第605話公国のお迎えです!

目的地は公国の首都なので、そこまでの道中はちゃんと見る事は出来ていない。

だけど上から見ていた感じ『街』と呼べる規模の所は発展している様に見えた。

少なくとも、周囲が山だらけで街道が整備されていない、などと言う気配はない。


今から降りる首都の街並みもしっかりとした作りに見える。

上から俯瞰したぱっと見の感想でしかないけど、街の作りはウムルの首都と大きく変わらない。

勿論規模はまったく違うけど、建築物の気配がウムルと同じ様子だ。

ポヘタに初めて行った時や、農業国の時の様な未発展感が薄い。


『イナイ、どの辺に降りるの?』

「悪い、もうちょっと待ってくれ、今捜してる・・・あ、あれだな。ハク、あの少し大きな建物が有るだろ。そこの少し東に人が集まってるから、そこに降りてくれ」

『わかったー。人が居るならゆっくり下りた方が良いかな』

「ああ、頼むよ」


イナイの指示に素直に従い、ハクがゆっくりと高度を下げて行く。

急降下出来なくはないけど、やると下にいる人達を吹き飛ばす可能性が有るからだろう。


「イナイ、街に直接降りて大丈夫なの?」

「ああ、その為に色々手続きをしてたんだからな」


成程、手続きの時間がかかったのは、ハクの存在を周知させる為の期間でもあったのか。

それでもこんなデカい竜が街に降りてきたら怖いと思うけどな。

・・・良く見ると街に武装した兵士達が散らばってるな。混乱を防ぐ為に、って感じかな。


「本当に大丈夫なのかな・・・」

「向こうは許可出して来たんだ。ならこっちも堂々と降りねえと向こうを馬鹿にした事になる」

「あー、そういう見栄的な物は苦手だなぁ」


混乱の可能性あると思うなら、素直に人気のない所に降りてって話で通せばいいのに。

そういう訳にもいかないのかねぇ。やっぱ貴族って面倒だわ。

こういう思考回路がある間は、俺は絶対立場ある人間にはなれない気がする。


『そろそろ地面だぞー。あそこで良いんだよなー』

「ああ、連絡通りなら間違いない。そのまま降りてくれ」

『はーい』


ハクはイナイの返事を聞くと、そのまま最初の指示通り地面に降り立つ。

着地の際、ハクは自身の重さを感じさせない程に静かだった。大分気を遣ってくれた様だ。

ハクが着地をしたので周囲を良く観察すると、旗が幾つも立ててあり、兵士らしき人達が隊列を作っている。

その隊列の一番前に立っている青年が、胸を張って口を開いた。


「ようこそおいで下さいました! ナラガ・ディド公国は貴方がたを歓迎致します!」


良く通る声でそう言った人物は、ほんの少し緊張した表情をしている。

周囲の人達は皆鎧を着て武装しているけど、あの人だけは普通の服装だ。

勿論その辺の普通の人の服装ではなく貴族っぽい服なのだけど、甲冑の類はつけていない。

ああでも、一応腰に剣を佩いてはいるな。


「ハク、下ろしてくれ」

『解った』


イナイが小声でハクに伝え、ハクも手を地面に降ろす。

それが少し怖かったのか青年は一瞬下がりかけたが、はっとした顔をして踏みとどまった。

俺なら今のは一歩下がっちゃってるなぁ。だって慣れてないと怖いって。

下がっちゃ不味いっていう危機意識がある時は別だけど、普段の俺は相変わらずだからな。


「ご迷惑の掛かる形の訪問でありながら、手厚い歓迎をして頂き誠にありがとうございます」


イナイは貴族モードに切り替えて青年に礼をする。

俺とシガルも彼女の後ろについて礼をして、その間にハクは子竜形態に戻った。

ハクが小さくなる際に兵士さん達から小さなどよめきがあがるが、青年が手を少し上げるとすぐに静かになる。


「いえ、我が国が是非にと伝えた事です。些事はお気になさらず。ステル様」

「ありがとうございます。ですが今の私の名はステルではございません。なにとぞよろしくお願い致します」

「あ、そ、そうでしたね。ご結婚なされたのでしたね。失礼を申し訳ありません」

「いえ、我が国の風習が他国と違う事は重々承知しております。ご理解頂けるだけ充分です」


イナイの発言に少し焦る様子を見せた青年だが、イナイは変わらず穏やかに応える。

青年もその様子に安堵した様で、落ち着いた笑顔を見せた。


「我が国も他国とは少し違う在り方をしていますので、理解し合うはお互いに必要な事だと思っております」


ふむん、この国って他とは何か違うのかな。

公国って聞いてたから、王国とは違うのだろうなという理解でしかなかったけど。

自分の知識としての公国って、王族じゃない貴族が君主の国だっていう知識だけなのよね。

それに公国でも、後々王になったりとかしてたような気がする。うん、知識が曖昧だな。


一応事前に、この国の人達に失礼が無い様に礼儀の類は聞いていたけど、国の在り方とかそんな事までは聞いてなかったな。

でもその時にイナイからは特別注意は無かったし、あんまり気にしなくていい感じなのかな。

とりあえず自分の理解不能な出来事があっても、驚き過ぎない様にだけ気を付けておこう。


「失礼、名乗りが遅れてしまいました。ナラガ・ディド公国、大公サラグナド・ゲナハ・アナグズの息子、サラミド・ソロナ・アナグズと申します」


君主の息子さんなんだ。王国なら王子様が迎えに来た様なもんだね。

偉い人が迎えに来たんだろうなーとおもってたけど、思ったより偉い人だった。

いやでも、この国は少し違うと言ってたし、役割的な何かがあるのかな?


「サラグナド様のご子息でしたか。お父上の体調は如何ですか?」

「私が代理で居る通り、今日は少し体調がすぐれないようです」

「そうですか、では訪問は後日の方が宜しいでしょうね」

「はい、申し訳ありませんが、父が動けそうな時にまたご連絡いたします」


大公さん体調悪いのか。それならアロネスさん辺りに協力して貰っても良かったのでは。

あ、もしかして俺に薬作らせるつもりかしら。

やれって言われたらやるけど・・・ちょっと怖いなぁ。


「では、我が国に滞在の為の屋敷を一つ用意しております。そちらまでご案内致します」

「お言葉に甘えさせて頂きます。皆、行きますよ」


サラミドさんの誘導に従い、イナイと共に彼に付いて行く。

が、ここでいつもの事件が発生。馬がハクを怖がって馬車が仕事をしませんでした。

なので、馬車から馬を外し、グレットに装着

グレット君は馬を一瞥してフンッと鼻を鳴らし、得意げな様子でした。


馬車は大きく頑丈そうな物で、馬三頭で引く様なものを用意されていた。

だがグレットは難なく引くどころか、余裕で走り出す。それも楽しそうに。

流石にイナイが御者台に座るわけにはいかないので、俺とシガルが座っている。

そのまま行き先を誘導する馬について行く事暫く、然程時間たたずにその屋敷に着いた。


俺達が暫く寝泊まりするだけにしては大きい家だと思ったけど、そもそも普段暮らしてる樹海の家も同じ様な物だった。

使ってない部屋は何時でも使える様にイナイが掃除してるけど、最近は俺の部屋か居間しか殆ど人が入ってないんだよなぁ。

就寝は俺の部屋だし、基本俺は居間に居るし、ハクは居間のソファが気に入ったみたいで寝る時はそこが多いし。


「こちらが用意させて頂いた屋敷となります。使用人もそれなりの数を用意しておりますので、何なりとお申し付けください。もし誰かが失礼を働いた場合も、すぐにお伝えください」

「ええ、ありがとうございます。では、一度腰を落ち着けさせて頂いてもよろしいですか?」

「はい、勿論。私は一度父に報告に戻りますので、ごゆっくりお寛ぎください。誰か、お部屋へのご案内を」


サラミドさんの指示で、使用人さんらしきおじさんが俺達を屋敷の中に案内してくれた。

部屋割は俺とクロト、イナイとシガル、そしてハク、という感じで三部屋に分けられた。

ただ数が在るからというだけで、別に一緒の部屋で寝るなと言われているわけじゃ無い。

あ、グレット君は庭です。後でイナイがテントを出す予定です。

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