第613話問題確認です!
サラミドさんの遺跡内部への同行をお願いされた後、ほどなくして女性達が戻って来た。
それを確認して大公様が立ち上がり、イナイに「今日は帰る。理由は小僧に聞けば解る」と言ってサラミドさんを引きずるように帰って行った。
当然何があったのかイナイに聞かれたので、今その説明をしている。
「なーる程ねぇ・・・お前はどうしたいんだ?」
「素直な気持ちを言うと、危ないから止めて欲しいかなぁ」
「まあそうだろうな。魔人も相手にしなきゃなんねえのに、足手まといは不安要素だしな」
「あー・・・イナイ、表現が容赦ないね」
でも確かに、イナイ達に事前に教えられている魔人の平均的な実力を考えると、彼を守りながらというのは中々にきつい。
遺跡の外に出ればイナイ達が居るから上手く逃げれば良いかもしれないけど、追いかけて来てくれなかったらかなり困る。
イナイから聞いた魔人の話の中には、国を一つ滅ぼした魔人の話も在った。
これは様々な理由から知っている国は少ないらしいが、少なくともそんな事が出来るだけの能力を持った存在だという事だ。
ただ強いだけじゃない、不思議な力を使う連中な事が余計に厄介だとも聞いている。
ギーナさんの国で現れた奴も、相性的にアロネスさんだから楽勝だったらしいけど、そうでなければ被害が出ていた可能性は否定できないと言っていた。
俺達を追いかけて来てくれればいいが、追いかけて来ずに消えた時の事を考えると怖い。
基本的に「会話は出来るのに話が通じない」と認識されている、力を持った危ない存在だ。
出来れば逃げずに対処したい。
「という訳で、断っても良いかな」
「いや、気持ちは解るが、引き受けろ」
「ええー・・・いやでも、危ないよ。俺はイナイ達と違って、彼を守り切る自信とか無いよ」
「その辺りは本人も承知の上だろうし、今頃家族会議してんだろう。あたしも後で大公に少し話に行く。今後の事も考えると、お前との同行なら可能という形にした方が良いかもしれねぇ」
うえー、マジすか。守りながらってかなり面倒臭いんですけど。
それなら遺跡の破壊は後回しにして、魔人をとりあえず倒しに行く方向が良いかな。
魔人を倒して安全確保をしてから、また後日クロトを連れて遺跡に訪れると。
うん、その方が良いな。クロト連れて入ると遺跡が動き始めると思うし。
「遺跡破壊を後回しなら何とかなるかな。念の為にクロトは少し離れた所で待機で」
「そうだな、その方が良いだろう。クロトもそれで良いか?」
「・・・うん、解った。待ってる」
ちらっと俺を見て、こくんと頷くクロト。
ただ一瞬不満そうな顔した気がする。何ですか、心配ですか。
大丈夫だぞ。お父さんの方がもっと心配だから。
「シガルとハクもクロトの傍についていてやってくれ」
「はーい。了解です」
『えー・・・まあ良いか、解った』
イナイはシガルとハクにも頼み、二人も了承する。ハクは若干嫌そうだ。
そこで「僕も」とばかりにグレットがガフっと鳴き、イナイが苦笑しながら頭を撫でる。
グレット君も付いて来るそうです。クロトと仲良いもんね。
因みにイナイは遺跡破壊には同行しない。
彼女の訪問名目を果たす為に、俺達とは別行動をとる事になっている。
イナイが目立っている間に遺跡への対処をひっそりとやってくるという形だ。
「とはいえ、それも大公が許可すればだがな」
確かに大公様、サラミドさんが同行したいって言い出した後は少しだけ不機嫌そうだった。
サラミドさんが大公様の言葉を突っぱねなければ、同行の話は無かった事になりそうかな。
俺としてはそっちの方が助かるので大公様には頑張って頂きたい。
「あー・・・あと、そうだな。こっちの都合で引き受けろって言ったが・・・その、どうしても嫌ならあたしから先に断りに行くが」
イナイが少しだけ気まずそうな様子で、目線をずらしながらそう言った。
乗り気では無いけど、どうしても嫌という訳ではない。
たださっきも言った通り、守る自信が無いのでその辺り了承の上でないと困る。
ただそれは「イナイやウムルに迷惑が行くなら出来れば断りたい」という理由だし、有事の際に特に困る事が無いなら別に構わない。
守らないつもりは無いし、やれる限りはやるけど、万が一が無いなんて言いきれないもの。
「一応再度確認しておくけど、彼に何か有っても問題は無いんだよね?」
「危険を承知の上での人員投入ならな。遺跡は中に入る様な価値は何もない。それを解った上で入るってんなら、こっちに面倒を向けられても困る。こっちは人員要請なんざしてねえんだ」
「成程、了解。それなら少し安心かな」
勿論見捨てるつもりなんてさらっさら無いけど、それでも懸念材料は排除しておきたい。
一番の懸念材料は付いて来られる事だけど、まあ、それは措いておこう。
となると、後は大公様の決定待ちになる感じかな。
「タロウ、今更な話になるが、準備は出来てるよな」
「勿論。いつでも行けるよ。最近は特に、精霊石は切らさない様に量産してるよ。今の俺にとってはあれが命綱な所が大きいから」
「そうか。いざとなったら剣を使えよ。全力解放でな」
「うん、甘えさせて貰うよ」
イナイの魔導技工剣の全力解放は、ミルカさんの攻撃にも耐えて見せた。
全力解放の威力ならば、打倒できない存在なんて滅多に居ないだろう。
それにあの時に気が付けた事だけど、俺はまだあの剣の性能を引き出し切れていないらしい。
イナイの外装の出力を考えれば当たり前の事なのかもしれないが、俺の魔力量では剣の出力限界に届いていないのが解った。
あの時の俺は二乗強化を全力で使い、その勢いで剣にも魔力を注いでいた。
だからこそミルカさんの攻撃に耐えきったのだとも思うが、要点はそこじゃない。
つまりはあの調子で魔力を更に注げば、剣の威力が更に上がるという事。
当然俺の素の魔力量ではそんな事は不可能だ。けど、俺にはその不可能を可能にする術が有る。
精霊石の魔力補充を使えば、今の限界を超えるのは不可能じゃない。
数を増やせばそれだけ制御に繊細さが要るから危険度も増すけど、その辺りはまあ、もうちょっと訓練して安定性を高めたい。
現状は最大七個同時が安定して使える限界なんだよなぁ。八個目で制御がかなり怪しくなった。
まあ実際には三個ぐらいでも十分なんだけどね。限界ギリギリ攻める気ならってだけの話だ。
というか、なるべくなら一個。多くても二個で済ませたい。
量産しているとはいえ精霊石は無限じゃないし、常に神経使って戦うのはキツイ。
訓練で消費する分も考えると、最近は錬金術の訓練が一番多いのかもしれない。
二乗強化の後遺症の為の薬とかも作ってるし。
流石の俺も何度も何度も激痛で倒れてたら、お薬を用意しますわ。
一、二回程度なら良いんだけど、何回もやってると流石に仙術の負荷の影響が出るんだよなぁ。
痛み止め系の薬が役に立つんだよ。魔術を使うと余計に痛いから本当に助かる。
薬に頼り過ぎるのも良くないと思うから、やり過ぎた時だけだけど。
こういう薬って、あんまり出回って無い上に高いんだよな。
需要が少ないせいみたいだけど、それでも無いわけじゃない。
アロネスさんはかなり安く卸しているそうだけど、それでもその収入だけで食って行けるぐらいの稼ぎが出るそうだ。
なお、錬金術による薬は更に高いです。ちょっと引くぐらい高いです。
モノによっては高くない家を一軒買えるぐらいでした。
「多分今日中に大公から使いが来るとは思うから、実行は明日か明後日になると思う。そのつもりで頼むな」
「ん、解った。じゃあ今日はもうのんびり休んだ方が良いね」
今日は仙術結構使ったし、影響は少し出ている。今日はもう体を休めた方が良い。
体の疲労感はイナイ達のおかげで無いけども、仙術の影響までは誤魔化せない。
指先まで痛いから面白い感覚だよな、これ。いや、痛いのは面白くないけどさ。
「それならタロウさんもお風呂に入って来る?」
「あー、そうだね、俺も貰おうかな」
「それじゃあたし、お風呂の用意お願いして来るね」
シガルは俺の返事を聞くと、ハクを伴って席を立つ。
ああそうか、この家は樹海の家と違って人力なんだ。
大変そうだなぁ。でも俺も汗流したいし甘えよう。
「じゃあその間、俺はイナイさんの膝の上でも堪能しておきます」
「言う前に頭のせんなよ」
俺の行動に文句を言いつつも、優しく頭を撫でるイナイ。
その手を握って顔を上に向ける。
「立場が逆でも疲れは取れそうかも」
「何言ってんだ、ばーか」
言葉とは裏腹にイナイはとても楽しそうだ。
しっかしサラミドさん、何で遺跡に行きたいんだろうか。
もし彼が本当について来る事になったら、ちゃんと理由を聞いてみよう。
イナイの手を両手でムニムニと握りながら、ボケーっとそう考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます