第583話知らなかった話です!
イナイ側の挨拶回りから数日、シガルの親戚周りの挨拶も滞りなく終わった。
というか、親父さんが相談する前に色々話を通してくれていた。
おかげで特に時間かからずに終わったのだけど、シガルが不満そうだったな。
親父さんはあれで特に何も言わなければかっこ良いんだけど、言っちゃうからなぁ・・・。
「シガルちゃん、お父さんに任せておけば大丈夫だからね! ふふふ、小僧とは違うのだよ小僧とは!」
と言ってしまった為に、シガルからはまた冷たい態度をとられてしまった。
多分前半だけなら感謝されたと思うんだよなぁ。少なくとも俺は大感謝している。
シガルって仲間内の人間貶されるの嫌うからなぁ。親父さんの事以外は。
「お父様、ありがとうございます。頼りになるお父様で私は嬉しく思います」
と、後にイナイがフォローしたので、親父さん復活していたけどね。
クロトも居るし、最近の親父さんはかなり元気だ。シエリナさんもあんまり叩いてないし。
ただ何となくだけど、シガルがそれに少しやきもち焼いてる気がするんだよなー。
あくまでそんな気がする程度だけどさ。
因みに俺が礼を言ったら「小僧の礼など要らんわ!」と言われた。
シガルさんの不機嫌がブーストされたのは言うまでもないだろう。
親父さん、何で脊髄反射で返事しちゃうのさ・・・。
後は二人のドレスや、俺の式服なんかの衣装合わせ、式の確認に宴会の場所確認。
ブルベさんとセルエスさんが妙にテンション高かったのは絶対気のせいでは無いだろう。
ていうかブルベさんの目にクマ出来てたんだけど、あの人寝てんのかな。
寝不足のせいでテンションおかしくなってるんじゃないのか、あれって。
とりあえずセルエスさんが俺にまでドレスを着せようとしていたのだけは阻止した。
何考えてんのあの人。絶対似合うからじゃねえって。
しかも何でゴスロリ系なんだよ。黒髪で低身長だから似合うって言われても一切嬉しくない。
そういう問題じゃないし、似合いたくないし、カツラまで用意しないで下さい。
そんな感じで少々慌ただしい数日をシガルの実家で過ごしていた。
ただ最近鍛錬の時間が減って来てるので、これは不味いと空いた時間に鍛錬を突っ込んでいる。
特に浸透仙術は未だに使いこなしているとは言えないので、余計にやらねば。
という訳で今はクロトと一緒に街の外のだだっ広い所で訓練をしています。
ついでにカグルエさんに挨拶もしておいた。
あの人いつ休んでんだろ。いつも見かけるんだけど。
俺が鍛錬している間、クロトは何故か木に逆さまでぶら下がっている。気に入ったのかな。
前にもぶら下がっていたけど、意味が有る様には見えないんだよなぁ・・・。
あ、そうだ、この機会に聞きたい事聞いておこう。
「クロト君や」
「・・・何、お父さん」
「俺は何時まで休養期間なのかね?」
今の俺はクロトの判断で体を休めている状態だ。
遺跡の破壊をする為の力はかなり大きく、俺は未だ制御をしきれていないらしい。
一応力の行使自体はちゃんと出来てるんだけど、その後の負荷がよく解らないんだよな。
ちょっと体が重い気はするけど、気功の流れはちゃんと正常なんだけどなぁ。
それに今の時点で既に結構な休養期間をとっている。
体の重さとかも特にないし、むしろ現状だけであれば好調だ。
何時まで休養していれば良いのかね。
「・・・・・・もうちょっと」
クロトは俺の問いに、普段の倍は溜めた後に顔を逸らして答えた。
あからさまに様子がおかしくないかい、クロト君や。
まさかとは思うけど、もしかして俺、もう気にせず動いて大丈夫なのかい?
「クロト、こっち向こうか」
「・・・ん」
クロトに視線を戻す様に言うと、返事をして素直に戻した。
ただ表情は相変わらずぽやっとしているので解り難い。
いやこれ、わざとこの表情にしてねーか?
「で、ほんとはどうなの?」
「・・・・・・もう、大丈夫」
再度の問いに観念し、俺の体が万全であると白状するクロト。
凄く言いたくなさそうだったけど、これは言ってくれないと困るんだが。
この判断に関しては全員がクロトに任せている。
特にイナイが「本人が解らない以上は任せられねぇ」と、俺の判断は無視されている。
「何で言わなかったの」
「・・・お母さん達楽しそうだから、終わった後の方が、良いかなって」
「あー、なるほど」
結婚式で浮かれている二人に水を差したくなかったわけか。
いや、浮かれているのは俺も一緒か。クロトには気を遣わせすぎたな、これは。
親父さんの事もクロトにお願いする事多いし、何かご褒美でもあげたいなぁ。
「・・・なのに大丈夫って言ったら、お父さん早速遺跡壊しに行きそうだったし」
気を遣わせすぎだわ。ごめんクロト。
でも流石の俺もこのタイミングでは行かないよ。あれってミスったら暫く寝込むしさ。
いや、今までの俺の行動考えたら危惧する方が普通か。行きそうだな、うん。
「ありがとな、クロト。ごめんな、気を遣わせて」
「・・・ううん、僕もお父さん達とのんびりしてるの好きだから」
「そっか」
木にぶら下がっているクロトを掴まえて抱きかかえ、頭を撫でながら礼と謝罪をする。
クロトは抵抗なく体を預け、目を細めて嬉しそうに応えた。
「・・・それに僕、お爺ちゃん好きだよ。お父さんみたいで。だからお留守番も楽しい」
「え、何それは、どういう事」
親父さんと俺の共通点って何。奥さんに頭上がらないとかですか。
でも流石にシエリナさんみたいに花瓶叩きつけられたりはしてないぞ。
あ、でも俺良くイナイにボディーブロー貰ってるわ。
嫌な共通点だなー。まあ嫁さんには俺も親父さんもきっと一生頭が上がらないと思う。
シガルに関しても、シガルが俺を上にしてくれてるだけだもん。
実質は俺がシガルとイナイに寄りかかっている様な物だからな。上がるわけが無い。
「・・・お爺ちゃん、お父さんみたいにあったかい。僕お爺ちゃんの事は好きだよ」
「そう、なんだ。そっか」
俺にはよく解らないが、クロトにとっては俺と親父さんは似ているのか。
あったかいか。確かに俺も親父さんに嫌な感情は持てていない。
初めて会った時は完全に敵意を向けられていたはずだけど、それでも俺はあの頃から親父さんの事は嫌いじゃない。むしろ割と好きな部類の人だと思っている。
それはクロトの言う様な、俺と同じ様な何かが有ったからなのかもしれない。
とはいえ親父さんは未だに俺の事敵視してるけどね。相変わらず小僧呼びだし。
何時になったらシガルの相手としてちゃんと認めて貰えるやら。
以前の親父さんの真面目な言葉は、俺を認めたというよりも娘の為って感じだった。
自分の気持ちよりも、娘の幸せを願っての言葉だ。
娘が愛しているのが解っているから、しょうがないから認めてやると。
認めてくれた事には変わらないのだろうけど、ちょっと意味合いが違う。
「・・・それにお爺ちゃん、お父さんの事褒めてた。クロト君のお父さんは頑張ってるって」
「親父さんが?」
「・・・うん。お父さんは普通なら無理な事をしているんだって。詳しくは教えられないけど、お父さんは凄いんだって。お爺ちゃんはそう言ってた」
「―――」
あ、ヤバイ、ちょっと泣きそう。何それ狡いわ。
涙が流れそうなのを誤魔化す為に上を向く。それでも我慢できず目の端から少し流れてしまう。
嗚咽が出そうだったのだけは、歯を噛みしめてぐっと堪えられた。
こんな不意打ち狡いよ、親父さん。勝てるわけないじゃん。
「・・・お父さん、大丈夫?」
「ん、だ、大丈夫、大丈夫だから、ちょっとだけ待って。ごめんな」
心配そうに聞いて来るクロトに顔を向けずに答え、感情の波が落ち着くまで待って貰う。
確かにクロトの言う通りだわ。俺と似てるかどうかは解らないけど、親父さんはあったかいわ。
あー、くそ、ほんと狡いなぁ。涙が止まんねーじゃんか。
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