第623話サラミドさんの二度目の訪問です!
「タロウ様、サラミド様が到着致しました」
「あ、はい、えっと、外まで出迎えに行ったら良いですか?」
屋敷の使用人さん達を纏める責任者のお爺さんがサラミドさんの訪問を俺に告げ、事前に来ると連絡は貰っていたので特に疑問を持たずに応える。
ただどういう風に出迎えたら良いのかが解らないのでお爺さんに訊ねてみた。
「タロウ様のご自由にして下さって結構でございます」
だがお爺さんは俺の疑問に静かにそう答える。
ご自由にって凄く困る。失礼な事とかしたりしないだろうか。
俺は自分で何度か前科があると思っているので、出来たら教えて欲しかった。
「あ、そ、そうですか・・・じゃあ、外まで出迎えに行きます」
「では私は先にその旨をお伝えに行ってまいります」
お爺さんは俺の返事を聞くとすぐにその場を去って行った。
言葉通りサラミドさんに俺が来る事を伝えに行ったんだろう。
何も言われなかったし大丈夫と思って良いのかな・・・。
「何の用なのかな、サラミドさん」
「さあ・・・今日来るって事しか伝えられてないからなぁ」
シガルの疑問に答えになって無い言葉を返す。
事前に連絡を持って来た人からは、訪問の許可を取りに来た話しか聞けていない。
解っている事は、とりあえず俺に用があって会いに来たいって事だけだ。
その日はイナイが居ない事を伝えると、俺に会いに来るつもりだから構わないと言われた。
『また手合わせでもして欲しいって話じゃないのか?』
「ハクじゃないんだから・・・大体あれは俺の実力確認だったんだからもうしないでしょ」
『それもそうか』
納得するのか。解ってるならもう少し大人しくしてくれても良いのよハクさん。
今のハクに暴れられると長時間は付いて行けないんだよなぁ。
大体途中からシガルにバトンタッチしてる。
「とりあえず俺は迎えに出るけど、みんなどうする?」
「あたしもついてくー」
『シガルが行くなら私も行くぞ』
一応念の為きちんとした服に着替えながら聞くと、彼女も服を着替え始めた。
と言ってもシガルは元からすでにある程度迎えの格好なので、上着を羽織っただけだが。
ハクは竜形態でシガルの腕の中に納まっている。
クロト君はコクンと頷いてシガルの手を握っています。
「そういえばシガル、最近毎日化粧してるよね」
「うん。本当はあんまりしたくないけど、こういう所では慣れておいた方が良いかなって」
「あー、成程・・・女性は大変だなぁ」
「別にタロウさんにしてあげても良いよ?」
「ヤメテクダサイ、オネガイシマス」
何が悲しくて他国のお偉いさん方に化粧してる姿を見せねばいかぬのか。
タナカのタロウさんって女装が好きなんですって、とか噂されるの嫌ですよ私は。
既に数名に誤解受けてるんだから。ガラバウはまた今度ぶっ飛ばす。
つーか、あいつ完全にクエルの専属護衛になってんな。
式の時もガラバウ以外の護衛が居なかったし。
あいつなら安心だろうとは思うけど、なんかムカつくのは何故だろう。
「似合うのになぁ」
「やーでーすー。譲歩して、やるとしても家の中だけって約束でしょ」
「お父さん可愛いのにもったいないよねー。ねー、クロト君」
「・・・お父さんは可愛いと思う」
「ほらー、クロト君もこう言ってるんだからさー。タロウさんあたしより可愛くなるのにー」
誰が何と言おうと俺は外で女装はしません。嫁より可愛い旦那とか嫌すぎるわ。
それにシガルの方が可愛いに決まってんでしょうが。
まあ最近成長と化粧の事もあって、可愛いよりも美人度が上がってるけど。
「ほらほら、用意できたし早く行くよ」
「クスクス、はーい」
一番用意が遅かったのは俺だけど、これ以上この会話を続けさせない為に移動を促す。
シガルはそれが解った上で笑いながら俺の後ろを付いて来る。
外に向かうと玄関前に屋敷の使用人さんが一人立っていて、俺が近づくと扉を開けてくれた。
少し慣れない扱いに戸惑いつつもそのまま外に出る。
普段はイナイが先頭で、皆イナイに向かってやるから特に何ともないんだけど、自分にされるとちょっと恥ずかしかったりするのは小市民だからだろうか。
思わず「そんな事しなくて良いですよ」って言ってしまいそうだが、あれはあれで彼らの仕事なので言ってはいけないとイナイには言われている。
私的な用事ではなく公式な肩書を持った上での訪問なので、向こうも向こうなりのもてなしが出来ないといけないと言われた。それはおまけ扱いの俺達も同じとの事だ。
「タロウさん、何だか面白い動物がいるよ」
「いるね。『キリン』を小さくしたみたいな感じだなぁ・・・」
「『キリン』? あれは『キリン』っていうの?」
「ああ、いや、えっと、あれに似た生き物でそういう名前の生き物が居るんだよ」
どうやらシガルもあの生き物を見た事が無いらしい。
サラミドさんが居るのであろう車を引いているのが、よく見かける馬じゃない。
キリンの胴体を馬サイズにして、角を無くした感じの生き物が繋がれている。
なんか、凄い、アンバランスな体形。
不思議な生き物を観察しつつ近づくと、御者らしき人が車の中に声をかける。
それに応える様子でサラミドさんが降りて、俺達が傍まで来ると一礼をしてから口を開く。
「皆様での快い歓迎、感謝いたします」
「あ、はい、いまいちこう、礼儀的な物しっかり解ってないんですけど、失礼な事とかしてませんかね?」
「あはは、大丈夫ですよ。ナラガ自体には余りそう言った細かい礼儀等は無いです。国の歴史が浅いですからね。勿論他国への礼儀は弁えておりますが」
あー、そっか。なんか独立した国だっけ。
でも元々何処かの国に居た人たちだし、そこの国の礼儀とか無いのかな。
あ、ウムルと同じで多国籍国家な感じで、文化が色々過ぎて変に決めても面倒なのかも。
「それに私は正確には貴族ではありませんから、そこまで畏まらなくて結構ですよ」
「え、そうなんですか?」
大公様の息子さんなんだから、立場的には王子様的な物だと思ってたんだけど。
周りの人もサラミドさんに気を遣って動いている気配が見えるし。
「説明をすると少しややこしいのですが、一応立場は貴族なのですが、私自身は貴族ではないというか・・・簡単に言うとタロウさんと同じ様なものかもしれません」
俺と同じ?
俺の立場っていうと・・・大国ウムルの大英雄であるイナイの旦那、かな?
でもそれと同じって言われてもピンとこないな。
「大貴族の家族で、扱いは本人の少し下。ですが貴方自身は貴族ではない。正確に説明すると違いますが、大体そういった感じです。一応貴族では有るんですけど、貴族ではないんです」
ああ、そうか、家族だからそれなりの対応をか。
んー、でもサラミドさんの言い方的に、貴族は貴族みたいだな。
やっぱりよく解らん。
「な、なんかややこしいですね」
「ええ、私もそう思います」
笑いながら自分の立場を説明してくれるサラミドさん。
気のせいかもしれないけど、前に会った時よりも話し易い。
雰囲気が少し柔らかい気がする。遺跡の時はもうちょっと固い雰囲気があった。
「先日街の観光に出かけられたらしいですが、この街はどうでしたか?」
「良い街だと思いますよ。街の整備は行き届いていますし、食事も美味しいです」
武装している人が多いので少し警戒はしていたものの、騒動らしきものは食事処の一件だけ。
街並みは綺麗だし、警備も行き届いているっぽい。
流通もしっかりしている様で、食事も美味しかった。
ただちょっと、傾向的にしょっぱい感じのが多かったけど。
「気に入って頂けたなら良かった。この街の発展は、父以外の皆の努力の賜物です」
「た、大公様以外ですか」
「はい」
大公様、息子様に嫌われ過ぎじゃないですかね。
いや、仲が良いからこそ大っぴらに言えるのかな。
色々雑っぽいもんなぁ、あの大公様。
「お兄様、そろそろわたくしも顔を出しても宜しいですか?」
「あ、ああ、すまない」
車の中から「お兄様」と呼ぶ声が聞こえ、それに応えるサラミドさん。
妹さん居たんだ。てっきり一人息子かと。
サラミドさんは車の中に向かって手を向け、手袋をした手が彼の手に重なる。
そして中から華美な格好の綺麗な女性がゆっくりと出て来て、俺達に向かって一礼をした。
「初めまして。わたくし、ストラシア・ソロナ・アナグズと申します」
名の名乗って顔を上げると、俺の眼をじっと見つめてきた。
綺麗な人だな。ちょっと化粧が濃いけど。
巻いてある長い髪もあって、まさにご令嬢って雰囲気だ。
そして彼女はゆっくりと俺達の顔を見回し、不思議そうな顔で首を傾げる。
「タロウ様は、屋敷の中に居られるのですか?」
「え・・・」
何故私の眼を見て「タロウ様」の事を聞くのでしょうか。
え、なに、妹さん俺の事どういう風に聞いてるの?
「あ、あの、タロウは自分ですけど」
「・・・え」
眼を見開いて信じられないって表情されてるんですけど。
ねえサラミドさん、マジで俺の事なんて伝わってるの?
明らかに信じて貰えてないんですけど。
「どう見ても子供・・・」
「ストラシア!」
「っ、も、申し訳ありません!」
妹さんがボソッと呟いた言葉に、慌てた様にサラミドさんが叫ぶ。
その声にはっとした様子を見せて謝る妹さん。隣に立つサラミドさんも頭を下げて来た。
「いえ、その、気にしないで下さい・・・」
とりあえず頭を上げてもらい、気にしてないと口にする。
してないわけ無いけど、もう諦めている。こういう事は一度や二度じゃねえもん。
子供・・・子供かぁ・・・俺二十歳越えてんだけどなぁ・・・。
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