしかしたら別の事かもしれないし。
「折角まだ暫く皆様が逗留されるとの事ですので、一度妹にも挨拶をと思いまして」
あ、やっぱ間違って無かった。妹さん連れて来る為だけの訪問だわ。
挨拶って言うか、どんな人間か見せに来た感じじゃないっすかね。
なんか最近こういうの慣れてきちゃったぞ!
「お父様とお母様、そして先日お兄様がとてもお世話になった様ですし、家族としてご挨拶に伺わせて頂きたいと、こうして訪ねさせて頂きました」
サラミドさんの言葉に追従し、ゆっくりと語る妹さん。動き方が大公妃様に少し似ている。
あの人と同じで武術を修めた上での貴族の動き方なせいかな。
多分妹さんも素人じゃないと思うけど、判断が付けにくい。
隙が無いというものでは無く、隙をわざと作ってるかのような・・・。
動きそのものは綺麗なんだけど、何となくちぐはぐな印象を受ける。
「ああそうだ、タロウさん、妹も先程説明した私の立場と同じ様なものなので、あまり気を遣わなくても結構ですから」
サラミドさんは妹さんの発言をよっぽど気にしてるのか、凄く気を遣ってる様子が見える。
ここまで来ると逆にこちらが申し訳なくなって来るよ。
俺は気を遣うのも下手だけど、気を遣われるのも下手だなぁ。
「その・・・あんまり変に気を遣わなくて結構ですよ」
「タロウさんは慣れていますので、本当に大丈夫ですよ。ね、クロト君」
「・・・お父さん、可愛いって、よく言われる」
嬉しくないフォローがシガルとクロトから飛んで来た。
良くは言われてないです。良く言うのはシガルさんとセルエスさんとクロト君だけです。
いや、最近はイナイも言う様になったな・・・。
可愛く無いもん。百歩譲って可愛いとしてもそれは女の子的なものじゃ無いもん。
言い訳してて悲しくなって来たぞ畜生。
でも本当に、流石に女顔では無いと思うの。あれは化粧のせい。きっとそう。
『私も結構可愛いって言われるぞ!』
何でハクが対抗してんだよ。いやお前は本当に良く言われるけどさ。
人型でも竜形態でもそれなりに可愛い可愛い言われているけどさ。
怖がられる場所では極端に怖がられるっぽいけど、可愛がられる所では思いっきり可愛がられるんだよな。俺も竜形態だと可愛いと思っちゃうし。
「・・・っ・・・くっ・・・」
妹さん笑ってんじゃん。笑い声を出さない様に必死じゃん。
そしてそのせいでサラミドさんがまた焦ってる。二人のフォローが逆効果になっちゃってるよ。
ていうか笑うならもういっそ思いっきり笑ってくれ。
「可笑しかったら普通に声出して笑って大丈夫ですよ」
「ぷふっ・・・い、いえ・・・くくっ、す、すみません・・・くっ」
「ストラシア・・・」
妹さんは笑いを収めたいようだが、ツボにはまったのか中々収まらない様だ。
そんな彼女を見て頭を抱えるサラミドさん。
大公様の事といい、今回の事といい、サラミドさんって苦労性なのかなぁ。
「す、すみません、くふっ、確かに可愛い顔立ちをされていますよね、タロウ様。ふふっ」
これは褒められていると取って良いのだろうか。悩み所である。
妹さん見た目は母親譲りの美人だけど、性格的には親父さんに似てるんじゃないか。
ああ、もしかしたら猫被ってるのかな。それで動きに違和感あるのかも。
「ハク様も可愛らしいです」
『本当?』
「ええ、とても。人型の時も可愛らしさがありつつ綺麗な顔立ちで素敵でしたよ」
『えへへー。シガル、シガル、私可愛いって』
妹さんの発言にハクが嬉しそうにしているが、何か今の発言おかしくなかった?
彼女と会うのは初めてのはずだ。なのに何で彼女はハクの人型を知っているのか。
その疑問が顔に出ていたのか、妹さんは俺の方を向いた瞬間笑顔が消えた。
一瞬で真顔になったのだが、それは逆効果じゃないですかね。
むしろそのまま笑顔の方が自然だったと思いますよ。目線も俺に合わせようとしないし。
おそらく彼女はハクの人型を知っているけど、それを知られたくない理由が有るんだろう。
シガルも気が付いてるよな。俺が気が付いて彼女が気が付かないってのはあり得ないだろうし。
妹さんが個人的に調査してたとかだろうか。その割に俺の事は知らなかったんだよな。
もしかして知らない振りをしていたとかかな。それなら今の態度は不自然過ぎるか。
『そっちは前に見かけた時より派手だね』
今までの疑問が馬鹿らしくなる様な発言が、褒められてご機嫌なハクの口から発せられた。
人型でお互いに見かけた事があったって事なのだろうな。
妹さんの態度的に内緒にしておきたかった時の事だったのかもしれない。
物凄く困った様子で目だけ動いてるし、目茶苦茶挙動不審だ。
「ハク、今の格好じゃないストラシアさんと会った事があるの?」
シガルが何気ない様子でハクに聞くが、あれは多分そういう態度に見せてるだけな気がする。
わざわざ「今の格好じゃない」と言ってる辺りがわざとらしい。
『何言ってるんだ? 皆も前に見たじゃないか』
「っ!」
「ストラシア、皆さんに会った事があるのか?」
「い、いえ、その」
ハクの言葉に妹さんはびくっと体を震わせた。
その様子を不審に思ったらしいサラミドさんが妹さんに問いかける。
妹さんは答えを濁すがポーカーフェイスが一切出来ていない。
だからそれ、怪し過ぎるでしょう。
ボロが多すぎて可愛く見えて来た。まあ、何で隠してるのかは解らないけど。
記憶を漁っているのだけど彼女の事が思い出せないのですよ。
ハクは見た事あるって言ってんだけど、彼女の顔が一切記憶にない。
『街で見かけた時と違って変な臭いのするもの沢山つけてるから解り辛かったけど、近くまで来たらすぐに解ったぞ』
ハクさん匂いで判別してたんですか。便利っすね、それ。
という事は、街で通りすがっただけの人の可能性もあるのか。
彼女は目立つ容姿をしているし、目に留まる範囲に居たなら記憶の片隅にでもありそうな物なんだけどな。
「・・・もしかして、ストラちゃんって、呼ばれてますか?」
「っ、え、ええ、まあ」
「・・・ストラシアが子供の頃からお世話になっている方達にはそう呼ばれていますね。もしかして街に出ているストラシアを見かけた事が?」
シガルの言葉にびくつきながら頷く妹さん。
ただ妹さんの態度を見たサラミドさんが一瞬目を細めた後、にこやかに俺達に訊ねてきた。
なんか雲行きが怪しくなってきたぞー。
ストラちゃんって・・・そういえば街の散策の際に見かけた女性がそう呼ばれていた様な。
でもあの時見かけた女性と今目の前に居る女性の顔がまるで違うんですが。
化粧か。化粧の力か。もしかしてハクが言ってる匂いって化粧の事か。
もし同一人物だとすると、びっくりするぐらい別人顔だぞ。
「あの時の方でしたか。ハクの事を知っているのでしたら声をかけて下されば良かったのに」
「い、いえ、皆様楽しく観光をされている様子でしたので、邪魔をしてはいけないと。ハク様はお母さまに聞いていた特徴から、おそらくそうだろうと思っていただけですので、人違いの可能性も有りましたし・・・」
「成程、お気を遣わせてしまって申し訳ありません」
シガルの確認する様な問いに素直に答える妹さん。
今ので確定したけど、間違いなくあの時の女性だわ。
化粧の力ってすげーな。ハクが言わなかったら絶対気がつかなかったぞ。
髪の長さが全然違うのはカツラなんだろうな。多分これも解らなかった原因の一つか。
「その、タロウ様、少々席を離れたいのですが、宜しいでしょうか」
「あ、はい、勿論」
「タロウさん、あたしも少し席を離れるね。サラミドさん、少々失礼致します」
妹さんは唐突に席を離れたいと言ったので許可を出し、その後にシガルも席を立って行った。
離れる際にちらっとシガルと目を合わせてたので何か話に行ったんじゃないかなー。
あの子話し合いのテーブル向きでは無いけど、誰が一番頼りになるかの判断力は高い様だ。
俺が頼りにならないと見抜かれてるね! 悲しい。
「タロウさん、ストラシアは街で何かやらかしていましたか? まさかタロウさん達にご迷惑をおかけしたとか・・・」
「あ、いえ、その、本当にちょっと見かけただけで、特に話したりとかしたわけでもないので」
「・・・そうですか」
サラミドさんが迫力ある様子で妹さんの事を聞いて来たが、知らないと答えてしまった。
実際は暴れた所を見ているのだが、彼女の様子から言わない方が良いかなと思ったせいだ。
俺の答えを聞いて、静かにお茶を啜るサラミドさんがちょっと怖い。
シガルさーん、早く戻ってきてー。
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