第580話ご両親に報告です!

「式ですか」

「はい、まだ正式な日時も場所も決まっておりませんが」


夕食後の皆が落ち着いた時間に、シエリナさんと親父さんに式の事を告げた。

何時話そうかなーと思っていたらイナイが日常会話に混ぜて報告し、俺の出番はなかったです。


「家名はステルとなるのでしょうか」

「いえ、三人で相談して、タナカを名乗る事を決めました」

「な、なんですと!?」


シエリナさんの質問にイナイが答えると、親父さんが心底驚いた様子で叫ぶ。

ただ今回はシエリナさんも少し驚いているので止める人間は居ない。

あえて言うなら、クロトが親父さんの膝の上に居るので立ち上がれないぐらいだろうか。


「そ、それはお考え直し下さい。貴女の名は国内だけで知られている物では無いのです。ステルという名は世界的に知られている名。それを変えるのは流石に国王陛下がお許しには・・・」


親父さんが焦りながらイナイに捲し立てる。

そうだよね、そこ重要だよね。だから俺も聞いたんだけどね。

でもイナイは決断したら、よっぽど曲げる要素がないと曲げないと思う。


「陛下には本日確認をさせて頂きました。ウルズエスの名は『イナイ』に送った物であって、その血族に送った物では無い。家名が変わる事には問題ないと」

「へ、陛下が、そ、そうですか・・・」


イナイがはっきりと告げると、親父さんは何かを言いたそうにしながら黙った。

多分きっと問題は色々有るんだろう。だけどそれらの問題を全てねじ伏せる気だ、この人。

何かしら考えが有っての事だとは思うけど少し心配。


「お父様の心配は理解しておりますし、陛下ともその相談はしております。明日にでもお父様にも話が行くと思います。ご迷惑をおかけする事になりますが、どうかお許しください」

「い、いえ! イナイ様が頭をお下げになる必要は全くございません!」

「いいえ、今回の事は私の我が儘になります。申し訳ありません」


頭を上げて欲しいと言っても上げないイナイに慌てる親父さん。

どうしたら良いのか解らずオロオロしながらクロトを抱きしめている。

親父さんが可愛く見えたのは俺だけであろうか。俺だけだろうな。


「アナタ、娘が父親に甘えているのですから、どんと構えてあげるべきではないですか?」

「む、う、娘、そ、そうだな、確かにそうかもしれんな」


シエリナさんが慌てる親父さんの肩に優しく手を置き、諭すように語る。

そのおかげか親父さんは少し落ち着き始め、一つ深呼吸をしてから口を開いた。


「解りました。後の面倒はお任せください。臣下として、そして父として、力になりましょう」

「ありがとうございます、お父様。私は良い義父を持てて幸せ者ですね」

「あ、あはは、て、照れますな」


にっこりと笑いながら礼を伝えるイナイを見て、照れくさそうに笑う親父さん。

その後もシエリナさんとイナイの親父さんよいしょが何度かあって、親父さんはとてもご機嫌になって行った。

因みにそれを見ていた俺は、表情の変わらないシエリナさんが怖かったです。

だってあの人基本が常に笑顔なんだもん。セルエスさんと似た匂いがするんだもん。怖いよ。


「おだてられちゃって・・・」


シガルが小声でボソッと呟いたのが聞こえたけど、親父さんの耳には届いていなかった。

でも何となくだけど、親父さんはわざと煽てられてる気もするんだよな。

以前真面目な親父さんを見ただけに、あの態度が全て本気とは思えない。


勿論普段の親父さんも本当の姿なんだろう。

でもあの物静かな空気の違う親父さんを知っていると、ちょっと見え方が変わって来る。

シガルは知らないんだろうな、あの親父さんの姿。知ってたらもう少し態度が違う気がするし。


ただ式も宴会も時期が決まっていないので続けて話せる事もなく、式の話はそこで終わった。

その後は他愛ない世間話となり、夜も更けた所でクロトは親父さん達と共に就寝。

シエリナさんもクロトを可愛がっている様子が見て取れたのが良かった。

だってあの人、本当に何考えてるのかよく解らないんだもの。


そして俺達は客室に三人で寝る事になり、ハクがシガルの部屋で寝る事になった。

別にハクも一緒で良かったのだけど、何故か別室に行った。

気を遣ったのかもしれないけど、親父さん達が居るのに夜に余計な事しねえよ。

・・・いや、シガルならするな、うん。この子なら気にしないわ。


グレットは庭です。一応シエリナさんが家に入れて上げようとはしてくれたのだけど、いかんせん大きいので遠慮した。

その代わりイナイのテントが張られているので、下手をすると家の中より快適かもしれない。

あのテント寝心地良いんだよな。クッションがテントじゃない。


「そうだタロウ、明日連れまわすから覚悟しておけよ」

「あ、はい」

「シガルも・・・行けるか?」

「うん、大丈夫。行くよお姉ちゃん」


寝る前に明日は連れまわされる事を宣言された。

シガルは任意みたいだけど、俺は強制の様だ。当然か。

それにしてもシガル側の挨拶は良いのかな。そっちの事全然聞いて無いんだけど。

そっちも後でちゃんとやらないとな

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